三話 属性魔法と俺の属性
「今日はちゃんと説明しますからそんな目で見ないで下さい」
お預けを食らった翌日。失礼だと思うが未練がましい視線を向けると申し訳なさそうな表情を浮かべた。別にそこまでじゃないんだが。
リリィは昨日の復習も合わせて説明を始める。昨日のと合わせての説明はやはりとても分かりやすかった。
属性には上位属性と合成属性がある。他にも後一つあるらしいが今は置いておくらしい。基本属性を例に挙げると、火は炎に、水は氷に、土は岩や金属に、風は雷に、光は回復や浄化といった具合だ。水にも回復系はあるが応急手当や疲労回復くらいで本格的な回復魔法は光属性の上級だけだ。
合成属性は火と水で霧、水と風で嵐、火と土で溶岩など。光は特殊で合成させると威力が上がる。
特殊属性は強化属性や合成属性に出来る物は少ない。あるとすれば炎と召喚の契約属性くらいだ。その為か、威力が桁違いでそれぞれが特性を持っている。
まず、闇の属性は夜に強い特性を持つ。この属性は精神を乱したり、弱い魔法は打ち消す事が出来る。魔法を打ち消すのは闇の属性を持つ者の方が強い場合のみだ。
次に精神の属性は魔力に関して強い特性がある。相手から魔力を吸い取ったり、逆に魔力を送ったりする事が可能だ。他にも魔力の回復速度が速くなる、最大量が多くなると言った副次効果がある。
召喚の属性は人以外に強い特性がある。これは名の通りに生物を召喚する事しか出来ないが動物と意思疎通が可能なので諜報部員を生業にする者が多い。
空間の属性は魔力の扱いに強い特性を持つ。空間魔法と時間魔法は特殊属性の中でも非常に強力で稀有な分、使用出来る者は少ない。何故なら、他の属性よりも高度に繊細な技術とより多い魔力が必要だからだ。空間属性は最初、物を引き寄せたり軌道をずらす程度だが、高めれば空間移動などを使えるようになる。
最後に時間の属性はこれまでの歴史の中で一人しか存在せず、詳しい事は分からない。分かる事と言えば、何秒間の時間を操る事だけ。
特殊属性の中では精神の属性が最も持つ者が多い。
「少し休憩しましょう、レイン様。その後に魔力の操作と可能ならばご自分の属性が何か調べてみましょう」
「はーい」
リリィは俺をベビーベットに戻すと部屋を出て行った。おそらくは飲み物でも持ってくるのだろう。ミーナは俺の片手を掴んでご機嫌だ。今までは時々機嫌を悪くしていたし、どれだけ懐かれてんだよ。
暫く経ってリリィと犬耳の子がやって来た。リリィは予想通りお盆の上に飲み物を持って来て、犬耳っ子の方は水晶を持っている。あれが属性を調べる物か。
ずっと犬耳っ子を見ていたからだろうかリリィは彼女を紹介してくれた。
「レイン様。こちらは私と同じ使用人のフェルナです。御覧の通り、獣人なのであまり酷い事はしないで下さいね。ほら、フェルナも」
「フェルナです。宜しくお願いします……」
「よろしくー」
見た目は十歳前後。どうやらフェルナは人が苦手のようだ。それとも怖いのかもしれない。最後の方は聞こえないくらいに小さかった。獣人は差別されてるみたいだから当然だろう。犬耳とか犬尻尾、触り心地良さそうなのに。勿体ない。
ちなみに獣人ってのは人以外の耳や尻尾と言った特徴を持つ人の事を言う。差別用語に亜人がある位だ。この大陸には奴隷の国があるそうでそこでよく売買されているらしい。フェルナはこの街にある奴隷商店でリーフェスさんが買って来たそうだ。何でも犬耳を触りたいからだった。……同志だ。
獣人の差別は貴族の中に多い。貴族でも下級貴族がそういう考えを持っているだけで中級以上は差別をしない。後は貴族の子どもくらい。俺はあの耳や尻尾に触りたいし、実際に見ても優しそうな獣人たちを差別する考えは分からないけど。
……にしてもあの耳、触れるかな。
赤ん坊の様に無邪気にフェルナに手を伸ばす。一瞬、震えるも直ぐに持ち直して、俺の手を握り返してくれる。今度は耳の方に手を伸ばすと少し遠慮していたが、触らせてくれた。とても柔らかかったと言っておく。
触り続けるとフェルナの顔は怯えから少しの喜びと恥ずかしさに変わっていった。頃合いを見て離す。ごちそうさまです。
「フェルナとの挨拶も済ませた事ですし、続きと行きましょうか」
「するー」
その後、リリィから魔力の操作を聞いて一回で成功させた時に一悶着あったが、そこは赤ちゃんらしく誤魔化しておいた。普通は早くても五歳からだそうだ。それはともかく、これから属性を調べる。
「レイン様。今からこの水晶に触れて魔力を流して下さいね。そうすると水晶が光りますのでどんな色や数なのか楽しみですね。色が属性で数は属性を幾つ持つかです」
俺は水晶に手を当て、魔力を流す。水晶には水色と緑色と黄色と紫色の四色が浮かぶ。四つの色という事は四属性か。ふと、リリィたちの方を見ると冷や汗を流しながら硬直していた。そう言えば四属性ってかなり珍しいんだっけ。
ペチペチとリリィを叩くとビクッと反応して我を取り戻すと部屋を飛び出して行った。フェルナは未だに固まっている。叩いてみても同じだ。
今度は名前を呼んだ時よりも早く戻って来る。誰と来たか? 当然、リーフェスさんだ。今日はアルグリードさんまでいる。
「レイン様。もう一度、水晶に魔力を流して下さい」
魔力を流すと四色が浮かぶ。フェスフォルト夫妻も先ほどのリリィたちと同じ反応するが直ぐに我に戻る。流石は貴族。精神は強いようだ。
「はっ! ……まさか、レインが四属性も。それも召喚まで持っているなんて……!」
「……ああ。まさかレインがこんな才能を持っているとはな」
今度は二人から注意、忠告の様な事を言われる。何でも下手に知られると厄介事に巻き込まれる場合があるそうだ。リーフェスさんからは無茶はしないで欲しい、アルグリードさんからは人前であまり見せないように、と。
基本三つに特殊一つは相当に稀なようだ。話の後も二人からは嬉しさ、それと同じくらい心配の気持ちがひしひしと伝わって来る。それ程に大事にしてくれているのだろう。基本三属性ですら百万人に一人の確率らしいし。加えて最低でも百万人に一人の確率の特殊属性も持っているとなればそりゃ、珍しいか。……個人的にはここに来る前に話した神たちの反応からもっと嫌な予感がするんだが、気のせいだろうか。
その後、アルグリードさんとリーフェスさんはそれぞれの部屋に戻り、俺はリリィから詳しい事を聞く。
水晶の色は火属性が赤色、水属性は青色、土属性は橙色、風属性は緑、光属性は黄色、闇属性は黒、精神属性は翡翠色、召喚属性は紫色、空間属性は灰色、時間属性は白色となる。
それを踏まえると俺の属性は水、風、光、召喚属性だ。やけに支援系が多いな。回復とか情報集めとか。これには神たちの作為的な物を感じる。しかも火とか土属性は近々会いそうな予感がする。
これ以上考えるのはよそう。その通りに行きそうだ。
他にもステータスと呼ばれる自身の能力を見れる魔法もあるらしい。普通は五歳から魔力の操作と同時に使えるようになるそうだが、俺の場合、面倒な事になるのは一目瞭然なのでアルグリードさん達は口を揃えてしないように言われる。異世界に行く人達は皆、何かしらのチート能力を持っているのだろうか。
その日からも運動したり、魔力操作の訓練をしたりする内に俺は一歳になった。
ミーナも一歳になった事で歩いたり、簡単な話が出来るようになった。それをアルグリードさん達は諸手を上げて喜んだ。俺も懐かれたりする事自体は嬉しいので心の中で称賛する。特にリーフェスさんは自分の子供の事もあってか一段と凄かった。思わずアルグリードさんが少し引くくらいに。まぁ、母親は得てしてそういう事らしいし、自然な反応なんだと思う。俺の元母親も陽菜の事は同じ様に可愛がっていたっけ。俺? 俺は最低限の世話しかされてこなかったよ。本当、良く生きて来れたよ。いつもそう思うね。
歩けるようになってからかミーナは俺の傍に常にいて、俺がやっている魔力操作の訓練に興味を持ったのか教えて欲しいとせがんで来るので教え始めた。
普通は五歳前後から始めるので当然の様に出来ない。寧ろ当たり前の事である。これならリーフェスさんから天才呼ばわりされたのも分かるかも。まぁ、俺は前世の記憶持ちなんでよく分かんないけど。
俺は訓練を続けたお陰で水と風の属性は恐らく初級の魔法を使えるようになった。その手の本はまだ読んでないので何となくだ。光は中級属性くらいまでは使えるようになったと思う。二度目だが本を読んでいないのでよく分からない。最も成長したのは召喚属性だと思う。偶に屋敷に出るネズミとか外にいる鳥とかと契約でき、屋敷の全体像も分かった。書斎らしき部屋も分かったので機会があれば行ってみたいと思う。
一つ問題があるとすればミーナの俺を見る視線に何か違う物が混じっている気がする。前世のお陰で感情の変化にある程度機敏だ。『お兄ちゃん』のセリフも妙な部分が偶にあるんだが見なかった事にしよう。
「おにいちゃん。むずかしいよ~」
「前に言ったみたいに意識を内側に向けてお腹の辺りに集中してごらん?」
「……ん~、やっぱりわからない!」
「じゃあ、ちょっと僕の魔力を流してみるか」
「やったー!」
ミーナは魔力を知る所をやっている。俺は最初に出来たがそれが異常なのでもう見ない事にする。そこでミーナは俺にコツを強請って来るのだが、俺的には魔力の在処を知った方が早いので直接魔力をミーナに流して循環させる。
どうやらミーナはその魔力を循環させるのが好きらしく、いつも気持ちよさそうにしている。偶に聞き捨てならない声も聞こえるが無視する。それにこれを楽しみにしているからかちっとも上達しない気もするんだが。
今回もミーナを膝の上に座らせ、お腹の辺りに両手を置く。くすぐったそうに反応するミーナを窘めると少しムスッとするが、魔力を流せば静かになる。
五分ぐらい流して手を離す。流石に疲れたのでベットに横になるとミーナの体が圧し掛かって来た。一歳時にはきついので退いて下さい。
「ミーナ。離れて」
「やー!」
「やー、じゃなくて。重いから」
「やー!!」
分かったのか聞くと当然の様に否定し、退いてと頼むと余計にくっ付いて来る。何とか退かせることに成功した時にリリィが入って来た。リリィは俺たちを見て笑みを零すと生暖かい視線を送る。どうせ、仲が良いですねとか言うんだろう。ご丁寧にミーナを見ながら。
なんて考えているとミーナに視線を向け、思った通りの言葉を口にする。
「相変わらず仲が良いですね」
「やっぱりか」
「気付いてらしたんですか」
「目が生暖かいよ」
リリィとしてもお遊びだったようだ。どうやらそろそろ昼らしく呼びに来たらしい。リリィに連れられミーナにくっ付かれた状態でリビングに向かう。それから俺たちを見たリーフェスさんがリリィと同じ反応をしたのは直ぐだった。
昼ご飯を食べ終え、部屋に戻ると真っ直ぐにベットに潜る。所詮は一歳児。午後からはお昼の時間のようだ。ミーナもここに戻る途中船を漕ぐことが多かった。早く午後も活動できるようにならないとな。
そう思いながらも重くなる瞼に段々抵抗できなくなる。ミーナは既に寝ている。気持ちよさそうに俺の腕を抱き枕にして。俺も続いて眠りに入った。
ブックマーク、レビュー等してくれると嬉しいです。