表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童話幼女が舞う夜に  作者: 亜蜜絵乃
6/8

第5話「影」



気づいたら、俺は暗闇の中にいた。


何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。


かろうじてあるのは、意識だけ、他には何もなくただただ真っ暗な黒が広がっているだけだ。


……まず俺に襲いかかって来たのは、圧倒的な恐怖だった。


……何もない、ということが、これほどまでに恐怖心を煽るものだとは思ってもいなかった。


数秒の間、俺は恐怖に精神を支配され、何も考えられなくなっていた。


今はなんとか落ち着きを取り戻してはいるが、まだ頭がうまく回らない。



……確か、俺は紅葉と一緒に、影とやらがいる電柱の方へ向かっていった。うん、ここまでの記憶は確かだ。


問題は、そこで何があったかなんだが……。


急に視界が真っ黒に染まった事しか覚えてない。いや、むしろそれが正解の可能性が高い。

たった一瞬で、俺は黒い何かに飲み込まれた。


本当に信じられない事だが、その《影》は、実在したのか……。


ということは、俺、もしかして、影に喰われたとかそんな感じか⁈人間に害をなす存在ならば、それも充分にあり得る……。

急激に背筋が凍っていくのがわかる。もしかしてもしかしなくても、俺って今、ヤバいんじゃね?と頭の中で警告音が鳴る。

だが、状況が最悪だと認識したところで、俺には何もなすすべはない、ただただ、圧倒的な恐怖が、俺をまた支配し始める……


と、思った瞬間、視界の暗闇が、風船のように破裂した。真っ黒な世界から、ありとあらゆる色が存在する世界へと引き戻される。


「…おっと…。」


俺はいきなり変わった景色に目が慣れず、目眩で少しよろける。


「…っと、大丈夫だった⁈急に影が楽斗さんを呑み込むからびっくりして……ケガはない⁈なんか精神をやられたとか、ない⁈」


紅葉はかなり焦った様子で、俺の全身をくまなくチェックしながら言う。その手には、なんだか妙にでかい弓みたいなものが握られていた。


「大丈夫……だな、身体には何の異常もない。で、さっきのはなんだったんだ?」


俺は自身の無事を伝えつつ、この謎に満ちた現象について尋ねる。


「あれは影の捕食行動だよ。あのまま放置されると、人はやがて意識を刈り取られ、そのまま死んでいく。今回は本当に迂闊だった、というか楽斗さんが影の捕食対象なのすっかり忘れてたよ。ごめんなさい。」


紅葉は目を逸らし気味に俺に謝罪する。結果的に助かっているからそれはいいんだが、あの恐怖、あんな時間は二度と御免だ。果てしなく続く真っ暗闇とか、どんな夜道よりも怖い。


「まあ、次がなきゃいいよ、影ってやつがマジで実在することも見に染みてわかったからな。」


「…そっか、ありがとう。楽斗さんは優しいんだね。」


「優しいって…こんな程度の事いつまでも引きずったって意味ないだろ?」


そう言って俺に背を向けてスタスタと歩き出した紅葉に、俺はなんだか少し、悲しそうな表情が見えた気がした。


「それが当然だなんて、やっぱり楽斗さんは幸せなんだね。ふーん、たまにはあの詐欺師もいい選択をするんだねー。」


俺にギリギリ聞こえるくらいの声で、紅葉は小さく呟いた。


「…何のことだ?、紅葉。」


俺にはその台詞の半分以上が理解できず、思わずそう聞き返す。


「あっ…気にしないで、ただの独り言だから。それより今日はもう一体くらい狩りたいんだよねー。まだ時間はあるし、早く行こっ。」


振り向いた紅葉は、早口でそうまくし立て、少し走って俺から距離をとった後、もう一度振り向いて手を振った。早く来てってことだろう。さっきの話題は、あまり触れられたくないものだったたのだろうか。


…だとしたら悪いことしたな…。と、すっかり暗くなった街の中、街灯の光に照らされて歩く紅葉に、俺はそう思った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ