学級委員
プロローグと時系列が前後します。
プロローグ 1年生3月
本話~ 1年生10月
「青山で良いんじゃね」
その一言が、クラスの総意だった。
1年F組、名簿番号1番。
俺こと青山裕一郎は全会一致で、クラスの学級委員に再選した。
正直、全然、嬉しくない……
「おめでとう。青山君。くくく」
お前、絶対思ってないだろ……
「おめでとう」とか言うわりに、隣に座る女子の学級委員である紅坂刹那は必死に笑いを噛み殺している。無論、紅坂は俺の本音を知っていた。
学級委員は学校によって名称や職務内容等に多少の差異はあるだろうが、クラスのまとめ役としてどの学校にも必ず置かれているだろう。
俺が通う私立皇高等学校(以下、『皇高校』)の場合は、各クラス必ず男子1名、女子1名で構成され、委員長、副委員という序列は設けられていない。男子と女子それぞれの学級委員が対等な立場で協力してクラスをまとめている。
クラスの各委員の任期は新生徒会の発足から解散、すなわち次の生徒会が発足するまでの1年間だ。
1年生は4月に入学してからなので、例外的に半年で交代の機会を得るが、基本は年度を跨いでの1年間が任期である。
したがって、俺は来年のこの時期までこのクラスの学級委員を継続することとなった。
「それじゃあ、男子は青山君の再任ということで、またよろしくね」
1年F組の担任である佐藤千晶先生はどこか嬉しそうに黒板に書かれた『学級委員』の文字の横に、俺の名前を板書した。
国語の先生だけに、相変わらず達筆な字をお書きになられる。
皇高校には佐藤姓の先生が3人いるため、校内ではみんな「千晶先生」と呼んでいる。
先生は今年26歳になる大卒4年目の25歳。
今年新卒の先生が入ったので、校内で一番若い先生という肩書は外れたようだが、校内で一番美人な先生という肩書は健在である。
思えば、この綺麗な千晶先生に目をつけられ、半ば強引に学級委員にさせられたことが、俺の高校生活における大きなターニングポイントだった。
入学式翌日のホームルーム。女子の方は紅坂が立候補したおかげですぐ決まったのだが、男子の方は誰も手を挙げなかったので、ちょっと時間を喰った。
そして、業を煮やした千晶先生が『名簿番号1番だから』という理不尽且つ超テキトーな理由で俺を指名し、決まったのである。
以来、今日までの半年間……まぁ、充実はしていたな。
クラスマッチとか、文化祭とか、その後の打ち上げなど、一応クラスの中心として、それなりにリア充できたのは事実だった。
だがその反面『学級委員だから』を理由に先生やクラスの連中(主に男子)から何回も面倒事を押し付けられてもいた。
バカップルの仲直りをお膳立てしたり、部活でいじめられていた子の助けに行かされ先輩方に目をつけられたり、他校の不良に喧嘩を売った馬鹿どもを助けに行きボコボコにされたり、優勝賞品の花火欲しさに文化祭の女装コンテストに強制的に参加させられたりと、どこの青春ラブコメの主人公だ! というくらい、クラスの問題等々が次々と俺の周りに発生し、その解決にあたる。
俺の高校生活はそんな感じだった。
なので、現在進行形で抱えている案件も含めて、誰かに引継ぎ、平凡な高校生活を送りたいと思っていたのだが。
(くそッ。御剣が生徒会じゃなければなぁ……)
俺は恨めしそうな視線を御剣光輝に向けた。
当の本人はその視線にまったく気づいていない。
御剣は新生徒会長から直々に誘われて、新生徒会本部の執行委員になることが決まっていた。
校則で、クラスの委員と生徒会役員は兼務できないことが明記されているため、今日の委員決め、最初から御剣は候補者から外れていたのである。
クラスきってのイケメンで、成績優秀、スポーツ万能。
身長も180センチを超えており、剣道部期待のホープと聞く。
クラスだけでなく、他のクラスの女子からも羨望の眼差しを向けられており、ファンクラブもあるそうだ。
これで性格が悪ければまだ救いもあったのだが、好青年で無理矢理欠点を挙げるとすれば、やや積極性に欠けるくらいだろうか。
まぁ、そんな男を生徒会が放っておくわけがない。
「出来る男は出世するものだよ。青山君」
紅坂は笑いながら、俺の肩をポンポンと叩いた。
まるで、君の考えていることなんてお見通しだよと言わんばかりに。
このドヤ顔が無ければ、普通に可愛いと思えるのにな。
運動部ではないが、サッパリとしたショートの黒髪。
整った端正な顔立ちと、きめ細かく透き通るような白い肌。
背は里美とほぼ同じくらいだが、Eカップでプロポーションの良い里美と異なり、紅坂は女性特有の起伏に乏しい。
あと、胸はBカップだそうだ。
一応、言っておくが、二人の胸のサイズは俺が調べたのではなく、文化祭の後の打ち上げの時にした王様ゲームで本人らが自白しただけである。
「また一年よろしくね」
女子の方も紅坂の再任で決まった。
これについては、ほぼ予想通りだった。
里美が一年生ながら、生徒会の女子副会長になったことで一番の対抗馬が消えていたし、紅坂自身なんだかんだ言ってクラスきっての優等生だし、誰に対しても分け隔てなくフランクに接する柔らかさから、男女問わず人望は厚い。ちょっと、変わっているけど。
だから、未だに謎なんだよなぁ。
紅坂は御剣のように生徒会からのお誘いがなかったのだろうか。学級委員を立候補するくらいだし、勝手なイメージだけど、生徒会とか好きそうな印象なのに。
そもそも、里美は誘わなかったのだろうか。いや、いくらなんでも、それは公私混同か。
もしかしたら、本人が気にしているかもしれないし、聞かないようにしよう。
そう思うくらい、紅坂は優秀だった。
「どうしたの? じっとわたしの顔見て。もしかして、ご飯粒でもついていたかな?」
「いやあ、別に。ただ、普通は出来る女も出世するもんだよなって思っただけ」
「そうだよ。凄いよね、里美はホント。副会長だよ、1年で」
どうやら、里美の事と勘違いしているようだ。
まぁ、確かに凄いことだ。
中学の時も生徒会長をやっていたから、自分達の代になれば……と思っていたけど、まさかの1年で立候補するとは、俺も驚きである。
その勇気も凄いが、それで当選してしまうのが里美の本当に凄いところだった。
その後、美化委員や図書委員、文化祭実行委員などクラスの他の委員も無事決まり、ホームルームは終了し下校となった。
帰り支度をしていると、俺と紅坂は千晶先生に呼ばれた。
「青山君、紅坂さん。二人とも少し残ってもらいたいけど、良いかな?」
さて、いきなり居残りでお仕事だろうか?