表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

第十一話 支配する者、される者

「あれがオークキングの使いか……」


 肩で風を切りながら、村の通りを我が物顔で歩くオークの一団。

 彼らが通る道の脇には、一列になってひざまずく村人たちの姿があった。

 これはまた、異様で胸糞の悪い光景だな……。

 俺はたまらずオークたちを睨んでしまいそうになるが、すぐにローナによって静止される。


「ソルトさん、抑えて! 頭を下げてください!」

「なんでオークにそんな……」

「とにかく、お願いします!」


 半ば勢いに押し切られる形で、地面にひれ伏す。

 そうしている間に、オークたちは村の広場へと到着した。

 最も体が大きく、粗末ながらも服を着たオークが村人の用意した椅子へとふんぞり返る。


「ブフゥ……全員そろっておるようだな」

「はい……。それでオーク様、今日はどのような御用向きで?」


 初老の男がオークたちに近づき、尋ねる。

 雰囲気からして、彼が村の責任者だろうか。


「税の取り立てに来た」

「税ですか? お約束の分は、もう支払いましたが……」

「ゴブリンと戦をすることになってな、もう少し出せ」

「急におっしゃられても無理です、これ以上は私どもが飢えてしまいます!」

「ブフフゥ! 俺たちに逆らう気か?」


 オークは男の胸ぐらをつかむと、そのまま軽々と持ち上げてしまった。

 苦しげな表情を浮かべる男の姿に、たちまち村人たちは悲鳴を上げる。


「ら、乱暴はおやめください!」

「だったら要求した通りに食い物を出せ!」

「そう言われましても、出せないものは出せません!」

「生意気な!!」


 容赦なく暴力を振るうオークたち。

 男の身体はたちまち痣だらけになり、殴られた顔は大きく腫れあがった。

 クソ、俺に戦力があればな……!

 何とかしてやりたいところだが、あいにくゴーレムやタローは離れたところにいる。


「ブフゥ、しぶといやつだ!」

「こいつの言うことなんて無視して、無理やり奪っちまえばいいんじゃねーか?」

「いや、こいつらがみんな死んじまっても困るだろ。生かしておけばもっともっと搾り取れるんだからな」


 そう言うと、椅子に座っていたオークの代表らしき者が立ち上がった。

 そして平伏している村人たちを一瞥すると、脂肪でたるんだ顎を撫でながら言う。


「食い物が出せないのならば、女を出してもらおう。そうだなぁ……」


 欲望を剥き出しにした眼差しで、村の女たちを値踏みしていくオーク。

 やがてその視線は、あろうことかローナの前で止まる。


「ブフゥ、そこの女! こちらへ来い!」

「私でしょうか?」

「そうだ、金髪女!」


 オークに促され、やむを得ず立ち上がるローナ。

 彼女の顔を仔細に確認したオークは、満足げな笑みを浮かべる。


「遠目で見るより良い女だ! もっと近くへ来い!」

「……はい」

「ブホホホホ!」


 ローナの身体に手を伸ばし、肉付きを確かめるように撫でまわすオーク。

 その顔はだらしなく緩み、口の端からはよだれがこぼれていた。

 あまりにも醜悪で下卑な姿。

 すぐさまこの場から飛び出していきたくなるのを、どうにか堪える。


「ブホゥ、身体つきもいい! これなら王も満足される!」

「……ありがとうございます」

「三日後、今度は王とともにこの娘を迎えに来よう! それまでに、王の献上品にふさわしい衣装を用意しておけ!」


 そう言うと、オークたちはズカズカと足音を響かせながら去っていった。

 おいおい、こりゃ大変なことになったな……!

 俺はすぐさまローナの元へと走り寄る。


「ローナ! 大丈夫だったか!?」

「はい、何とか」

「……いったい、この村で何が起きてるんだ? 説明してくれ」


 俺が尋ねると、ローナは途端に顔を曇らせた。

 よほど言いにくい事情があるのだろう。

 こちらを見るものの、なかなか話そうとはしてくれない。

 やがてそれを見かねたのか、先ほどリンチされていた村の代表らしき男が話しかけてくる。


「あなたは、ローナを助けてくださったという方ですかな?」

「ええ、そうです」

「私はアルバン、この村の長をしております」

「アルバンさん、訳を聞かせてください。どうしてこの村は、オークなんかの支配下にあるんですか?」

「それは…………我々に戦う力がないからです」


 悔しさをにじませながら、つぶやくアルバンさん。

 彼はこぶしを握り締めると、沈痛な面持ちをして言う。


「我々の村には今、戦闘職の者がいないのです。代々、この村を守ってきた戦士の一族が三年前に途絶えてしまいまして」

「それでオークキングの傘下に入ったと?」

「そうするしかなかったのです。この森で弱き者が生き抜くには、強き者に従うよりほかないのですよ」

「だからって……オークの蛮行をこのまま黙ってみてるつもりなんですか? オークの献上品なんかにされたらどうなるのか、知らないわけじゃないだろう!?」


 オークに攫われた女は、身も心も壊れるまで使い潰される。

 そのため女冒険者の中には、オークにつかまった時点で自決する者までいるという。

 村が生き延びるためとはいえ、そんなオークたちに娘を差し出すなんて。

 甘い考えかもしれないが、俺にはそれが正しいとはとても思えなかった。


「それは……我々だって、心苦しい! だがな……!」

「生き残るためなら、だれかを犠牲にしてもいいのか!?」

「いいんです! 私の犠牲で村が救われるなら、それでいいじゃないですか!」


 俺と村長が互いに声を大きくしたところで、ローナが割って入ってきた。

 彼女は俺の顔を見据えると、どこか悲しげな顔をして言う。


「もともと、私が原因なんです。この村がオークの支配下となったのは」


 ……それは一体、どういうことなのだろうか?

 うっすらと涙を浮かべるローナを見て、俺は首をかしげるのだった。


【作者からのお願い】

「面白かった!」「続きが気になる!」「早く更新を!」と思った方は、下にある評価ボタンをクリックして応援していただけると幸いです!

皆様の評価や感想が作者の励みになりますので、どうかよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ