十五話 王都へ。三日目、数の暴力は恐ろしい
今日は街を出てから三日目。馬車で王都に行くには五日掛かるので今日で折り返しだ。二日目は特に何もなく過ごして行った。
「どうしたんですかアルグリードさん?」
「ここは大事な局面だな、っと。ふぅ。あと三枚。さぁ次はリーフェスだ」
「なら私はこ、っち。あ~、ダメよ」
「じゃあ、私はこれを……やった。あと一枚! 次はお兄ちゃんどうぞ」
「ん。俺だな……お、俺も終わったな。後はアルグリードさんとリーフェスさんの一騎打ちですね」
三日目になると流石に寝るのにも飽きたのか暇そうにしていたので俺が二日目に作っていた「トランプ」で今は遊んでいる。これは木と魔石を強引に調合で作ったので現段階では誰にも作る事は出来ない。お陰で調合も(極)になってしまった。
この世界は幸いにも数字は算用数字なので問題は無い。四種類×十三枚にJOKERの代わりとなる切り札とこの世界の文字で書いた物を二枚用意する。後は普通のトランプだ。
これを見た時のアルグリードさん達の反応が半端なくて、暫くは見たり感触を確かめたりと世話しなかった。材質はプラスチックをイメージして作っているので俺的には馴染み深いけど。
トランプを簡単に説明してルールの少ないババ抜きを現在やっている。今はアルグリードさんとリーフェスさんの一騎打ちだ。アルグリードさんが三枚でリーフェスさんが二枚。次はアルグリードさんがカードを引く。それは当たったようで二枚と一枚になる。
リーフェスさんはアルグリードさんの表情を見ながら慎重に取るカードを選ぶ。やがてリーフェスさんから右のカードを掴み、引き抜く。
取ったカードはハートの九でリーフェスさんはダイヤの九。つまり上がった事になり、アルグリードさんが最後となって負けとなる。
これで負けた人には昼食と夕食の食材集めを一人でやってもらう事が罰ゲームとなっている。ちなみにミーナが負けた場合は俺が付き添いで行く事になる。俺だけが二倍の不利ゲー。解せない。
ゲームの終わったトランプを片付け始めているとアルグリードさんが泣きついて来た。
「レイン! 他のは無いか!? この負け続けるのは気が済まない!」
「リバーシならあるけど……」
「それで良い! リーフェス、もうひと勝負だ。勝った方が何でも一つ言えるでどうだ?」
「私もやる!」
「……それならレイン君もしましょう」
「ちょっと待って。何で僕までする事になるんだ?」
「ミーナ様がやるならレイン様もするのは当然でしょう?」
突然前からリリィが声を掛けて来る。それにミーナが勝った場合の言う事が確実に俺宛てだとご丁寧に添えて。その場合は参加者のみって理由付けるつもりなんだが。
俺がそう言う前にリリィが三人に俺も参加する事を言ってしまった。しかもしなかった時は三人からお願いを一つずつ聞く事になると言うおまけ付きだ。
退路を断たれた俺は大人しくするしかなかった。
今回の参加者は全部で五人。俺、ミーナ、アルグリードさん、リーフェスさん、それとリリィだ。リバーシは二人専用なのでトーナメント方式だ。だからシードが一つあるんだが、選ばれたのはミーナ。……嫌な予感しかしないぞ。
一回戦はアルグリードさんとリーフェスさん。二回戦は俺とリリィ。シードのミーナはアルグリードさんかリーフェスさんの勝者とする事になる。
展開は全てリリィがしたのだが、意図が見え見え過ぎる。最初は平等に分けようとしたが、リリィがすると言い出し、俺を除く全員が賛成。数の暴力が決まった瞬間だった。ミーナはやる気十分で夫妻は勝負が決まれば良いやみたいに軽い。……リリィの殺気が怖い。
俺はリバーシの説明をして一回戦スタート。
「ふむ、これは中々面白いな。レイン、これを売り出してみないか?」
速攻で勝負が決まり、勝者はリーフェスさん。二回負けた事で落ち着いたのか、このリバーシを商会に出してみないかと提案される。元よりそのつもりだったので、了承した。それと国王に許可を貰って国内での五年間の独占販売権を作って貰い、フェスフォルトの街の特産品にしてはどうかと言う。丁度これから王都だしね。
アルグリードさんは大いに賛成して、王都に着いたらそうすると言ってくれた。ちなみににその話をリリィと対戦中にされたのでちょっと意識がそれてしまい、僅差で負けてしまった。その時のリリィの顔と言ったら……完全にしてやったりの顔だった。
それからそんなに時間も経たずに優勝はミーナに決まった。リーフェスさんは途中から手を抜き始め、リリィに至っては俺の時との集中力はどこに行ったのかと言うくらいに手を抜きまくっていた。
ミーナも気付かない筈はないのだが……と言うか寧ろ嬉しそうに進め、リリィの目論見通りになってしまった。……そして、現在に至る。
……現在、フェルナ以外は見ている公衆の面前でミーナは唇を突き出し、目を閉じて、両手を俺に向けている。有体に言えばキスを待っている状態だ。
優勝が決まった直後にミーナは俺の膝に座り、先ほどの体勢になった。その状態で五分。諦める気はないらしい。
他を見るとリリィは急かすように仕向け、アルグリードさんとリーフェスさんは満足そうに体を寄せ合って頷いていた。……アルグリードさん、あんたもグルだったのね。
流石に疲れたのか腕を降ろし、目を開けたミーナはかなりご立腹だった。
「お兄ちゃんが私に……キス……してくれるのが、私のお願い。勝者の言う事は絶対、だよ?」
「……。アルグリードさん、リーフェスさん、二人共嬉しそうですがこの状況何か言う事は無いですか?」
「うん? ……ああ。ミーナを幸せにしてくれ」
「レイン君なら安心してミーナを任せられるわ」
「違うだろ!? と言うかいつそれを知った!?」
「「昨日。レイン(君)が寝てる間に」」
完璧にハモって来る。事前に話を合わせていたのだろう。
聞いてみたら全員グルだった。詳しくは昨夜、リリィが二人に伝えて今朝確認。真実だと知ると二人は喜び、今回に至ったそうだ。それよりも俺を拾って才能があると知った時、最初から婚約させるつもりだったらしい。その為の二人の部屋だそうだ。
……最初から仕組まれてたのね。
興味本位で聞いてみると何かもう凄かった。それ以上の言葉がない。それよりも詳細を言いたくない。
「じゃあ、最後に拒否権は……」
「「「「ないの(ありません)(ないな)(ないわ)」」」」
そもそも逃がす気がさらさらないようだ。諦めてミーナにキスをする。二度目だし、前世ではそれ以上の経験もあるので恥ずかしさはあっても、緊張や怖気づいたりは無い。というかなるべく優しく。
終えるとミーナは最大級の笑顔と蕩けた顔を同時にするという離れ業を披露する。残りの共犯三人は満足気に頷いていた。
その後はトランプも商品にしようと話になってこっちは三年で決定したこと以外は特に何もなかった。ミーナは今まで以上に甘えて来るようになった。君はどこが限界なんだ?
それから見張りの時間になってアル達を呼ぼうとしたけど止めた。毎日は流石にアル達が可哀そうだからだ。残りくらいは俺たちで順番に見張りをする事にした。ミーナは幼く無理なので外される。俺も少ししか見張りはしない。
俺は最初に見張りをする事になり、焚き木の傍で暖を取りながら周囲を薄く探る。一人なのは俺の実力を皆が知っているからだ。派手にやったからなぁ、街の防衛。若干二名、一緒にいたがったが。
ステータスを確認しながら段々と近づいて行く王都を思った。
【レイン 男 五歳
レベル102 人族
HP・144310/144310
MP・416080/416080
力・134980
体力・222020
防御・133950
精神・152310
敏捷・144060
魔攻・195230
魔防・195230
<特殊技能>
特質、偽造、精神強化(極)、剣神術、ステータス補正、鑑定(極)、調合(極)、魔力最大量上昇、自然治癒、魔力回復増加、収納箱
<スキル>
魔力操作、身体強化、無詠唱、体術、格闘術、観測、礼儀作法、緻密操作、MP回復、HP回復、武器作成、魔道具作成、気配遮断、回避、狙撃、魔力弾、刀術、観察眼、二丁拳銃、気配感知、立体機動、天駆(極)、不眠、併用、並行思考、採取、解体
<魔法>
生活魔法、水魔法、風魔法、光魔法、召喚魔法、氷魔法、回復魔法、雷魔法、嵐魔法、使役魔法、吹雪魔法、空間魔法、風雷魔法
<称号>
忌避体質(神仕様)、転生者、神と邂逅せし者、孤児、上位属性取得者、合成属性取得者、変化属性取得者、魔物を従えし者、大量殺戮者、全てを見通す者、空に浮かぶ者、苦難を乗り越えし者、魔力を操りし者、獣と戯れし者、限界を超える者(レベル100)】
魔力と魔攻、魔防の上りがおかしいと思ったら称号の「限界を超える者」が原因だった。
<限界を超える者>
…レベル100を超えた者にステータスのボーナスを与える。どれが上がるかはランダム。
他の称号も確認したらステータスに補正のつく物ばかりだった。俺は改めてステータスに驚き、神に仕返しをする事を再度、決めた。
俺の時間も終わり、次と交代する。次の見張りはフェルナだ。フェルナを起こそうと馬車に向かう所でフェルナが出て来た。そのまま俺の目の前に来て、櫛を渡される。どうやら梳いて欲しいらしい。
「あれ、いいの? 髪とかを梳かさせる事って最上級の愛情か信頼の証でしょ?」
「……大丈夫です。お願いしても良いですか?」
「いいよ」
地面に座ったフェルナの髪や耳を梳かす。梳かしていると尻尾が左右にぶんぶん振れ、気持ち良さそうにしている。
尻尾まで梳かし終えると櫛をフェルナに返す。その時にフェルナから寝息が聞こえて来た。身体も俺に預けて時折、寝言で俺の名前を呼ぶ。
いつも頑張ってくれているので耳や普段は出来ない尻尾を弄らせて貰いながらもう少し寝かせる。
眠くなって来たのでフェルナを起こし、馬車に戻る。起こした時のフェルナは何度も頭を下げて来たのだが、労いの言葉を掛けて戻った。フェルナは顔を赤くして焚き木の傍に行った。
馬車に戻った時にリリィが「レイン様お見事。……フェルナ頑張れ」と小声で言っていた事は聞かなかった事にした。
空いている所に横になって眠ろうとした時に何処からかミーナがやって来て、いつもの様な体勢になった。
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