第一話 クラフトキング
「誰だ!? どこにいる!」
『私はクラフトキングを助ける【導き手】です。ソルト様の隣にいますが、実体が存在しないため認識することは困難でしょう』
……こいつは、いったい何を言っている?
隣にいるけど実体が存在しない?
まるで意味が分からない、質の悪い精霊か何かだろうか。
ここは悪名高き大森林、そう言った存在がいても不思議ではない。
『私は精霊ではありません。概念的には類似した存在ですが、精霊が周辺の自然環境に依拠するのに対して導き手はクラフトキングの――』
「何を言ってるのかわからないよ! 君は俺の敵か? それとも味方か? まずはそこを教えてくれ!」
『味方です。私はクラフトキングをサポートするための存在です。ソルト様に有益な情報を与えることが出来ます』
即答したな……。
どこまで信用できるかはわからないが、ひとまずは安心と言ったところだろうか。
そもそも、悪い精霊とかだったら話しかけてくる前に俺を殺していたかもしれない。
無防備な生産職一人、自然の化身たる精霊の力をもってすれば始末するのは簡単だ。
「そうか……味方か」
『はい。クラフトキングの力を活用するうえで、私の助言は有益であると確信しています』
「じゃあ、クラフトキングって具体的に何が出来るのか教えてくれるか? 生産職だってことはわかってるけど、それ以外ほとんど何も知らないんだ」
『クラフトキングはその名の通り、生産職の頂点に立つ王です。材料と道具さえ存在すれば、ありとあらゆるものを生産することが出来ます』
生産職の王か。
ありとあらゆるものを生産できるとは、なかなか御大層なものだ。
その力をうまく使いこなすことが出来れば、この森でも生きていくのに役立つだろうな。
『クラフトキングのレベルが上昇するごとに、生産可能な物品の種類が増えていきます。まずはクラフトキングのレベル上げを推奨します』
「レベル上げって、何をすればいいんだ?」
『生産をすることで経験値が溜まり、レベルが上昇します。まずは大工の木槌を作成し、住居を建築することを推奨します』
うん、導き手の言う通りだな。
すっかり話に夢中になってしまっていたが、安全確保のためにまずは家が必要だ。
水や食料の心配もあるが、それ以前に獣に食い殺されないようにしなくては。
「わかった。それで、その大工の木槌ってのはどうやったら作れる?」
『あなたは鉄のナイフを所持しているので、木材があればすぐに生産できます。大きめの木の枝、もしくは倒木を集めてください。立木を直接材料にはできません』
「よし! わかった」
ここは森の入り口だ、そんなものならばいくらでもあるだろう。
俺は獣がいないことを確認しながら、ゆっくりと森の中へと踏み込んでいく。
こうして木々の間を歩いていくと、ものの数分で両手に抱えきれないほどの枝が集まった。
『これだけあれば十分です。一度、森の入り口へ戻ることを推奨します』
「そうだな。あそこが一番安全だし」
森の入り口に戻ると、集めた枝を下ろす。
さて、ここからどうすればいいんだ?
大工の木槌を作ると言っても、当然ながら俺はそんなものの作り方は知らない。
クラフトキングの力と導き手だけが頼りだ。
『では大工の木槌を作成いたします。鉄のナイフを木材の方へ向けてください』
「これでいいか?」
『はい。では、クラフトを開始します』
導き手さんの声がすると同時に、ナイフが強い光を放った。
それに応じるように枝の山も白い光に包まれ、何やら変形していく。
そして数秒後、素朴な造りの木槌が残された。
どういう原理かはわからないが、一本の太い木から切り出されたような構造をしている。
「何だこれ……! 想像してたのと違うというか、魔法みたいじゃないか……!」
『これが生産職の王の力です』
「ほんとに凄いよ! 王ってのも伊達じゃないな!」
城に出入りしていた一流の生産職たちでも、こんな方法で物を生み出す者はいなかった。
これは、俺が思っていたよりもずっとすごい職業なのかもしれない。
「もしかして、家もこの調子でできるのか?」
『生産する物によってかかる時間は異なりますが、すべて同じ要領で作成可能です』
「じゃあ、すぐに材料を集めよう!」
こうして森の中を散策し、枝を集めることしばし。
森の入り口に、人の背丈ほどの大きな枝の山が出来た。
ふぅ……ふぅ……だいぶ疲れたな。
これだけ集めるのに、三時間ぐらいはかかっただろうか。
いつの間にか日も傾き、宵闇が迫ってきている。
ここでもし家が建てられなかったら、俺は大森林の夜を拠点もなく過ごさねばならないだろう。
そうなることだけは避けたいところだ。
「これで足りるか?」
『十分です。では、先ほど作成した大工の木槌を木材の方へ向けてください』
「わかった」
頼む、家よ建ってくれ……!
祈るようにして、木槌を枝の山へと向ける。
発光。
先ほどとは比較にならないほど強力な閃光が、周囲を照らした。
白く輝く枝の山が、ゴトゴトと大げさな音を響かせながら変形していく。
数十秒後、俺の目の前に現れたのは……板張りの立派な小屋であった。
かなりしっかりとした造りで、壁を押してもビクともしない。
「建った! 家が建った!!」
『当然です。材料にも道具にも問題ありませんでした』
「そうじゃなくて! クラフトキングの力ってこう、凄いんだな!!」
出来上がった小屋の前ではしゃぐ俺。
この大森林生活にも、いよいよ光明が見えて来たぞ!
この頑丈な家があれば、獣に襲われたとしても少しは持ちこたえてくれることだろう。
「今日のところは、ひとまずこの家で休もうか」
『夜間の活動は危険です。私もそれを推奨します』
じゃあ、今日のところはこの家で寝るとしようか。
こうして大森林生活一日目は、どうにか無事に終了した。
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