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戦う私、求める妖

作者: 黒猫

雲のような何かに導かれ扉を開いた先に一つの白い椅子が見えた。


周りに意識を向けると同じ感覚で白い椅子が置いてあり、目の前には反射して自分を見ることが出来るガラスが貼られていた。


椅子の後ろには太陽のような明るさで照らす光が見える。


私は、偽物だと思った。


帰りたいと思った。


自分の後ろにも太陽のような何かが近付いて来る。


触れて貰いたくなかった。


だが、体は金縛りにあったように動かない。


逃げることは出来なかった。


氷のように冷たい何かが私の髪に触れる。


震える体で抵抗してどのくらいの時間が経ったか分からないが気付けば青い空が見えていた。


鳥のように羽を広げて自由に飛んでいる。


偶然見つけた場所で幸福になれると思わなかった。


感じている全てが自分の幻なのではないかと思うぐらい心が満たされた。


視界が広がり体が軽くなったことに馴れてきた時、私は青い空から今に着地した。


ガラスの向こう側に、変わらない太陽のような明るい光が見えている。


自分の表情が柔らかいと感じた時、髪に触れる氷のような冷たい何かがぐらついていることを察知した私は、咄嗟にある魔法をかけた。


見る者を硬直させる氷の色が優しさを感じさせる温かい色へ変化したのだ。


先程まで見えていた青い空が、もっと遠くまで広がったように思った。


その時だった。


果てが見てみたいと感じるぐらいに、ガラス越しに見える太陽のような明るい光が魅力的に映ったのだ。


自分の世界以外に心地よいと思ったのは、始めてだった。


私は、妖を求める世界に触れてしまったのだ。


あれから、3時間ぐらい温かい空を飛行していただろうか。


今を呼びよせる竜巻が現れた。


荒々しく白い椅子の上に自分を着地させる以外この場にいる方法が見つからなかった。


帰りたくない場所で見た先にいる美しい青い空は、ガラスの中でやはり太陽のような明るさを見せていた。


もっと過ごしたい時間があると分かっていたが、私のいる空間が求める金の妖を吐き出した。


青い空に見える太陽の正体を知ることが出来る瞬間。


『偽物』


そう見えて欲しかった。


だが、最後の時まで暴くことは出来なかった。


扉を閉めると同時に私の心は大きくなって、沼に落ちていった。


暗く海の底のような場所で今を見ようと必死に手を伸ばしたが、強い磁力に心臓が引き寄せられるようにどんどん沈んでいった。


息が続かず苦しい、解放されたいと思ったがどこまで落ちたか分からないぐらい時間が経過した時、呼吸が出来るようになり地上は見えないのに光が見えてきた。


そこには、『60日以降』と書いてあった。


恐らくその期間を過ぎればまた幻想のような世界に行くことが出来る。


ガラス越しの青い空に見える太陽に会える、そう思った。


だが、私の体は暗い底から伸びてきた狂暴なイバラに拘束されてしまったのだ。


『金の妖を吐き出した時に見せた光が偽物だったらどうする?』


まるで自問自答しているかのようだった。


私は、耐えきれなくなり地上まで敷き詰められたブラックホールのような渦に触れた。


気持ちが今に行くか青い空を諦めるか、沼の底にどんどん落ちていくのか選択を迫られた。


『あれから70日経った。青い空はあの場所で誰かを待ち続けることが使命。お前は特別ではない。あの場所を求める人間の中の一人。だが気付いた時には空間ごと無くなっているかもしれない。考えていても時間だけは過ぎていくからだ。』


全身に雷が走った己の体に闇の魔法をかけた私は、拘束していたイバラを消滅させて、地上へ飛び出した。


心を集中させて自分の願いを込める。


すると、現れてくれたのだ。


あの時引き寄せられた扉が目の前に。


ドアノブに手をかけた時、青い空が太陽ではなく今度は虹を連れて私を包み込んだ。


70日の時は戻せない。


自分に正直にならないと伝わらない。


偽物の太陽?


青い空で照らす光?


全ての幻想を振り払った。


今、鏡の前にある一脚の白い椅子を大切にすると誓った私は、全身から金の妖ではなく、触れたら消えてしまう魔法を唱えたのだ。


「あなたのことが大好きです。」

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