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第十話 大森林の小さな村

「ソルトさんは、森の外から来たんですか!?」


 俺の言葉に、心底びっくりした顔をするローナ。

 こちらからしてみれば、大森林の中に村があったほうがよっぽど驚きだ。

 屈強な冒険者たちですら、恐れて立ち入ろうとはしない人外魔境。

 その中に可愛らしい少女が住んでいたなど、もはや冗談の域である。

 

「外界の人がくるなんて、何十年ぶりですよ! うわぁ、珍しいなぁ!」


 ローナはすぐにこちらへ近づくと、俺の身体をペタペタと触り始めた。

 森の中と外で、人間の形質が違うとでも思っているのだろうか?

 完全に珍獣扱いだ。

 やがて彼女の突き出したふくらみが俺の身体に触れて――。

 

「ま、待って! 当たってる!」

「何がですか?」

「いや、だから!」


 俺は慌ててローナから距離を取った。

 これ以上されるがままになっていたら、理性が少し危うい。

 無防備すぎる女の子ってのも、考え物だな。


「むぅ、逃げなくてもいいじゃないですかー!」

「そうじゃないって。それよりも。早く村に戻らないとみんな心配してるんじゃないか?」

「ああ、そうですね! 急がないと!」


 時刻は既に昼をだいぶ過ぎている。

 彼女の村までは徒歩で三時間ほどと言っていたから、今から急いでも日没に間に合うかどうか。

 当然ながら、大森林で夜を過ごすのは非常に危険だ。


「送っていこう」

「いいんですか?」

「ああ。タローの背中なら、二人ぐらいは余裕だからな」


 ローナへの親切心もあるけれど、何より俺自身がドラリア村へ興味を持っていた。

 なにせ、この大森林に存在する村である。

 いったいどんな場所なのか見てみたいし、物資の補給だってできるかもしれない。

 特に、材料不足で生産できない衣服に関してはぜひとも入手したいところだ。


「ありがとうございます! 失礼しますね、タローさん!」

「ガウゥ!」


 可愛い女の子を乗せたせいだろうか。

 いつもより興奮した様子のタローは、力強く大地を蹴るのだった。


 ――〇●〇――


「ここがドラリア村です!」


 ローナの指示に従って、川沿いを進むこと一時間ほど。

 俺たち三人は小さな集落へと到着した。

 大森林の中の村ということで、かなり粗野なところを想像していたが……。

 意外としっかりした造りの家が多い。

 ガラスなども使われているようで、なかなか文化的な雰囲気だ。


「へぇ……! こりゃたいしたもんだな」

「ふふふ、私たち自慢の村ですから!」


 村の人々をおびえさせないよう、俺とローナは少し離れたところでタローの背を降りた。

 タローはこのあたりで、ひとまずお留守番だ。


「ローナ! 帰りが遅いから、皆で心配していたのだぞ!」


 村の入り口につくと、すぐに槍を構えた男が近づいてきた。

 番兵さんだろうか。

 使い古した革の鎧が、歴戦の強者のような雰囲気だ。


「すいません! その、川に流されてしまって……」

「なに? 怪我はなかったのか?」

「はい。こちらの方に助けてもらいましたので」


 俺に話を振り、一歩下がるローナ。

 訝しげな顔をする見張りの男に対して、俺はすぐさま会釈をする。


「初めまして、ソルトと申します。釣りをしていたところ、たまたまローナさんが引っかかったので救出しました」

「そうか、村の者が世話をかけたな」

「いえいえ、困ったときはお互い様ですから」

「こういうわけなので、ソルトさんを村に入れる許可をください。家に招いて、きちんとおもてなししたいんです!」

「わかった、村長には私から事情を説明しておこう」


 そう言うと、男はどうぞと大きく手招きをした。

 俺とローナは軽く頭を下げると、さっそく村の中へと入る。


「あそこが私の家です!」


 ローナが指さしたのは、村の中でもひときわ立派な邸宅だった。

 大きな母屋だけでなく、家畜小屋や納屋まである。

 この子、もしかしていいとこの子だったりするのかな?


「立派な家じゃないか」

「ありがとうございます。すぐ食事の準備をするので、ソルトさんはお部屋で待っててくださいね」


 こうして、部屋で待つこと数十分。

 すっかりお腹もすいたところで、支度を終えたローナが戻ってきた。

 その手にはほこほこと湯気を立てる鳥の丸焼きがある。

 香草の爽やかな香りと油のジューシーな匂いが混然一体となり、食欲が刺激される。


「おおーー! こりゃうまそうだ!」


 こんなにきちんとした料理、いったいいつぶりだろうか!

 大森林に来てからは、ずーっと保存食か味なし焼肉だったからなぁ。

 久々に感じる文明の香りに、テーブルマナーも忘れてがっついてしまう。


「んんー! 美味しい! 最高だよ!」

「喜んでくださって嬉しいです」

「ローナは食べないのか?」

「私は、あんまりお腹が空いていないので。平気で――」


 ――ギュウウウ!

 今まで聞いたことがないぐらい大きな腹の音が聞こえた。

 たちまちローナの顔が耳まで赤くなり、彼女は恥ずかしそうに身を小さくする。 


「おいおい、明らかに腹減りじゃないか」

「あはは……恥ずかしながら、ソルトさんの分を用意するのが精いっぱいで」

「生活が苦しいのか? そう言えば、家族の姿も見えないけれど……」


 立派な家だというのに、住んでいるのはローナだけのようであった。

 ただの貧乏というよりは、何かしら訳がありそうな雰囲気である。


「家族はいません。もともと両親と三人で暮らしていたのですが、二人とも三年ほど前に病で亡くなってしまいました」

「それは申し訳なかった。……ほら、これを食べてくれ」


 まだ残っていた鳥肉を、すぐさまローナの前に差し出した。

 飢えた女の子の前で、自分だけご馳走を食べられるほど俺の神経は太くない。

 しかし、ローナはすぐさま皿をつき返してくる。


「いえ、受け取れません! ソルトさんは大事な恩人なんです、私のことなんて気にせず食べてください!」

「いや、そんなわけにも行かないよ!」

「平気です! それに、今の食糧不足は元はと言えば私が原因なので……」


 ひどく悲しげな表情をするローナ。

 この村に何が起きているというのだろうか?

 俺がすぐさま事情を聴こうとしたところで、外が何やら騒がしくなる。


「まずい、奴らが来ました!」

「奴ら?」

「オークキングの使いです! すぐに出迎えをしなくては!」


 そう言うと、慌てて家を出て行こうとするローナ。

 オークと言えば、人を喰うとすら言われる凶悪な亜人種。

 そんなものの使いとは、いったい……。

 

「この村、結構厄介な状況みたいだな……」


 ローナの後に続いた俺は、たまらずそうつぶやくのだった。


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