十七話 国王との謁見
アルグリードさんから王都に着いたと聞き、早速アルと視覚を共有してみると思わず息が零れた。
少し先に見えるのが王都の城壁だろう。そこまでには俺達以外の馬車がたくさんある。その間には稀に人が確認できる。
アルはどんどん先に……って、アル! それ以上は!
『主様。大丈夫です。私は一度行っていますので知らせるだけですよ』
そう言えばアルに行かせたんだった。
アルはアルグリードさんとバルドを乗せて向かったそうなので大丈夫だろう。それまでは暇だし、どうしようか。
「お兄ちゃん構って~」
「やめなさいって」
「えへへ」
暇になったと思った途端、ミーナが甘えて来る。頬ずりしたりと結構激しい。キスしてきたのは防いだ。今までのは不可抗力だ!
周りは温かい目で見て来る。若干一名、違う獣人もいるが。甘えて来る張本人からは時折、視線に心配の表情が浮かぶので離しづらい。それを見て温かい目と羨ましそうな目が強くなっていく。……ある意味、混沌だな。
最終的に膝枕をする事で落ち着いたミーナはまるで離したくないとでも言う様な感じで抱き着いて来る。
「お兄ちゃんのバカ……」
まるで、ではなく、文字通りの意味だったようだ。頭を撫でたりしながら構ってやると安心したのか寝息を立て始める。
俺は羨ましそうな視線を向ける一人の獣人に目を向け、くいくいと手招きをする。その獣人は耳をピンっとさせ、尻尾を遠慮しがちに振り、私? と指を差す。頷いてやると小走りに駆け寄って来て、ミーナの反対側に座る。
獣人は空色の頭をくっつけて来て耳をピクピク動かす。弄ってやれば気持ち良さそうに喉を鳴らす。その光景に温かい視線がさらに温かくなった。一人は満足そうに頷き、何処かからは「ませガキめ……」なんて聞こえて来た。ませガキではありません。二人のして欲しい事をしただけです!
混沌の一部は俺の原因でもあり、これ以上混沌になられたら嫌なので外を眺めながら現実逃避しているとアルグリードさんを乗せたアルが帰って来た。助かった。
「今戻った……って、どうしたんだレイン? ミーナとフェルナを侍らせて」
馬車に戻って来たアルグリードさんはこちらにやって来て、俺を含めた場所を見ると実にい良い笑顔でこう言った。
「アルグリードさんは僕をどう思っているんですか?」
「ませガキ、子供とは思えない、もう少し自信を持て、だな。ミーナはともかく、あのフェルナがな……」
「念の為言っておきますが、ミーナもフェルナもして欲しいみたいだったからしたまでですよ? 他意は無いです」
「本当か!?」みたいな顔で俺を見たアルグリードさんは次に奥に視線を向ける。俺も釣られて視線を向けるとリーフェスさんとリリィは実にそれはもう実に大きなため息をついて、頷いた。
少しの間目を瞑ったアルグリードさんはその目を開くと少し真剣な表情でこちらを見た。あれ? 何かおかしい事を言ったか?
ちなみに残りは呆れが入っていた。
「レインよ。もう少し自分へ向けられる好意に気付いたらどうだ? 今の年ですら十人以上落としているのに自覚も無いのはどうかと思うぞ?」
「……ちょっと待ってください。十人以上? 僕はミーナとフェルナからのしか分かりませんよ? それもリリィに教えて貰ってからなのに」
「おいおい、教えて貰ったって……。まぁ、残りは自分で確かめな。一人はどうせすぐ気付く」
大きく溜息をついたアルグリードさんは御者の位置に戻って馬車を動かした。
***
許可は取ってあるのか馬車は隣に出てどんどん進めていく。それに当然文句をつけようとして来る者がいるけど全員、黙って見なかった事にした。それも当然だろう。何せ、この馬車には二つの家紋があるのだから。
一つは王家の家紋。もう一つはフェスフォルト家を表す家紋。通常、貴族は自分の家の家紋だけで、それは上級でも例外はない。よって二つの家紋を持つ貴族は国王からの信頼が厚く、重要な場所を治める貴族のみに王家の家紋を持つ事を許される。
王国で二つの家紋を持つ貴族は全部で四つ。一つはフェスフォルト家。残りの三つは隣国に接し、重要な役割を持つ。分かりやすいのは北にある砦の街、ルーデラウスだ。ここは帝国プリムリアと接するので援助も頭一つ飛び抜けると聞く。
よって、二つの家紋を持つ貴族には逆らう者は少ない。あと、二つの家紋持ちには傲慢な貴族が一つあるので逆らうな、という風が強いらしい。フェスフォルトは違うけどな。
王都の門に着くと既に話は着いている様で素通しされた。それから待っていた馬車は進み始めたみたいなのでこの馬車が到着するのを待っていたのかな。
城壁内に入るとフェスフォルトの街以上に賑やかだった。人口もフェスフォルトの街は十万人に対して、王都は五十万人らしい。知られている範囲では。
建物も現代に近くなってきている。どうやら地面はコンクリートのようだ。あら、意外に近代的。
その中で視線の先、中央部分にはとても大きい城が立っていた。
流石に騒がしすぎたのかミーナとフェルナが起きた。それから周りを一回り見ると再び眠りに入った。随分図太いね、君たち。それとフェルナ。君はメイドと言う立場を完全に忘れているようだね。
幸せそうに眠る二人に俺もリーフェスさん達も手が出せずにいた。一人だけ、リリィは物凄く嬉しそうだった。……まぁ、城に着いたら起こせばいいんだけども。
王城についた俺たちはアルグリードさんが全部手続きしてくれてすんなりと中に入る。城内に進むと一人のメイドがやって来て、俺たちを案内してくれた。なお、リリィとフェルナはメイドの仕事があるそうで違うメイドの人に付いて行った。
案内された部屋は住んでいた屋敷の応接室と同じ感じであっちよりも少し広いみたいだ。
設置されている椅子に座ると当然の如く、ミーナが隣に座る。最初は膝の上に座ろうとしたのだが、横にさせた。
「本当に仲が良いわ。いっその事、婚約させちゃう?」
「お、良いなそれ。街に帰ったらしちゃおうか?」
「じゃあ、確認取らないと。ミーナ、あなたはレイン君と婚約したい?」
問われたミーナは頭に? を浮かべている。リーフェスさんは手招きしてミーナを近寄らせると耳元で何かを囁く。多分婚約云々を言っているのだろう。……それ以外も含めて。
そうでなければミーナがここまで喜びを表す事は普通、無いだろう。
「どうする?」
「婚約するー!」
「はい。じゃあ、次はレイン君ね。レイン君の場合はどう?」
「……どうせ、否定しても無駄なんでしょう。良いですよ。そう想ってくれるのなら僕も嬉しいですし」
二人共ちょっと驚いた後、笑ってミーナと喜んだ。ミーナの方も口約束ではあるが、決まった事が嬉しい様で、今度は俺の制止を聞かずに飛び込んで来て幸せ全快で甘えまくる。
引き剥がす事を早くに諦めた俺は一応、俺が否定した時の事を聞いた。
予想通り否定した場合は前にミーナが言った心配を掛けた事のお返しとして拒否権を消すつもりだったようだ。結局は使わずに流れてしまったのでこれから何があるのか心配でたまらない。否定した方が良かった……失敗した。
それを知った時のアルグリードさん達の笑みには絶対まだ何かある。それをおおよそ理解できてしまうから余計にだ。……ここで言ってしまえばフラグが成立すると思うので言わない。
とんとん拍子に決まった事は隅に置いて、ミーナを落ち着かせ、アルグリードさん達と雑談でもしていると一人のメイドが入って来て、準備が出来た事を知らせてくれる。
ちなみに迎えに来たメイドはフェルナだった。ミーナを見ては羨ましそうに見ているので耳を弄って構うとふにゃと顔を崩して抱き着いて来る。俺は満足するまで好きにさせて離れるのを待つ。
離れたフェルナは顔を赤くしながら背を向けて案内を務める。
歩いている間に元に戻ったフェルナは最初のたどたどしい足取りからしっかりした物に変わって、王のいる間へと進む。
この先が王のいる間なのであろう大きな扉の前に来ると脇に逸れてそのまま行ってしまった。扉の傍には二人甲冑姿の兵士がいて、アルグリードさんを見て感激に振るえていた。敬礼もいつも以上にしっかりしている、と思う。
「リーフェスさん。僕とミーナは国王と謁見した事がないのですが」
「大丈夫よ。私達に続いてくれれば良いから。後の詳細な話は別室でやるから」
そっとリーフェスさんに聞くとそう答えてくれたのでちょっと一息。こういう偉い人には慣れてないのとまだ疑心がある。だからあまり反感は買いたくない。嫌な思いをしたく無いし、何より暴走してしまいそうだ。
ほんの少し殺気が漏れてしまったのかミーナが握る手が強く握られたので反対の手で撫でる。それでミーナは気持ち良さそうに目を細め、次にはケロっとしていた。
「フェスフォルト夫妻、そのお子様お二人入場されます!!」
門の傍にいた片方の兵士がとても大きな声で叫ぶと扉がギィィと鈍い音を立って開く。
その部屋は大体前世で言う学校の体育館を奥に半分、上に四分の一くらいに大きくした所だった。
真ん中は赤い絨毯が敷かれてその先には玉座に座る国王らしき男性が。その隣には前に見た王妃様が。近くには王女様もいる。後は知らない少年と少女が数人。
国王は恐らくアルグリードさんを見て微笑み、王妃様は……俺を見てニッコリと微笑んだ。王女様は俺を見て顔を赤くし、ミーナを見て小さく手を振った。
他の少年たちは俺を見て見下す様に、ミーナを見てボーっと見惚れた。少女たちは俺を見て見定める様に、ミーナを見て小さく舌打ちした。
……まぁ、ミーナは控えめに言って美少女だからなぁ。見惚れ、嫉妬はよく分かる。そして、俺も当然の様にマイナスだ。
ミーナはそれにちょっと機嫌が悪くなったので心なしちょっと近づく。妹様は他人の評価などはどうでも良くなったようで、ちょっと上機嫌になった。
後、左右には貴族がいて、手前から下級、中級、上級貴族だろう。軒並み、ミーナを注視していた。恐らくは自分の息子を嫁がせる気でいるんだろう。
アルグリードさん達が立ち止まった所で俺もミーナも立ち止まり、二人の動作に続く。二人が片膝をつき、俺も膝をつく。右手を胸に当て頭を下げたのでそれに続く。
「面を上げろ」
その言葉を聞いて顔を上げる。ただし、アルグリードさん達よりも気持ち遅めに。理由は何となくだ。
実際に見た国王はアルグリードさんとあまり変わらない年で、服の上からでもしっかりとした肉体だと分かる。アルグリードさんもそうだが、二人共ヒョロっといている様で十分に鍛えているようだ。
「この度の街の防衛、娘のラミリアの救出の件、深く感謝する。ミーナ・フォン・フェスフォルト。レイン。二人には褒美を渡そう。詳細は後でだ。それとは別にレイン。君には盗賊団『暴牛』を壊滅させたと聞いた。よって、今ここで褒美を渡そう。爵位『男爵』と報奨金に大金貨十枚だ。来てくれ」
「お断りさせて頂きます」
俺は真っ直ぐと国王を見て否定した―――
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