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童話幼女が舞う夜に  作者: 亜蜜絵乃
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第7話「セカイ」



その後はまるっきり無言だった。はっきり言って気まずさはあったが、何より紅葉がホイホイ先に行くので、結局屋上に着くまで、俺は紅葉について行くのに精一杯だった。


屋上に着くと、待ち構えてたかのように、黒い固まりがフェンスの所でゆっくりと移動を繰り返していた。


「大物だ…ね。」


紅葉は小声で呟いた。


「大物って…さっきの奴とあんま変わらない気がするんだが?」


まあ、さっきの奴はちゃんと姿を見た訳ではないんだが。


「大物だよ、見て、結構普通に動いてるでしょ。さっきみたいな小物は、獲物を見つけた時にしか動かない食虫植物みたいなもんだけど、こっちは生物に限りなく近いから、戦う時も逃げる時も素早いし、抵抗もするんだよ。」


そこまで言い終えると、紅葉は空間から、本を出現させた。


「え、今どこから本出した⁈」


ものすごい自然な動作だったので、思わずそのまま見逃してしまうところだった。いやいやいや、いくらこいつが異次元の存在だとしても、いきなりそんなことされたら驚く。


「んーっと、モノガタリを起動している間は、空間に本をしまっておけるんだよ。」


へ…へー。そうなのか…でも実際、目の前で見せられているんだから真実なのは間違いない。


つくづくデタラメな現実だなぁと、超常現象を目の当たりにしながら思っていると。紅葉が何やら呟き出した。


「《セカイ》を展開する。狼の潜む深き、暗き森よ、この空間を喰らい、顕現せよ。」


静かにそう言い終えた瞬間、視界が白い光に包まれた。さっきの影が発した果てしない黒とは反対の、限りなく白く眩しい光。俺はその現象になすすべもなく、ただ眩しさに目を瞑った。


ーーー


「もう眩しくないから、目を開けても大丈夫だよ。」


数秒間後、体感時間的にはかなり長かったが、瞼を貫通するような刺激は収まり、代わりに紅葉の声が耳に届く。


俺は恐る恐る目を開く。


「……おぉ?」


視界いっぱいに広がる緑色。俺はそれがなんだか理解するのに数秒かかってしまった。


だってそれは、木だったからだ。つい何秒か前まで、コンクリートで埋め尽くされた街の中にいたのに、いきなりこんな深い森に移動していたら、誰の目だって戸惑うと思う。



「どう?驚いたでしょ。ここは、赤ずきんの舞台、狼の出る森の中。わたし達は今、あの本に描かれている物語のセカイの中にいるんだよ。」


「 そんなバカな…。なんてことはもう思わないけどさ……こんなことしてどうすんだ?」


確かにこれは凄いし、派手な超常現象だとは思う。だが俺の中にふと湧いた疑問は、こんな派手なことする必要があるのかということだ。


「確かに…ちょっと大げさかもしれないけどね、やる価値はあると思うよ。これがあるだけで、生存確率、負傷確率はだいぶ減らせるからね…たぶん。」


たぶんかよ…まあ、傷つく可能性が減るのはいいことだ。俺だって痛がる幼女を眺めるのは趣味じゃない。

むしろひたすらに愛でたいタイプだ。


「…くるよ。」


紅葉がそう告げると同時に、大量に立ち並ぶ気の一つ。その根元から黒い塊が飛び出す。


それは少しの間うねうねとうごめいていたが、やがてその動きは緩やかになっていき、一つの姿に固定された。


「…っ…写し身の影、こいつ…思ってた以上に大物だ…。」


現し身の影。紅葉はそう言った。そしてその言葉が表す通り、その影の固定された姿は、


少し黒みがかっているが、完全に紅葉と同じ姿だった。





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