十六話 王都へ。最終日、テンプレは来るものだ
今日で街を出発してから五日目。今日の昼頃には王都に着くってアルグリードさんは言ってた。ようやくだよ。この数日の間に色々あったからなぁ。ミーナの件とかフェルナの件とか。リバーシやトランプの商品化の話もあるな。
そんな俺は強制的にミーナから膝枕をさせて貰っている。曰く、いつものお礼だそうだ。あと、リリィがけしかけた。ちなみにミーナは大層ご機嫌である。今も俺の髪を弄りながら鼻歌を歌っている。俺的にはくすぐったいので止めて欲しいんだが。
「そうだお兄ちゃん。私のステータスを視て?」
「どうしたんだ? いきなり」
「お兄ちゃんに私の全てを知って欲しくて……きゃっ」
言い終えると顔を赤くしながら頬に手を当て、いやんいやんと体をくねらせるミーナ。それなのに俺には一切負担が掛からない様に動いている。……偶にミーナって、高度な技を繰り出すよな。
「ダメ……かな?」
「分かった分かった。確かに最初に見せ合った時から見せて貰って無いからな」
了承するとミーナは顔を綻ばせる。何故そこが嬉しいのかは本人のみが知るのだろう。……後は神とか。
そして、ミーナのステータスを見せて貰ったのだが、一つ大事な事を忘れていた。それはミーナの称号を見ないようにする事だった。
【ミーナ・フォン・フェスフォルト 女 五歳
レベル11 人族
HP・650/650
MP・6470/6470
力・270
体力・430
防御・1230
精神・710
敏捷・160
魔攻・3500
魔防・3500
<特殊技能>
全魔法属性耐性、物理防御上昇、魔力量上昇
<スキル>
魔力操作、MP回復、詠唱省略、魔力消費減少、魔力効率上昇
<魔法>
生活魔法、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、精神魔法、炎魔法
<称号>
魔法の天才、侯爵の娘、超兄大好きっ子、上位属性取得者】
……なんかもう、予想通り過ぎて何も言う事がない。在るとは思わなかったよ称号「超兄大好きっ子」。怖いもの見たさで詳しく見てみたら吐血しそうになった。
<超兄大好きっ子>
…兄の事が好きすぎて得る称号。兄の前だと甘えたがりになり、感情が爆発する。
ツッコミは俺のだけで良いんだけど……敢えて言わせてもらおう。
何だよ、この称号!? 予想通り過ぎて逆に驚きだよ! 好いてくれるのは嬉しいけど、好きのベクトル絶対違う奴だよねこれ!
……ふぅ。さて、情報も処理出来た事だし、そろそろ返事をしないと。ミーナが心配そうにしてるし。
「……頑張ってるね。でも、魔法系以外も使えるものがあると思うからそっちも頑張っていこうね」
「分かった! お兄ちゃんと一緒にいたいから頑張る!」
理由が何とも不穏だが本人が頑張れるならと見ない事にした。どうせ後で面倒ごとに巻き込まれるんだろうなぁ。迷宮が暴走した時みたいにさ。それに逃げ切る事も出来なそうだし。まぁ、フェスフォルト一家には随分世話になってるし、恩を返す為だと思えばいいか。
俺が褒めた事で甘えて来るミーナを宥めながらアルグリードさん達の話す内容から目を背けた。だってね、小声で「……婚約」とか「……功績」とか言われてるんだよ。絶対何かある時のフラグだよ。
それに神たちのせいで逃げられないなら考えても無駄かな、と。恩を返したい気持ちは確かにあるし。リバーシとかもその一つだからな。
膝枕をされた状態のまま、王都に着くまでボーっとしていると急に馬車が止まる。外からは複数の男の声が聞こえて来る。どうやら王都までにもう一つ騒動がありそうです。
「おい! そこのお前。馬車と女を置いて早くどっかに行きな! 大人しく言う事を聞いたら命だけは助けてやるよ。まぁ、女共は俺たちの物だがな」
外を覗いてみるとビックリ仰天。テンプレよろしい盗賊の方々がこれまた素晴らしいほどのテンプレなセリフを言っているではありませんか。笑い姿も堂に入っていて、いやはや、ナイフを舐める仕草も様になるね。
恐らく頭領だろう男は三流の様に長々と喋る。いやぁ、テンプレが本当に存在するとは思わなかった。寧ろ、あそこまで似てると尊敬の念すら抱くよ。
アルグリードさんは苦い顔をしてる。盗賊達は全部で三十人強。アルグリードさんなら楽勝だけど守りながらだと難しいのかもしれない。何人かはアルグリードさんの次の次くらいに強いし。
後、アルグリードさんは気付いてるか知らないけれど、後方に百人近い盗賊がいるみたい。その中には次くらいに強い人がいるようだ。
気配感知と鑑定(極)で大体の状況を確認する。『共有』で近くにいるはずのアル達に本体の数を減らす様に伝える。出発の時から比較的近くにアル達はいた。何でも自分たちの主人を危険な目には合わせられないそうだ。
アル達の返事を聞いて御者の所に向かう。ミーナは勿論、リーフェスさんと一緒にいて貰っている。流石にミーナには早い。実力も経験も……覚悟も。
アルグリードさんに『囁き』である程度教える。それに一度頷いて、フェルナの方に視線を向けた。おっと、こっちの方が不味いな。
フェルナは耳と尻尾をピンッと逆立て、全身を震わせている。後ろ姿だけでも凄い怖いのが分かる。
「フェルナ」
「……レイン様」
「ほら、こっち」
「…………うぅ。はい」
「じゃ、アルグリードさん後は頼みました。馬車は任せて下さい」
荷台の方にやって来たフェルナは真っ先に飛び込んで来た。胸元に顔を埋めて震える姿はまさに子犬。子犬状態になったフェルナをあやしているとアルグリードさんが戻って来た。
「今終わった。……それとレイン、もう片方を片付けてくれるか?」
「ちょっと待って下さい……はい。たった今、ボスを捉えたそうなのでこちらに連れて来るそうです」
「……仕事が早いんだな」
途中から完全に甘えに来たミーナとまだ少し震えるフェルナを相手にしているとアルが馬車にやって来た。残りは見張りだ。
『主様。頭領と思われる人物を連れて来ました』
「ありがとう。アルグリードさん、この顔に見覚えとかありますか?」
「ああ。百人を超える盗賊団を取り仕切る奴だ。名前はバルド・ローザ。盗賊団『暴牛』のリーダーだ」
『暴牛』は王都付近に存在する盗賊の中で最大規模を誇る。主に王都へ出入りする商隊などを襲い、金品などを奪っているそうだ。全体の強さと連携の良さが凄まじく中々捕まらなかったそうだ。
まぁ、アル達の連携は折り紙付きだし、先日の事でアルは黒狼、ドーレ達は銀狼という種族に変わってステータスも大幅に上昇しているのでこちらに負ける要素はない。最悪の場合は俺達以外を凍らせればいいだけだしね。
アルグリードさんには先に王都に行って貰い、この事を報告しに行って貰った。アルに乗って行ったのでそんなに時間は掛からないだろう。その間に手早くバルドから情報を取り出し、俺はアジトに向かう。
馬車には四体の内から二体来てもらったので、そんなに心配はない。
馬車から十分の所にある洞窟が『暴牛』のアジトらしい。ちょっとウザくなって来たのでさくっと入って、さくっと終わらせる。残っていた盗賊は全員、連れ出し、百人近い盗賊の所に放り込む。ついでに盗賊全員の片脚のアキレス腱を斬ったので動けないと思う。
洞窟にはお金がかなりの量と数点のアクセサリー。アクセサリーの中には二つほど家紋らしきものが入っていた。後は生き残っている女性が六人。亡くなっていた女性が十三人だった。
亡くなった女性はまとめて埋めた。生きている女性たちは殆ど裸と言ってもいい状態だったので、取り敢えず毛布を被せた。その前に水である程度体は洗ってある。
これらを十分程度で終わらせたので女性たちはポカンとしていた。そして意識が戻ると礼を言って来たので落ち着かせ、馬車に戻る。その後はリーフェスさん達に任せて俺は外でアルグリードさんを待った。
アルグリードさんを待っている間、俺はキャロに背もたれになって貰う。トレアはドーレ達の所に戻って貰った。逃げないとは思うが念の為だ。
キャロの毛並みを楽しみ、話していると馬車からミーナが出て来た。ミーナはいつもの様に隣に座り、にへらと笑いかける。撫でられると気持ち良さそうにする。
「えへへ。流石お兄ちゃん。あっと言う間に片付けちゃった」
「僕は出来る限りの事をやっただけだよ。それと立て続けに起こった事への憂さ晴らし」
「そんな事無いの。助けられた女の人達も言ってたの。ありがとう、って。パパもママもここまでは出来なかったの。やっぱりお兄ちゃんは凄いの」
瞳に熱を孕み、熱く語りだそうするミーナを落ち着かせる。
話していると陽が中心に近くなったので森から何匹か狩って来て解体し、肉串にしていく。それと実っていた果実類を昼食にして皆で頂く。女性たちは喜んでくれたので良かった。
昼食を終え、アルグリードさんを待っていると前の方から十人くらいやって来た。その中にはアルグリードさんもいる。
「レイン。バルドは?」
「ちょっと一か所に集まって貰ってる。キャロに案内させるよ。お願いね?」
『お任せください!』
キャロを先頭に恐らく王都の衛兵達とアルグリードさんは進んでいく。
***
戻って来たアルグリードさんは若干疲れ気味で一人の男を連れて来た。バルド本人である。
「これから王都に向かう。レイン、この件も今回の報酬に加えるからな。その気でいてくれ」
「はい。分かりましたが、大丈夫ですか? 疲れているようですが」
何も答えずにアルグリードさんは御者の所に向かって行った。俺はそれ以上は何も追求せずに馬車に乗り込む。
元々、そんな大人数を入れるものでは無いので、固まれる所は固まる。それとアル達に引っ張る事も手伝ってもらい、王都に続く。
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