二十三話 開戦 戦闘編
いつの間にか寝ていたらしい俺は目が覚めるとベットの上で眠っていた。確か昨夜は……あぁ、なるほど。そう言えばそうだった。
隣にはアルがいて、ここまで連れて来てもらったのだと分かった。その労いにアルの毛を梳いていると気持ち良さそうな声を漏らす。満足してくれてるようで嬉しい。
……それにしても俺には不眠のスキルがあったはずだが。確認してみると効果の書かれている一番下に『※特殊な場合、無効化されます。例、緊張している時』とあった。
どうやら緊張していた様だ。アルトラの時と同じく、こういう時は意識的に落ち着いていてもそれ以外は違うらしい。他にも考えられる事としては……あれだな。
アルのブラッシングを終え、その毛並みを堪能しているとアルが起き、凄い勢いで平伏されたので慌てて止めさせる。アルも落ち着き、軽く朝の練習をし、『清掃』で身体の汚れを落とした後、ベットの上に幾つかの武器を置いて行く。
刀、両刃剣、短剣、ショットガン、片手銃などがある。両刃剣と言っても小剣くらいの大きさで、片手銃はリボルバー型とマグナム型がある。リボルバー型は連射や速度に優れ、マグナム型は威力と貫通に優れている。
また、これらの武器は鉄、鋼鉄、黒虎や銀獅子の素材、アルトラの素材で出来ている。最も多いのは鋼鉄製で鉄はダミー用だ。後半の素材は余程の相手でないと使わない。過剰攻撃はあまり好きじゃないんだ。
近距離の武器は持ち手を重くし、安定性を高めた。遠距離の武器は特にショットガンの重心を少し短くし、軽量化させ扱いやすさと連射性を高めた。これらは前回の反省を踏まえた上でだ。
前回、刀などの近距離武器は軽く作った為、脆く壊れやすかった。現に銃よりも数は多かったのに先に全てダメになった。遠距離武器は重く作った為、扱いづらく速さに対応しきれていなかった。
改良はまだまだ続けていくが今回は取り敢えずこれでいいだろう。一応下層クラスならある程度はやりやすくなったと思う。
短剣を腰の後ろに装備し、鋼鉄製の両刃剣をベットに立てかける。後はアルとスキンシップを取りながらアルグリードさん達が来るのを待つ。
「レインー! 準備出来……てるようだな。相変わらず用意のいい」
「本当。早く家の義息になってくれないかしら?」
「……おはようございます。アルグリードさん、リーフェスさん」
いつも通りの二人と朝食を食べ、宿を出る。今日はプリムリアとの件が終わったらそのまま王国に帰る予定だ。……俺の場合、ちょっと都合が違うけど。
剣はアルグリードさんに持ってもらって、プリムリアが来る北に向かう。
北にある門に着くと兵士の人達がアルグリードさん達を見て尊敬の視線とかを向けていた。士気も上がってるようだし、兵士の人達で大丈夫なんじゃないかと思えてくる。
その兵士たちと共に街の外に出る。外は平原みたいになっていて、結構先まで見える。だが、その前に大量の人がこちらに向かって来ていた。言わずもな、帝国プリムリアの者である。
確かこっちに来るのは昼前と書いていたらしいが、今は朝になってそんなに時間が経っていない。時間を守るつもりはないようだ。アルグリードさん達を見るとやっぱりかみたいな表情で予想は出来ていたみたい。
アルグリードさんは兵士の人達に声を掛ける。皆さん直ぐにばらけてあっと言う間に全員が集まった。
この街は防御力が高い為、兵士の数が少ない。そのせいで兵士の数は五千ほどだ。俺がプリムリアの数を調べると十万と出た。倍率なら二十倍だ。これに四元帥が入るとさらに上がる。何とも質が悪い。
兵士の人達は状況が分かるとそれぞれの仕事を始める。素晴らしいくらいに連携がなっている。まぁ、その中心にいるのはアルグリードさんとリーフェスさんなんだけど。
アルグリードさんは武器を使う近距離の指示を、リーフェスさんは魔法の指示を出している。かく言う俺はアルの上に乗ってぼーっとしている。最初は注意されたがアルグリードさん達が必要ない事を話すと素直に聞き入れ、注意する人はいなくなった。
俺は遠近両方いけるので、結果的に何もする事が無く、暇なのだ。
帝国の兵士が大分近づいて来た所でこちらの準備が終わったらしい。見るとアルグリードさんを先頭に陣形が組まれ、城壁の上にはリーフェスさん率いる魔法部隊の人達が待機していた。
「レイン。お前は四元帥のランパードだけで良いからな。後は俺たちがするから。あまり無茶をしないでくれよ」
「分かっていますよ。アルグリードさん」
無茶して欲しくないなら参加させるなよとは言えない。参加を肯定したのは俺なので今更何を言っても意味がないのだ。
軽く話して緊張をほぐした頃にアルグリードさんから貸していた剣を返して貰った。その剣を腰に差し、合図を待つ。
合図のタイミングはリーフェスさん達が魔法を放った時だ。それに合わせてアルグリードさん達が飛び込んでいく。俺はランパード一直線に。
量で押し切られると思ったのだが、アルグリードさんに帝国で勝てるのは四元帥クラスで元帥以上でないと苦戦すらしない。それにリーフェスさん達の支援があったら問題は無いらしい。俺を除いたとしても結構チートなんだね。……俺の場合、別格とか表現しそうだけど。
それから数分後。リーフェスさん達の魔法部隊から魔法の攻撃が降り注ぐ。
「行くぞー!」
「うぉおおおおおおっ!!!」
アルグリードさんの声に呼応するように兵士の人達も声を張り上げ、前に進んでいく。俺もアルの上に乗り、後を付いて行きながらランパード・シィゲラを探す。特徴が真紅の髪に槍を持っているそうなので直ぐに見つかると言っていた。
探していると比較的早く槍を振り回す紅の髪を持つ男を見つけた。兵士の人達を薙ぎ倒しながらそれでも何かを探しているように見える。
そして、俺と目が合うとニヤリと笑みを浮かべ、こちらにやって来た。
「あんただな? 下層クラス三体を単独撃破したレインってのは」
「ええ、そうですよ。そう言うあなたは四元帥の一人、ランパード・シィゲラですね?」
「分かってるんなら話は早い。さぁ、やろうか」
敵味方関係なく一気に俺とランパードの周囲から離れる。それによって即自的な広場となり、全員が観客モードに移動した。アルグリードさんも同じでしかも最前列で見る気満々だ。
「お、他の奴らもそう思ってるみたいだぜ?」
「……はぁ。良いでしょう。ただし、殺しは無しですよ?」
「ちっ。……良いぜ。さぁ、行くぞ!」
言うな否やランパードは突進してきた。俺も剣を抜いて臨戦態勢を取る。
ランパードの突きを剣で流す。随分と重い一撃だな。重心がしっかりしていてブレてないから威力が直撃するんだよ。槍の扱いはかなりのようだ。
何とか流した俺はその勢いで懐に潜り込もうとする。しかし、ランパードが立て直した槍の払いが来たのでバックステップで回避。今度は水や風の初級魔法と合わせて攻める。ランパードは水なら火、風なら土と属性で相殺して冷静に対処された。
俺はその時に生まれた霧で背後に回る。だが、その前に一振りで霧を晴らしたので足を止める。……気配感知のスキルは無し、っと。
今度はランパードが攻めて来て、突き、様々な方向から斬りに来たりと怒涛の連撃を繰り出して来る。その一つ一つが殺意が込められていて、殺す気満々なので堪ったもんじゃない。それにさっきのお返しなのか、魔法も加えて来て面倒な事この上ない。
長くしたく無いので今まで見てこなかったステータスを鑑定(極)で見る。なるほど、ランパードは確かにアルグリードさんよりも一回り上だった。
【ランパード・シィゲラ 男 38歳
レベル92 人族
HP・9654/9654
MP・4230/5040
力・5004
体力・4400
防御・2631
精神・4605
敏捷・6780
魔攻・2980
魔防・2775
<特殊技能>
槍の申し子、HP回復
<スキル>
魔力操作、身体強化、槍術、杖術、斧術、剛力、気配察知、炎纏槍
<魔法>
生活魔法、火魔法、土魔法、炎魔法、溶岩魔法、火炎魔法】
【アルグリード・フォン・フェスフォルト 男 32歳
レベル69 人族
HP・5284/5284
MP・4700/4700
力・3501
防御・3169
精神・3120
敏捷・3400
魔攻・3726
魔防・3506
<特殊技能>
火魔法属性適正(大)、先見の目
<スキル>
魔力操作、身体強化、剣術、体術、礼儀作法、観察眼、気配察知、火炎剣
<魔法>
生活魔法、火魔法、土魔法、炎魔法、岩魔法、溶岩魔法】
現状のアルグリードさんを見てもやはり一回り強い。それにしても思ったんだがアルグリードさんの『火炎剣』と言い、ランパードの『炎纏槍』と言い中二臭い。とは言ってもこんな世界にいる以上、仕方のない事だが。俺はその手のスキルを得ない様にしよう。
「くくっ。強えぇな。だが、まだ本気じゃないだろう? 俺も本気を出すからそっちも出せよっ!」
そう言ってランパードは槍の刃に炎を纏う。どうやら先ほどの炎纏槍みたい。それと同時に地面から土の槍が伸びて、周囲からは火炎系の魔法が飛んで来る。俺は『風の鎧』で身を包み、『飛翔』で土の槍を避ける。火炎系の魔法は水の魔法で相殺する。『風の鎧』は対処しきれなかった場合の保険だ。
ランパードを見るとニヤッと口角を上げ、再度突進してきた。
今回の攻めは槍の攻撃だけではなく、魔法と合わせて使って来る。魔法には魔法で対抗し、槍は流したりしながら回避する。しかし、攻撃速度がこれまで以上に早く、スキルも並行思考や気配感知、観測に若干立体機動も使う。
まぁ、そんな高速で動き続ければ息が早く切れるのは当然と言える。俺はランパードの動きが鈍り始めた所で一気に攻勢に出る。
俺は刀に風を纏い切れ味を上げる。ふと、アルグリードさんを見ると驚愕と……歓喜の様な表情が見えた。後で聞こう。
次に最大ステータスの中でも半分の本気を出す。雷魔法の『雷光の靴』もある事からアルグリードさんやランパードも含め、全員俺が消えたように見えたと思う。前に実験でアル達とやった事があるが、アル達も全く反応出来なかった。
瞬間的にランパードの横を取った俺は刀で槍を斬った。それも刃と柄をそれぞれバラバラにして。これで槍は使えないだろう。
少し遅れて気付いたランパードは焦って周りを見渡すが、既に死角にいるので見つけられない。焦れば視野も狭くなるので尚更だ。
そんな状態のランパードの横っ腹に峰内を叩き込む。普通は吹っ飛ぶんだが体を九の字にさせてその場に倒れこんだ。手加減はしたし、命に別条はないと思うのだが念の為、調べてみる。……ふぅ。良かった。生きてる。
確認を終えた俺はアルグリードさんの元に近づく。アルグリードさんはちょっと固まっていたが、元に戻ると笑顔で祝福してくれた。余程嬉しいのだろう、抱き締めて涙を流すくらいだ。
実は俺とランパードとの決着がついただけであって全体的には殆ど変わってないのだが。……と思ったらそうでもないらしい。敵は唖然とした状態から戻るとランパードを連れて帰ろうとしているし、味方の兵士の人達は歓喜の声を上げている。
リーフェスさん達もやって来て事態を知ると凄く褒めてアルグリードさんと同じ事をする。
「流石だ、レイン。倒せるとは思っていたが、本当に出来た事に誇らしさを感じる」
「ねぇ、リード。いつ発表させる? もうこれで実績は十分よ」
「そうだな……街に戻ったら即しようか。反対する者は誰もいないだろう」
「あの……」
「……だが、王女様の件もあるぞ? そっちはどうしようか?」
「……まぁ、なるようになるんじゃない? 何なら王女様に決めさせればいい訳だし」
「……それもそうだな」
……俺に発言権は無いらしい。まぁ、どう転ぼうが婚約は確定してしまったようなので逃げようも無いんだが。いや、物理的には逃げれるが精神的には……至難と言わざる負えない。まぁ、つまり逃げられないという事だ。
それと前回はこんな落ち着いた時にこそ、何かしらのそれもこれ以上に面倒くさい事が起きそうなんだよなぁ~。
後に思ったが、それを思ってしまったのが悪かったのだが、言わなくても余り変わらない気がしてならない。……やはり面倒な事になった。
『主様!!』
まさか、この流れは……
『帝国の兵士が攻めて来ました! 数が物凄く多く、およそ十万近いと思われます! 流石にこの街だけでは対処しきれません!!』
案の定、前回と同じそれもアルトラ達とミーナ達が連れ去られた時がまとめて来たような感じである。
「ちっ。……厄介事を持って来やがって」
かなり小さい声だったので気付かれていないと思うが、ランパードとした事で疲労は結構あるので早く休みたいのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
二人からの抱擁を外し、フェスフォルトの街が攻められている事を二人に話し、『扉』でフェスフォルトの街へと向かう。
城壁の周りには帝国の兵士が大勢いて、街は現状ぎりぎりの状態だった……
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