十九話 開戦宣言と四元帥
「実はな、いきなりプリムリアから開戦宣言をされて少し慌てておるのだ。しかもそれが届いたのが二日前で余計に混乱していてな」
国王様が言った本題の内容はプリムリアと戦争になった事であった。それもプリムリアからの一方的な宣言。どうやらその所為で婚約云々の詳しい事は話し難かったのだと思われる。俺には婚約も必要ないと思うが。
国王様が王女様を貰って……って言っていた時に、ちょっと嫌そうな顔をしたからな。俺は娘を渡したくないんだと思ったんだが、違ったらしい。
アルグリードさん達は国王様からそれを聞いて、顔をしかめた。王族サイドも同じ顔をしている。余程、面倒らしい。聞いてみるとそれはもう溜息をつく様に教えてくれた。……いや、実際、溜息をついていた。どんだけだよ。帝国プリムリア。
帝国プリムリアは軍事国として大陸では有名だし、その力も大陸トップクラスだ。前の皇帝は武力よりも話し合いなどを優先させて他国と関係を気付いていたんだが、現皇帝に変わってからは武力優先となり、基本的に将軍以上の幹部は戦闘能力が高い者が選ばれるようになった。それと同時に上の者が踏ん反り返り、下の者がそれに従わないといけない様になってしまった。今まではそんな事は無かったらしい。だから余計面倒になってしまった。
プリムリアの中心、帝都も含める近い都市はそれが顕著で、一部では処女権、なんて冗談みたいな規則も存在するそうだ。
ちなみに処女権と言うのは女性の初めてをその都市を治める人物が頂く、と言うものだ。地球でも空想上にしかないのに、馬鹿なのだろうか? しかも、例え恋人関係であろうが、夫婦になっていようがお構いなしで、見染められた暁には夫人、もしくは妾として関係を持つ人とは別れなければならない。
その規則を破った者は両者、生きるよりもつらい目に会うらしい。クズですね、分かります。
「で、狙いは……迷宮か?」
「そのようだ。それとレイン君も渡せ、と。迷宮竜を含める下層クラス三体の単独撃破は大きいみたいだ。それを何時知ったかも気になるんだが……」
途中リリィからプリムリアの話を聞いていたらいつの間にか対策の話まで進んでいた。
俺は説明されながらアルグリードさん側のイスに座り、参加する形になった。ミーナ……王女様も同じイスに座る。子供はダメと思うんだが……関係ないらしい。
二人はしがみついたまま離れようとしない。力も強く、しかし震えている。撫でれば落ち着くのだが、止めると震え出すので撫で続ける羽目になった。王女様は心配や不安なんだと何となく分かるが、ミーナの方は……怖いんだろうなぁ。迷宮が暴走した時みたいな事が起きて欲しくないんだろう。
二人を撫でながらも話は進んでいき、最終的には対抗する事で決まったようだ。何でも話し合いになったら何が起こるか分からないのでそっちの方が厄介だそうだ。
しかしこの宣言後、帝国の調査をさせてからこの戦争にはかの四元帥の一人が参戦するとなってアルグリードさんはさらに顔をしかめている。
四元帥と言うのは帝国プリムリアが持つ最強勢力だ。アルグリードさんよりも強く、この四人のお陰で大陸有数となっているとも言われる。例で言うなら、下層クラスを一人で倒しても少し余裕があるくらい。
開戦宣言を聞いた時から予想はしていたがやはりその通りになった。『これから』って本当にこれからなのね。神どもを殴りに行きたい。
「……レイン君。君にもこの戦に参加して欲しいんだ。下層クラスを三体倒せる君なら可能だと思う」
「ダメ! お兄ちゃんは行かせない! お兄ちゃんが行くなら私も行く! ……もう、あんなのは嫌だもん」
「ええ、そうです。お父様、それは許しません」
「本当は私も行かせたくはない。せっかくの娘の相手だ。相当知恵も回るようだし、リードの身内となればな尚更な。だが、勝たなければ全てを奪われる。領土も、金も、人権すらもな。レイン君は帝国にこき使われ、二人は知らない誰かと添い遂げる事になるぞそれでも良いか?」
「「う……」」
「落ち着けって。……国王様、良いですよ。参加しても」
三者三様驚きの反応を見せる。まぁ、国王様は好意的に、二人は否定的にの違いはあるが。
暴れる二人をちょっと強引に止め、眠り粉で眠らせる。リリィとフェルナに頼んで二人には寝室に連れて行って貰う。そうして残ったのは国王様、王妃様、アルグリードさん、リーフェスさん、俺だ。
「五歳とは思えん……。相手にはしたくないな、リード」
「全くその通りだ」
精神年齢は二十越えてますから~。
それからどういう風にするのか進める。取り敢えずは俺が四元帥の一人を相手にする事は確定だった。それと二人をリリィ主体で街に連れて帰る事も。戦場に来られたら堪らない。……でも、ミーナには悪いな。
基本は防衛なのでそこまで複雑じゃない。最初に魔法で数を減らして後は少しずつ。
今回で重要なのはまたしても俺である。四元帥に敗れた場合はアルトハイム王国が終わるので責任重大だ。それを五歳の子供にやらせるのもどうかと思うが。
で、やはり俺とミーナが見せ合いに出るのは嘘らしく、元々俺に協力を求める為の方便だった。それにさっきの言い方も二人を宥めるようで実は俺に脅しを掛けていた。
見せ合いが嘘なのは分かっていた。リリィからそれは七歳から十歳までの貴族の子供が出る物と聞いていたからだ。後、あの時の王妃様にはちょっと焦りが見えたからな。脅しも国王様がずっと俺に目を向けていたので分かった。
それを伝えると若干、王族二人は顔を青ざめた。
後は質問になったので四元帥について聞いた。
元帥ってのは全員で十人。その中でも上位四人が四元帥になる。今回はその中でも最強の奴がやって来るそうだ。そいつは下層クラスと渡り合えるほどらしい。普通でも中層クラス撃退だ。それでも凄い。ちなみにアルグリードさんは中層クラス撃破だ。
それと何故、そいつが来るのかと言うと残りの三人はそれぞれの任務があり、丁度帝都にそいつがいたからしい。俺的には違う気もするんだが。
今回来ると思われるのは四元帥はランパード・シィゲラ。アルグリードさんと同じ火と土の属性がある。それにレベルが一回り高いのでアルグリードさんにはきつい相手だ。
残りの三人は順にエルヒス・ザーゲン、アルドセイ・オルトラーデ、レルカ・リーンだ。一人は珍しく女性だそうだ。
帝国プリムリアについても聞いてみた。
プリムリアの軍は皇帝が一番上に、次が元帥、三番目が大将、四番目が大佐、五番目に大尉、最後に一般兵だ。
また、大将、大佐、大尉はその下に中~や小~があるらしい。軍には帝国の中で実力のあるやつが多く、一般の兵だけでも普通に強い。ただ、その所為か踏ん反り返る者も多く、結構好き勝手にやってるそうだ。
流石に略奪行為まで行って無いそうだが、かなり税は重く、先ほど言った処女権も本当は一部ではなくどの街でもそうらしい。女性は年齢問わず、一人の場合襲われる。物騒だね。
中には良い人もいるそうだが、全体の約一割にも満たないだそうだ。
話を終えた俺は戻って来たリリィに連れられミーナのいる部屋に。まぁ、当然か。ちょっとリリィも不機嫌だったし。
「……ミーナ」
部屋は薄暗く、月明りだけで視界はよくない。俺は途中からスキルを獲得したのかそこまで暗くはない。呼びかけてみたが返事はない。寝ているのかもしれない。
そうしてベットに近づくと手が布団の中から出て来て、引きずり込んだ。何の事はない、ミーナだ。目を赤くし、今まで泣いていたのが分かる。
「……お兄ちゃん、何で?」
「悪かったよ。国王様が脅して来て断れなかったんだ」
「……いつ?」
「国王様が俺に参加を提案した事と二人を反論した言葉全部。否定してたら無理矢理にでも連れていかれた可能性が高い」
おっと、泣いていたのは『今まで』ではなく、『今も』の様だ。溢れ出る涙を拭いながら俺は優しく頭を撫でる。
抱き着いて来ると思っていたのだが、今回は首に手を回してキスして来た。しかも初っ端から舌を入れて。予想外の行動だったので反応出来ずに侵入を許してしまった。
たっぷりと口の中を蹂躙し、涎が溢れるのも気にせず必死にキスをするミーナ。脚も絡めて来て体全体で離れたくない、と言っているみたい……じゃなくて、そうなんだな。
ほんの少し力を込めてミーナを離すと凄く悲しい顔で俺を見て来る。今度は抱き着いて来て再び、涙を流す。
「いやぁ、お兄ちゃんと別はやぁ……」
駄々っ子みたいにいやいや続ける。前回以上の予想通りの反応に迂闊にも可愛いと思ってしまった。俺にはそう思う資格すらないと言うのに。もっと迂闊なのはそれを口にしてしまった事だろう。
「……可愛い」
「え? お兄ちゃん、今何て言った」
「いや、何も」
「言った。絶対言った。可愛いって。お兄ちゃんが私を……」
小さい声だったのに耳ざとい。しかし、やってしまった甲斐があったのか、涙は止まって少しは嬉しそうな顔になった。あぁ、それにしても皆に悲しい思いはさせたくないのにさせてしまう。どうしたら良いのか?
泣き付いて来たミーナは擦り寄りに変わって首元に顔を埋める。さっきまでとは違い、今は喜びを露にしている。しかし、直ぐに元に戻ってしまった。
情緒不安定なミーナを作り出した原因は俺なので如何ともしがたい。それからミーナをあやす内に二時間くらい経った。
泣き疲れたミーナはしっかりと俺に抱き着いたまま離れない。顔を見えないのだが、時々「いやぁ……」とか「お兄ちゃん……」などと言って苦しむので悪夢を見ているのだろう。違う何かが原因ならまだ気は楽なんだが、俺が原因なので罪悪感に苛まれてどうしても寝れない。
俺が出来る事をミーナにはしっかりしてやりながら眠る。明日からはミーナは街に戻るので実質今夜までだ。
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