四話 フェスフォルトの街
俺がこの家で世話になり始めて二年が経った。この間に午後も活動できるようになり書斎に入っては魔法書を読み漁った。二年で文字も覚えたので色々と知ることも出来た。そのお陰で水属性と風属性は中級までを、光属性は上級まで使えるようになった。光属性に至っては上位属性の回復魔法を使えるまでになった。魔力の訓練も続けていると魔力量が上がったと感じる。召喚属性の方も召喚出来るものは少しずつ増えていっている。
そう言えばここは王都とかじゃなく、領地だった。しかもアルグリードさんが領主。本だとこの街フェスフォルトは農業、漁業、牧畜に適していて、ダンジョンもある。
ダンジョンとは迷宮とも呼ばれていて魔物が存在している。街の外にも魔物はいるが迷宮の魔物はそれらよりも強く、魔石と呼ばれる物を体内に宿している。ダンジョン内は鉱石も豊富で魔物からは素材や魔石が取れるので国にとっては物凄く重要らしい。この国の隣には迷宮国と呼ばれる国があってそこはかなり儲かるそうだ。
様々な面で重要な場所であるこの街は国王からの信頼が余程ないと任されない。領地を治める貴族にとっては喉から手が出る程欲しいだろう。
それを五代も続けて任されるフェスフォルト家は凄いとしか言いようがない。証拠にアルグリードさんの第一夫人が王女だそうだ。王家の娘を嫁に貰うとは中々に凄い人物である。
ちなみにフェスフォルトは王都から馬車で五日の距離にある。
言い遅れたがフェスフォルトの街があるこの国はアルトハイム王国と言う。ルーリドア大陸の南西に位置し、ダンジョンを多く保有する迷宮国ライビスと商業の国スィルツ王国と強い国力を持つ帝国プリムリアに国境を接する。残りは海に接しているので基本的に海産資源は豊富だ。しかし、刺身はないようだ。結構好きなんだけどな。
後、この街に来たのは神たちの作為が絶対にあるので今度会ったら確実に文句を言う事は確定だ。面倒ごとの予感しかしないからな。
だが、よく考えると悪くない。居場所なんてものは無く、常に忌み嫌われていた地球の頃と比べれば。酷い時は無関心だたからなぁ。
未だフェスフォルト家や使用人くらいしか触れ合ってないが、その暖かさを感じられるだけで幸せだね。
……色々と考えていたのは俺の腕に原因がある。ミーナが俺の腕に抱き着いているので動こうにも動けないのだ。最近は午後から書斎に入り浸るようになり、ミーナの不機嫌な時間が増えた。今も絶対に離さないとばかりに抱き着いて外せない。今日は特にする事も無いのでちょっとミーナを観察してみる。
髪は肩に届きそうなくらいに伸びて、小柄な体はしっかり俺の腕を抱き締めている。髪はさらさらで頬はもちもちして柔らかい。触っているとミーナはくすぐったそうに反応して、でも嬉しそうだ。
ミーナもこの一年で魔力を感じる事が出来るようになった。普通は魔力を感じるまでに一年、操作できるようになるまで二年掛かる。あぁ、何も言わないでくれよ。自分がどれほど異常なのかはよく分かってるから。
ミーナの寝顔を見ていると俺も眠くなくなった。俺はミーナが掴んでいる腕に水魔法で疲労回復の魔法を掛けていく。ミーナと同じベットで寝るようになってから、ミーナは俺の腕を掴んで枕にするので起きた時には腕が痺れる。あの時は大変だったのでそれからはミーナと寝る時には常時、疲労回復の魔法を掛けている。そのお陰(?)なのか無詠唱で出来るようになった。他の魔法も使って見たが無詠唱は俺が使える魔法は全部出来た。その時にまた一騒動あったが、割愛しておく。
ちなみに無詠唱は才能のある者が十年修行してモノに出来るか否かの高等技術だそうだ。ここにまた神たちの作為を感じるね。あぁ、殴りたい。
***
今日は街の散策をしようと思う。昨日に考えていた事はよく考えると実物を見ていない。ダンジョンは無理だろうが街自体は可能なはずだ。前世の頃から基本的に自分の事は自分でやるのが板に付いているので、街を見たい旨を伝えるとリーフェスさんとリリィはどちらかが付いて行くと聞かず、結局リリィが付いて来る事になった。
その時にミーナが付いて来ると言ったのだが、誰も否定せずに了承された。唯一、否定したのはアルグリードさんだが、あの二人の威圧に成す術を無くした。見ない振りをしたとも言える。ちなみにこの間の俺の発言権は無かった。本当に無くなるんだね発言権って。二次元の世界だけと思ってた。
まずは屋敷の中を案内させて貰った。この屋敷は三階建てだ。俺たちが今までいたのは二階でここには俺たちの部屋やリビング、書斎等がある。三階には執務室、応接室、来客用の部屋があった。一階にはパーティ用のホール、調理室、使用人たちの部屋があった。
「以上です。次は外に出ましょう」
外を見る前に俺は二階の部屋の数が多いのが気になり、聞いてみた。
「リリィ。二階の部屋が随分多いけど何で?」
「あぁ。あの部屋はですね、フィーヤ様、アリアナ様、それと御二方のお子様の部屋となっているのです。今は王都の方にいらっしゃるので空いているのですよ」
「へぇ。なるほど」
「ご理解の早い事で」
今の空き部屋はアルグリードさんの第一夫人フィーヤさん、第二夫人アリアナさんとその子供たちの部屋だそうだ。二人は子供たちの保護者として王都にいるそう。子供たちは現在王都の学園に通っているそうだ。ちなみに第一夫人は王女で第二夫人は公爵、リーフェスさんも伯爵だから何とも凄い。あ、三人の中は良好との事。仲良しは良い事だね。
フィーヤさんの子供はルートラスとレナ。二人共才能があって、三属性持ちだそうだ。俺の召喚属性が無いのと数は同じか。いや、蔑むとかじゃなく、才能があるなぁ、って感心したんだ。他意は無い。
アリアナさんの子供はリグとアルドラ。リグは文官、アルドラは武官みたいな性格らしいが、中は非常に良好。それらはあくまで目安らしい。
将来はこの四人で街を守っていくらしい。領主は長男のルートラスだ。四人は卒業したらこっちに戻って来るのでその時に紹介されるそうだ。
屋敷の外に出るとかなり広い庭と大きな塀、大きな扉がある。庭は整備された道以外、草原と木のシンプルな物で個人的には好きだ。今は季節で言う春なので晴れた日に木陰で昼寝でもしたら気持ちいいだろうな。今度やってみようか。
そう言えばこの世界は地球と同じ季節があってそれもほぼ同じだった。一日中暑いとか一日中寒いとかじゃなくて良かった。
程よい広さだしもうちょっと経ったら朝方に走ってみようか。
それから大きな扉を潜ると騒がしい音が聞こえて来る。整備はされてるものの、石畳とかではなく、土だと言う所に良さを感じる。
街自体は多くの人で賑わっていて露店のある所では店主と脚の値段交渉が聞こえ、通り過ぎる人も楽しそうに話している。所々、武装した人たちがいる。一方は実践的な武装。一方は重そうな甲冑。前者は冒険者で後者はこの街の衛兵だろう。
色々見て回っていると俺とミーナのお腹が鳴ったので手頃の露店で昼食のパンとか串を買う。見上げると日が真上に近かったのでそろそろ昼だ。
少し歩いた所に噴水広場があったので近くにあるベンチに座る。
「おいしいっ」
「そうだね」
「あそこは腕が良いんですよ」
ミーナが食べている串を見て俺も自分のを食べてみると確かに美味しい。塩のみの淡白な味付けだが、それ故に肉本来の味がダイレクトに伝わる。溢れ出る肉汁と程良い脂身を含んだ肉は食欲をそそると同時に満たされる。パンは柔らかくふっくらして美味しい。また、パンに肉を挟んで食べるとこれまた美味しい。リリィも同じようにしていて、ミーナは美味しそうにこちらを見ている。
「おにいちゃん、ちょっとちょうだい」
「ほら」
「あーん」
「分かったよ」
「んふ。むぐむぐ……おいし♪」
「まるで恋人みたいですね」
リリィが何やら言ってるが無視だ。ミーナはそれを聞いて何か嬉しそうな顔をしている。おいおい。
昼食を食べ終えたら引き続き街を案内して貰った。
全部で見て回った所は冒険者ギルド、武器屋、防具屋、昼間の様な広場、他にも驚いた事に温泉があった。まだ色々あるが結構な数だったので省略する。
屋敷に戻ってくると早速、木の下に横になる。暖かい日光を浴びて凄く気持ちいい。ミーナは既に俺の腕を取ってお昼寝に入り、リリィも珍しくリラックスしていた。
俺とリリィは木に身体を預け、弛緩させる。それと俺はリリィにちょっと聞いてみた。
「ねぇ、リリィ。僕って四男なんだよね? という事は継承権も無いから自由に出来るんだよね?」
「そうですよ。ですが貴族の義務で学園には行って貰います。その後でしたら自由だと思います。ですがどうしてそのような事を?」
「将来はこの大陸を回ってみたいなって思ってさ。折角この世界で生きるんなら色んな事を知りたいし」
無意識か知らないがミーナは掴んでいる腕をギュッと握りしめる。それはまるで俺を心配している様だ。撫でてやると握る力を抜き、すやすやと眠る。
リリィもミーナと同じ様で難色を示す。俺を心配してくれるとは何ともありがたい事だが、俺は旅をしてみたいのだ。縛られ忌み嫌われた時より、枷も無く自由にこの世界を体験したい。
リーフェスさんに言ってみると泣いて止めて来た。アルグリードさんも心配してくれる。二人共優しい。だから俺みたいな厄介者は早く消えたいんだけど。
もしかすると本当にこの屋敷を出て行く可能性もあるな、とか思いながら今日と言う日を終える。
ミーナが魔力を感知出来るようになったと言ったが、実はもうちょっと魔力操作も出来そうなので明日はそちらも出来るようにさせたい。普通は魔力の感知・操作を合わせて三年は掛かるのを一年足らずで出来そうなのでミーナは天才なのだろう。予想以上に覚えるのが早かったからな。ただ、一回見で使えた俺は何だろう? 強いて言うなら化け物とか? 何か嫌だな。
何時もの様に腕枕されてる腕に疲労回復の魔法を掛ける。既にミーナは夢の世界に旅立っている様で時折、嬉しそうに顔を綻ばせる。寝言に「おにいちゃん」が聞こえて来て、その内容を知るのが怖い。しかし、安心しきった顔はまるでここが安全だともいうようだ。ミーナなら実際言いそうだけども。
ミーナが魔力操作できる様になればミーナはどの属性を持つのか分かるので明日はちょっと楽しみだ。
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