第6話「曖昧な理由」
次の獲物を探して、俺と紅葉は並んで夜の街を歩く。
今は冬も真っ只中で、まだ6時半くらいなのに、街の街灯はもう街の人たちのための職務を遂行し始めている。
そんな中、俺ら二人は、普通の人は全く知ることのない《影》という人類に害をなすらしい生物を探していた。
「うーん、見つからないなあ…もう路上にはいないのかなあ。」
紅葉は四方をくまなく観察するためか、クルクル回りながら悩ましげに呟く。
…そんなに回って目は回らないのだろうか、というか見てるこっちが回りそうだ。
「よしっ、ちょっと溜まり場に行ってみようか。こっちだよっ、楽斗さん。」
溜まり場というのがどこなのかは知らんが、きっとそこに行けば紅葉の今日のノルマは達成できるのだろう。
「えっと、今思ったんだが俺っていらなくないか?」
俺はついさっき起こった出来事を省みながら紅葉にそう提案する。戦えない俺は足手纏いにしかならないはずだ。だが、紅葉は悲しさと不満の混じった顔を向けてくる。
「えー、今日くらいは一緒に行動しようよ。もう変なミスはしないよう気をつけるから、さっ。」
笑顔で人差し指を立て紅葉は言う。こんな顔されちゃ断りにくいな…。
もしかしてわざとやってないか?
「ほらほらっ目的地はすぐそこだよっ。」
俺の疑いの眼差しを見透かしたかのように紅葉は少し強引に俺の袖を引いていく。
ーーー
そして、紅葉の向かった先にあったのは、廃ビルだった。
まあ、雰囲気はいかにもって感じで、影だけじゃなく他にも何か悪そうなものがたくさん居そうだ。
「ちょっと待て、ここって立ち入り禁止じゃないのか⁈」
「大丈夫大丈夫、わたし達子どもなんだからバレたって死にやしないって。」
いや、死ななくても悪いことはたくさんあるだろ。あと、社会的に死ぬ、なんてことだってあるんだぞ?
なんて反論したところで意味はないと、俺は何のためらいもなくビルに侵入してった紅葉を見て悟った。
中から早く来いとばかりに手を振っている。
これはもう諦めるしかなさそうだ。どうか、どうかバレませんように……。
俺は柄にもなく神に祈りながら、紅葉の元へ向かった。
「まったく…どうしてドアの前で突っ立てたの?一緒に入った方がバレる確率はすくないよ?」
「俺としてはこんなコソコソしたこと自体したくないんだが…。」
「しょうがないじゃん、ここに行けば大抵一匹は狩れるんだからね。」
紅葉はそう言って平然と窓ガラスの欠片やコンクリートの破片が落ちている危険地帯を難なく歩いていく。
こりゃあ相当慣れてんな…。
「なあ、何でそんなに影を狩ることに一生懸命なんだ?さっきは楽そうに狩ってたけど、危険なこともあるだろ?」
俺はつい、危険地帯をスキップで進む紅葉に問いかけた。そんなに幼いのに、俺よりも沢山の何かを知ってそうな顔つきの紅葉は、振り向いてそっと微笑んだ。
「まあ…生きる為ってのが半分、わたしの知らない誰かを助けられたかもっていう自己満足が半分ってとこかなぁ…。他にもあるかもしれないけど、考えたこともなかったな。」
そう答えて、そして、それ以上の詮索は許さないと言った風に、紅葉は歩くスピードを上げる。
…結局、なんか答えが曖昧なんだよなあ…。
俺はそう思いつつも、もう一度口を開く気にはなれなかった。