二十四話 開戦 服従編
遅れてすいません。
それと一万PV、二千ユニーク行きました。次は十万PV、一万ユニーク行ける様に頑張ります。応援よろしくお願いしますね。
アルに乗った状態で城壁の周りを確認すると数えきれないほどの人の数。無論、帝国の兵士達だ。聞こえてきた声には男は殺し、女は犯す、そして、王女様とミーナを捕らえて帝国に連れて帰るの三つだ。
鑑定(極)で確認できる全員を視た。ちょっと情報量が多く、飲み込むのに時間は掛かったがどうやら全員雑魚の様なのでそこらへんの手間は無いか。
町の門は四つあるので特にそこに集中しているんだが、その中でも北の門が比重が凄い。しかも何故かは知らないがそこだけ開いている。聞こえるのは剣戟の音と叫び声。どうやら冒険者の人達が頑張っているらしい。
次に街の中の気配を探る。気配感知で得る以上は前回と同じ屋敷の倉庫に皆避難している。それ以外に気配は……ない。
『主様! 戻って来られましたか!?』
『今外から様子を確認してた。詳しい事は分かる?』
『現在は冒険者の方々が頑張っています。ですが数が多く、皆さんに疲労の色が見えます』
ふむ、やはりそうか。どうやら俺とランパードが戦い始めた辺りと同じ時間帯で始まったらしいからな。誰かが見ていたみたいにさ。その所為でトレアからの呼びかけに答えられなかった、って事だ。
他にもミーナ達の無事を聞くと今の所はみんな無事らしい。……今の所は、だ。ミーナ唯一人冒険者の人達と一緒に戦っているそうだ。傍にはサンがいて、途中からその事を伝えて来た。曰く、常に魔法を使い続け、魔法枯渇を何度も味わい現状かなり大変だと。
ドーレ達は屋敷と北の門の所とで二匹ずつ配置している。それと北の所も含め、門は前回以上に強固にしたので内側から以外は決して破られないそうだ。
確認を終えた俺はアルから降り、歩きながら目の前の光景に向かって行く。アルはそんな俺を見て体を震わせ、尻尾を逆立てていた。『共有』からも恐怖の感情を伝えて来る。
……そんなに怖いだろうか。
『主様。その、殺気が……』
「……どうやらあの時と同じ様に見てしまったらしい。これは本格的にもうダメか?」
アルの共有の後にはあの時の光景が浮かび上がる。それは……陽菜が事故に遭って死ぬまでの事である。どうやらミーナにその光景を重ねてしまった様だ。
それを認識した途端、自分でも分かるくらいに殺気が出ているのが分かり、慌てて抑える。何と言うか、戦うよりもこれを抑える方が大変だ。
「何だ、このガ……お前はレインだな?」
「僕がなんでしょう?」
「貴様は帝国に連れて帰る。大人しくしろよ。そうすればこの街は制圧するだけで済ませてやる」
「随分、上からの物言いですね。黙っていた所でどうせする事は変わらないでしょう。それとも見逃すんですか?」
「子どものくせに知恵が回るのは報告通りらしいな。まあ、この俺に勝てる訳―」
「だからと言って俺が黙って見てる訳ないだろ?」
突っかかって来た帝国の兵士に時間を取られるのも癪なので速攻に『風刃』で首を斬る。それと同時に氷魔法で固めたので血が噴き出るなんてスプラッタな事は起こさない。
そして、俺と帝国の兵士の様子を見ていた兵士たちは俺に向かって来た。表情は恐怖に染まっていてまともな判断が出来るとは思えない。それ故の本能的な行動なのかもしれない。ただし、逃げるではなく、叩き潰すと言った無謀な物だが。
帝国の兵士が俺を襲って来ておよそ十分。俺の周囲には首と体が離れた死体が大量に。……俺もちょっと、いやかなり自制が効かなかった様だ。やはり無意識の中にも大切な者を失うのが怖いのだろう。
それとこの世界に来て初めて人を殺してしまったが何も思わないな……ははは。これはもう資格以前に傍にいる権利すら無いかも。こんな化け物……。
「お兄ちゃーん!!」
「ん? 何だミーナって……むぅ!?」
視界が開けて俺の姿を確認したらしいミーナがこちらに走って来て、抱き着くと同時にキスしてきた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃーん!」
「……止めろって」
「や!」
「……止めろ」
「やぁ!!」
「……いい加減に」
「やぁぁあああ!!!」
今までの感情を爆発させる様にしてミーナは甘えて来る。何度もキスしたり、頬ずりしたりと今まで以上にくっついたまま離れようとしない。また、全身で離れたくない! 甘えたい! と主張している。たかが数日(ミーナ的に)会ってないだけでそこまで……なるな。ミーナなら。そう言えば迷宮暴走の後、俺が目覚めた時もこんな感じで甘えてきたっけ。
それからすぐにベルジ達が小走りにやって来た。俺にミーナがくっ付いている光景に優しい瞳を向け、周りの光景を見て嘆息する。
「よ、レイン。しかし今回も凄いな。俺らでもここまでの数を減らすのにかなり時間を必要だったのにな。それも何人も合わせて」
「まぁ、既に化け物じみた力を持っているそうですし、当然ですかね」
「お兄ちゃん。私は絶対にお兄ちゃんから離れないからね?」
「いきなりどうした?」
「今、お兄ちゃん自分の事自分で悪く言った。でも、私はそうは思わない。絶対離れないから!」
より一層抱き着いて来ていやいやと首を振る。割と本気で離そうとしても梃でも動かない。どこからこの力は来ているのやら……。
やがて面倒臭くなって離す事を諦める。そしたらミーナは自分の手で俺の腕を掴み、自身の頭の上に置く。そして、撫でて? と目で訴えかけて来る。その訴え通りに撫でてやったら極上の笑みでミーナは答える。余程嬉しいらしい。
アルがトレアとサンと再会してこちらに戻って来た。ただし、悪い報告と共に。……一体、今回は何度起これば気が済むんだ?
『主様!』
『何? アル』
『ドーレとキャロから連絡がありません! 真っ先に喜ぶはずなのにこれは何かあるとしか』
「行くか」
帝国絡みで三連続。もう、帝国は滅ぼしても良いだろうか?
ミーナは俺にくっついたままで、ベルジ達にこの場を任せてもらって俺はアルに乗って屋敷へと向かう。
屋敷へと向かう間にドーレとキャロに『共有』してみるが反応がない。となると気絶しているか、違う要因か、どちらにせよ厄介な事に変わりない。
屋敷に着いた俺は早速倉庫に向かう。そこにいたのはドーレとキャロが倒されている事と何時ぞやのエロい冒険者の女性がフェルナを拉致っている光景だった。
今度は膨れ上がる殺気をしっかり抑え、まずはドーレ達の安否を確認する。……良かった。どうやら気絶しているだけみたいだ。
次に女性の方へ視線を向けると待ってましたと言わんばかりに溜息をついた。余程暇だったのだろうか?
「はぁい、久しぶりね。レイン君。私はレルカ・リーンよ。帝国唯一の女の四元帥。覚えておいてね。それと提案。こちらに来て貰いましょうか?」
「……僕がそちらに行った場合の対価は?」
「これからこの国には一切の干渉はしないわ。流石に二人も四元帥がいたら皇帝も手は出せないでしょう?」
「ふぅん。レルカさん以外のもう一人は誰ですか?」
「君が倒したランパードよ。あいつは自分よりも強い人の下につくの。それに私は四元帥の中でも二番目よ。一、二番目がいれば、ね?」
「……良いでしょう。なので早くフェルナを開放して貰えますか?」
レルカは直ぐにフェルナを離し、俺の近くまで来ると外で待っていると告げ、倉庫を出て行った。レルカの姿が見えなくなるとミーナ、リリィ、フェルナ、王女様が一斉に詰め寄って来た。
「お兄ちゃん、何で、何で、何で!!??」
「レイン様。流石にそれは無いと」
「何故ですか?」
「私達の事は嫌いになったのでしょうか?」
皆それぞれの慌てようで何で? 何故? と次々に疑問をぶつけて来る。ミーナは涙を凄い勢いで流し、リリィは今までは比較にならない程の非難を視線を、フェルナは耳や尻尾を力なくだらんと下げ、王女様は捨てられた猫みたいに悲しい顔をする。
何か口にしようとしても矢継ぎ早に責め立てられ何も出来ない。その中でリリィは冷静さを取り戻したのかミーナ達三人を抑える。……助かった。
しかし、一向に非難の視線は弱まる所か増える一方だった。
「レイン様……何かお考えがあるのでしょう? あの時の様に。その前例がありますので今回のみに限り、許可は致しましょう。しかし、全てを終えて戻って来た時は……こちらの願い全てに応えてもらいますのでそのお覚悟をしておいて下さい」
「何で、リリィ!? 私はお兄ちゃんからもう二度と離れたくないの!! それなら私も付いて行く!」
「ミーナ様の言う通りです、リリィさん! それに……私達の気持ちを知った上で……あんまりだと思います……」
「……」
「落ち着きなさい。何も帰ってこない訳ではないんです。そうですよね、レイン様? でなければ帝国などに行かせはしませんよ」
「まぁ、そうだね」
「それを聞いて安心しました。レイン様ならば大丈夫だと思いますが、今回の代償高くつきますよ」
完全に冷静なリリィは完璧な脅迫を迫って来る。他にもアル達は置いて行くのだの、アルグリードさん達にはリリィから伝えておくだの、言って無いはずなのに気付かれてしまっている。
あの会話だけで気付いたのか? そう聞いてみると予想したうえで俺に確認を取り、確信したと言う。全く、これは一本取られたな。
お願いの内容は一切、一文字すらも教えてもらえなかった。これも代償の一つらしい。
「レイン様。ミーナ様、フェルナ、ラミリア様に……。それくらいはしてくれますよね? それと前払いとは言わせませんからね?」
「……はい」
有無を言わさずの迫力で頷かせられた。どうも、俺はリリィには敵わないらしい。リリィから小声で……三人に自らキスを、と言われて抗えないのがその証拠だ。
ミーナは一度涙を拭ってする。ミーナは涙を止め、目を見開き、次いで幸せそうに目を細める。だが、離れてしまうとまた涙を溢れさせる。
フェルナにはしゃがんでもらい、優しく。フェルナは俺の首に両腕を回し、味わうみたいに続ける。こっちは離れるとその場に崩れ落ちた。最後に耳を弄ってあげる。
王女様は……落ち込みようが凄かった。絶望したオーラが溢れて来ていたのでまずは抱き締めた。ビクッっと反応した後、そっと抱き締め返す。何回か頭を撫でると期待した表情で顔を上げる。それに応えないといけないので顎に手を当てる。……顎に手を当てたのは貴族とか王族ならそうするのだ、と言う完全な偏見である。
それとわざわざ言葉にしなかったのは……物凄く恥ずかしいのだ。言わせるなよ。
リリィの方はまだまだ非難の視線が弱まる事は無いが多少、満足そうに見ていた。そして三人を俺から離す。
「それではレイン様、いってらっしゃいませ。ですが期限は最大で一ヶ月です。それを過ぎた場合は……今まで以上の覚悟が必要ですよ」
「分かったよ。後はよろしく頼むよ」
「お任せください」
最後まで脅迫を緩めなかったリリィは流石だ。それにしても一ヶ月か……。そんなに休めないかも。
リリィには全員分の武器を渡す。一応の保険だ。短剣と短杖なので扱いは大丈夫だと思う。
倉庫から出るとレルカが待っていた。どうやら聞いていたらしく、面白そうな顔を俺に向けていた。
「愛されてるわねぇ、レイン君。それと期限? らしい一ヶ月は大丈夫よ。運が良ければその半分の時間で終わるわ。それに連れて行くと言っても必ず戻って来れるわよ」
「あれ? レルカさんは僕を帝国に連れて行くんでしょう。それだと帝国を裏切るつもりに聞こえますよ」
「うふふ。それはまた後でね。では行きましょう。街の外に残りの兵は待たせているの」
思った以上に面倒事は少なくて済みそうだ。俺はそう考えながらニナとヘレナの件も都合が良い時に協力してもらおうと取り敢えずは決め、レルカの後を付いて行く。
街の外では帝国の兵士とベルジ率いる冒険者達が睨み合っていた。
「おい、レイン! まさか帝国に行くのか!?」
「そうですが心配しないで下さい。必ず戻って来るので」
心配してくれたらしい事にちょっと嬉しさを感じつつ、ベルジには耳打ちして今回の件のほんの一部を教える。それを知ったベルジは納得した顔で何も言わなかった。一応、手を出さない様に言っておく。
そして、俺は帝国に向かった。
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