表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/13

第二話 森のクマさん

「食料が三日分に、水が二日分ってところかな」


 翌朝。

 無事に目覚めることが出来た俺は、改めて物資の確認をしていた。

 パンが二斤、干し肉が一塊、干したフルーツが三房、革袋にいっぱいの水。

 それとサバイバルに役立ちそうなナイフ、火打石、ロープ、布、小さな鍋といった道具類。

 これで数日は乗り切れるだろうが、早いうちに調達の当てを見つけないとまずいな。


『水の確保を最優先することを推奨します』

「そうだな、水が無いのが一番危険だ」

『拠点周辺の探索を行いましょう。護身用に木の剣が作成できます』


 木製の武器か……。

 大森林の獣を相手にするにはあまりに心もとないが、ないよりはマシだろう。

 昨日余った枝にナイフを向けると、たちまち木の剣が出来上がる。

 俺の身体のサイズに勝手に合わせてくれたのだろうか。

 振ってみると、なかなかどうして手に馴染んだ。


「これもクラフトキングの力か?」

『はい。クラフトキングによって作成される物品は、すべて最高品質となります』

「そういうとこまで徹底してるんだな」

『クラフトキングは生産職の頂点に立つ存在です。しかしながら、無から有を創造することはかないません。材料と道具の確保をお願いいたします』

「わかってる。じゃあでかけようか」


 最低限の装備を袋に詰めて、家を後にする。

 さあて、できるだけ近くに水や食料が合ってくれるといいんだけどな。

 獣に襲われる危険性もあるが、あまり深入りし過ぎると道に迷ってしまうこともある。

 ナイフを使って下草を切り払い、道を残しながら慎重に慎重に。

 昼でも薄暗い大森林の中を、ゆっくりと探検していく。


「ん? あれは……何か光ってる?」


 前方に、何やら青くぼんやりと光る物体が見えた。

 ちょっと不気味だな、まさか人魂とかじゃなかろうな?

 俺の足が自然と一歩下がる。

 しかしここで、導き手が意外なことを言った。


『あれは常世茸の光です。常世茸は大変な珍味として有名な食材です』

「へえ、あれが食べられるのか」

『はい。さらに常世茸は水気を好みます。周囲を探せば、湧き水などが存在する可能性が高いと推測されます』


 そう言われたら行くしかないな。

 俺は光が見える方に向かってズンズンと進んでいく。

 幸いなことに、周囲の獣の気配はしない。


「やった、湧き水だ!」


 近づいてみると、常世茸は大木の幹に沿うようにして生えていた。

 しかもその木の根元には、小さな泉がある。

 水の透明度は高く、触るとしびれるほどに冷たかった。

 ひょっとして毒があるかもしれないので、すくった水をほんの少しだけ飲むが味に違和感はない。

 それどころか、こんな魔境で採れたとは思えないほどおいしい水だった。


「ふぅ……生き返った! あとはこいつを……」


 持ち込んだ革袋に、泉の水をたっぷりと詰め込む。

 これだけで、節約すれば二日ぐらいは持つだろうか。

 常世茸の方も、しっかりと集めて持ち帰ろう。


「これで、しばらくは生き延びられそうだな」

『ソル様の消費量ですと、二日分の水と食料が確保できたと推測されます』

「あと少し、探していこうか」


 何があるか分からない以上、食料は集められるときに集めておいた方がいい。

 水で膨らんだ革袋を背負いなおすと、改めて周囲を見渡した。

 すると、視界の端で何か黒い影が動く。


「あれは……」

『体の大きさから推測すると、ムーンベアの可能性が高いです』

「まずいな」


 ムーンベアと言えば、戦闘職でも苦戦する強力な魔物だ。

 くっ、厄介な相手に会っちまったなぁ!

 非力な生産職の俺では、とてもじゃないが勝ち目はない。

 遭遇すれば最後、強靭な爪で一瞬のうちに細切れの肉塊にされてしまうことだろう。


『速やかな撤退を推奨します。ただし、騒音が発生するため走ることは非推奨です』

「それはわかってる!」


 足裏で地面を擦るようにして、ゆっくりゆっくりと後ずさっていく。

 生産職がムーンベアと遭遇してしまった場合の対処法はただ一つ。

 気づかれないように、ゆっくりとその場を去ることだけだ。

 この時、ムーンベアに背を向けてはいけない。

 奴らは隙を見せた瞬間に、襲い掛かる性質があるからだ。


「近づいてくる……!」

『水場に向かって移動していると推測されます』

「逃げきれるか……?」


 ムーンベアが泉に到達するまでに、果たしてその視界の外まで移動できるかどうか。

 向こうの動きはゆっくりとしているが、こちらの動きにも制限がある。

 緊張の糸が張りつめ、額に汗が浮く。

 こんな時こそ、焦らず慎重に。

 必死で平静を意識するが、考えれば考えるほど体が強張った。

 そして――。


「しまっ!」


 うっかりと、枝を踏んで折ってしまった。

 メシャリ。

 生木が折れるときに特有の鈍い音が響く。

 たちまち、ムーンベアの頭がこちらへと向いた。

 視線がぶつかる。

 ヤバい、完全に気付かれた!!


「ちぃっ!」

「グオオッ!!」


 こうなってしまっては、走るしかない!

 落ち葉の降り積もった森を、前のめりになりながら全速力で駆け抜けていく。

 早く、もっともっと早く!

 心臓がはちきれんばかりに身体を動かすが、身体能力の差はいかんともしがたい。

 あっという間にムーンベアが追い付いてきて、その吐息がはっきりと聞こえてきた。


「ガフ、ガフッ!!」

「く、食われるッ!!」

『ソル様、常世茸の破棄を推奨します』

「へ?」

『常世茸はムーンベアの好物です。めくらましとなります』


 でも、せっかく確保した貴重な食料だぞ?

 ムーンベアが近くをうろついているとわかった以上、迂闊に探索もできないし……。

 これを失うのは、かなり大きな痛手だ。


「でも、これがないと……」

『決断を急ぐことを推奨します』

「……わかったよ! そらっ!」


 ここで死んでしまうわけにも行かない。

 俺は背負っていた袋を開き、常世茸を思い切りぶちまけた。

 青い光が舞い散り、ムーンベアの動きがにわかに鈍った。

 導き手の言った通り、上手く気を取られてくれたようだ。


「今だっ!」


 最後の力を振り絞り、どうにかこうにかムーンベアから逃げきる。

 しかし参ったな、あんな奴がいたんじゃあの泉は安心して使えないぞ!

 それどころか、俺の作った小屋も奴の生活圏内に含まれている可能性がある。

 こりゃ、生活していくうえでとんでもなく大きな脅威だ。


「ううーん……どうしたものかな……」

『私から一つ提案がございます』

「言ってみてくれ」

『ストーンゴーレムを作成いたしましょう』


 すとーんごーれむ?

 耳慣れない単語に、俺はたまらず小首を傾げた。


「面白かった!」「続きが気になる!」「早く更新を!」と思った方は、下にある評価ボタンをクリックして応援していただけると幸いです!

皆様の評価や感想が作者の励みになりますので、どうかよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ