五話 ミーナは天才。それと家庭教師
今日はミーナの魔力操作の最終訓練だ。たとえ今日出来なくても近日中には出来るので今からでも楽しみだ。
しかし、全身に魔力を循環させるのは厳しすぎるので手にだけさせる様にしている。リリィも魔力操作はこれだと言っていた。その時から手を当てる位置をお腹から手に移動させている。
それとミーナの訓練を見る様になって魔力の流れが少し見える様になって来ている。俺も順調に成長している様だ。
見ているとミーナの右手に魔力が循環し出した。左でもやってみる様に言うと、こっちでも出来たので魔力操作が出来るようになったのだろう。という事でリリィに見せてみよう。その方が確実だしな。
「うそ……ミーナ様も……魔力操作を……」
案の定、部屋を飛び出したリリィはリーフェスさんの元へ走っていく。リーフェスさんを連れて戻って来たリリィにもう一度同じ事を見せるとリーフェスさんは目尻に涙を浮かべ、その場に崩れ落ちた。よっぽど嬉しかったのだろう。
リリィはまた部屋を出て行くと今度はフェルナと一緒にあの水晶を持って来た。
「ミーナの様の属性……調べてみましょう」
俺は元よりそのつもりだ。俺以外もみんな賛成だった。
ミーナはテーブルに置かれた水晶を見てはしゃいでいる。自分の属性を知るのが楽しみなんだろうなぁ。俺も年甲斐もなくワクワクしたから。しかしそれ以上にリリィとフェルナの期待が凄い。まぁ、今までのアルグリードさんって相当強かったらしいし、リーフェスさんも強いらしいからその子供なら一体どれくらいなのか知りたいか。リリィの方は若干親バカが入りそうな気がするけど。リーフェスさんはどう転んでも喜ぶだろうな。こっちは親バカだから。
イスに座ってミーナは水晶に手を当てる。それから魔力を流していく。結果は五色。赤色、水色、橙色、緑色、翡翠色の五色だった。
「五色か。しかも火、水、土、風、精神属性。なんとも魔法特化な事で」
「「「え……」」」
「おにいちゃん。ミーナすごい?」
「ああ。凄いよ。僕よりも才能あるし」
「えへへ。なら、おにいちゃんといっしょにいられるねー」
まさかはしゃいでた理由がそれ……! 離れたくないと思われるのは兄冥利に尽きるんだが何か違う意味もある気がするんだよな。前に感じたみたいな。ま、気のせいか。
リリィ達はたっぷりと固まっていた。そしてそれが解けると凄く慌てだした。
「リリィさん! 五属性って凄くないですか!?」
「そうよ、フェルナ! 今すぐにアルグリード様に伝えてきて!」
「分かりました!」
「……基本属性四つに特殊属性。しかもそれぞれの相性も最高と言って差し支えない。才能ではルートラス様達よりも上なんて……」
アルグリードさんを呼びに行ったフェルナも部屋で待っているリリィも落ち着きがない。リリィは何やらぶつぶつ独り言を言ってるし。リーフェスさんは二度目の号泣中だ。
俺? 俺は基本的に他人の方が才能はあると思うから気にしてないよ。そんな事にいちいち驚いていられないしね。四属性も俺の才能じゃなく、神たちの悪戯だと思うし。
純粋にこの世界で生まれた者に関しては天才だと思われるミーナを褒めているとドタドタと部屋の外が騒がしくなった。次の瞬間、勢いよく扉が開いてアルグリードさんとフェルナが来た。
アルグリードさんは随分と慌てた様子だ。フェルナも表情はいつもの様だが、耳や尻尾がピコピコ動いているので嬉しいのと驚きがまだあるのだろう。
「リーフェス、リリィ!? ミーナが五属性、それも一つが特殊属性と言うのは本当か!?」
「本当です。才能だけならルートラス様よりも上で御座います」
「……なるほど。なら今後、ミーナには家庭教師を付ける。リリィ、やってくれんか? そうだ。レインも一緒に受けないか? まぁ、レインなら退屈かもしれんがな」
「分かりました」
「……よろしく頼む」
「わーい! おにいちゃんといっしょー!」
アルグリードさんは未だ興奮冷めずと言った顔で部屋を出て行った。その後をリリィが付いて行く。家庭教師の件だな。フェルナが今回の後始末みたいだが、まだまだ表し足りない様だ。俺はミーナとリーフェスさんの気を取り戻させて自分の部屋に帰らせる。今はミーナも一緒にさせる。是非、親子で喜んでくれ。
部屋に戻ると流石に正気になったのかフェルナが小さくなっていたので二歳児なりに励ます。ついでに耳を触るとビクッと反応して俺を見る。少し微笑み、水晶を持って部屋を出て行った。
手持ち無沙汰になった俺は風の中級魔法『飛行』で街の外に出て行く。昨日の探検の続きだ。
結局俺の探検はバレずに日が暮れる。だが、日中のムードは未だに続いていてミーナも今日は珍しくリーフェスさんと一緒にいた。その日、俺は初めて一人で眠った。
ベットに入るとフェルナが眠るのを見守ってくれている。いつもはリリィがやっているので珍しい。
「あらあら。フェルナったら」
「!?」
「あれ、リリィ。どうしたの? 今夜はミーナの所に行くんじゃなかった?」
「その前にレイン様にご挨拶をと思いまして。それにしてもフェルナ……あら、逃げちゃった」
「~~~~っ!」
フェルナは顔を真っ赤にして部屋を出て行く。リリィはしてやったり見たいな顔をしてとても楽しそうだ。その後、一言二言交わして部屋を出て行く。ようやく俺も眠る。
ごそごそ。ごそごそ。誰かが布団に入り込んでいるな。まぁ、犯人は一人しかいないけど。布団を捲ると思った通りミーナが中で眠っていた。俺を抱き枕にしている。
頬をつついたりしていると閉じてていた目が開く。その目と視線が合うと顔を綻ばせてよじ登って来る。俺の胸辺りまで来て、甘えるとまた寝る。その時に腕を枕にするのも忘れない。
「ミーナ。今日はママと寝るんじゃなかった?」
「んにゃぁ~。こっちがあんしんする~」
俺は既に安眠枕の役目を果たしていたようだ。ミーナは直ぐに寝入って寝息を立てる。いつもの様に腕に疲労回復の魔法を掛けて目を閉じる。明日からは物知りのリリィに色々教えて貰うので早く寝ないと。
***
目覚めた時、外から陽の光が差し込んでいて、丁度夜明けみたいだ。今日は前みたいな生活の時をイメージしてみたけど案外、体って言う事聞くんだね。陽の光を浴びようと思ったけどミーナが放してくれなかったのでリリィが来るまでの間、ボーっとしているだけだった。
「……起きて、ミーナ」
「んぅ~。ミィって呼んで~」
「寝ぼけてないで起きなさい」
「んにゃ? ……おはよう、おにいちゃん」
「おはよう。起きた所で悪いけどリリィから話があるそうだよ」
「おはなし?」
「はい。ミーナ様、レイン様には今日から私が家庭教師として勉強を教えていきます」
俺は昨日に軽く聞いているので問題は無い。ミーナは話を聞きながら目をキラキラさせていた。俺も楽しみである。
リリィから家庭教師の内容はこうだ。初級の魔法が使えるようになる事。それと並行して文字や算術を学ぶ事。初級の魔法が使える様になったら連続して使う事や持続時間を長くするようにする。初級の魔法が大体使える頃には魔力を扱いをある程度出来るようにする。
文字や算術は最初は少しずつ。目標としては五歳ぐらいまでに文字は出来るようにする。算術はそれからプラス一年。文字を覚えたら少し歴史を学ぶ。残りは学園で学ぶそうだ。
「レイン様ならご理解されそうですし、ちょっと歴史や地理について聞いてみますか?」
「お願いします」
「まずこの世界が出来たのは大昔に創造神クードラス様が――」
あの神達を殴る事に変更はないが、歴史に大きく関わってきているので余計に苛々してきた。
現在、この世界には十人の神がいる。現れた順に創造神クードラス、時空の神セルトネイン、生の神ルーヴ、死の神アーゴ、大地神リスタニア、豊穣神リーリフェ、感情神ライラ―ナ、武神ウェルフ、戦神バルドグライ、商業神アルドート。
クードラス以外は全員クードラスによって作られ、序列ではクードラス、セルトネイン、ルーヴとアーゴ、ライラ―ナ、バルドグライ、ウェルフ、リスタニア、リーリフェ、アルドートたそうだ。
それとルーヴとアーゴは双子でリスタニアとリーリフェは姉妹、ウェルフとバルドグライは兄弟となっている。ライラ―ナは別名恋愛の神とも言われるそうだ。……そう言えば本人がそう言っていたような。
他にもウェルフやバルドグライ、ライラ―ナ、アルドートは人間と深く関わってきたようだ。
ミーナは再び夢の中に入っている。
「――と言う様に神は歴史に大きく関わっています」
「なるほど」
「次に地理ですが、前に少し話しましたね。この街はアルトハイム王国の一つです。詳しくはまた今度ですが迷宮国ライビス、スィルツ王国、帝国プリムリアの三国と国境を接しています。私達の国は資源が基本です。後は少しの迷宮の素材ですね」
なお、ライビスは迷宮の素材や魔石などを主な収入源にし、スィルツは商業で成り立つ所謂商人の国だ。プリムリアは軍事に力を入れており、ルーリドア大陸有数の軍事国家だそうだ。
位置としてはプリムリアが北に、スィルツが北東辺り、ライビスは東から南東辺りにある。だから、北には砦などを配置し、プリムリアに少しは対応できるようにしている。スィルツとライビスは人通りが多いので道が整備がしっかりしているそうだ。
将来はライビスかスィルツに行ってみたいな。
他にもルーリドア大陸には三つの王国と二つの帝国、群衆国家がある。群衆国家は様々な少国をまとめた総称で奴隷を専門とする小国、獣人のみの小国、亜人だけの小国などが存在するらしい。
それと大陸から南の辺りにある小さな島には竜が住んでいて稀にこの大陸に来るそうだ。その時は複数の国が協力して対峙するんだと。
大陸で見つからないと思ったら別に島にいたのね、竜。存在しないと思ったよ。リリィの口ぶりから相当強いみたいだし。
「まぁ、これくらいにしておきましょう。昼食を食べ終えてから始めますよ」
「了解。それにしてもいつの間にかそんなに時間が経ってたんだ」
「レイン様のご理解がお早いので私も話がいがありました。それよりもミーナ様を起こされては?」
「随分と楽しそうだね……まぁ、いいけど。おーい、ミーナ起きて。そろそろ昼食だよ」
「んみゅ~。あと、ちょっと~」
「……いや、別にネタが欲しい訳じゃないんだが」
起きる気配が無いので頭をそっとどかして、リリィと一緒に部屋を出ようとドアに手を掛けた時、ベットから物音がして反対の手に感触が。……何ともお早い事で。
「一人はやー」
「まさかこんな方法で起きるとは……」
「ははは……はぁ」
「おにいちゃーん!」
「……はいはい、分かった。じゃあ、行こうか。それとリリィ。ニヤニヤするのはやめて」
「失礼しました。お二人が微笑ましいので」
昨日のフェルナの時みたいにニヤニヤするリリィ。リリィは絶対、他人の恋愛とかを率先して手伝って、その経過を楽しむ人だ。質が悪い。
……それにしても起きたな。あの後はミーナが起きるまで外で待つつもりだったのだが、まさか気付かれるとは。果たしてあれは鋭いと呼べるものなのか……
昼から始めると言っても今日は初日なので軽くやるだけで終わった。リリィ曰く、初日はあまりキツイ事をしな方が良いそうだ。俺は初回でよくやったけどな。
その日の夜は一層ミーナがくっついて来た事を追記しておく。
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