始めよう失恋パーティー
初めての短編小説です
温かく見守ってください
誤字脱字注意です
豪華な部屋の一室で何十人もの男たちが一人の女を囲っていた
部屋に入った瞬間に強靱な男たちに囲まれた女はため息をこぼす
男っていうのは本当に口が軽くて信用ならない
女は1人の男を睨みつける
ギクリとした彼には心当たりがあったのだろう
それもそのはず
女の想い人で”あった”男─ギルシア─とその護衛対象であるこの国の第2王女がデキていると確信を得たと
泣きながら彼に愚痴ったのは今朝のことなのだから
「すまん、ミディアス!」
と少しだけ申し訳なさそうな顔をした男を切り刻んでやろうかと自身の腰に差してある剣の柄に手をかけると慌てたようにほかの男たちがその手を抑え込む
死地を幾度となく乗り越えてきた女であっても同じような訓練を積んできた男たちには適わない
大人しく柄から手を離し辺りを見回し
〔ミディアスドンマイ!!~みんなで始めよう失恋パーティ~〕
の断幕が目に入った瞬間
再度柄に手をかけ───るとそれを見越していたように騎士団の副団長であるラウスに手を取られる
『いや、これは怒るでしょう!?』
「こいつらはお前に早く元気になってほしいんだよ」
『そっとしておいてくれたら助かるんですが!!』
そう言うなよ、とラウスはミディアスにお酒を渡す
これは自分が1番好きな味だ
とびっきり甘い、男が嫌う味
他に並べてあるのを見ても甘いものばかりが並べてある
不器用な男たちのやさしさにほんの少しだけ癒された気がした時司会者を受け持ったらしい、部下の声が大きな部屋に響く
「それでは皆様飲み物をお持ちに!!!」
「ミディアス先輩の
”失恋”を記念させていただきまして」
「「かんぱぁぁあい!!」」
『何か私に恨みでもあるの!?』
思わず叫んだ
部下にも馬鹿にされてる気がしてならない
こちらに向かって土下座をしている部下を見る限り、
彼は言わされただけなのだろうがそれでも腹の虫は収まらない
「へへへ、いいから呑もうぜ」
『アルギスまで…』
同僚のアルギスまでノッているのでは、
自分がここで怒声をあげても空気を悪くするだけだろう
ミディアスは大人しくグラスに口をつけた
『…大げさなのよ、みんなして』
本当に、大げさだ
ギルシアはアルギスとミディアスの同僚でもある
この若さで騎士の団長を務めるほどに彼は飛び抜けていた
第2王女の専属護衛に任命されてもたまに会ったら冗談を言い合ったし、3人でよく呑みにも行った
《お前は、女だろ》
普段ならイラッとするはずの言葉を
ギルシアが口にした瞬間顔に熱が集まったのは記憶に新しい
『かっこよかったのよ…』
「……あぁ、かっこいいよあいつは」
アルギスは酒を口に含みながら少しだけ低い声で呟いた
不思議に思って彼の顔を覗いて見ても表情は何ら変わらない
…気の所為?
「しっかし、まぁ、その、なんだ」
『?』
照れたように頬を掻きながら微笑んでくるアルギス
「俺とかどうだ?」
『笑えない冗談はやめてちょうだい』
アルギスとギルシアはこの世に2人もいていいのかと思われるほどの美形だ
一瞬クラっと来たこともあったが
やはり彼はどうしても友達ポジションに収まる性格だ
励ますためだったのだろうから、ありがとうと口を開いた瞬間にほかの騎士たちに邪魔される
「アルギスも振られた〜!!」
そっと耳をたてていた周りの騎士たちは
また餌を得たかように騒ぎ出した
「ミディアスとアルギスの失恋パーティに変更だな」
「やめろよバカ」
カチャリ
扉の開く音がやけに響いた
どうして誰も気づかなかったのだろう
ここは騎士たちのためにつくられた塔であったことに
この大広場は塔に入ってすぐのところにあることに
遅かれ早かれ帰ってくるはずの”彼”の部屋がこの塔にあることに
「誰の、失恋パーティだって?」
シンとした部屋で透き通るような低い声が空気を揺らすように響く
思わぬ人物の登場により部屋の温度が5度ぐらい下がったのか、身体がブルりと震えた(気がする)
「だ、団長」
「なぁラウス、誰の失恋パーティーだって?」
「それは…」
「ラウス?」
「ミディアスです」
ど ん な 公 開 処 刑 よ
ギロりとこちらを睨んでくるギルシアにミディアスは縮こまるばかりだ
「…失恋したのか?」
『しましたね』
断幕を指さしながら言うとチッと舌打ちをこぼしてから
ギルシアはフォークを手に取り、断幕へ投げつけた
(ちなみにそのフォークは綺麗に深く断幕へ刺さった)
「お前らは断幕を外してから続けろ
ミディは俺と来い。詳しい話が聞きたい」
『ッ!!』
その言葉にいつの間にか掴まれていた手を振りほどく
「…ミディ?」
思わず逃げ出してしまったミディアスの背中にギルシアから何か言葉をぶつけられる
無理無理、捕まるわけには行かない!
そう思いながらもミディアスは馬鹿ではない
ギルシアから逃げるのだって初めてではない
心の中ではわかっていた
逃げられない
『はぁ、はぁ、はぁ』
「鈍足が」
『うわ!?』
屋上へのドアに手をかけた瞬間
息を切らしもしていないギルシアが後ろから姿を現した
「お前の考えぐらい読めるんだよ」
ドアを一瞬で開けて体を外に放っぽりだし、外から鍵──はないから今まで鍛え上げた筋力でドアノブをひっぱり、絶対に開けさせないといった意思を伝える
『来ないでくださいいい』
「開けろミディ!!」
『筋肉鍛えてるだけなんで邪魔しないでくださいいいい』
「どんな方法だよ!?効率悪ィな!!」
『団長、ほんと勘弁してくださいよ…』
弱々しく言葉に出した瞬間ドアはビクともしなくなった
どうやら開けずに話すことにしたらしい
「いつからだ?」
『へ?』
「いつからお前は、誰に惚れていた」
『言う義理は、ないです…』
「義理なんぞはどうでもいい
お前が惚れたのは…
お前を振ったのはどこのどいつだ」
『傷口に塩を塗る派ですね団長』
「答えろ!!」
誤魔化そうとしたのがばれたのか
男はとうとうドアをガンッと殴った
ドアノブをひっぱっていたミディアスは衝撃で体を強ばらせた
「あの騎士団の中にはお前に手を出すような輩はいない
アルギスが危ういがあいつはヘタレだしな
あとは、、
この前護衛したウィアレ家の跡継ぎの男か?
あいつならやめておけ女遊びが激しい
その前に護衛したフィルアーニ家の次男か?
あぁ、あいつならお前に好意を持っていたから早めに手は打った
その前の前のアルニジス家の長男坊も潰しておいたはずだ」
『…団長?』
「お前を惚れさせたというのもまた随分腹立たしいが、
お前を振ったっていうだけで腸が煮えくり返りそうだ」
この人は本当にギルシア??
ミディはポカンとしてドアノブから手を離してしまった
ギルシアはそれを察知したのかその瞬間にドアを開ける
『ッ』
「逃げるな!逃げないでくれミディ!!」
『団長、ダメですよ
王女様以外にそんな顔見せたら』
必死な顔で叫んでくる同僚に
ミディアスは自分が悪いことをしているように思えて胸が締め付けられた
「何を言って、」
『勘違い、しちゃいます』
あなたが好きなのは王女様のはずでしょう
私はあなたにとってただの同僚のはずでしょう
あなたがそばにいてほしい人は私じゃない
思わず溢れそうになった涙を意地で堪える
ギルシアはそんなミディアスを見て一瞬だけ苦しそうな顔をするとぼそっと呟いた
「……あぁ、お前はとんでもない勘違いをしているようだ」
『なにを、』
キョトンとしたミディアスにギルシアは笑いかける
「王女様が指名した護衛はお前だったんだよ、ミディ」
『…へ?』
[専属の護衛?]
[はい、王女様
騎士団から好きな護衛をお選びください]
[ミディアスよ]
[!]
[とても優秀だそうね?]
この国唯一の女騎士であるミディアス
王女様ともよくお茶会をしていると聞いたことがある
十中八九ミディを指名するとは思っていたが
[ミディアスはダメです]
[あら、あなたの独占欲なんてどうでもいいのよヘタレ団長]
[チッ]
[不敬罪よヘタレ]
[ミディが貴方の護衛になれば夜会にも参加することになります]
[そこで未来の旦那との出会いがあるかもしれないわねヘタレ]
[その語尾やめてもらってもいいですか]
[…まぁいいわ、私の護衛の人選はあなたに任せる
ただし、これからあの子宛てに来た婚約願書はこれまでみたいに破棄しない]
[!]
[どちらがいいかしら?]
[僭越ながら貴方の護衛はこのギルシアがやらせていただきます]
[あ、自分の手で破棄するつもりね!?]
[護衛の腕は確かですよ]
[…まぁ、いいわ
ヘタレ脱却できるといいわね]
「すまない、お前がそんなに王女様のことを想ってるとは知らず…」
王女様を消すわけにはいかない。しかし…
そんなギルシアの小さな声をミディアスは拾えなかった
[”あの件”についてのことかしら]
[はい王女様]
[心配しなくても手は打ってあるわ]
[…婚約に反対する者は]
[私とあなたが組んで落とせない家なんてあるとでも?]
[すみません]
[私の勝手でやってることでもあるのよ
娶る覚悟は出来てるのよね?]
[全てを捧げます]
その会話を扉越しに聞いていたのはミディアスだった
ミディアスはギルシアに届けるべき資料を持って言った時にこのやり取りを聞いてしまったのだ
『ギルシアと王女様が婚約…?』
耳に残っているギルシアの”全てを捧げます”という熱の篭った声
ミディアスの頬を涙が濡らす
もちろんギルシアは心にミディアスを想ってそう言い、王女を呆れさせたのだがそんなことをミディアスは露ほども知る術はなかった
『王女様を想ってるのはギルでしょう!?』
「…は?」
『だ、だってあなたと王女様は婚約すると!!』
「、、、ミディどうか怒らないでくれないか
どうやら俺らに必要なのはちゃんと話す時間だったようだ」
ギルシアは少しだけ嬉しそうに笑いながら泣いているミディアスの涙をその長い指で掬った
「お前がどこのどいつからそんな情報を聞いたかは知らないが王女様にそんな気持ちは俺は一切ない」
『そんなはず、!』
だってその全ては王女様とギルシアが実際に話していたことだ
ギルシアが王女様を想い、また王女様もギルシアを想っている
「どうか落ち着いて話を聞いてくれないか」
『ギル、私はあなたを応援したいの
娶るにはとんでもない覚悟が必要ですもの』
「あぁ、本当にとんでもない覚悟が必要なんだ
愛称を呼ばれるだけで、
敬語ではなく普通の言葉で話されるだけで、
俺はその愛する女を抱きしめて腕の中に閉じこめたい衝動に駆られるのだから」
『…ギル?』
「お前が男どもに囲まれているのを見るだけで
他の男の護衛をしているというのを聞くだけで
どうしてこんなにも苦しいのか
お前は理解しないんだろうな」
『自分が、、何を言っているのかわかってる?』
目の前の男から発せられる言葉はつまり愛の告白だ
もちろん自分へ向けた
そんなはずがない、と目を見開いたまま固まったミディアスにギルシアは跪いて右手を差し出す
そう、まるで王子様がお姫様を求めるように
「俺の愛しいミディ
この手を取っていただけますか?」
『ほん、とうに?』
「あぁ、お前以外考えられない」
『私も、あなた以外考えられない…』
似たもの同士ね、そう言ってギルシアの差し出した手にミディアスが手を乗せた瞬間
ギルシアはその手を自分の方に思いっきり引っ張っり愛しい彼女の唇に自分の唇を合わせた
『きゃっ…ンッ!?』
「やっと、やっと手に入れた」
『ンンッ…!!』
苦しい、とドンドンと胸を叩くミディアスを名残惜しそうに解放したギルシアは再度彼女の顔を見つめてから抱きしめた
「王女様の護衛を他に任せて
すぐにでも騎士団に戻るとするか」
『なら王女様の護衛は私がやるわ』
「…可愛くないな」
お前との時間を増やすためだと言うのに
『だって恥ずかしいんですもの』
「ッミディ!!」
『ちょっと待っ、、きゃっ!!』
訂正させていただきました
ありがとうございました!!