二十一話 二人と開戦前夜
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ニナの言う通り、家はお世辞にも綺麗とは言い難いちょっと汚い所だった。
「てつ……だわせ……て……しまい……すい……ません」
「謙虚なのは良いと思うけど過ぎると嫌味に取られるよ。ニナは綺麗なんだから少しは自信持った方が良いのに」
「そん……な……私……なんか……が」
「とは言ってもいきなりは難しいだろうし、ゆっくりと慣らしていけば良いよ」
俺の考えも何年もかけてようやく少しはマシになったくらいだ。根付いた人の考えはそう簡単には変わらないだろう。
家の中にはそんなに多くの物はなく、最低限と言ったものだ。俺はニナの後に続き、服をニナの部屋に置いてリビングに移動する。せっかく来たのでゆっくりして欲しいとニナから言われ、ちょっと休憩する。
改めて家を見回してみると物は少ないが綺麗にされていて、不潔感は無い。寧ろ個人的には好みだ。前世が似たような所だったから親近感が湧くな。
家の感想をニナに言うと少し顔を赤らめて照れる。……うん。普通なら男は全員落ちるな。雰囲気とかも含めて将来は聖女とか言われそうだ。
ん、俺? 俺はニナと同じ様な美少女がいるから耐性があるよ。それに前世の頃からで自身がそこまで自惚れる必要が無いからね。今までの人生でただの一度も恋愛感情を抱いた事は無いよ。
ニナと談笑していると家の中から弱々しい気配がした。それを感じた時にニナは顔を青ざめ、その気配の場所に走る。俺が後を追うのにも気付かず、やって来た場所には一人の女性が横たわっていた。
息はあるが弱い。気配もかなり小さく、普通に過ごしたのでは気付かない可能性もあるだろう。
「ニナ、その女性は?」
「私の……おかあ……さん」
よく見ると確かにニナの面影がある。髪とか顔のつくりとかな。事情を聞くと病気に罹ったそうだ。それが強力な奴で治すにはかなりのお金が必要となる。しかし、当てもなく衰弱していったらしい。
視てみると確かに状態が【病気】になっている。医学は生憎と詳しくないので病名などの強い弱いは分からない。
まぁ、どうせ回復魔法の『月の雫』で治るし良いか。『月の雫』は病気を完全に治す魔法だ。病気によって消費魔力が変わるが、この程度なら問題ない。魔力に関してはとっくに人外だからな。
任せて貰い、ニナと場所を変わってニナのお母さんの方に手を出す。無詠唱(極)のお陰で詠唱を言わず、心の中で魔法名を言うだけで済むのは楽だ。
発動した『月の雫』の光が降り注ぎ、ニナのお母さんを包み込む。光が消えた後に視てみると【病気】の部分が消えている。多分大丈夫だろう。俺はニナと再び場所を変わり、促してみる。
『月の雫』使用後かなり早めにニナのお母さんは目が覚めた。
「……うん? ……あら、ニナ。私いま凄く調子が良いみたい。まるで治ったみたい……そちらの方は?」
「初めまして。僕はレインと言います。この街に来たのは初めてだったので偶然出会ったニナさんに道案内をして貰いました」
「ご丁寧にありがとう。でもね、レイン君。ニナは私以外のそれも男性とは話す事が出来ないのよ。それをニナの判断で家に連れて上がるとなると……」
「光栄ですがそれは無いでしょう。僕の方が釣り合いません。それにニナさんの服を運んで来た時に上げて貰いましたので」
都度、ニナのお母さんの言葉に反論するがそれを受け流して言って来る。ずっとこの調子なので帰るタイミングを見失ってしまった。まぁ、お大事にと言って帰ればいいのだけれど、目覚めたばかりとは思えない程の強い視線でこちらを見て来るので……その機会がね。
ニナのお母さん、ヘレナさんが目覚めた時からニナはずっと泣いていたので近くのイスを取って来てそこに座る。ヘレナさんは満足そうに頷き、お礼を言ってきた。
「さてと、まずはお礼を言わなくちゃ。私を治してくれたのはレイン君でしょう? 話は聞こえていたし、あの時もちょっと意識はあったのよ。誤魔化そうとしているけれど騙されないわよ。まぁ、ともかくありがとう」
「そうだったのですか。しかし、親子水入らずの時間は取る訳にはいかないでしょう? 僕はこれで……」
「まあそう言わずに。ニナはこの通りだし、お話を楽しみたいわ。それよりも敬語は使わなくていいのよ。ニナにもそうだったでしょ」
結局はタメ口になったが時間が本格的にヤバくなって来たのでお暇させて貰った。ちょっと焦った様に言うと了承してくれた。
玄関までは泣き止んだニナが見送ってくれてその家を後にした。
***
宿に戻る頃には結構日が落ちていて、アルグリードさんからは少しお小言を貰って許された。……意外と少ない。アルは宿を出た時に好きに行動させていたのでまだ戻って来ていない。
その後、夕食を摂り、体を綺麗にして部屋に戻る。俺の事もあって直ぐにアルグリードさん達の部屋に行く。
「来たな。話し合うと言ってもそんなに長くはない。明日、レインに倒れられたら大変だからな」
「それに話し合うのは明日の事では無くて今日の事よ。宝石店にいたそうね。リードから聞きました。何を買ったのかしら?」
アルグリードさんに視線を向けるとばつの悪そうな表情をするも知りたいと顔に書いてあったので冷ややかな目を向けておいた。リーフェスさんは態度が早く知りたいと主張している。
……まぁ、隠した所でバレるのは時間の問題だし、遅いか早いかの違いだけか。
結果的に何の宝石を買ったのか根掘り葉掘り聞かれ、全てに答えたら案の定、二人はにんまりと笑みを浮かべ優しい目を向けた。俺はせめてもの仕返しにアルグリードさんに何を買ったのか聞くとリーフェスさんも含め顔赤くして……思った以上に良い仕返しになった。
ちなみに買った物はディスタンディリーブ。意味は『変わらぬ愛を』だそうだ。
恥ずかしさの余り感情が振り切ったのか二人は俺がいるのも憚らずにイチャつき始めたので、空気を読んですっと部屋から出た。気配遮断も使い、細心の注意を払った上で。少し経った後に隣の部屋から気まずい空気が流れて来たのは言うまでもない。
自分の部屋に戻って来た俺は今日買って来た小物と宝石を取り出し、机の上に置く。それとフェスフォルトの街で手に入れていた鉄の塊も出し、こっちはチェーンや細々とした物に変えていく。
ここまで言えば分かると思うが現在作っているのはアクセサリーだ。それも俺が作ったので恐らくはこの世界で唯一物だろう。それで気を紛らわせてくれれば良いんだが。
ミーナとフェルナにはネックレスを、リリィには髪飾りにシュシュをちょっと改良した物を、王女様には髪飾りを。宝石には総じて中に文字を刻み、全てに付与効果を付けた。髪飾りも二人の特徴に合わせてデザインしてある。シュシュにもワンポイントを付けた。
それもこれも全て調合と魔道具作成が(極)となったチートステータスのお陰である。作り上げた時には……もう、口にするのも馬鹿らしい。一先ず、素晴らしい物でした。神さま……覚えていて下さいね?
「ふぅ。意外と時間が掛かった。そろそろ日を跨ぎそうだし、寝ようか」
『主様。少しお時間を頂けないでしょうか?』
「どうしたアル?」
一通りやるべき事を終えて寝ようかとベットに歩いていた所にアルが音もなくやって来た。気配を感じられなかったので黒狼はそこも強くなったのか。
アルの成長に感慨深い物を覚え、心の中で涙しているとちょっと申し訳なさそうにアルは申し出て来た。
『プリムリアは今回、この街に攻めて来た目的とは別に目的があるようです。お気を付け下さい。それと……この少女なのですが』
「先……ほど……振り……ですね。この……子……が……気に……なった……ので……ついて……行っ……てみた……ら……会える……と……は……思い……ませ……んで……した」
昼間の時とは服装が全く違う。着ている黒い装束はまさに暗殺者……。気配も怯えより殺気が目立つ。小さいが外にはもう一つ気配があり、こちらも見覚えがある。
ニナに少し待って貰って窓から外を見るとやはりニナのお母さん、ヘレナさんの姿があった。
「あらレイン君。という事はさっきの黒狼はレイン君のかな?」
「そうですよヘレナさん。ですが意外でした。まさかお二人が……帝国の諜報員だなんて。この宿もアルグリードさんがいるから来たんでしょう?」
「バレちゃったら仕方ないわね。お邪魔させてもらって良いかしら?」
まずは俺の部屋に来て貰う。ヘレナさんが入って来た時に風と空間魔法で部屋を覆い、誰も出られない様にした。それに気付いたヘレナさんは観念したみたいにイスに深く座る。
「やっぱりダメか……それでどうする?」
「そうですね……こちらに寝返るというのはどうでしょうか? ……帝国には酷い扱いを受けている可能性もありますし」
俺の提案にヘレナさんは表情を変えずにしかし、ニナは驚きの表情を浮かべる。かまを掛けてみたんだが、当たりだったようだ。
実は今回、この街に来る際にアルグリードさん達から詳しい話を聞いていた。ルーデラウスは王都の次に広い分、スラムの様な場所もある。だが、ニナたちの住んでいた様な場所まで酷い所はない。現に案内して貰っている途中、そこまで酷くはなかった。前に『ちょっと貧しい』と言ったが、そうではなく『最底辺』だった。
嫌われているのかなとも思い、家の中を探ってみた。するとその時に気配でも虫たちの『共有』でもおよそ最も貧しい家とは思えない武器の種類と数、プリムリアに関する書類が豊富にあった。
だから、プリムリアのスパイなんだと分かった。他にも家の中では常にニナが傍に居たし、帰り際にヘレナさんが俺を監視するように言っていたのを聞いていたので、確信がいった。
その上であの生活ならば良い扱いは受けていないと納得がいく。そういうパターンの可能性もあるが、自ら自白してくれたので間違いはない。
それを一部を伏せて説明するとヘレナさんはお手上げみたいに両手を上げて頭を左右に振った。
「参ったわ。そこまで知られたらレイン君を始末するしかないのだけど、勝てる気がしないし、何よりもニナが心を許しているようだし……でも、寝返る事は出来ないわ」
「それはまたどうして」
ヘレナさんによると旦那さんと妹の命を人質にされているらしい。その為、任務に逆らう事が出来ず、それに報酬も少ないので同僚からは蔑まれ、このような生活をして来たそうだ。
この話を聞いたのがフラグだったのだろう、ヘレナさんはこの任務が終わったら旦那さんと妹さんを返して貰えるらしい。望みは薄いと思うが……。
ヘレナさん本人もそのように言っていた。この間、ニナはずっと突っ立っていた。
また、ニナが人と話すのが苦手なのは小さい頃に一家まとめて酷い事をされた結果らしい。それを聞いたニナは思い出したのか泣いてしまったのでヘレナさんの傍にいさせた。
……ふむ、方法はあるにはあるが、中々どうして大変な事になる。果たしてどうしようか。……ミーナの件。今度は何をやらされるか分かりたくもない。
ある意味板挟みになっている俺を見てヘレナさんは微笑んだ。そう言えば純粋に笑うヘレナさんは初めてだな。
「……どうしたんですか?」
「ふふ。いえね、何を悩んでいるのかおかしくって。ふふっ」
「実は僕、元孤児なんです」
「あら……」
「別に今はアルグリードさん達がいるので大丈夫ですよ。ですがその時の僕とちょっと重なって見えて……ですが心配を掛ける訳にもいかないですし……」
「それなら私達の事は切れば良いでしょう。仮にもレイン君の大切な人を殺そうとしたのよ」
「普段ならそうですね…………よし、決めました。ヘレナさん達の旦那さんと妹さんを助けましょう」
「それで……良いの?」
「大丈夫です。覚悟は出来ました」
覚悟の内容は敢えて言わない。言わなくても確定してるんだが余計に酷くなりそうな気がして……。
ヘレナさんには有益な情報を持って帰ってもらう。これにはアルグリードさん達にも協力してもらうつもりだ。
後は……こうしよう。その後の事も決め、早速アルグリードさん達に来てもらう。
「……何だ、レイン。寝ないと明日に響くぞ」
「アルグリードさん敵襲です。しかし、安心して下さい。無力化しました。少し事情があるので来てもらって良いですか?」
「何!? ……分かった。直ぐに行こう」
寝ていたリーフェスさんも起こして、俺の部屋に集まる。ヘレナさんとニナを見た時に二人共驚いていたが、二人の話を聞くと速攻で了承してくれた。
全てが終わったらこちらの国に亡命する事を決め、詳しい事まである程度突き詰めるとアルグリードさん達には戻ってもらった。勿論、当たり障りのない内容で終わらせ、違和感を感じない程度にだ。
二人が戻った後、もう少し話を進め二人には帰ってもらう。必要な情報は渡してあるので任務も大丈夫だと思う。
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