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忌み嫌われた俺は異世界で生きていきます  作者: 弓咲 岬
第2章 少年編 王都騒動
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二十八話 久しぶりにアル達と戯れます

 ランパードは任務に行き、レルカも帝国にバレない様にいつもの仕事をしに行った。残った部屋には俺一人。という事でようやく、やっておきたかった事が出来る。

 では、何をやっておきたかったかと言うと……アル達を呼ぶ事だ。空間魔法に召喚魔法まで使える事を知ったら面倒ごとに巻き込まれそうなんだよな。だから、二人共いない時間帯を狙ったんだ。だが、今まではどちらか一人は必ずいたからな。

 という事で一週間弱振りに召喚魔法でまずアルを呼ぶ。目の前が少し霧になって現れたのはアルだった。取り敢えずは成功だ。


『主様っ!』


 俺を確認したアルは一目散に飛び込んで来た。流石に体の大きさの関係で支え切れず、押し倒される。マウントを取ったアルは嬉しそうな鳴き声を上げ、『共有』ではずっと主様と呼び、顔中を舐めまわされた。

 まずは興奮しているアルを落ち着かせる。宥めるのには苦労したが、何とか落ち着かせることは出来た。その後、『清掃(クリーン)』で涎を落とす。……まだ、四匹いると思うとちょっと面倒くさい。


 次にアルをブラッシングする。久しぶりに梳かれるのが気持ちいいのか段々目をトロンとさせていく。『共有』でもちょっと抜けた声を出している。

 ブラッシングを終え、ふっさふっさになった毛を堪能しているとアルが正気に戻った。正しくは意識が覚醒したとでも言おうか。


『主様。ドーレ達も呼んであげて下さい。皆、心配だったのです』

「そうしてあげたいんだけど……あれが四回も続くのはなぁ?」

『それは主様の業と言う事で甘んじて受けるべきかと思います。流石に私も今回の件では少々怒っていますから』

「……分かったよ。悪いとは思ってるさ。その理由も含めて頼みたい事もあるし……仕方ないかな」


 若干、険の籠った感じで責めて来るアルに折れ、ドーレ達も呼び出す。結果は……予想通りだっとだけ言っておく。いや、寧ろ酷かったような。

 何とか四匹も落ち着かせる事に成功し、現在は俺の目の前に五匹の黒狼、銀狼がいる事になる。真ん中がアルで、左はドーレ、トレア、右はキャロ、サンだ。勿論、四匹ともブラッシングはしてある。


「さて、まずは……ごめんね。心配かけた事は自覚してるつもりだよ。そのお詫びと言っては何だけど、何かお願いを一つ言って良いよ」

『では、主様!』

『私から!』

『私、私!!』

「まぁまぁ、落ち着いて。内容は後で聞くから。それの対価って言ったら悪いけど、やって欲しい事があるんだ」


 俺がお詫びの件を言い出したら速攻で五匹とも詰め寄って来たのに、頼み事を言うとさっと真面目な表情になる。……ある意味、調教できてるのか。

 取り敢えず、それは脇に置いて、アル達に頼んでもらう事を伝える。


「まず、アルには地下牢にいるニナとヘレナの旦那さんと妹さんが何処にいるのかを見つけてきて欲しい。これは黒狼であるアルにしか頼めないんだ。次にドーレ達には普段通りに生活して貰って僕と会った事に気付かれないようにして欲しい。皆が一気にいなくなると怪しむだろう女性(ヒト)がいるだろうからね。地味だと思うけどしっかり頑張って欲しい」

『『『『『お任せください!』』』』』

「じゃあ、皆のお願いを言っても良いよ。でも、順番でね」


 俺の許しが出たら驚くスピードで円を作った。そのスピードだったら俺も手加減しにくくなるような速さだった。スキル無しだと目で追うのがやっとだ。

 そんな真剣モードのアル達が何をやるかと言うと……じゃんけんだった。だが、互いの足はパーしか出せないので『共有』の声のみですると言う本気なのか冗談なのか、傍から見ればとてもシュールな映像だ。何せ、五匹の狼が円を作って見つめ合っているだけだぜ。『共有』出来る俺以外からすると。

 結果として勝ったのはトレアだった。果たしてトレアのお願いとは何だろうか。


『主様、僭越(せんえつ)ですが丸一日主様を独り占め出来る時間を下さい!』

『トレアも!?』

『やはりか……』

『やっぱり、そうだよね』

「ちょっと、待て。まさか皆同じお願いだった……?」

『『『『『はい』』』』』

「あっ、そう……」


 いや……驚いた。まさか全員同じだとは。いくら懐かれているからって普通そう思う事は無いだろう。だが、アル達は至って本気だ。そこはアル達の主としても、責任を取るとしてもだろうな。どうせ、ミーナ達でもする事になるんだろうし。


「良いよ。でも、今回の件が終わってもしばらくは出来そうに無いけど、それでもいいかい?」

『結構です! 時間のある時で大丈夫ですから!』

『進言するだけでも恐れ多いのに……時間はいつでも大丈夫です!』

『主様。私達は第一が主様なのです。ですので許可されただけでも十分に嬉しいのですよ』


 何だろう。罪悪感が凄い。……なるべく早く、時間を作ろう。それでも最低数週間は無理そうだ。下手したら数か月とかありそう……。

 俺はその罪悪感を紛らせるために時間までアル達と戯れ続けた。改めて皆の毛を梳いたり、もみくちゃにされたり、自主的に枕になってくれたり、そのお返しに思いっきり撫で回してやったりと五匹とも気持ち良さそうにしていた。


  ***


 そろそろ戻さないと危ない時間になって来た頃、アルがとても恐ろしい事を口にした。


『主様。最後に一つ言いたいのですが、……お帰りになられましたらお覚悟をしていた方がよろしいかと。私達はそれぞれ何やら恐ろしい物を彼女らから感じました』

『『『『主様、気を付けて下さい』』』』


 彼女ら……ミーナ達で間違いないだろう。時間的にアルグリードさん達も含まれるかもしれない。何やら恐ろしい物……一体どんなお願いになるのやら。見当もつかない。

 ……おおぉ。鳥肌が久しぶりに。本能的にも危険信号か。やっぱり、早くしてよかったかもしれない。これ以上長引かせたら……。


 俺の震えに気付いたのか温める様に周りに寄って来てくれたアル達をもう一度撫で、ドーレ達をフェスフォルトの街周辺に移動させる。

 残ったアルには地下牢までの道とニナ、ヘレナのイメージを『共有』で送る。頷いたアルは気配を消して部屋を出て行った……と思う。

 だって、アルが気配を消した時は本気で気付かないんだよ。気配感知で場所は分かるのに姿が確認できない。ちょっと怖いよ。


 部屋の外に出た事が分かると俺はベットに横になった。ちなみにアル達の抜け毛は風魔法で全て外に出し、匂いは『清掃』で消してある。後は風上級の『凪』とかで全てを完全に断っているので気付かれる事はまずない。

 丁度タイミングよく、レルカが帰って来た。いつもの様に最初にシャワーを勧める。またいつもの様に拗ねて、渋々向かって行く。


 シャワーを終えて出て来たレルカといつも通りに過ごす。レルカからは怪しまれる様な視線は無かったので大丈夫だろう。

 いつもの様に俺がレルカの抱き枕にされ、眠くなるまでボーっとしているといきなりアルが現れた。直前まで気付けなかったのはアルの隠蔽能力が高いからだ。アルが黒狼になってからその手の能力に磨きがかかっている。これにはいつも舌を巻いているんだ。


『主様、調べて来ました。お二人は主様が入られていた一番奥の地下牢から二つ手前です。一人ずつに分かれていました』

「ありがとう、アル。今日はもう送ろう。また明日からもよろしく」

『……分かりました。ですが明日もまた呼んで下さい』

「なるべくそうするよ。今この人たちに知られるのは……ちょっとね」


 それからレルカの力が抜けるまで最近の話を聞きながら時間を潰す。

 特にミーナ達が考えているらしい「お願い」には一瞬で鳥肌が立った。五つでさえ、結構な内容だったのに……一人に付き十回でそれが四人分。流石についていけねえ。

 他にも細々とした事を教えてもらう内にレルカの力が弱まって来た。起こさない様にそっと外してベットから起き上がる。

 最後に軽くアルとじゃれて、フェスフォルトの街付近に送る。ここに召喚出来た事で『共有』も出来るようになったので、近くにいたトレアに連絡をしておいた。


 立ち上がって振り返るとベットに座ったレルカがこちらを見ていた。見られた時にはてっきり良い笑顔なんだと思っていたら、ちょっと不機嫌だった。あれ、反応が違くないですか?


「ふーん。レイン君は召喚魔法も使えるんだー」

「あの、機嫌悪くないですか?」

「別にー」


 横に顔を向けて頬を膨らませる。何と言うか古典的だな……。それと微妙に似合わない。


「んー」


 半分寝ぼけ眼で俺に手招きをする。言った場合の起こる事は分かっているのだが、余計に面倒な事が起こる予感がしたので言う通りに近づく。

 近づいたら予想通りに抱き締められて抱き枕に戻された。当然、今までよりも入れている力が強い。そのくせ、体を動かすのには今までと変わりない。……どうやったらそんな事が出来るのだろう。

 今度はレルカが眠って時間が経っても力が弱まる事は無い。と言うか、体を入れ替えた時に力を入れられ、完全に身動きが出来なくなった。



  ***



 ……結局朝になっても離して貰えませんでした。





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