第2話「ロリコンと不法侵入幼女」
夕日が地面を照らす、学校からの帰り道に俺、夜久川楽斗は、高校生活終わったと、絶望を噛み締めながら歩いていた。
俺の性癖が何故か暴かれていた。
今日登校すると、クラスの奴らが何人か俺の所に寄ってきて「お前、ロリコンなんだって?」と、突拍子もなくそんな事を言ってきた。
実際それは突拍子もないことではなく、俺は本当にロリコンだった。
だが俺は、ロリコン疑惑がかかるような行動は絶対に外ではしていない、だから突然不意を突かれ、その場でかなり動揺してしまったのが運の尽き、今日から俺の称号はめでたく幼女愛好家となった。
「クソっ…なんでバレたんだよっ…!」
俺は悪態を吐きながら石を蹴る。だが、そんな幼稚な行為で気が晴れるわけもなく、俺はこの絶望感をどうにかできないもんかと、沈みゆく太陽を睨んだ。
「おーいっ、浮かねえ顔してんなロリコン王、何かあったんか〜?」
直後、突然後ろから肩を叩かれた。誰かなんて振り返るまでもない、この陽気とも軽薄そうとも取れるこの声は…
「お前まで俺を愚弄するのか当也っっっ!」
俺の子供の頃からの友人、神奈道当也だ。薄めの茶髪にいつも親しげな笑いを浮かべているこいつは今、俺の浮かない顔を見てニヤニヤしている。なんだよ、俺の顔はそんなに面白いのかよ。
「いやいやいや、俺は浮かない顔の友人に声をかけてやっただけだぜ?お前そんなにピリピリしてると、マジでぼっち街道一直線だぞ?」
「余計なお世話だ。この状況で機嫌悪くならんやつは、聖人以外いないと思うんだが?」
真剣な顔で俺のぼっち街道を心配しだす当也に、俺は目も合わせずに返す。
「んなんだよ、そんなにショックだったのか?自分の性癖がバレたのが。いやいやいや、大した事ないだろ?ちょーっと普通の人と違う性癖を持ってたっ…」
「大っ問題だああああああああ!!!」
ペラペラと軽いノリで語り出した当也の肩を、俺はいつのまにか思いっきり掴んで揺さぶっていた。
「おいお前、お前はこの問題の重大さを、、、全くもって理解してないようだなぁ⁈」
「え…えっと…楽斗さん?」
俺の突然の激昂に、当也は心底思考が追いついてないようだった。目を点にして、呆然としている。
だがそんな事、今の俺には関係ない。
性癖バレを軽く見た自分を恥じろ、当也。
「だいたいだな、俺の顔ってほら、それなりに整ってるだろ⁈」
俺の顔はブルーライトによる様々な刺激のせいで視力が下がり、若干、そう若干目つきが悪いことを除けば、そこそこのイケメンの筈だ。
不自然にならない程度に散髪した黒い髪、服装も堅すぎず緩すぎず、さらに言えば、常に清潔であることにも気を遣っている。
「ま、まあ確かに、お前がそこそこのイケメンだってのは事実だ、うん。」
ほらな当也もこうやって同意してくれる。だがな、事実なんだから目をそらす必要はないと思うんだが。どうしてだろうか。
俺なんか変なこと言ったか?
「だろ?だからこそこの生まれ持った容姿を最大限に利用してリア充とやらの仲間入りでもしてやろうかと思ってたのに……なぜバレたんだっっっ!」
俺は当也の態度に若干の違和感を感じながらも、自身の主張をはっきりと伝えた。
だが、当也はまだ腑に落ちないような、微妙な表情をしている。
そしてそのまま数秒の沈黙が俺らの間をすり抜け、
「あっ!俺今日バイトがあるんだった!遅刻したらマズイ、うん、マズイよな!じゃあな楽斗!あんまり気にすんじゃねえぞ!お前がどんな性癖を持ってたって、俺はお前を見捨てないからな!!」
突然沈黙を破った当也は一息でこんな長い文章を言って、速攻で去っていった。
ー馬鹿にしてんのか励ましてんのか、はっきりしやがれ。
ーーー
走り去った当也の後を追うこともなく、変わらず下を向いて歩いていると、携帯からメールが届く音が聞こえた。
特に急いでるわけでもないので、俺はその場で携帯を取り出し、開く。
届いていたのは、一件のメール。
差出人は、不明。
「んあ?誰だよ。」
差出人不明とか、迷惑メール確定じゃないかよ。とか思いながらも、一応内容は確認したいと思い、メールにアクセスする。もしものこともあるからな。
『お前は運良く《童話幼女》の管理者に選ばれた。喜べ。詳細は今日派遣した《赤ずきん》に聞くといい。』
案の定、意味不明な迷惑メールが、携帯の画面に映し出される。
俺は一つ溜息を吐き、メールをためらいなくゴミ箱に突っ込んで、忘れることにした。
ただ《童話幼女》とかいう魅力的な単語が、俺の頭の中をグルグル回っていた。
ーーー
俺の自宅は、どこにでも有るような平凡なアパートの二階の一室だ。
俺は昔から、家族と反りが合わず、高校生になってからはここで一人暮らしをしている……
……ハズ……だったのだが…。
何故か俺の部屋の電気が付いているんですが…。
俺は毎日必ず、家を出る時、二度電気を消したかどうか確かめる。
電気を無駄にすると親父がうるさいからな。
なのに何故、電気が付いている?
…空き巣か?と、俺の脳はいきなり、最悪の事態を想定する。
そんな事はないと内心では思っているが、否定できないのも事実だ。
まあ、ここでいくら俺が頭を回転させたところで、答えが出るはずがない。
とりあえず、行って見ることにした。
俺は自宅の玄関先まで、無駄にそーっと歩いて行った。
まずドアに耳をつけ、音が聞こえないか確認するが、無音。
今の体制って、俺の方が空き巣っぽいよな。とか呑気なことが思いつくくらい、俺は安堵した。
物音がしないって事は、空き巣の可能性は大きく下がった。
俺は安心感に包まれたが、それでも警戒しながら、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。
ー鍵は開いていた。だがここまで来て引き下がる事はできないと、俺はドアをさらに開く。
そこで俺の目に飛び込んで来たのは、
玄関のちょっと先で寝息を立てる、一人の幼女だった。