第三話 ストーンゴーレム
「ふぅ、疲れたな……」
命からがら家まで帰ってきた俺は、すぐさま荷物を床に下した。
ムーンベアと遭遇してから、はや数時間。
あの後も探索を続け、いくらかの木の実と茸を得たが他に水場は発見できなかった。
日暮れまでに行って戻ってこられる範囲では、もしかするとあの泉が唯一の水源かもしれない。
「それで、さっき言ってたストーンゴーレムってのは何なんだ?」
息も落ち着いたところで、改めて導き手に尋ねる。
先ほどは森の中だったので、質問することは避けていた。
会話してる最中に襲われたらたまらないからな。
『ストーンゴーレムとは、石で出来たゴーレムのことです』
「ごーれむってなんだ?」
『ゴーレムとは自立して働く人形のことです』
「つまり……俺のために仕事してくれる人形ってことか?」
『およそその認識で問題ありません』
へえ、そいつは凄いな!
王子として生活してきたが、まったく見たことも聞いたこともない代物だ。
そんなのがいたら、ここでの生活も劇的に楽になるに違いない。
『戦闘行為を行わせることも可能です。作成しておけば、ムーンベアへの備えともなります』
「おおお! そりゃ作らなきゃな! 材料と道具は何が必要なんだ?」
『上質な石材と木のピッケルが必要です』
「なるほど。ということは……石と枝を集めればいいのか?」
これまでのパターンからすると、こうなるはずである。
しかし、導き手からは予想外の返答が返ってくる。
『木のピッケルの材料については、枝で問題ありません。しかし上質の石材につきましては、石ではなく岩を集める必要があります』
「岩か……」
水場を探すためにかなりあちこち回ったが、岩なんてほとんどなかったな。
そもそも大森林は、地面のほとんどが分厚い腐葉土の層に覆われている。
仮に大きな岩があったとしても、土に覆い隠されてしまってわからないだろう。
それに言うまでもないが岩は重い。
あまり遠くから集めてくるのは現実的じゃないな。
「そりゃ、結構難しいな」
『現在の状況で大森林を探索して材料を集めることは、ほぼ不可能である推測されます』
「ほぼ不可能って! じゃあ、どうすればいいんだ? まさか何の方法もないってことは……」
『穴を掘ります』
「穴?」
『はい。家の周辺の地面を掘り、岩を採掘するための坑道を作成します』
坑道って……そっちの方が、森の中で岩を探すよりよっぽど手間なんじゃないか?
そんな一人で簡単に作れるようなものじゃないだろう。
だいたい、素人がそんなの作って落盤でも起こしたら致命的だ。
最悪、生き埋めになってそのまま死んでしまう。
「難しいんじゃないか、それ」
『クラフトキングに作れないものなどほぼありません』
「あっ……そうか! 坑道もクラフトキングの力で作れるってことか!」
『その通りです。坑道は木のピッケルと支え木があれば作成可能です。両者とも、木材から作成することが出来ます』
それならば、周囲を歩けばいくらでも枝を集めることが出来る。
木材だけはたくさんあるからな、困ることはまずないだろう。
最悪、少し手間はかかるが木を倒せないこともない。
「ならすぐに掘るとしよう。場所は……家の隣でいいかな」
『問題ないでしょう』
「じゃあ、休んだら明日は枝集めだな」
迎えた翌日。
俺は朝から枝拾いを集めて、昼前には大きな山をこしらえた。
心なしか、枝を集めるスピードが速くなった気がする。
連日山歩きをしているせいか、少し森での移動に慣れてきたのだろうか。
『そろそろ十分だと思われます』
「よし。こいつを支え木と木のピッケルにすればいいんだな?」
『その通りです。ナイフを枝に向けてください』
言われるがままに作成を行う。
ピカッと白い光が生じると、あっという間に木のピッケルと支え木が二十本できた。
最初のうちはいちいち不思議がっていたが、人間の慣れというのは恐ろしい。
割と事務的にこの作業を行ってしまっている。
「おー、いい感じだ。手に馴染むね」
『では続いて、坑道の作成を行いましょう』
「坑道も、こんな感じでピカッと光ったらできるの?」
『いいえ。坑道の場合は1メートルずつ掘り進んでいく必要があります。またその際、所持している道具で破壊不可能な鉱物と遭遇した際は、先に進めなくなります』
「なるほど。固いところは無理ってわけだ」
『その通りです。掘り出した岩や鉱物は地上に山として蓄積されていきます。ストーンゴーレムはこの山を直接材料として利用すれば、作成可能です』
掘り出した岩を運ぶ手間もないのか。
さすがはクラフトキング、実に便利な能力だな。
もし俺以外にもこの職業を持つ人間がいたら、世界中の鉱夫たちが失業してしまうだろう。
いや、鉱夫どころか職人全般がそうかもしれない。
『クラフトキングは世界に一人しかいないユニーク職業です。よって、ソル様が心配なさるようなことは起きません』
「ユニークか……ならいいんだけど」
この力、悪用されたら国の経済がひっくり返ってしまうからな。
あの男やその側近たちは、武力一辺倒で経済のことなどほとんど考えていなかったけれど……。
経済力は時として武力をも凌駕すると俺は思う。
『では、坑道の作成に入りましょう』
「わかった」
『岩を採取するのに適した深さは、地下11~12メートルであると言われています。まずはその深さまで掘り抜きましょう』
「よし! やるぞ!」
こうして俺はピッケルを手に、坑道の作成を始めるのだった。
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