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十三、不思議なバイト

「急募!アルバイト募集してます!食事つき、日給十五万です!詳しくは→まで!」


なんじゃこりゃ。



23歳、ニート&引きこもり。それが今の俺の肩書だった。職には就かず、高校までしか出ていない。たまにバイトしようかとも思うけれど、すぐに飽きる。仕送りでぎりぎりの生活を送っている、そんな感じ。まあ、余計なものは(趣味以外)買わないし、そんなに困るわけではないけど、やっぱりカネが欲しい。


失礼。「お」金が欲しい。(カネ、だと少し言い方汚いからな。)


そんな俺が見つけたのが、あのチラシだった。


「急募!アルバイト募集してます!食事つき、日給十五万です!詳しくは→まで!」


なんじゃこりゃ。


何の変哲もない少しさびれたビルの壁に貼ってあったチラシには、そう書かれていた。見ると、矢印の先には階段がぽっかりと大口を開けている。それにしても、日給十五万だとは……!


行くしかねえじゃん。


そう思うが早いか、俺の足は階段を上り始めていた。



「うーん、なかなかよさそうな人が来ませんね……何が悪いんでしょう?最初にいろいろ言いすぎなんですかね?」

「でも、みんなあの「条件」を言うと顔色変えるよね。どうしようか……」

「うーん……」

「うーん……」


その時、ドアの前に人が立つ気配があった。



詳しくは、って書いてあったけど、仕事の内容でも説明するのかな?あのチラシには、そんなこと全く書いてなかったし。


何やら部屋のようなものが見えたので、そちらに行く。中では何か話しているらしい。

コンコン、と軽くドアをノックして、

「すみません、下のチラシ見てきたんですけど……」

そう言って入った部屋の中には、幼女がいた。


失敬、幼女と大人の方がいた。


二人同時にこちらを見て、何やら頷くと、「貴方がアルバイト希望の方ですか?今から大まかな内容を説明しますので、そちらの椅子に座ってください。」と言われた。


部屋の中は事務所のように見えるが、とりあえず物が少ない。あるのは椅子が数脚と、大きな机。そして、社長が座りそうな豪華な椅子と机。そこに幼女が座っていて、隣に大人がいた。どちらも女性(女児?)の見た目。


「まず、仕事の内容を説明します。……」

そう言って見せられたのは、数枚の紙だった。大まかに内容をまとめると、こんな感じ。


・履歴は特に関係ありません。

・食事は三食こちらで用意します。

・仕事の日になったら、この事務所に来てください。

・簡単に言うと、お世話をしていただく仕事です。

・ある条件があります。

・報酬は帰ってきてから渡します。


「……と、このような仕事です。」

説明が終わる。ここで、一つずっと気にかかっていた質問をした。

「あの、この「条件」って何ですか?」

そういうと二人は顔を見合わせ、何やらこそこそ相談を始めた。数秒話し合ってから、大人の方がこちらを見る。

「この仕事をやるには、ある条件が必要なんです。」

フムフム。それで、その条件とは?

「「一週間いなくなっても困らない人」というのが、この仕事に必要な条件です。」

……へ?どゆこと?


俺の頭の中は「?」マークで埋め尽くされていた。その表情を見て、二人が顔をしかめる。あちゃー、やっぱりだめかー、とでもいうように。



この人もダメかな、条件を言ったとたんに固まっちゃった。やっぱり、ここで働き手を探すのは無理なのかな……


幼女が諦めの色を見せそうになる。それを見ていた保護者(?)の目にも、同様の色が。

ありがとうございます、無理でしたらそう言っていただいて構いませんよ。その言葉が口から出そうになる。しかし、その言葉を遮るように、

「わかりました。大丈夫です。」

男がこういった。


「わかりました、大丈夫です。」

良く考えたら、俺にかかわりを持っている奴なんて全然いないじゃないか。一緒に喋るような友達も。親と一緒にいるわけじゃないし、親からの連絡だって月に一度来るか来ないか位だし。


それに何より、この人たちの役に立てるのなら、そうしたいから。


俺はアルバイトを、することにした。(べ、べべべ別に、お金につられたわけじゃないんだからねっ¥)


「……そうですか!ありがとうございます!では、最初の担当日の打ち合わせをしましょう!」

さっきとは違う明るい口調になる。ちょこちょこ口をはさんでくる幼女の存在がずっと気がかりではあったけど、一通り説明を聞いて、その日は帰った。


今日の夕飯何にしよっかな。

こんなに心が軽いと思った日は、初めてかもしれない。「アルバイト」に期待を寄せながら、俺はいつもと同じ帰り道を歩いた。


「やっと見つかったね。」

「やっと見つかりましたね。」

「あの人なら、絶対大丈夫だと思う。だって、優しそうだったもん。「あの子」が自分から心を開いてくれるのが一番いいんだけどね。」

「きっと大丈夫ですよ。」


事務所には、二人だけ。

その頭と背中には、人にはない筈のものがついていた。


今日がアルバイト初日。あまり眠れなかったけど、気にしない、気にしない。


指定の時間に、前のビルに行く。前まであったはずのチラシは、すでにはがされていた。階段を上り、またドアを開ける。不思議と前よりも軽く感じた。

「失礼します……って、なんですか、コレ。」

椅子と机しかなかった筈の部屋に、扉があった。言葉通りの、豪華な扉。高級そうな深みのある赤と金で彩られている。一言で言うならば、「派手」。


「こんにちは、ちゃんと逃げずに来たんだねー。」

幼女が言う。前よりも態度が軽い。

「では、今から「仕事場」に行きます。」

そう言って扉を開けようとする。

「あの、どうやっていくんですか?」

不安になりながら聞く。

「もちろん、見ている通りです。」

そしてそのまま扉を開ける。その先は、薄くピンクの靄がかかっていて良く見えない。まるで、昔読んだ漫画の道具みたいだ。そんなことを考えていると、

「どーん♪」

幼女にいきなり背中を押され、そのまま落ちた。


いやちょっと待ってどのくらい高さあるのか知らないけど突き落とされて無傷では済まないような気がする待ってマジでこれヤバいって助けてマジで死んじゃう助けて誰か!


そんなに高くなかった。柔らかい芝生の上に、ポスンと落ちた。後に続いて、二人もやってくる。

「もう、何してるんですか!」

幼女が叱られている。こうして見るとまるで親子だな。

~お説教タイム~

「すみませんでした、姉がふざけて。」

謝られた、ってかお姉ちゃん!?


え、つまりこれは幼女=姉、大人=妹という認識で合っているのだろうか。

そして、二人の頭と背中には、何かがついていた。

姉(幼女)の頭には、金色のリング。背中には、純白の羽。

妹(大人)の頭には、二つの黒い角。背中には、漆黒の羽。


理解が追いつきません。頭がショートしそうだ。


~説明中~

「つまり、こういうわけなんです。」

妹の説明がやっと終わった。全部書くと長いので、まとめる。

・ここには空想とされていた動物がいる。

・二人で管理している。

・人手が足りないのでアルバイトを。

・ここでの一日は一週間なので、一週間いなくても困らない人を採用。

・姉が天使で、妹が悪魔。

・ここは「同時に存在してはいるけれど普通はかかわりを持つことがない世界」らしい。

・つまり、別世界。


とまあ、こういうわけだ。あんまり理解してないけど。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。姉がシュタルク、私がタウフェルと言います。」

そんなこんなで、俺のバイトは始まった。



初めてなので、一つ一つの作業を教えてもらいながら進める。空想とされていた動物、というのはどうやら神話とかに出てくるような生き物たちらしい。ドラゴンとか、ユニコーンとか。人かと思ったらケンタウロス、ってのもあった。とても難しいわけではないけど、一人一人性格とかが違って、その動物に対しての「最善」を尽くさなきゃいけないのが大変だった。お昼休憩の時には、だいぶ疲れてしまっていた。


「どう?なかなか、たいへんじゃない?」

ご飯を口に入れながらしゃべっているからなのか、見た目のせいなのか、シュタルクの言葉にはひらがなが似合いそうだ。

「最初はなかなか大変だったんだから。私たちだって、小さい時から手伝わされて。でも、おかげでみんなと仲良くしてられるから、良いんだけどね♪」

ああもう、お姉ちゃんご飯こぼさないでよと言いつつ、タウフェルがふき取る。絶対姉妹の順番逆だって。

「そういえばさー、タウフェルのこの服、どう思う?」

いきなり話を振られたので、少しむせた。

「どうって、見た目とかの問題ですか?」

「違う違う、布が少なすぎんじゃないかってこと。これじゃあまるで、」


「「サキュバス」」

ぴったり合ってしまった。

「お姉ちゃん、ひどい!貴方もですよ!」

そう言って頬を膨らませる。事務所の中とは大違いだ。

「あの、俺の前にも希望した人とかっていたんですか?」

「ええ。でも、一週間いなくても困らない人っていう条件を出したらみんな帰っちゃった。それと、みんな私のことを気持ちの悪い目で見てくるのはなんで?」

まあ、見た目のせいでしょうね。

「さてと、食事も済んだところで、貴方を連れて行かなきゃならないところがあるの。」

そういったシュタルクの目は、少し真剣な色をしていた。多分。



二人に連れてこられたところには、何もなかった。いや、もともとはあったのだろうけど。木々にはたくさんの爪痕。草一本までむしり取られてしまったような。


一匹の、「何か」がうずくまっていた。


「メルティ、調子は」

言い終わる前に石が飛んでくる。しかし、力のない、頼りない投げ方。

「この子はね、獣人なの。オオカミと人間のハーフみたいな。生まれてから今まで誰にも心を開いたことがない。ここ最近は、ご飯も食べなくなってきてる。周りの木は全部この子の仕業。こんなところにいるのは、みんなが怖がるから。そして、この子もみんなを怖がるから。」

小声でシュタルクが話す。メルティ、と呼ばれていたこの背中は、とても小さく見える。

「だから、貴方にはこの子の心のよりどころになってあげてほしい。一日でなんて言わない。時間をかけて

いい。けど、この子を救ってほしいの。これが本当のアルバイトを雇った理由。頼んでも、いいかな?」

上目遣いも絶妙に入れつつ訴えてくる。断る理由など、無い。


一歩ずつ、近づいていく。最初の印象は、「小さい」だった。消えかけているろうそくの炎。小さくなってしまった雪だるま。

生まれたばかりの、子供のような。


「今日は、貴方に紹介したい人がいるの。」

後ろから、シュタルクが言う。

「うるさい!私のことなんか、ほっといてよ……」

メルティがこちらに背を向けたまま言う。というよりも、叫んだ。おそらく、すべての感情をこめて。

「あの、俺……」

「貴方もよ!帰って!私に助けなんて、いらない!」

その声には、確かに涙が混じっていた。ちらりと後ろを向くと、シュタルクがこっちに向かって手招きをしている。仕方なく、手招きに従った。



「ごめんね、何か。」

タウフェルが言う。

「いえ、そんなことないですよ。初対面でしたし、なかなか事情もありそうですから。」

こうは言ってみたものの、やっぱりあれだけ拒否されると少し辛い。


今日のバイトは、ここで終わった。最初の芝生の場所に戻り、扉を開ける。話によると、すでに一週間たっているはず。

机の上の時計は、確かに一週間後の日付を指していた。

「はい、これ、今日のお給料。」

そう言ってシュタルクが封筒を指しだす。本当なら、受け取ってすぐに帰るべきだったんだろう。でも、やっぱりメルティが心配だった。かっこつけようとしたわけでもないのに、自然と

「いや、バイトの目的を達成していないのに頂くわけにはいきません。今日は、いえ、一週間ありがとうございました。次の仕事は、一週間後で合ってますか?」

そんな言葉が口から出ていた。

シュタルクとタウフェルはお互いに顔を見合わせ、ポカンとしている。俺の言葉を理解しきるのに数秒を要した。

「じゃあ、そういうことにしておく。一週間後、また来てね。」

シュタルクがとりあえず場を収めたので、俺は帰った。



「本当に、優しい人でしたね。」

「そうだね。初めて見る生き物でも、全部丁寧に世話してくれた。あんなにやさしい人、なかなかいないよ。」

「メルティの反応も、いつもと違いましたしね。」

「私たち二人の時なんて無言で攻撃されるだけだもんね。」

二人の声だけが聞こえる。

その時、扉の向こうでは、一匹だけが涙を流していた。



今日はアルバイト二日目。俺の頭の中には、一つのことしかなかった。


メルティと会話をするというだけの、小さな目標。

いきなり仲良くなんてなれやしない。種族、性別、環境、すべてが違うから。


でも、前みたいな形で終わらせたくはない。絶対に。


まだ数回しか通っていない道を行く。あのビルが、見えた。

階段を上り、いつもの部屋へ。もう扉があっても驚かない。


二人に招かれるがまま、俺はあの世界に行っていた。


だんだん「幻影」の意味合いが変わってきているような気もしますが、「ネタ」として投稿しました。暇があれば短編として続きかきます。でも、幻影内で後日談は書く予定です。

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