二十話 砦の街ルーデラウス
活動報告にもありますがこれからは日曜に二話、それ以外は基本毎日一話投稿です。呼んでくれる方は応援の程お願いします。
夜が明け、目が覚めるとミーナだけでなく、王女様も抱き着いていた。寝ている間に潜り込んだようだ。二人共目が赤く腫れ、寝ていても泣いていたのが分かる。
俺が体を起こすと気が付いたらしいミーナがムスッとした顔でこちらを見ていた。
「お兄ちゃん、考え直してくれないの?」
「国を奪われたら意味がも無いからね。まぁ、街を守った事が国に広がるだけだ。それに僕の強さを知っているなら負けない事ぐらいは分かるだろ?」
「でも……」
「落ち着けって。別にミーナの前から居なくなったり、とかしないから。また心配は掛けてしまうけど……お願い」
とても嫌な顔をされるが、お願い一回で手を打ってくれた。これなら参加するもしないもどっちも変わらない気がするなぁ。命と貞操の違いはあるけど。
起きて来た王女様にも同じ事を確約され、完璧なタイミングでリリィとフェルナがやって来た。話を聞いていたらしいリリィはにんまりと笑みを浮かべ、フェルナにも同じ約束を付けさせられた。
結局、前回とあまり……と言うか、寧ろ酷くなってしまった。……考えるのはよそう。無駄なだけだ。
その後、支度を終え、馬車に向かう。そこには昨日の宰相を除いた全員が揃っていた。
「ラミリア。ミーナ君とは仲良くな」
「はい、お父様」
「レイン君が帰って来たら……頑張りなさい」
「……はい、お母様」
国王様と王妃様、王女様は軽く挨拶を済ませ、馬車に乗り込んだ。一部王妃様から不穏な言葉が聞こえたが、全力で無視させてもらった。
ミーナはアルグリードさん達と話す気はなく、ずっと俺にしがみついたままだ。
「そろそろ離れろって。約束の方は守ってやるから」
「それは絶対だけど、やっぱりやぁ~」
随分と図々しい妹様である。こうしていたら時間が無駄に過ぎるだけなので強引に離す。それでも離れようとしないミーナを抱き上げ、連れて行く。
途中、物理的に他人から見えない様にしてミーナの額にキスをすれば、少し納得いかない表情で渋々ながら乗り込んだ。
フェルナの耳も軽く弄り、馬車はフェスフォルトの街へ出発した。姿が見えなくなると国王様たち大人がほっ、と一息。ついでこちらに話しかける。
「……行ってしまったね。寂しくは無いか?」
「大丈夫ですよ。帝国と戦うと言ってもそこまで時間は掛からないでしょう。掛かるとすれば来るまでくらいですね」
「達観してるな。リード、レイン君は本当に子供か?」
「あぁ。その疑問は改めて思った。子供とは思えないよ。特に五歳とは」
国王様やアルグリードさん四人から呆れの視線を向けられる。その視線は無視し、とぼけてみせた。それで無駄だと判断したのかアルグリードさんは王城に戻って行った。
***
ミーナ達が出発してから数時間後。俺もアルグリードさん達と一緒に馬車に乗り込んでいた。この場合は見送りなんてものはなく、静かに出発する。
最初に来た時とは反対側に進み、門を潜る。王都には北と南の二ヶ所に門がある。帝国が攻めて来た時に反対側から逃げやすくする為らしい。あと、兵力を集めやすくする目的もあるみたいだ。
王都からプリムリアに対抗する為の街、砦の街ルーデラウスには三日掛かる。国王様によると開戦は四日後なのでかなりギリギリだ。
今回はアルのみを連れて行き、ドーレ達はミーナ達の護衛に就かせた。四体なら前みたいな事は無いだろう。どうも、帝国が迷宮と俺だけが理由とは思えないんだよな。過去には他国の王女を攫ったとも聞いたし。
特に何かイベントがある訳でもなく、順調にルーデラウスまでの道を消費していく。見張りはアルが黒狼になった事で本格的に必要なくなった。黒狼は夜に強く、睡眠も意識を残したままなのでアル以上の敵でないと危険な事にはならない。
しかも、アルと拮抗できるのはドーレ達ぐらいでアルトハイム王国内では危険はほとんどないと言える。
そんなこんなでルーデラウスまでは後数時間。アル的にはちょっと声が聞こえるそうだ。黒狼になって五感も軒並上がっているらしい。便利である。
俺は馬車の移動中魔法の練習くらいしかする事がなかったので、特殊技能やスキルが幾つも(極)になった。例で言えば、魔力回復増加、魔力操作、緻密操作、MP回復だ。
武器や道具も作ったりしたのでその手のスキルも(極)になった。
魔法自体も空間魔法の『扉』まで移動系は使えるようになったので夜にミーナの様子を見に行っている。
気配遮断のお陰で俺に気付きはしないが、触れれば安心した様に顔が緩む。俺みたいな奴でここまで喜んでくれるのにむずがゆさを感じつつも、嬉しい。……やっぱり、この考えはそう簡単には消えないらしい。
今回で(極)になったスキルを見ながら遠くの景色を眺める。いやはや、今日も空は晴れて良い物だ。
【魔力回復増加(極)】
…回復速度が上昇。精神に補正あり。
【魔力操作(極)】
…魔力消費が五分の一になる。
【無詠唱(極)】
…キーワードを心の中で思うだけで魔法が発動できる。
【緻密操作(極)】
…通常よりも少ない魔力で魔法が発動できる。
【MP回復(極)】
…回復速度が上昇する。
【武器作成(極)】
…強度が上昇する。中確率で付与が付く。
【魔道具作成(極)】
…ランダムで付与効果が確実に付く。
【魔力弾(極)】
…半分の魔力で作り出すことが出来る。連射が可能。
数値も魔力関連がまたとんでもない事になったが、隅に置いた。見ている間にやって来たアルの背に乗り、現実逃避気味に毛並みを堪能する。アルも嬉しいと『共有』で伝えて来た。俺は首元を撫でてやった。
アルと戯れているとようやくルーデラウスが見えて来た。固く分厚そうな城壁に囲まれ城塞都市と言えそうだが、あくまで砦らしい。
ルーデラウスの城壁は目測で二十メートルくらいありそうだ。今はプリムリアが攻めて来る事で空気がピリピリしている。門番をしていた兵士達も態度が少し硬い。緊張しているのかもしれない。……いや違う。アルグリードさんに感動しているんだ。何と言うか精神は強いんだね。
やはり精神的に強かったのは兵士だけらしく、街の中の人達はちょっとピリピリしていた。表情も硬く、怯えもある事から怖いんだろう。確かに負けた場合は全てを蹂躙されるだろうしなぁ。
と思っていたら中にはアルグリードさんやリーフェスさんを見て尊敬の眼差しを向けている人もいるので案外、大丈夫なのかも。まぁ、この街に住む以上、そういう覚悟が無ければ今頃はパニックになってもおかしくは無いだろうな。
眺めているとこの街で泊まる事になる宿『癒しの家』に着く。俺はアルグリードさん達に子供の様な態度で続く。俺はまだ五歳だからな。重要な役を俺が務めているとしても笑われるだろうし、それならこうした方が厄介が少なくて済む。
アルグリードさんが手続きを済ませ、階段を上がっていく。アルも一緒だと止めに入られたが、大丈夫な事を証明するとあっさり了承された。危険が無ければアルみたいに従えていても問題ないらしい。
部屋は二〇四と二〇五。アルグリードさんと俺、リーフェスさんで別れる。部屋分けにちょっとからかって見たら思った以上にあたふたされた。……大人だろう。仲が良いのは良い事だが、もう少し落ち着いたらどうだ?
珍しく顔を赤くして慌てる二人から二〇五の鍵を奪い取る。そしてそのまま俺は部屋に入る。気配感知で二人が部屋に入ったのを確認すると一息つく。
ダミー用に持って来た袋を適当に放り、ベットに横になる。その後二人の初々しい反応を見てちょっと微笑んだ。
まだ昼頃なので街を探索しようと体を起こすとアルグリードさんが入って来た。
「……本当に良かったのか? 何ならリースと一緒でも良いんだぞ?」
「一人でも大丈夫です。仲が良い二人が一緒の方が色々な面でよろしいと思います。夫婦の営みは大切ですしね」
「…………リリィからか」
「それと書斎にそう言う事を説明した物がありました。しかし、それが本題では無いんでしょう? リーフェスさんも隣にはいないようですし」
アルグリードさんは溜息をついて頷く。さしずめ、心中は何で分かるんだ! といった所か。はてさて、どんな事かな? 明日の事は夜に話せばいいし。
「レイン。そろそろミーナの気持ちを認めてはくれないか? レインのミーナへの言動には少し距離を感じる。褒美の時もそうだ」
「……僕はリリィやフェルナを含むフェスフォルト家に深い恩を持っているんです。婚約も褒美の件もそれを返したいからです。それに僕は両親に捨てられたからか、人の気持ちを簡単には信じられない。それにミーナには僕よりも相応しい人がいると思います。婚約もそれまでの限定的な物ですよ」
「分からなくはないが……まぁ、それは本人たちが決める事か。それと街を見て来るといい。何か土産でも買った方が良いと思うぞ」
「今からそうしようと思っていたんですよ。まぁ、何か買わないとミーナは機嫌を悪くしそうですしね」
ミーナだけでなく、フェルナや王女様、それとリリィの分も買っておかないと煩そうだ。俺はアルグリードさんと外に出て、鍵を預ける。アルと一緒に一回まで降り、外に出る。
宿を出る際に話を聞いて小物が売っている店を幾つか聞いた。受付をしていた女性に宝石を売る店もついでに教えて貰った。曰く、女の子はその手の物を喜ぶそうだ。……俺は一切話した覚えは無いんだが。これが女の勘と言うものかな。
宿を出て直ぐに小物を売る店に着いた。店内に入ると女の子に受けそうな小物が並んでいた。シュシュ、カチューシャ、リボン、ネックレスなど様々だ。中にはメイク道具らしきものもあって何とも言えなくなった。
俺は皆に合いそうな物を複数選んで買う。買う時に優しそうな目で見られたので気付かない振りをした。意外と恥ずかしいんだな。
次の店では小さめのぬいぐるみを買った。それと針と糸を買った。そして、宝石を取り扱う店に入ると意外にもアルグリードさんがいた。
「あれ、アルグリードさん。誰かにお土産ですか?」
「レインか。まぁな」
その後は俺が入って来た時に訝しんでいた店員さんも不問にしてくれたようで随分と楽に出来た。
俺はミーナにエウィーデンクという宝石を、フェルナにはエインウェルプ、リリィにはウェルシエング、王女様にはコルキニだ。代表的な意味はそれぞれ『一途な思い』、『甘えたがり』、『感謝』、『高貴』となる。色は紅、ピンク、黄緑、ワインレッドだ。
アルグリードさんとは何を買ったか互いに言わないようにした。
店を出た俺は店員から近くで市が開かれている事を聞き、向かった。市は広場にあって様々な露店が出ていた。
俺は食べ物を中心に周り、他の露店も十分冷やかした所で帰ろうかと視線を巡らせたら路地裏みたいな所で誰かが絡まれていた。
「い……や……。やめ……て」
「平民風情が調子に乗るな!」
「そうだ! シリウス様の服を汚しやがって!」
「何をしてるんだい?」
「なんだ貴様!?」
近づいてみると俺よりも一、二歳年上の少年二人が一人の少女を罵詈雑言を吐き、蹴り倒していた。少女は蹴られたせいか服が汚れ、見るも無残な感じになっている。それが前世の俺と相まってつい声を掛けてしまった。
「僕はレイン。その子が何かしたの?」
「そいつがシリウス様の服を汚したんだ。その罰をしているのさ」
「シリウス様はこの街の領主の息子で素晴らしいお方なんだ。この後は弁償として金貨十枚を出して貰う」
「そん……な……お金……ない……」
「無いなら身を粉にして働け!」
「まあまあ。お金なら僕が払おう。それで良いかな?」
俺の発言に三人は驚いて固まる。……あぁ、そうか。金貨って一枚でもかなりの額だからな。色々と思う所があるんだろう。金銭感覚がまだ狂っているな。早く治さないと。
「ふざけるな! そんな大金ただの子供が持ってる訳ないだろ!?」
「そうだそうだ! 嘘をつくな!」
「嘘じゃないんだけどな。まぁ実物を見せた方が良いか」
そう言ってお金を入れている袋から金貨を十枚出す。それを見た少年二人は目を見開き、少女も驚いている。
金貨を少年Aに渡そうとしたら後ろからこちらに来る気配がしたので振り返るとイケメンがいた。
「ライル、ルタ。止めろ。俺は別に気にしてなどいない。汚れたら洗えばいい。それにしても君は?」
「僕はレインです。しかしそうですか。貴方がこの街の領主の息子であるシリウス様なのですね」
「そうだ。……普通はそこの少女みたいな反応をするんだがな。まぁ、いい。……悪かったな、内の者が迷惑を掛けて」
「……い……え。だい……じょ……う……ぶ……です」
紅の髪に少しくすんだ金色の瞳、外も中も良いようだ。これならモテるな。シリウスは少女にそう非礼を詫びてライルとルタと呼ばれた少年を連れて行く。残ったのは俺と少女の二人だ。
俺は少女を『清掃』を使って汚れを落とし、布で拭く。それと収納箱からミーナの服が見つかったので、空間魔法で少女の周りを区切り、布をカーテン代わりにする。その後、少女に着替える様に言う。
初めは躊躇していたみたいだが、途中から衣擦れの音が聞こえ、着替えているのが分かった。……不可抗力です。チートステータスがやりました。俺は無実です。
『清掃』では汚れが完全に落ちなかったので綺麗な水を作りだし、石鹸も合わせて使ったのが功を奏した様だ。見違えるほどに綺麗になった。
綺麗な金色の髪に翡翠色の目で表情全体にも丸みがあり優しいイメージがする。
「あの……ありが……とう……ござい……ます」
「気にしないで。じゃあ、僕はこれで」
「ぁの! ……お礼……を……したい……です」
必死に声を上げて止めて来るので止まって振り返る。どうやらお礼をしたいそうだ。だが、別に何かして欲しい事も無いし……どうしようか。……そうだな、じゃあ、この街を案内して貰おう。もしもの時に地理は知っておきたいし、何か掘り出し物があるかも。
この街の案内を提案すると再び驚かれ、次いで頷いた。
***
それから二時間ほどこの街を色々と案内して貰った。所々に避難場所があり、改めてこの街が砦であると知った。それと街の構造が攻め難くなった作りで分かれ道が多かった。
俺はこの街の地理を覚えながら色々なルートを検索する。
案内して貰った時に幾つか店に寄ったが掘り出し物は無かった。残念だ。それと寄った店の一つに服屋があったのでニナに似合いそうな服を選んで買った。遠慮がちだったのでちょっと強引に受け取らせ、家に服を置きに向かう。時間的に最後だと思う。
……そう言えば少女はニナと言い、平民の中でもちょっと貧しい層の人だそうだ。
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