九話 迷宮の暴走Ⅰ
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昨日のミーナの行動には驚かされたがそれ以降は特に何もなく、一日が終わった。今日のミーナは俺にそこまでくっついていない。いつもなら最低でも腕枕されて抱き着いて来るのに手を握るだけだ。
何か不穏な空気を感じるが今は事前に対処なんて事は出来ないので明日に備えて俺も眠る。
***
フェスフォルトの街から北東に数キロ離れた迷宮と呼ばれる場所の十階層。辺りには牛の頭に人の体を持つ魔物ミノタウロス。岩の体を持ち、魔石を壊さない限り永遠に動き続けるゴーレム。真紅や真っ黒な毛皮のフレイムウルフやダークウルフ。オークやオーガと呼ばれるものもいる。それらはギルドが定める強さを表すランクでも最低Cランクの魔物達だ。Cランクの強さは中級の冒険者が最低五人のパーティが二つあって倒せるくらい。
ミノタウロスやゴーレムは少なくとも十体はいる。ウルフ達は合わせれば二百はくだらない。オーガ達も十体はいる。ここだけでも三百はいるだろう。
次に五階層。ここには緑色の肌をした体長一メートルくらいの小鬼がいる。そいつらの名はゴブリン。数は千にも及ぶ。強さは最弱だが凄まじい繁殖能力を持っており、種族問わず子を成せる。それには人も例外はなく、毎年百人単位で苗床にされているらしい。
他にも青い肌をした狼男のような体躯のコボルド。青、緑、赤様々な色のスライム。蝙蝠よりも一回りデカい大コウモリ。
全て合わせればおよそ二千くらいだろう。雑魚でも数が集まれば凄まじい。まさに塵も積もれば山となるだ。
十階層よりも下からも多くの気配がする。少なくともこの迷宮の中だけでも三千はいる。周辺の森からも合わせたらそれ以上だ。魔物達は日が昇るのを今か今かと待ちわびている。血走った眼は誰かに操られているようだ。
迷宮には誰も来ず、陽は昇り始める……
***
「ミーナ、レイン。私達は今日から王都に行かなければならないんだ。留守番を頼む。リリィやフェルナもいるから大丈夫だと思うが……」
「あなた。ミーナもレインもこれから成長していくんです。寂しいのは分かりますが我慢して下さい」
「……そうだな。じゃ、行って来る」
「気を付けて」
「頑張ってね!」
今日からアルグリードさんとリーフェスさんは王都に仕事に行く。何でも国王から呼び出しがあったからだそうだ。二人共かなり強いので偶にこういう事がある。今回もその一つだ。
王都まで馬車で五日。往復と王都での滞在時間を考えると一か月近くは戻れない。数日前から嫌な予感がするのであまり長時間離れて欲しくないが今回は仕方ない。
朝食を終え、二人を見送ったら勉強だ。俺は歴史や地理、ミーナは算術も含む。ミーナはまた成長したようで、今もしっかり掛け算と向き合っている。そろそろ割り算に入れるそうだ。
俺の方は迷宮について勉強している。
迷宮は迷路みたいになっていて、魔物が多くいる場所らしい。危険も多いが、一部の魔物の素材や魔物が落とす魔石、迷宮内は鉱石も豊富なので旨味も高い。
迷宮は階層と呼ばれる場所があって、その階層は上層、中層、下層、最下層に分けられる。ただし、若い迷宮は階層自体が少ないので上層か中層くらいまでだ。街の近くにある迷宮は最近出来た物で、現在は十一階層まである事が分かっている。
ライビスだと百を超えても先が見えない迷宮なんかもある。
それと迷宮に合わせて魔物についても勉強中だ。魔物には迷宮内にいる者と迷宮外にいる者がいる。迷宮内外に同じ魔物がいる事もあるが、その違いは単純な強さだ。迷宮内にいる魔物の方が強い。迷宮内の魔物は外の魔物よりもワンランク上だと考えられている。
有名な魔物としてはゴブリンだ。例に漏れず、緑色の肌に一メートルほどの大きさで凶悪な顔、みすぼらしい服の格好をしている。こいつ等は繁殖能力が異様に高く、ほぼ全種族と子を作ることが出来る。だから人も毎年何人も苗床されているそうだ。ギルドには常にゴブリン討伐のクエストがある。例外としてはスライムだ。
他にはコボルドとかウルフ系。オークやオーガ、竜もいるらしいが竜クラスは殆ど現れない。もし現れれば強い冒険者がいない場合、街が消える事もあるそうだ。
「そう言えばまだ、二人にはステータスについて詳しく話していませんでしたね」
そう言うリリィの提案で自分たちのステータスについてレクチャーして貰った。
「基本ですがステータスは自分の体内に意識を向けて魔力を込める事で確認できます。そして、他人見せる時にはその人を頭の中に浮かべて“アウリゼーション”と唱えると他の人も見ることが出来ます。実際に見た方が早いでしょう。……『アウリゼーション』」
リリィの前にウィンドウが現れて、リリィが指で弾くと俺達の方に反転した。普通はウィンドウが見えても内容は見えないのだが、今は見える。リリィのステータスはこうなっていた。
【リリィ 女 21歳
レベル23 人族
HP・563/563
MP・986/986
力・440
体力・707
防御・352
精神・869
敏捷・991
魔攻・675
魔防・646
<特殊技能>
敏捷力上昇(小)
<スキル>
魔力操作、身体強化、短剣術、清掃、料理、家事
<魔法>
生活魔法、火魔法、風魔法、炎魔法】
「リリィらしいね」
「それ程でもありません。さぁ、続きを行きますよ」
ステータスは大きく分けてレベルと数値と技能に分けられる。レベルはそのまま、数値はHPとかMPとかだ。技能は特殊技能とかスキル、魔法だ。
まず、レベルは生物を殺した時、自身が成長した時に経験値として溜まり、ある程度溜まるとレベルが上がる。上限は無く、過去最高は325らしい。
数値はHP、MP、力、体力、防御、精神、敏捷、魔攻、魔防と分けられている。
HPは生命力と呼ばれ、名の通り、ゼロになると死に至る。
MPは魔力と呼ばれ、これを消費する事で魔法が使える。こちらはゼロになると死にはしないが丸一日気絶する。この間、何をされても起きる事はない。
力は筋力を表す。この数値が高いほど重い物を持ち上げたりする事が可能だ。
体力は持久力を表す。これは高いほど長時間の行動が可能だ。
防御は物理防御力を表し、これが高いほど傷を受けにくくなる。
精神は魔力にも通じている。この数値が高くなると魔法が使いやすくなったり、精神的なダメージを軽減される。拷問とかね。
敏捷は速さを表し、数値が高いと単純に速い。稀に思考能力も高くなる人もいるらしい。
魔攻・魔防は魔法についての攻撃力や防御力だ。高いと大きなダメージを与えたり、軽減できたりする。
最後に技能には特殊技能、スキル、魔法がある。
特殊技能は神から与えられた本人が持つ物でスキルだったり、効果が上昇したりする物だったりする。リリィの場合、効果上昇だな。
スキルは繰り返し行動する事で習得出来る。得たスキルは行動する時に疲労を軽減したり、ステータスに補正を掛ける物もある。リリィの場合、清掃、料理、家事スキルはその行動の時に早く出来たり、疲労が少ない。
魔法は属性の魔法が使える。後、属性毎にどんな魔法が使えるかが分かる。
「ステータスについてはこの通り。ミーナ様、レイン様。互いに見てみたらどうです?」
「良いよ。天才のミーナはどうなってるのかな?」
「お兄ちゃんだって天才だよっ」
軽くミーナと話す内に偽造でステータスをちょいと弄った。この通りだ。
【レイン 男 5歳
レベル1
HP・150/150
MP・606/606
力・120
体力・357
防御・170
精神・575
敏捷・152
魔攻・100
魔防・100
<特殊技能>
精神強化(中)、自然治癒
<スキル>
魔力操作、身体強化、礼儀作法
<魔法>
生活魔法、水魔法、風魔法、光魔法、召喚魔法】
ミーナと互いのステータスを交換する。ミーナのステータスはこうなっていた。
【ミーナ・フォン・フェスフォルト 女 5歳
レベル1 人族
HP・100/100
MP・648/648
力・54
体力・100
防御・350
精神・165
敏捷・50
魔攻・200
魔防・200
<特殊技能>
全魔法属性耐性、物理防御上昇、魔力量上昇
<スキル>
魔力操作
<魔法>
生活魔法、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、精神魔法、炎魔法】
「ミーナは凄いな。特殊技能は三つもあるし、魔法もこの年では珍しいよ。スキルはこれから身に着く筈だし将来有望だね」
「ええ。ミーナ様は一千万人に一人の割合くらいの才能をお持ちですから」
「へぇ~」
「とにかく、ミーナは凄いって事。兄としても鼻が高いよ」
「えへへ~」
いつものミーナを撫でまわせば嬉しそうな反応をする。そのままじゃれ合う。それをリリィに止められてようやく収まった。
昼になって来たのでリリィは昼食を取りに行った。今日からは俺たちの部屋で食事をするそうだ。
リリィが部屋を出て行って直ぐにミーナが甘えて来たので応えながら再びじゃれ合っているとリリィが慌てた顔で戻って来た。
「ミーナ様、レイン様! 北東にある迷宮が暴走しました。只今、街の住民を屋敷の倉庫に移動させています。どうかお二人もお早く!」
「リリィ、落ち着いて。迷宮が暴走したんだよね? 全体の数は? 対抗できる人は何人いるの?」
リリィからもたらされた事は面倒事だった。神たちの言ってた事はこれか。
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