十四話 王都へ。一日目、返答はしっかりと
今回から二章が始まります。
まだまだ未熟な私ですが応援していただけたら幸いです。
二章はシリアス多めです。
現在、俺は馬車に揺られながら王都を目指している。昼食も先ほど済ませ、午後の陽光が当たって凄く気持ちが良い。御者はリリィとフェルナがやってくれている。そのお陰かアルグリードさんとリーフェスさんも二人して仲良く眠っている。特にアルグリードさんはここ最近、寝ずの事が多かったのでこういう時には是非休んでもらいたい。
当然ミーナも俺の膝を枕にして眠っている。俺はそんなに眠くは無いので外の景色を眺めながら出発するまでの三日間を思い出していた。
***
出発三日前。この日は前日の疲れもあってごろごろとする事が多かった。それはミーナやリリィ達は全員知っていたので誰にも咎められる事も無かった。それと王都から帰ってくるまでリリィの家庭教師は無くなった。
ほぼ一緒にいるミーナはリリィと一緒にいて、日中は殆ど会っていなかった。俺がその答えを知ったのは眠る時になってからだった。
俺がごろごろしていた理由は疲れを取るのと筋肉痛で動けなかったからだ。それを利用して襲い掛かるようにリリィはミーナに仕向けたらしく、動けない俺にミーナは何度もキスをして来た。
一日疲労回復の魔法を掛け続けたお陰で筋肉痛を治した俺は何とか舌を入れる所までは回避できた。と言ってもかなりギリギリだったが。
一体こんな知識は誰が教えたんだろうか。あの女神か、リリィか、それとも……王妃か。王妃かもしれん。王妃たちとは少し話したと言っていたし。
物足りなそうなミーナの後ろ頭を撫で、眠らせる。ミーナはそこが弱いらしく、撫でられると早く眠る。
ミーナを横に転がして気を落ち着けた。静かになった部屋にほんの少しの音が聞こえたのでそちらを向くと、扉から誰かが見ていた。
正体はリリィとフェルナで気付かれたと思ったら直ぐに出て来た。リリィはやはりこれの発案者で物凄く良い笑みを浮かべていた。フェルナは顔を赤くしているが、その視線はミーナに釘付けでリリィが口パクで羨ましいと言ってくれたので意図が分かった。
俺はフェルナの耳を弄って帰らせた。リリィも強請って来たので取り敢えず撫でておいた。
出発二日前。この日は冒険者ギルドに向かった。一昨日に黒虎や銀獅子を売った時の残りの報酬を受け取りに来たのだ。
ギルドに入った時に凄い歓声で迎えられ、それが感謝とかの物だと分かるとミーナは自分の事の様に喜んだ。ミーナ? ああ。一日目の時が特別で今日からは平常運転だ。一緒にいるのが平常運転なのも考え物だけどな。
まぁ、五歳にして物凄い大金を手にしてしまったので金銭感覚がズレない様にしっかりやっていきたい。
その後は街の外に出て、魔物を軽く狩った。リリィと二、三人の冒険者が護衛となってのメンバーだ。あの暴走で数が全然いなかったので迷宮まで行き、低層まで行った。俺は魔法と剣を応用した戦い方を練習した。そうしたら併用と並行思考のスキルを得てしまった。……特質の効果だ。ちょっと自分が嫌になった。
ミーナも遠距離から魔法で倒していった。お陰でレベルも上がり、いくつかスキルも覚えていた。……相変わらず、天才だなぁ。
その日は遅くなる前に屋敷に帰って寝た。
準備の最終日はアル達と立体的な動きの練習をした。許可を取って街の外まで行き、木や天駆で空中を足場にしながらアル達とじゃれ合った。
後、空間魔法の訓練もして中級まで使えるようになった。それと念願の空間移動も習得した。特質様々である。空間魔法と知られている範囲での時間魔法は国の中枢にしか置いていない。よって特質はチートだが役に立つ。……その所為でまた特殊技能に何とも言い難い気持ちが増えてしまった。神を呪う事は出来ないのか。
練習を終えた時には天駆が(極)に、称号に獣と戯れる者が付いていた。
その後は空間移動で迷宮まで行き、つい調子に乗って十五層まで降りてしまった。まぁ、黒虎より強い魔物もいなかったので楽でしたが。それでもレベル自体は上がったので……良しとしよう?
人外になる事が良い事なのか?
アルと意識を共有して日が暮れ始める前には街に戻った。そう言えば、迷宮が暴走した時にも活躍した『共有』は使役魔法が使える者だけが覚える事が出来るらしい。スキルにも存在しないし、変化属性は三つの属性の中でも最も難易度が高いそうなので結構レアなんだそうだ。
ちなみに『共有』には段階があって、一段階目は視覚、二段階目は聴覚、三段階目は五感全て、四段階目は意識、最終段階は全部を共有できるらしい。
若干五歳にして四段階目か。ははっ。もう笑うしかねぇ。あーあ。早く神たちに会いたいなぁ。このお礼はしっかりとしたい。
***
……あれ、良い事があまりない。寧ろ、神に対する暴言しか出てこないぞ。まぁいい。忘れよう。割り切るんだ。毎回こんな事で悩むなら神に会った時に全てお返ししよう。
リラックスするはずが決意みたいなのに変わって全く出来なかった。しかし、幸いにもまだ時間はある。草原でも見ながら今度こそ、リラックスしよう。
「皆様。そろそろお昼ですので昼食にしましょう」
「リリィぃぃぃい……」
「? 何でしょう?」
「……何でもない」
ベストタイミングでリリィからお声が掛かった。恨めしそうに見つめるが、リリィは巣で返してくる。俺は諦めて指示に従う。
御者はフェルナがして、リリィはアルグリードさん達を、俺はミーナを起こして三人が起きたら丁度良い所で馬車を止める。
俺はちょっと良い事を思いついたのでリリィにある事を聞いてみた。
「リリィは解体って出来る?」
「……それならフェルナが出来ますよ。という事は何か狩ってくるつもりですか」
「そうだよ。ついでに香草でもあったら採って来るよ」
「分かりました。レイン様なら大丈夫だと思いますが気を付けて下さいね」
リリィからの許可も取れたので早速、近くにある森に入っていく。アルトハイム王国は国土の三割近くが森になっているので比較的近くに森がある。フェスフォルトの街の外にも森は二カ所ある。
森に入ると鑑定(極)を使って薬草を探す。意外な事に回復薬や魔力回復薬となる生命草や魔力草が結構あった。香草もあって、匂い消しになるリルドの葉、香りが爽やかになるフィーク草なんかがあった。
他にも様々な薬草や香草があって袋に入れる分以外の物はどんどん収納箱に入れていく。全部取ったら意味が無いので少しは残す。
後は気配感知で周囲を探る。反応があった所に向かうとルーラビットが二羽いた。ルーラビットは程良い脂がのっていて、上品でもあるので平民、貴族問わず人気だ。
速攻で首をはね、血を抜く。血抜きが終わった所に上空で良く太った鳥が飛んでいたのでこっちも首を落とす。手早く作業を終え、リリィ達の所に戻った。
「戻ったよー」
「おにいちゃーん!!」
「……おっと。はいはい」
「うぅ~」
「よしよし」
「……んみゅ」
戻った所でミーナが抱き着いて来たので香草の等の入った袋を降ろし、受け止める。不機嫌な態度も撫でれば大人しくなる。
今回の報酬をリリィに渡すとちょっと驚かれた。こういう面では若干手遅れな気もするけど。
「はい」
「ありがとうございます。……それにしてもルーラビット二羽にララフ鳥ですか。香草の方もかなりの種類があったようですね」
「あ、その中には生命草と魔力草があったよ」
「本当ですね」
今回の二割を献上する。残りは収納箱の中だ。と言っても生命草と魔力草だけど。
次にフェルナの解体を近くで見て学ぶ。ミーナは刺激が強いのかゆっくりしているアルグリードさん達の所でお話している。
出来た昼食はルーラビットのシチューにパン、野菜の盛り合わせだ。野菜は持って来た物を使った。元々、材料は現地調達するそうだ。貴族なのにアクティブだね。自分は棚に置くけどさ。そもそも貴族ですらないんだっけ。
昼食を食べ終わった後は特に何もする事も無く、馬車に揺られる。外の景色を楽しんでいると御者の方からフェルナがやって来た。勿論、例の三人は昼前と同じ位置で眠っています。良く寝るなぁ、ミーナ。アルグリードさん達は疲れてるから当たり前だけど。
「どうしたの、フェルナ」
「はい。リリィさんが御者をやるから休んどけって。それで来たのですが……よろしいでしょうか?」
「ん? 良いよ」
「っ。ありがとうございます!」
ちょっと心配そうな顔をするフェルナに肯定すると物凄く喜ばれた。リリィの方に目をやるとすごい良い笑顔でフェルナを見ている。
腕と膝を見て悩んでいる様子のフェルナ。膝を叩くと俺を見て来てほんとに? と言わんばかりの眼差しなので直ぐに頷いた。まぁ、両腕が塞がると何か嫌だからな。
今度のミーナは俺の上半身の半分を豪快に使って寝ている。お陰でミーナの体を腕で支えなくてはならないのでいつも以上に疲れる。だが、今は風で大体を支えている。それで腕は添えるだけで済む。魔法便利。
フェルナが膝を枕にして眠った所で見つからない様に布団を取り出し、フェルナに被せる。
ステータスを視ながらだらんとしているとリリィが声を掛けて来る。ちなみにスキルに解体があった。見ただけで覚えたのね。なら、火や土の魔法は何故覚えないんだろうか。
「レイン様。ミーナ様とフェルナをどう思います?」
「ミーナは妹としては好きだな。フェルナは恩人として」
「私の質問の意味を理解した上ですか?」
「何の事?」
リリィの質問をはぐらかす。前回、はぐらかされたお礼だ。
リリィはその答えが来るのが分かっていたみたいに溜息をつく。
「レイン様はご自分をどう思われますか?」
「孤児、かな。これに関してはここにいるリリィを含めた全員に大きな恩がある。果たしてそれを返しきれるかのかな」
「……はぁ。レイン様はもっとご自身をご理解すべきです。ミーナ様もフェルナもレイン様の事が『好き』なのですよ。特にミーナ様は身を以って知っているでしょうに」
「ははは。そこを突かれると痛いなぁ。まぁ、ミーナもフェルナの気持ちも分かってはいるんだけどね。僕にはそう思う資格は無いから」
ミーナからは行動で示されているし、フェルナは獣人。獣人は自身の耳や尻尾を触らせる事に親愛や従う事を示しているらしいし。フェルナを引き取ってから耳を触ったのは異性で俺だけだと以前、リリィから聞いた。
「……孤児、だからですか」
「そう。僕の黒髪って忌避されてるんでしょ。ミーナは違ったけど、リリィも含めて最初に会った人全員、少し怯えていたよね。目がそう言ってたよ。あ、フェルナは違うよ。フェルナは小さい頃に捨てられたそうだし、親が泣く泣くって可能性があるはずだ。僕にはそれすらない。赤ちゃんだからね。つまりは忌み子。だから僕には誰かを思う資格すらない」
そう言えば神は俺の前世の考えを治すとか言ってたな。でも出来るのか? 十年以上、溜まりに溜まって、凝りに凝り固まったこの考えを。相手の気持ちは多少、分かるようになっては来たが、所詮その程度。ミーナもフェルナも俺以上に良い奴なんで幾らでもいる。それこそ社会的にも心理的にも。俺から想う事なんて無い。
なんて事を考えているとリリィから責めるような言葉が飛んで来る。
「レイン様。ミーナ様はご自身の純潔の一部をフェルナは敬意を捧げています。レイン様ならいつか答えは出して下さると思えますがくれぐれも軽はずみな返答はお止めくださいませ。先ほどの答えでは理由にはなりません。お二人を受け止めるも引き離すも良く良く考えて下さいね」
「……そうするよ。最低でもそれくらいはね」
前にもあったような気迫を背中から醸し出すリリィに俺はそう答えるしかなかった。偶にあるよなリリィ。凄いオーラが来て何も言えなくなるんだよ。一体どんな経験をして来たのか。
その後は日が暮れる前まで馬車を進めながら他愛ない話を続けた。日が傾き始める頃には手頃な場所を見つけて馬車を止める。
リリィが仕事をしている時に俺は皆を起こす。馬車から出る頃には殆ど夕飯の用意まで済んでいてもう始められるという所だった。
食材は昼間のがあるので狩りは無くなった。俺はフェルナに教えて貰いながらルーラビットとララフ鳥の解体をして一口サイズに切り揃えていく。出来た肉は細く尖った気の串に刺して肉串にしていく。肉串になった物は火のついた傍に刺して焼く。
全ての作業が終え、食べれる頃には日もいい感じに暮れていた。夕食を食べ終えた後は見張りの準備をするのだが、俺がアル達を呼んだので一気に解決した。
「アル、皆。悪いけど朝まで見張りお願いできるかな? 今度お願いを聞くから」
『では、是非毛を梳いて下さい。あれはとても気持ちいいですから』
『『『『私も!!』』』』
「分かった。よろしくね」
明日からも早いので寝る事にする。馬車は六人が寝ても少しは余裕がある位大きい。だが、それでも結構一杯なので、俺、ミーナ、フェルナ。アルグリードさん、リーフェスさん、リリィで分けて眠る。分けたのはリリィだ。意図の方は理解しているので何も言わない。表向きな理由としてはリリィがアルグリードさん達の護衛、フェルナが俺たちの護衛となっている。そもそも護衛の意味はないと思うけど。
アルグリードさん達は互いに手を繋いで、俺はミーナとフェルナを両腕に抱えて、リリィはそれを見ながら眠りに入る。珍しいと思ったのはフェルナが遠慮しながらもミーナと同じ行動に出た事だ。ミーナはいつもの様に腕枕をしてくっ付いている。リリィはそんなフェルナに応援の眼差しを向けていた。
そうしてその日は終わった。
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