六話 属性について教えて貰いました
何かに頭を触られる感覚がして目を開けるとそこには一匹の猫がいた。って、昨日寝る前に召喚魔法で呼んで朝方に起こすようにしたんだけど。
体を起こして外を見ると空が青みがかっている。夜明け前か。丁度良い。
起こしてくれた猫を撫でて、昨日のパンを上げると嬉しそうに口に咥えて窓から外に降りた。
朝練をしたいのだが、傍でくっ付くミーナのせいで出来ない。昨日のせいかいつもよりも強くくっついているので離れず、面倒な事この上ない。肩とかを揺すっても起きないし、一人にしようとしたら嫌だと言ってくる。まだ、甘えたい盛りなのは分かるが常時それだとミーナの自立が出来ない。
くっつくミーナをゆっくり離してベットから降りる。ついでに軽く体を伸ばしてストレッチをする。その後はクローゼットから動きやすそうな服を取り出して着替える。俺は貴族風の服よりも平民っぽい服の方が良いので何着か用意して貰っている。何か落ち着かないんだよ。
いざ行こうとドアに手を掛けると昨日に引き続き同じ感触が。振り返ると昨日と全く同じ仕草でミーナが見ていた。
「ひとりはやなの」
「少ししたらリリィが来るだろう?」
「おにいちゃんといっしょがいいの」
「兄としては嬉しいんだが……少しの間我慢してくれないか?」
「やー」
「帰ってきたら存分に甘えてくれていいから」
「……ぜったいだよ?」
「ああ、絶対だって、いつもあんなに来るのに足りないのか?」
「……うん」
背中に冷たい汗が流れるのを感じる。……帰ってきたらちょっと覚悟がいるな。
ミーナにベットに戻るように促してベットに戻ったのを確認したら今度こそ部屋を出る。次はミーナは来なかった。
将来は別に俺が街を治めるとかないし、特にやる事も無いので冒険者をやる予定だ。それなら体力や筋力は必要だろう。その為の朝練だ。
近日中には始めようと思ったんだが家庭教師の話で始めるタイミング的には丁度良かったので、今日からしようと決めた。
メニューはウォーキングとランニングを合わせて十五分程と、腕立てと腹筋を二十回ずつだ。魔法の訓練も欠かさない。勿論、無理はせずにヤバいと思ったら止めるつもりだ。それに水魔法の疲労回復である程度のケアは出来るだろう。
改めてメニューを確認して外に出ようとするとフェルナとばったり出くわしてしまった。
「……おはよう御座います。レイン様。今からどちらに?」
「おはよう、フェルナ。ちょっと朝の運動にね」
「ミーナ様は大丈夫なのですか?」
「約束したから大丈夫。……覚悟がいるけど」
フェルナの耳を軽く弄らせてもらって外に出る。その時に尻尾が少し振れていたので嬉しかったのだと思う。顔も赤らんでいたように見えたが気のせいだろう。
外に出ると空が大分青くなって来ている。これなら視界が良く見える。取り敢えずは屈伸から始めようか。
もう一度、入念にストレッチをした後、家の周りを歩く。家の半分を回ったら一周走る。それで一セット。これを五回繰り返して一度休憩。
今度は二週走る事を三回繰り返す。この時は速さじゃなく、リズムや呼吸を意識して。終えた頃には息が乱れ始めたので少し長めに休憩。疲労回復の魔法を掛けた後は腕立てと腹筋をニ十回ずつ行う。
体術とかはもっと体力をつけたらしようと思う。五歳くらいが理想だな。それまでは身体をしかり作ろう。
それを終えると長めの休憩に入る。それと同時に全身に疲労回復の魔法と体を綺麗にする魔法を掛ける。身体を綺麗にする魔法は昨日リリィに習って使えるようになった。魔法名は『清掃』。そのまんまだな。この屋敷もそうだが貴族は風呂に入る。しかし、平民はそんな習慣は無く、基本水浴びで無理な時はこれを良く使うそうだ。この街は温泉があるので例外らしいけど。あ、冒険者はよく使うそうだよ。遠征とかで。
十分に休息できたら今度は魔法の練習だ。
基本的に水と風属性の初級の魔法で派手にならない魔法を使う。水球や風球、矢、弾丸|(地球のに似た)を空に向けて放つ。今まではただ水や風を発生するぐらいしか出来なかったのでこういうのが出来るとちょっと気持ちいい。
「はぁ、はぁ。魔力も切れて来たし、そろそろ上がるか」
魔力を使い過ぎた時になる脱力感を感じて今日の特訓を終える。
『清掃』かけて休憩を取り、魔力を大分回復したので部屋に戻る。部屋に入るとミーナが抱き着いて来る。だが、それよりも目の前の光景に尻込みしてしまう。
リリィがやけにニッコリとした笑っているのだ。当然、目は笑っていない。隣にはフェルナがいて、申し訳なさそうに顔を俯けている。耳や尻尾も力なく垂れている。
「話は二人から聞きました。何か言う事はありますか?」
「すみません」
「潔いですね。良いでしょう。ですがこれからは一人で行動する時は私かフェルナに話して下さいね? いきなり居なくなると心配するんですよ」
「……はい」
ここまで心配されるとは思わなかったので驚いたが、心配させたのは事実なので素直に謝ると目元を和らげて怒りを鎮めてくれた。
フェルナも俺への申し訳なさとリリィから聞いて心配もあったそうだ。ミーナも心配だったそうだが、一番は早く甘えたかったらしい。行動には出さなかったが心の中ではズッコケた事は内緒だ。リリィは笑顔を苦笑いに変えている。フェルナは……羨ましそうに見ていた。……おいおい。
リリィとフェルナにはこれから毎日同じ時間帯で運動すると伝えたらリリィがその時間に起こしてくれると言う。だが、一人で自立出来るようになりたいので丁重に断らせてもらった。……まぁ、召喚魔法を使っている事は内緒にしておきたいし。まだミーナですら知らないからな。
その後はいつも通りに過ごして昼を過ぎたくらいにリリィの家庭教師が始まった。
「これから始めますが午後に少しずつしていきます。ですが、出来なかった時は夜にする事になるので頑張って下さい」
進め方は分かった。と言うよりも最後のはミーナに向けてじゃないか? 証拠にリリィはミーナに視線を向けてるし、ミーナは気合を漲らせている。昨日までの眠そうな顔とは正反対だ。
「最初に〇~十までの数字を覚えてもらいます。覚えたらテストをしますので合格しなければ進めません。ちなみに今日中に出来なければ夜もあるので頑張って下さいね」
ちょくちょくミーナにプレッシャーを与える。さっきミーナからも話を聞いたって言ってたし、あの約束も聞いたのだろう。飴と鞭の使い方が分かってらっしゃる。ミーナのやる気が段違いだ。
俺? 俺は数字表を見た時に勝手知ったる物だったので直ぐに終わりましたけど何か?
という事で只今、絶賛数字を覚えているミーナに俺が教える形になっている。リリィはずっと見守っている。基本的に生徒に考えさせるタイプなのかな。
「そう。これが四……これが五」
「よん……ご……」
「よし。じゃあ、次は今まで覚えた数字を復習しよう。僕が指を差すからそれがどれか答えて」
「うん! ……んと、さん」
「正解。次は?」
「……いち」
「よし。次」
「よん」
「次は?」
「ぜろ」
「じゃあ、残りは?」
「にとご」
と言う具合に覚えさせる。ミーナは結構頭は良いと思う。すんなりと覚えてテストの方もあっさりクリアした。
次にリリィが言ったのは足し算。どうやらこの世界は四則計算があるようで最終的には割り算があった。ただし、算術はここまでのようだ。確かに前世でも負の数とか連立方程式とか関数とかは専門的な事が多くて、生活には四則計算で事足りたしな。だが、負の数や関数とかは使えるかもしれない。……主に商業で。
こっちが自重せずに全部出来てしまったら何か面倒なのでミーナよりも一足早いくらいで行こうと思う。まずは足し算だ。足し算程度ならよっぽどでない限り、暗算で出来るけどさ。
「おにいちゃーん」
「僕じゃなくてリリィに聞いたら。さっきから僕にしか聞かないから少し拗ねてるっぽいよ?」
「そうなの?」
「いえ、そのような事は御座いません」
「じゃあ、視線が泳いでいるのはどうしたの? 基本視線を泳がせるのって嘘をついてるんだよね。実は頼られるのが嬉しいんでしょ?」
「……普通は二歳でそんな事は気が付きませんよ」
「……」
「まぁ、良いです。ミーナ様。次からは聞きたい事は私に聞いて下さい。レイン様は相当優秀なようですし、下手をすると私が家庭教師をする意味がありません」
「わかった!」
それからはミーナは分からない事はリリィに聞くようになった。リリィも嬉しいようで楽しくやっている。
俺は足し算と引き算をさせられています。リリィ曰く、レイン様なら出来ますとの事。それも二桁までやったら三桁の計算を強制させられました。ミーナは一桁の足し算が終わったら引き算に変わりましたよ。
リリィは随分と悔しそうにしているけど何か恨みでも買ったかな? あ、今朝の件を除いてな。あれが原因なら仕方ない。
次は外に出て魔法を使う練習だ。理論から話してくれるそうなのでしっかりと聞いておきたい。書斎に行こうと思ったがまだ機会が無そうだし。
「それでは魔法について教えていきます。まず、魔法には属性があります。それは全部で十種類。火、水、土、風、光、闇、精神、召喚、空間、時間です。これらは基本属性と特殊属性に分かれます。前五つが基本属性、後ろ五つが特殊属性です。これは以前に話しましたね」
最後のセリフは俺に向けて話しているので頷いておく。ミーナは話を真剣に聞いていたので最後のは聞こえなかったようだ。
それから前回聞いたこと以外でも色々と教えてくれた。魔法はスキルと同じようにかなり種類があるがその元は火から時間までの十種類だそうだ。
十種類以外の魔法が使えるようになるには三つある。それは上位属性、合成属性、変化属性と呼ばれる。
上位属性は基本属性のみで、文字通り基本属性の上位クラスの魔法が使える。例えば、火であれば炎、水であれば氷、土なら岩や金属の様に。上位属性はかなりあるらしいが今は必要ないそうなので教えて貰えなかった。書斎で確かめよっと。
合成属性は二つ以上の属性を組み合わせる事で使えるようになる。これは様々な面で役に立つが魔力の消費が大きいので使う時には注意が必要だ。俺で例えてみると水と風で嵐、水の上位属性になる氷と風で吹雪とか。光は基本属性の威力強化だ。
変化属性は言わば上位属性の特殊属性版。一つ違う点は属性の上位ではなく、自身の才能によって使える属性が変化する事にある。だから変化属性と呼ばれる。
ではその三つを使えるようにするにはどうするべきか?
属性には初級、中級、上級、最上級と難易度がある。その中で上級以上で三つが習得可能となる。しかし、上級まで使えるようになるにはかなりの修練が必要で、全体の割合から言っても半分もいないらしい。それと習得するには才能も必要なんだそうだ。その為、使える者は優遇されると聞く。
王都なら上級が使える者は結構いるらしく、王都にいる魔術師団の中には上位属性や合成属性を使える者もいるそうだ。変化は特殊なので誰でも可能だ。
「……んと、むずかしいよ」
「よっ、と」
「流石ミーナ様です。普通は作り出すだけでも時間は掛かります。……レイン様は使えるんですね」
ちなみに初級属性の魔法を使うようになるまで大体数年掛かる。いつもの癖でやってしまったが、諦めの境地に入っているのか、リリィは何も言わない。俺はそれが逆に怖い。ミーナはそれを見て目をキラキラさせている。こっちはこっちで面倒な事になりそうだ。
肝心のミーナは火球が出来たり出来なかったりしている。普通は現すだけでも時間が掛かるので本物の天才は凄まじい。俺みたいな奴は直ぐに抜かれるだろうなぁ。俺は唯、前世の知識からだし。才能は凡人止まりだ。
リリィからは他の魔法も使えるのかと聞かれたので出来ないと答えた。既に俺が知る範囲で上級まで使えて、上位属性の魔法が使えるとかは異常だ。これからは自重しなければ。
少しだったのがミーナの集中力が凄く、最終的には日が傾くまでになった。そのお陰だろうミーナは火球を使えるようになっていた。俺は水球が使えるようになるまで三日は掛かったんだけどな。これは嫉妬すら覚えないな。その前に比較対象がおかしいか。
そのミーナは明日は水球を使えるようになると豪語していた。
俺たちはずっと魔法の練習をしていたので結構疲れた。疲労でも精神的なモノで今朝に感じたのと同じだ。
リリィが言うには、この症状は魔力枯渇らしい。体内の魔力が少なくなる。ちなみに魔力が無くなった場合、気絶する。俺は赤ちゃんの頃に散々経験したし、リリィもそう言っていたので間違いない。
俺たちは魔力が回復するまで草原に横になった。横になるとミーナが寄って来たので迎えてやれば笑顔を咲かせ、抱き着いて来た。それから時間を置かずに寝息を立て始める。
「……すぅ」
「ははっ。疲れたんだな」
「レイン様に良い所を見せたかったのでしょう。普通はあれほど集中されませんよ。ご存知でしょう?」
「確かに。これは兄冥利に尽きるな」
「またそんな難しい表現を……というか違う意味だと思います。ミーナ様、これは中々に強敵のようです」
後半のリリィのセリフが聞こえなかったので聞いてみるとはぐらかされる。何だろう。絶対何かのフラグな気がしてならない。
リリィの反応に軽い戦慄を覚え、それを直ぐに取り払う。続ければ確定されそうだし。
俺は不安な考えを抑え込め、魔力が回復するまでリリィと軽い話を続けた。やがて魔力が回復するとリリィにミーナを抱えてもらって家に戻る。
ミーナはリリィに任せて着替える。ミーナが起きた後は普段通りに過ごして一日を終える。今日は珍しくミーナが抱き着いて眠った。まぁ、頑張ったご褒美としてなら良いか。
『その時、俺はまさかあんな事になるなんて思わなかった』
―――――ほっほっほっ。レイン君。このセリフが足りんぞ。まぁ、回避しようともワシ等がそんな面白い事逃すわけないじゃろ。
どうやら神は面白い事をお望みのようです。くたばれ。
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