七話 ステータスに作為を感じられます
リリィに家庭教師をしてもらってからあっと言う間に時間は過ぎて俺は五歳になった。その間に俺は文字を完全に覚え、歴史や地理も結構教わった。魔法も俺が一人でやった時以上の種類を使えるようになって魔力もより上手く使えるようになった。魔力量も断然増えた。
その中で俺やリリィが驚いたのはミーナの魔法の才能だ。算術や文字は普通なのだが、魔法の才能が半端ないのだ。流石は五属性持ち。相変わらずの天才っぷりです。
最初の日に火球が使えるようになってから一週間も経たずに残りの基本属性も出来るようになった。それから半年足らずで初級の魔法が使えるようになって、今では中級まで使える属性もある。精神属性も少し使えるようになり、微量なら奪ったり、与えたりが可能になった。
ミーナは特に火属性との相性が言いようで既に中級の段階で上位属性の炎魔法を使える。これが使えた時は俺もリリィも唖然とした。俺は中級で使えるのかという事、リリィはその才能に驚いた事で。
ミーナがその事を知ると物凄く喜んだ。そのまま俺に褒めてとアピールして来たので思いっきり褒めてやった。一体どこまで行く様になるんだろうなぁ。既に遠く見えるよ。ミーナの背が。
ミーナを褒めているとリリィからの視線を感じて顔を向ける。リリィの方はミーナに応援の様な視線を向けていた。ただ、俺と視線が合うと直ぐに元の表情になり、何事も無いようにしていた。気になるのだが、聞いても答えてくれないし、ミーナが煩くなったので取り敢えずは放置した。それにしても何だろうな。
五歳になった俺とミーナは教会に行って、神に今まで生きて来れた事を報告するそうだ。多産多死のこの世界、五年でも生きていける事が嬉しいんだな。この習慣は貴族、平民関係ないらしい。
ミーナは五歳になって成長したのかお昼寝はしなくても大丈夫になって来ていた。まぁ、俺と一緒にいる時は結構寝ている。本人曰く、安心するそうだ。
それと半年前くらいから俺と常に一緒に行動しなくても平気になった。少しの時間だけだが。何が変えたか知らないがミーナの成長は兄として嬉しい。魔法の才能で将来も良いはずだしな。
ちなみに今は朝の運動の休憩だったりする。初日にバレて以降も毎日続けてきて、既に日課と呼べるものになった。あの後、全身に魔力を流すのは身体強化と教えて貰い、知ってからは状況を考えて身体強化を使う場合と使わない場合で分けてやっている。使えない状況もあるかもしれないし。
現在はそれを丁度終えて、軽い休憩を取っている。身体強化は魔力、体力共に結構消費するので良い練習となる。お陰で魔力も体力も結構増えたと思う。
「さて、そろそろ次行きますか」
活を入れると手に魔力を込める。目の前に霧が現れ、晴れると五匹の狼が現れる。灰色の毛に金色の目を持っていて、シルバーウルフと呼ばれる魔物だ。普通は危険なのだが首に付けられている首輪がそれを打ち消してくれる。ちなみに現在俺は召喚魔法の変化属性で使役魔法が使える。だからアル達を含め、様々な動物を召喚し、使役できる。
「「「「「ウォン!!」」」」」
総勢五匹の狼は前に街の外に行った時に仲良くなって召喚できるようになった。魔物なんだがペットみたいな位置だ。俺の言う事も素直に聞いて結構可愛い。
「よし、アル。今日も頼むな」
「ウォン!」
名前は順番にアル、ドーレ、トリア、キャロ、サン。リリィに頼んで作って貰った首輪をつけているので間違える事も無い。アルが赤、ドーレが青、トリアが橙、キャロが緑、サンが黄だ。
何故、アル達を呼び出したのか? それは俺の戦闘訓練とアル達の連携上達の為だ。俺はミーナみたいな魔法特化では無い。だが、俺には召喚魔法があってそれを活用としたらこういう形になる。だがこれで身に付くのは体術くらいなのでリリィに剣を教えて貰える人を探して貰っている。
以上の事でアル達を読んだ訳だ。
「ガルゥ!」
「もっと早く来い! それと後少ししたらドーレから順番に来い!」
「「「「「ウォン!!」」」」」
それから三十分間みっちりやる。俺がアル達も含めて疲労回復の魔法を掛ける。それが終わったら持って来た食べ物をアル達に上げて返す。
それが終わると魔力枯渇になるまで魔法を使って魔力が回復したら部屋に戻る。
部屋に戻ると小さい人影が文字通り飛んで来る。正体は言わずもな、ミーナだ。朝練を終えてから戻ると毎日来る。避けると壁に激突するので避けられずにいつも抱き留める。そうすると顔をぐりぐりと押し付けて甘えて来る。先ほど常に一緒ではないと言ったが、それはくっつかなくなったという事だ。なので、目の届く範囲にはいる。総合的に考えるとあまり変わってないように思えるが。
「おにいちゃ~ん」
「ったく、仕方がないな」
「えへへ~」
まぁ、俺が甘やかしているのも原因かもしれないけど。あの時から陽菜が心休まる場所だった為か、妹にはつい甘やかしてしまう。
「ミーナ様、レイン様。おはようございます。ふふっ」
「おはよー」
「おはよう、リリィ。毎回思うけどそこで笑う必要ないだろ」
ドアが開いてやって来たのはリリィ。毎日俺とミーナのこのじゃれ合いを見て面白そうに笑う。その後ミーナがリリィの所に行って一言二言話す。小声なので声は聞こえない。前に一度聞こうとしたが、リリィとミーナが反射的に風の防壁を張って音が聞こえない。それから何度かやってみたが効果が無かったので今は諦めている。
「ありがとう。リリィ」
「滅相もございません。頑張って下さい、ミーナ様」
話は終わったようでミーナと手を取って部屋を出る。リビングで朝食を食べ、部屋に戻って外用の服に着替える。俺はシャツとズボン、ミーナはワンピースだ。
着替え終わるとミーナと一緒に玄関まで行く。そこにはアルグリードさんとリーフェスさんが待っていた。
「さぁ、行こうか。ミーナ、レイン」
「行きましょう」
「うん!」
二人の言葉にミーナは元気に答え、俺は頷く。リリィやフェルナは屋敷で留守番だ。
教会は前にリリィに街を案内して貰った時に行ったので覚えている。屋敷を出て真っ直ぐに進み、十字路になっている所を右に曲がる。それから少しすると地球の西洋みたいな建物がある。それが教会だ。
教会内に入るとシスターがやって来る。
「これは領主様。今日はどういった御用ですか」
「今日はミーナとレインに洗礼をさせようと思うのだが、よろしいか?」
「直ぐにご用意いたします。それまでこちらでお待ちください」
シスターの指示に従って一つの部屋に入る。その部屋は一言で言えば質素だ。テーブルとイスが四脚の簡単な作りだが、綺麗にされている。
俺達はイスに腰かけると先ほどは違うシスターが紅茶を持って来てくれる。礼を言うと軽く頭を下げて出て行く。シスターの姿が見えなくなるとアルグリードさんが話し出す。
「さて、これから洗礼があるが別に緊張する必要は無い。気分を落ち着けて気楽にいけばよい。帰ったらお祝いをするからな」
「その通りよ。帰ったらステータスの魔法も教わると思うからこれからも頑張ってね」
「頑張る!」
「ありがとうございます」
世間話をしながら時間を潰していると最初にあったシスターと一人の男性が来た。
「これは領主様。お元気そうで何よりです。只今、洗礼の準備が整いましたのでお連れしましょう」
「よろしく頼む司教殿」
司教と呼ばれた男性は細身の体に優しそうな雰囲気でザ・聖人みたいだ。その人の案内で円の形をした部屋に入る。部屋には前に十体の像がある。それらはどこかで見た事があるような無いような……うん、見た事あるね。この世界に来る前に会った神たちだ。
「説明させてもらいます。部屋の真ん中で片膝をついて祈りを捧げて下さい。像が少し光ると思いますのでその光が消えたら終了です。私達は外にいますので終わった時にはお声を掛けて下さい。元の部屋へお連れ致します」
司教の言葉に頷くと笑顔で頷き返して、シスターと一緒に部屋を出て行く。俺とミーナは司教の言う通りに真ん中で片膝をつき、祈る形をとる。光を確認する前に意識が消えた。
***
意識が戻ると見覚えのある円形テーブルと九人の人。何てことは無い、以前にあった神たちだ。一人いないようだけど。
「久しぶりじゃのぉ、和弥君。この世界ではレイン君じゃったか」
「久しぶり。所で一人いないようだけどどうされましたか?」
「おぉ。ライラ―ナはレイン君と一緒にいた女の子の所じゃ。直ぐに戻るよ」
「ミーナの所か。何か嫌な予感がするな。……それより何故呼ばれたのでしょう?」
「ワシも含めて君と話したかったからの。呼ばせてもらったよ。まぁ、とにかく座りなさい」
勧められたイスに座る。それに合わせて面白そうに表情を変える神が三人。具体的に言うと爺一人と脳筋二人。
「レイン君の心の中は読めるんじゃが。それよりも一緒にいた少女、ミーナ君だったかな。彼女レイン君に気がある様じゃの」
「? 兄としてですか。確かに懐かれていますが」
「普通は気付くと思うんじゃが……分からんか?」
「分かりませんね」
「随分な堅物じゃのぉ。ミーナ君みたいな女の子に迫られてドキドキしたりせんか?」
「私がですか? ご冗談を。私以上に相応しい人間なんて五万といますよ。ミーナも今は懐いていてもいずれ分かるはずです」
「地球みたいな事は無いと言うに。まぁ、人間そう簡単に考え方は変わらんか。レイン君はこれからゆっくり治せばいいじゃろ」
「そうよ。あの娘の気持ちは私が良く知ってるわ。レイン君。しっかり向き合ってあげてね」
「出来る限りな。陽菜の時みたいな事は二度と御免だし。」
途中で感情神が現れる。前に爺と一緒に絡んで来た女性だ。
「もう。私はこの世界でライラ―ナって呼ばれてるのよ。そっちで呼んでくれないかしら」
「お、そうじゃ。レイン君。ワシ等の名前分かるかの? 知っていると思うがちょっとテストじゃ」
「爺はクードラス、脳筋二人はウェルフ、バルドグライ。双子がルーヴ、アーゴ。執事みたいな人がセルトネイン、眼鏡かけた人はアルドート。私に近い女性二人がリーリフェ、リスタニア。……で、最後がライラ―ナ」
ライラ―ナがちょっと恨めしそうに見て来たので呼ぶとそれを引っ込めた。なんか不思議な人だな。
「正解じゃ。勉強の方も頑張っているの。最後にこれからの為にレイン君には空間魔法をプレゼントじゃ。後で確認してくれ。それではまたの」
「ちょっと待て。これからって――」
クードラスの言葉を確かめようとすると意識が遠くなり、気付いたら元の部屋にいた。
「あ、お兄ちゃん終わった? 帰ろ」
「……そうだな」
何か機嫌のいいミーナと一緒に部屋を出て司教たちと一緒にアルグリードさん達の元に戻る。司教に礼を言ってアルグリードさんがお布施を払って教会を後にした。
帰る途中で服屋にリーフェスさんとミーナが行きたいと言うのでアルグリードさんと荷物持ちとして二人に続いた。
帰った時には昼を過ぎていた。俺はその間、クードラスが言ったこれからについて考えていた。何だろうか。これから何かしらあるのは確定なんだが、何があるのかが分からない。危険な事じゃないと良いが。
「お兄ちゃん!」
「ああ。悪い。ちょっと考え事してた」
「もう。リリィからあの魔法教えてもらおう?」
「そうだな。ミーナも自分のは気になるよな」
屋敷の前で思考の海から戻り、ミーナと一緒にリリィの所に行く。まぁ、リリィは俺たちの部屋で待っていたから探す必要は無かったけど。
「お待ちしておりましたよ。お二方が気になっているステータスについて教えましょう」
ステータスを視る方法は簡単だった。自身の中に意識を向けて魔力を込めるだけ。リリィの言う通りにしたら目の前にウィンドウが現れる。そこにはこう書いてあった。
【レイン 男 5歳
レベル1 人族
HP・280/280
MP・7000/7000
力・240
体力・940
防御・120
精神・3430
敏捷・130
魔攻・1300
魔防・1300
<特殊技能>
特質、偽造、精神強化(極)、剣神術、ステータス補正、鑑定、調合、魔力最大量上昇、自然治癒、魔力回復増加、収納箱
<スキル>
魔力操作、身体強化、無詠唱、魔力眼、体術、格闘術、予測、礼儀作法
<魔法>
生活魔法、水魔法、風魔法、光魔法、召喚魔法、氷魔法、回復魔法、雷魔法、吹雪魔法、使役魔法、空間魔法】
……ちょっと待て。ステータスがレベル一のそれも五歳のモノじゃないだろう! MPとかアルグリードさんより多いよ。それに特殊技能の数が多い。もしかしなくてもこの数は普通は無いだろう。詳しく見れないものか。
なんて思いながら色々触っていると『鑑定』に触った時に鑑定についての説明が現れた。
【鑑定】
…自身のステータスを視る事が可能。また、特殊技能、スキル、魔法を詳しく見る事が出来る。
何とも便利な事で。鑑定が結構チートだったのだが、他のも十分チートだった。
【特質】
…行動一つでスキル・魔法が習得可能。
【偽造】
…自分のステータスや特殊技能などの可視・不可視を設定できる。ただし、見え方が変わるだけで実力は隠せない。
【精神強化(極)】
…精神のステータスを3000、魔力を1500上げる。
【剣神術】
…全部の武器が使えるようになる。力に若干の補正。
【ステータス補正】
…全ステータスの数値を少し上げる。レベルが上がる事で上昇数も増加。
【調合】
…魔力を使う事で何でも作れる。(材料は必要)
【魔力最大量上昇】
…魔力の数値が4000上がる。魔攻・魔防に補正あり。
【自然治癒】
…秒ごとにHPが100回復。レベルが上がる事で回復量上昇。
【魔力回復増加】
…秒ごとにMPが500回復。レベルが上がる事で回復量上昇。
【収納箱】
…亜空間に非生物を保管できる。収納制限は無し。
……俺は全てに目を背けた。あいつら加護与えるとか言ってチートくれやがって。絶対これから面倒な事があるって言ってる様な物だよ。
特質は行動一つで直ぐに覚え、剣神術は武器を使いやすくなり、ステータス補正と自然治癒と魔力回復増加はレベルが上がる事でよりチートに。収納箱は内容量無限のアイテムボックスだし。他も特殊チートだよ。
神達は俺をどうしたいんだ? 人外にさせたいのか?
しかも基本的に役に立つから質が悪い。特に偽造とかこのチートステータスを隠せるから今一番役に立つ。他も生きる上では必要な事が多いので厄介だ。
スキルや魔法にチートな部分は無かったのでそれが嬉しかった。正直、無詠唱とか上位属性とか空間魔法とかどうでも良い。それ以上のチートがあるからな。
「お兄ちゃん、どうしたの? 一人でいろんな顔してたけど」
「……いや、何でもないよ」
ミーナが心配そうな顔しているので大丈夫と言ったが未だに表情が晴れない。するとミーナはリリィを外に出して俺と向き合う。その表情は初めて見る真剣な顔だった。
「お兄ちゃん、何か隠してる事ない?」
「無いな。急にどうした?」
「私ね、お兄ちゃんと洗礼の時にライラ―ナ様とお話したの。そしたらお兄ちゃんは違う世界から来てその時の事も覚えてるって」
「…………確かに前世の記憶はある。だけどミーナには関係ないし、信じられないだろ?」
やっぱりか。何か洗礼が終わってからミーナの見る目が違う気がしたがあの女神、そんな事を言ってたのか。
「お兄ちゃんは小さい時から私みたいじゃなくてパパやママみたいにしっかりしてた。だから信じられるし、関係なくない。私はお兄ちゃんが好きだから。お兄ちゃんは私のこと嫌い?」
あの女神、今度会ったら文句の一言でも言ってやる。可能から一発殴ってやる。しかもあの爺も一枚噛んでいそう……そもそも全員噛んでるか。いつか殴る。
「嫌いじゃない。むしろ大切に思ってる。ミーナの事を蔑ろにした事はないだろう?」
「そうだけどそうじゃないの! 私のこと好き? 嫌い?」
「勿論好きだ。だが、あくまで妹してだ。家族としてミーナの事は好きだよ。ミーナもそうだろう」
「私は家族以上に好き! 大好きなの! 家族じゃなくてパパとママにみたいになりたいの!!」
好かれるのは嬉しい。ミーナみたいな子なら尚更。だけど俺にはそんな資格はない。俺はこう思ってくれるだけで十分だ。俺にはそう思う資格さえも無いのだから。
「そう思っても兄妹じゃ絶対に出来ない。それは分かるだろ? それに僕以上に素敵な人は沢山いる」
「お兄ちゃん以上なんていない!!! ライラ―ナ様が言ってた。お兄ちゃんは本当はこの家の子じゃないって。パパもママもリリィもお兄ちゃんもそれは知ってるって。だから大丈夫だって!」
あの女神はとことん良い性格をしているようだ。知らなければミーナがこんな事言うはずが無いのに。
涙目のミーナの頬を撫でるとその涙が溢れて来る。それは何度拭っても止まらない。まるでそれはミーナの感情そのものに見える。
「ミーナ。僕はそう思って貰えるだけで嬉しい。ミーナが、アルグリードさんが、リーフェスさんが、リリィがそう思ってくれるだけで良いんだ。それ以上は貰い過ぎだ。僕はミーナに幸せになって貰いたい」
「……もういい。私がお兄ちゃんに認めさせてあげる。私の幸せはお兄ちゃんと一緒にいる事だって」
演技か、と思うくらいにすんなりと涙を止めたミーナは言う。今まで以上に真剣な顔でしっかりと。五歳とは思えないほどに。
まさか、ミーナの言った事が現実になるとは思わなかった。そして、あの爺が言った『これから』の意味がすぐそこまで来ていようなんて。
……って、本当にこんな事を言う羽目になるとは露ほども思わなかったよ。
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