第七話 命名とこれから
「これでよしと」
「ガウッ!」
ムーンベアを連れて小屋に戻ってきた俺は、さっそく従魔の首輪を作成して嵌めた。
物々しい名称のわりに洒落たデザインの首輪で、小さなタグが付いている。
お座りの姿勢でそれを首につけたムーンベアは、なかなか見事な忠犬ぶりだ。
まぁ、犬と言うにはあまりにも大きすぎるのだけど。
『ムーンベアに名前を与えてください。それをタグに刻むことで魔法契約が完了いたします』
「名前か。どうしような……」
せっかくだし、凝った感じのカッコいい名前にしようか。
でも、あくまでクマにつけるんだしなぁ。
あまり仰々しくしてしまってもおかしいか。
どことなく犬っぽいし、いっそ犬みたいな名前にしてしまうのも手かもしれない。
ううーーん……。
「そうだな、お前の名前はタロ―だ!」
俺の呼びかけに、尻尾を振ってこたえるタロー。
やはり名前と言うのは、シンプルで呼びかけやすいのが一番だ。
変に凝った名前にして、覚えられなかったりしたら元も子もない。
「さて、タローも加わったことだしどうしようかな」
タローとゴーレム軍団の力があれば、もう獣におびえる必要もなければ食料の心配もない。
家もあるし、生きていくだけならば環境は整ったと言えるだろう。
でもこれでは、本当に生きていくだけだからな。
もっともっと生活を豊かにしていきたいし、できれば大森林の開拓もしたい。
一応は俺の領地なのだし、村のようなものが出来たら理想的だ。
「まずは畑が必要か。今の生活には野菜と穀物が足りないからな」
『大森林には栽培可能な食用植物がいくらか存在します。それらを採取することを推奨します』
「そうだな、まずは育てる作物がないことには話にならない」
『ゴーレムに命じることで、該当の植物を収集させることが可能です』
「なるほど。じゃあ、植物を集めるついでに周辺の探索もさせるか」
もしかしたら、先日のダンジョンのように何か有用そうなものが発見できるかもしれない。
俺はゴーレムたちに視線を向けると、さっそく命令を発する。
「1番から5番は、ここに残って拠点の警備にあたってくれ。6番から10番は、周辺の探索と作物の採取だ。導き手よ、この森にある食用植物についてもっと細かく教えてくれ」
『承知いたしました。まず最も見つかる可能性が高いものとして、黄金小麦の野性種。こちらは背丈が高く、葉が――』
解説を続ける導き手。
それが終わったところで、ゴーレムたちは揃って頭を下げた。
よしよし、だいたい理解できたようだな。
俺が合図を出すと、すぐにゴーレムのうち半数が探索へと出かけて行く。
「あとは帰りを待つだけだな。その間に、畑の準備をしておくか」
『作物の栽培には水の確保が必要です。貯水池を作ることを推奨します』
「雨水をためるのか?」
『いいえ。泉の水をゴーレムたちに運ばせます』
「なるほど。ゴーレムなら不眠不休で働けるもんな」
少し可哀そうな気もしたが、ゴーレムたちはあくまで人形。
遊ばせておくよりは、しっかり働いてもらった方が彼らのためにもなるだろう。
『水の運搬用に樽を作ることを推奨します。樽は木材と鉄のナイフで作成可能です』
「わかった」
すぐさまゴーレムたちに木を持ってこさせると、ナイフを向けた。
たちまち大人が入れるほどの大きさの樽が出来上がる。
かなりしっかりした造りで、抱え上げるとずっしり重い。
これで水を運べば、ちょっとした大きさの貯水池ならすぐ満杯にできそうだ。
「よし、1番と2番はこれをもって水汲みに行ってくれ。3番はその護衛を頼む。お前たちが戻ってきたころには貯水池が出来てると思うから、そこがいっぱいになるまで往復を続けてほしい」
命令を受けたゴーレムたちは、すぐさま樽を手に泉に向かって走っていった。
彼らが森の中へと消えていくのを見送ると、すぐさま貯水池の作成に取り掛かる。
まずは、敷地の確保。
家の隣のあたりがいいだろうか。
ゴーレムたちに命じて木を伐採すると、十メートル四方ほどの土地を確保した。
貯水池自体の大きさはそうだな、五メートル四方もあれば足りるだろうか?
あくまで一人用だから、そんな大きな畑を作るつもりでもないし。
『貯水池は木のシャベルと平らな土地があれば作成できます。木のシャベルは木材と鉄のナイフで作成できます』
いつもと同じように、鉄のナイフを使って木のシャベルを作成する。
うん、相変わらず手にしっくりくる出来だ。
それを地面に突き立てると、今度は貯水池を作成する。
たちまち直径五メートルほどの綺麗な円形をした穴が出来上がった。
深さはだいたい五十センチほどであろうか。
大きさはこれで十分だろうけど、深さが少し足りないかもな。
自然に水が流入してこないことを考えると、もっと深くないとすぐに蒸発するかもしれない。
『クラフトキングの能力で深さの調整は困難です。手掘りを推奨します』
「わかった。ゴーレムたち、こっちへ来てくれ!」
すぐに追加のシャベルを制作して、ゴーレムたちへと手渡す。
三人がかりでえっちらおっちら。
ゴーレムたちのパワーもあって、作業はどんどんと進んでいく。
「ガウガウッ!」
「え? あ、ちょっと!」
家の脇で待機していたタローが、穴掘りに加わった。
うわ、凄いな!
鋭い爪と圧倒的な腕力により、ガンガン掘り進んでいく。
そう言えばクマは、冬が来ると穴を掘って冬眠するんだったっけ。
その特性を今ここで最大限に発揮しているようだ。
「そろそろいいかな。お、帰ってきた!」
穴を掘り下げたところで、水汲みに行っていたゴーレムたちが戻ってきた。
樽から水が注がれ、貯水池の底がひたひたと沈んでいく。
この調子だとあと五往復ぐらいすれば、いっぱいになるだろうか。
「貯水池はこれでいいな。あとは畑だ!」
こうして俺は、いよいよ本格的な畑づくりに臨むのだった。
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