第十二話 大演説
「私が原因って、どういうことなんだよ……?」
思いもよらぬ告白に、俺は動揺を隠せなかった。
彼女はそのまま、冷たく悲しげな眼をして告げる。
「私の家は、代々このドラリア村を守る戦士の一族でした。でも私は何故か……村人として生まれてきてしまったんです。おかしいですよね、父も母も戦闘職だったのに……」
戦闘職の両親から、生産職の子どもが生まれる。
俺と同じ、俗に「呪われた子」と呼ばれるケースだった。
生まれる確率はごくごく低く、貴族や王族では俺以外に聞いたことがない。
大陸全土では、何件か例があるそうだが……。
こんな田舎では知識がないのも無理はないだろう。
「私に戦う力があれば、三年前の戦いで父と母は死ななくてもすみました。私に戦う力があれば、村の人たちをこんな目に合わせることもありませんでした。みんな、みんな……私に戦う力がなかったせいなんです。私が、私が出来損ないだったから……」
慟哭し、涙をこぼすローナ。
悲痛な叫びが静まり返った村に響く。
村の惨状に、いったいどれほどの責任を感じてきたのだろう。
少女の心境を察して、胸が詰まる。
「私が生贄になって村が助かるなら、喜んでこの身を差し出します。今までみんなに優しくされた分の恩返しがしたいんです」
「ローナ……ありがとう……!」
「いいんです。私、村のみんなのことを家族だと思ってますから。家族のために死ねるなら……こんな幸せなことありません」
そう言うと、ローナは涙を拭きとって笑みを浮かべた。
しかしその笑みは……からっぽだった。
心配を掛けたくない、不安にさせたくない。
そんな思いばかりがにじみ出ていて、楽しさなんて全くない。
それを見た途端、俺の心の底から強い感情が湧き上がってくる。
この身体を突き動かすような想いは――――怒りだ。
「……ローナ、俺からも言いたいことがある」
「何ですか?」
「村の人のことを思うなら、簡単に死ぬとか言うな。ローナが村の人を家族と思っているように、村の人もローナのことを家族と思っているんだから」
改めて村人たちの方を見やれば、皆、悲壮な顔つきをしていた。
ローナが彼らを愛するように、彼らもまたローナを愛していたのだ。
人々から伝わってくる思いの強さに、ローナの作り笑顔がたちまち崩れる。
「みんな…………!」
「これ以上、村の人たちに悲しい顔させるな。いや、させなくていい」
「どういうことですか? ソルトさん、もしかして――」
続けて質問を投げかけようとするローナを、手で制した。
そして改めてアルバンさんと村人たちの顔を見ると、大きく咳ばらいをする。
「俺の名前はソルト! 森の外から来た旅人だ!」
俺の宣言にざわめく村人たち。
村長までもが、目を丸くしてこちらを見やった。
森の外から来た人間と言うのは、やはり相当に珍しいようだ。
「村の事情はおおよそ理解した。その上で提案したい。横暴なオークどもに代わって、俺が防衛戦力を提供すると!」
「あなたが……? もしや、戦闘職なのですか!?」
「いいや、俺は生産職だ」
生産職と言った途端に、村人たちの眼から輝きが失われた。
しかし、このぐらいは当然想定済みだ。
俺は容赦のない視線を向けてくる村人たちに対して、声を張り上げる。
「だが安心してくれ! 俺には並みの戦闘職を超える力がある!」
「馬鹿な……生産職に戦うことなどできるわけがない」
「そうだ、生産職に何が出来る!」
「クワでも持って戦う気か?」
次々と浴びせかけられる非難の言葉。
生産職は戦闘職に奉仕する存在。
この常識は、こんな辺境の地においても健在のようだ。
「落ち着いてくれ! 今からその証拠を呼び出す!」
俺は口元に手を当てると、ピーーッと口笛を吹いた。
数分後。
村の入り口から悲鳴が聞こえてくる。
「ム、ムーンベアだぁ! 逃げろっ!!」
「うわああぁ!!」
「ぶ、武器を持ってこい!」
「待て!!!!」
騒ぎ出した村人たちを、すぐさま静止する。
やがてムーンベアは混乱する彼らの間を駆け抜け、俺の前へとやってきた。
平伏。
深く首を垂れたムーンベアに向かって、すぐさま微笑みかける。
「よし、よく来てくれた。えらいぞ!」
「ガウゥ……!」
「ムーンベアが……従っている?」
「あの森の暴君が?」
ムーンベアが現れたことにより、俺への視線は再び変化した。
やはり、強力な魔物を従えているというのは大きいのだろう。
「このムーンベアこそが、力の証明だ。俺には――いや、生産職には! 戦うための力がある!」
「しかし……ここで契約を切ると言ったら、オークは黙ってないぞ」
「そうだ、もし戦いになったら奴らにはキングがいる……。とてもかなわねぇ」
「だったら、今後もオークの横暴を見過ごすというのか! 生産職だから仕方がないと、言い続けていくのか! そんなものは、ただただ搾取される家畜と同じではないか!」
俺の強い言葉に、村人たちの態度が徐々に変わっていった。
彼らの顔にわずかながらに怒りが差していく。
これまでオークたちから受けてきた仕打ちを、思い返しているようだ。
「いまローナを差し出したとしても、奴らの横暴は止まらないだろう。ここで立ち上がらなければ、この村はやがてすべてを奪いつくされる! あのオークたちが素直に約束を守ったことはあるか? これで最後と言って、本当に最後だったことがあるのか!?」
「……そうだ、その通りだ! あの豚どもは、信用ならねえ!」
「この前だって、約束の量の倍は持って行ったぞ!」
「奴らは次第に増長してやがるんだ!」
村人たちの感情に、一気に火が付いた。
あと少し。
俺はダメ押しとばかりに、拳を振り上げて声を出す。
「この世界は残酷に出来ている。だからこそ、共に抗おうではないか! 俺たち生産職は、ただ奪われるだけの弱者ではないと証明して見せようではないか!」
「うおおおおおっ!!!!」
湧き上がる拍手、大歓声。
周囲に満ちる熱気は死にかけていた村が、また息を吹き返したかのようだった――。
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