最終章 阿遅鋤高彦根(あぢすきたかひこね)
天之稚彦の遺体は、志貴彦達の目の前から忽然と消えてしまった。いくら考えても志貴彦達にその原因は思いつかず、また亡骸の行方もようとして知れなかった。
しかし、たとえ遺体がなくなっても、稚彦の死を悼む為に集まった鳥達の熱意は変わらなかった。志貴彦は彼らの想いを汲んで、稚彦の亡骸のないまま『殯』を行なう事にした。
志貴彦達は、邑外れの林の中に、大急ぎで祭祀の場となる『喪屋』を建てた。藁と木の枝を組み合わせて作った、簡素な小屋だ。
そしてその中に、「稚彦の遺体を納めたこと」にした。葬送の役目を担った鳥達は、それぞれ帚や高坏などの道具を持って『喪屋』を囲み、「弔問客」となった志貴彦と少彦名そして邇芸速日と少しばかり回復した邇邇芸は、離れた場所からその様子を見守っていた。
「ううう、お可哀想な稚彦さま……。こんな僻地で頓死なさった上に、ご遺体まで消え失せるなんて……。よくよく運のない御方ですわあ……」
葬送の悲壮感を盛り上げる『哭女』の役を受けた大雉の鳴女は、張り切って大声で涕泣していた。
「……本当だよねえ。僕、この世で一番不幸を呼ぶ男って、てっきり君だと思ってたんだけど」
鳴女の嘆き声を聞いた志貴彦は、筵の上で胡座をかいたまま、隣に座る邇芸速日にちらっと視線を送った。
「……」
邇芸速日は答えず、仏頂面で唇を引き結んだままだった。志貴彦達には真実を語ってはいないが、結果的に稚彦死亡のきっかけを作ってしまった邇芸速日に、言えることは何もない。
邇芸速日の左隣では、まだ青白い顔をした弟の邇邇芸が、時折気持ち悪そうに喉元を押さえていた。
「ふん、邇芸速日の災難を引き寄せる体質が、天之稚彦に乗り移ったのではないか? なんにせよ、気の毒な男じゃて……」
無言のままの邇芸速日を見て、志貴彦の肩の上にいた少彦名が皮肉気に鼻を鳴らす。
しかしその時、背後から彼らに向かって突如聞き返した者があった。
「--誰が気の毒だって?」
突然降ってわいた第三者の声に、居並んだ男達は驚いて一斉に振り返った。
裏手の林の中に、一人の若い男が佇立している。
「え、君、は……!?」
現れたその青年の姿を見て、志貴彦ははっと息を呑んだ。他の者達も、同様に愕然として言葉を失う。
そこにいたのは、天之稚彦--いや、天之稚彦に『似た』男だった。
顔の造作や身体のつくりは、生前の天之稚彦とそっくり同じである。しかし、稚彦がぬばたまのような黒い御髪と黒曜石の如き双眸を持っていたのに対し、現れた青年は、少し黄身がかった薄い亜麻色の髪と、琥珀のように甘く透き通った瞳をしていた。
「なんか、辛気くさいことしてんなあ? --誰かの葬式か?」
男は可笑しそうに、絶句する志貴彦たちの顔を見回した。その、大仰な動作と砕けた口調。瞬間ごとにくるくるとよく変わる豊かな表情までもが、天之稚彦そのものだった。
「いやー、ひたすら海を渡ってたのによ、気がついたらこんな山の中に出てたぜ。まったく、おかしな話……」
「--君は……天之稚彦なの?」
つらつらと喋る男の台詞を遮って、志貴彦は戸惑いがちに尋ねた。
「あ、えーっとな……」
男は、その時初めて思い出したように己の姿を見返して、ばつがわるそうに苦笑した。
「--確かに、前はそうだった」
「前はって、じゃあ、今は稚彦じゃないの?」
「……多分」
男は自信なさげな調子で曖昧に答えたが、すぐに開き直ってたたみかけた。
「……だってさー、必死に舟を漕いでて、ふと見ると髪の色とか変わってんだよ! お前だって、そうなったらびっくりするぜ?」
男は、一生懸命説明しながら同意を求める。
しかし男の説明はまったく要領を得ておらず、志貴彦達の中に事態を理解できた者は一人もなかった。
「……それじゃあ聞くけど、天之稚彦じゃないっていうなら、君はいったい『誰』さ?」
「--あ……」
志貴彦に率直な疑問をぶつけられて、男は思わず返答に窮した。
男は、先程から「天之稚彦か」と問われる度、己の中の核がそれを否定するのを感じていた。男の核は、既に『天之稚彦』という名を『真名』として受け入れないのだ。
では、この『存在』は、いったい『何』なのか。
『自分』は、一体『誰』なのか。
男は、名乗るべき己の『真名』を知らなかった。
「……俺は……」
男が当惑して言いよどんだ時、それまで『喪屋』の前で『碓女』の役を務めていた小スズメが、持っていた碓を離して突然唄い出した。
天なるや 弟棚機の
うながせる 玉の御統
御統に あな玉はや
み谷 二わたらす
阿遅鋤高彦根の神そ
その小さな身体に見合わぬ小スズメの朗々とした唄声は、山の澄明な大気の中に清らかに響き渡った。
唄い終わると、小スズメは羽を広げて『喪屋』の前から飛び立った。そして大きく空を旋回すると、男の眼の前で停止した。
小スズメは、愛らしい声でピィ、と鳴いた。
次の瞬間、小スズメの身体は薄靄のようなものに包まれた。靄はみるみるうちに人間ほどの大きさに広がっていく。
そして、靄は突如四散した。その後に忽然と現れたのは--一人の、年若い乙女だった。
「……空の上で美しい衣を織る織り姫が、首にかけている御統の大きな珠の飾りのような貴い方、二つの谷の間を光らせるほどに輝く御方--あなたは、『阿遅鋤高彦根』です」
顕現した乙女は、男の琥珀の瞳をまっすぐ見つめてそう告げる。そして、男に向かって嬉しそうに微笑んだ。
※※※※
その日も、天照大御神は「日ノ宮」の奥殿で、高御産巣日の道楽につき合わされていた。
「……面白い遊戯を考えたぞ」
天照と対座した高御産巣日は、そう言うと、連れてきた祝に向かって指を振った。
祝は至高神の二人に近寄り、恭しく螺鈿の小箱を差し出す。
高御産巣日は受け取った小箱の蓋を取り除くと、中から幾枚もの貝殻を取り出した。
「……なんですかな、それは」
天照は、目の前の床の上に順序よく数列に並べられていく貝殻を見下すと、素っ気無く尋ねた。
「献上された蛤の裏に、美麗な絵を描かせたのだ……見よ、同じ絵柄が二枚ずつあるのだぞ」
高御産巣日は、天照に向かって二つの蛤の蓋裏を見せた。確かに、そこには同じ美姫の姿が描かれてあった。
「これをな、このようにするのだ」
高御産巣日は絵の側を下にして蛤を並べ終わると、両手でそれを丁寧に混ぜ合わせた。
「……こうすれば、どこに同じ絵があるのか表からはわかるまい。交互に一枚ずつ開いてゆき、より多くの同じ絵を引き当てた方が勝ちとなる。……どうだ、新しい試みだろう?」
「……それは楽しい遊戯ですな」
天照は、高御産巣日の瞳を見ぬまま辛辣に言った。
天照には、抱えている決済や執務がまだ沢山あった。こんな所で貝殻遊びになど付き合っている場合ではなかった。
「うむ。『貝覆い(かいおおい)』と名付けた。これは、盤蓋六に代わる流行となるぞ。まず我々が飽きるまでやってな、そうだな……二千年ほどしたら、下界にも伝えてやろう」
「……」
嬉々とした高御産巣日の姿は、神々の前で見せる普段の厳然さとはかけ離れている。時折高御産巣日のこうした様子を見るたび、天照は『彼はよほど暇なのだろうか』と思った。
創世の時から天にいる高御産巣日は、もう大抵のことに飽いている。彼にとって、生きること全てが、ただの暇潰しだ。--天照を、高天原の支配者に押し上げたことさえも。
「それ、大御神。そなたからとるがよい」
高御産巣日に促され、天照は不承不承蛤をめくった。そこには、一匹の不細工なナマズが描かれていた。
「おお、大御神。それはな、『外れ』じゃ」
「……そうですか」
『外れ』が入っているなど、最初に言っていなかったではないか、と天照は思ったが口にはしなかった。
「わしはどれにしようかの……」
高御産巣日は身を乗り出して、蛤を物色し始めた。勝手にすればよい、と天照は傍らの脇息に腕を置いた。
「……しかし、天之稚彦は、結局、戻っては来ぬのだな」
視線を貝に注いだまま、高御産巣日はだしぬけに呟いた。
「戻ってこられては、困るではありませぬか。……始めから」
脇息に痩躯の身体を預けたままで、天照は大義そうに答えた。
「確かにな。……しかし、どうも掻き回す者がおったようではないか? 我らの予定よりすんなりと邇邇芸が地上へ降りたのはよいが、その代わりに、折角〃あれ〃に持ち出させた『斎庭の稲』が燃えてしまった。計画にはなかったことだぞ」
「--些事にすぎませぬ」
そう言い捨てると、天照は手に持った扇を打ち鳴らした。
「ほお? 地上に根付くべき黄金の稲穂が失われたことを、『些事』とな」
「稲穂はまた何度でも実る。……重要なのは、豊葦原に『穀霊』が降りる事だ」
天照は、奥殿の壁に飾られた桂の枝を見ながら厳かに述べた。
「確かに、邇芸速日・邇邇芸の二人の『穀霊』は地上へ降りた。それが肝要だったことには違いない。……しかし、計画に狂いが生じたことにより、『予定』は大幅に遅れるのではないか?」
蛤を拾った高御産巣日は、気怠そうな天照を、咎めるように一瞥した。
「……収穫は、あった……全ての遅れと引き換えにしても、あまりあるほどの見返りが……」
「収穫?」
「高木の神。……我は、『月』に逢いましたよ……」
そう呟いた瞬間、俯いた天照の相貌に、屈折した嗤笑が浮かんだ。
凍りついたように瑕瑾なく整っていた天照の麗貌が、突如凄惨な陰を帯びる。その歪んだ感情の発露は、高御産巣日に鋭い戦慄を感じさせた。
……かつて一度だけ、天照がこんなふうに笑うのを見たことがある。
今の高天原では、知らぬ者も多い。しかしその鮮烈な記憶は、高御産巣日の脳裏からけして消し去られることはなかった。
あれは、天照が高天原の支配を完成させようとしていた時のことだ。
最後の障害となった『月読』に、天照は冤罪を着せて堕天させた。神格を失った『月読』は地上へ堕ち、その後行方しれずとなった。
まだ天にあった頃、天照と月読は仲のよい兄妹だった。少なくとも、月読は天照を慕っていたし、彼女には高天原を支配しようなどという野望はなかった。
冤罪など着せずとも、天照が命じれば、月読は自分から競争を降りたはずだ。事実、須佐之緒はそうだったのだから。しかし、天照は月読を堕天させることにどこまでも固執した。
あの時の天照は、狂気じみていた。殆ど感情をあらわすことのない彼から、はっきりと『憎悪』が感じられたほどに。
高御産巣日は、一度だけ、天照に聞いてみた事がある。
『何故そこまでするのか』、と。
天照はその時、
『あれは、死ぬことを許されたもう一人の私だから』
と答えた。
「……嬉しそうだな、大御神」
恍惚として扇を弄ぶ天照を見ながら、高御産巣日は眉を顰めた。
「そんなはずはない」
天照は、その相貌から嗤笑を消すことなく答えた。彼が嘲笑っているのは、なんなのだろう。
貶めた『月』か。
--それとも、自分自身か。
天照の尋常でない様子を見て、やはり『月』に関しては深入りせぬほうがいいと判断した高御産巣日は、わざとらしく話題を変えた。
「……しかし、邇芸速日と邇邇芸はわかるが、よもや天之稚彦までが『穀霊』の一人だったとは……そなたに言われるまで、このわしでも気づかなかったぞ」
「……」
天照は、面をあげゆっくりと姿勢を元に正した。彼の顔からは、先程まであった陰がきれいに消えていた。
「高木の神は、天之稚彦の『神格』をご存じか」
怜悧な視線で高御産巣日を見据えて、天照は厳かに聞いた。その姿は、いつも通り泰然としたものだった。
「--『神格』? 『神格』は、普通『真名』に表わされるものだが……『天之稚彦』とは……」
高御産巣日は、蛤を握ったまま、ふと困惑した表情を浮かべた。
「ふむ、『天之稚彦』とは……『天の若子』……『天の若い男』という意味しかないの。……そういえば、あやつには明確に体現する『神格』がないぞ!」
高御産巣日は、初めて気付いたように、驚嘆して手を打った。
「そう。天之稚彦には、己の『真名』で体現する『神格』がなかった……それは、彼が『到来者』だからだ」
「『到来者』?」
「天之稚彦は、厳密にいえば『穀霊』そのものではない。彼は、穀霊を『もたらす者』だ。穀霊は、それ自身がただ存在しているだけでは、その本来の役目を努めることができない。『穀霊』と『到来者』--即ち邇邇芸と邇芸速日と天之稚彦、この三神が地上へ揃って降りて初めて、あの豊葦原は……『水穂の国』となる可能性を持てる」
「……千秋の長五百秋の水穂の国、か」
高御産巣日は穏やかに呟いた。それは、いずれ豊葦原が冠すべき言祝ぎだった。
「豊葦原は、その名の如く未だ葦のはびこる未開の地だ。彼の国にあるのは、貧弱な雑穀の劣種ばかり。そこが、本当に天と同じような黄金の稲穂の満ちる『水穂の国』となってくれるかの」
溜め息をつきながら、高御産巣日は握っていた蛤の蓋を裏返した。そこには、厳めしい武人が描かれていた。
「その為に、豊饒をもたらすべき三神を降ろしたのではありませぬか」
そう言いながら、天照も指を伸ばして二枚目の蛤を手にとった。
「今はまだ混沌の『豊葦原』と言われるあの国も、いず
れ豊かに整った『空見つの倭』と呼ばれるようになるだろう。彼ら三人は、その為の布石……」
「気の長い話よの」
高御産巣日は、武人像の描かれた蛤を己の傍らに置きながら呟いた。
「瞬く間ですよ。……我らには」
天照は、手に持った蛤を引っ繰り返した。--そこには、またしても不細工なナマズの絵があった。
「仕方ない。あの『空見つの国』が我らの領分となるまで、ゆっくり待つとするかの……」
「--高木の神。『外れ』が二つある」
膝を崩す高御産巣日に向かって、天照は両手に持った二枚の蛤を差し出した。
「このような場合は、どうなるので?」
「んん? うむ、それはの……『無功』だ」
ナマズの絵を覗き込むと、高御産巣日はしばらく考え込んでから、そう答えた。
「成程」
冷ややかな目つきで頷いて、天照は『無功』となった蛤を脇息の脇に退ける。
「失礼だが、高木の神。この遊戯は、あまり面白くありませぬな」
「ふむ、まあ……改善の余地はあるだろう」
ごまかすように言いながら、高御産巣日は己の分の二枚目を手に取る。裏返すと、そこには無表情でうずくまる三匹のナマコの絵があった。
※※※※
かつて『天之稚彦』だった男の前に顕現したその乙女は、今の彼と同じ髪と瞳の色をしていた。顔の造作も、少し似通っているかもしれない。目が大きく顔立ちがはっきりしていて、見る者を引きつける快活な表情をしていた。
「『阿遅鋤高彦根』って……それが、俺の名前か?」
「はい」
乙女は、男に向かってにこやかに微笑んだ。
「阿遅鋤高彦根……ねえ」
男は、一音一音噛み締めるように、その名を口にした。音を発する度に、己の内奥が呼応して歓喜するのを感じる。言葉が核に染み入ってくるようだ。名の全てが自分に適応し、何の違和感も感じない。
ではこれが、新たなる『真名』か。『転化』した自分をあらわす、真実の名。それが--阿遅鋤高彦根。
「……ねえ、君は誰? さっきまで、スズメだったよね?」
志貴彦は、突然現れた乙女をじっと不思議そうに見つめていたが、とうとう我慢できなくなって尋ねた。
「あら、私たち、何度か出会っていますのよ」
乙女は志貴彦達の方を振り返ると、愉快そうな口調で言った。
「出会ってる……?」
志貴彦は困惑して首を捻る。
鬱金で染めた上衣と裳を纏い、草色の帯を占めた若々しい乙女は、阿遅鋤高彦根と同じくらいの年頃の、とても鮮やかな印象を残す娘だ。一度見たら忘れるはずがない。しかし志貴彦には、これまで彼女と会った記憶などなかった。
「……ああ、これではわかりませんわね」
朗らかに呟きながら己の姿を見下ろすと、乙女はパチッと指を鳴らした。
その途端、乙女の姿が変化する。
「--ああっ、蟹女!!」
驚嘆の叫びを上げたのは、阿遅鋤高彦根だった。
彼らの前に出現したのは、かつて玉造りの里で志貴彦たちを巧のもとまで導いた『寿かひ人』--頭に何本もの蟹の足をさして顔を赤く塗り、奇怪な舞いを披露した
『蟹女』の姿だった。
「こういうのも、ありますわよ」
驚愕する一同を面白そうに眺めると、乙女はまたもや指を鳴らした。再び、乙女の姿が変化する。
次に現れたのは、赤い帯で眼を隠し、貫頭の衣を来た大人びた女だった。阿遅鋤高彦根も志貴彦もその女を見たことがなかったが、その場にいた者の中で、邇邇芸だけが唯一はっと息を呑んだ。
「……さ、佐具女……!」
邇邇芸は弱々しく叫び、引きつった顔で『佐具女』の姿を指さした。
「お前、この女を知ってるのか?」
倒れかかる弟の身体を支えたまま、邇芸速日が怪訝そうに尋ねた。
「……高天原で、ボクに兄上を捜しに行けっていった女神だ……」
邇邇芸は、恐怖で蒼白となる。思えば、この女に地上行きを唆された時から、邇邇芸の受難は始まったのだ。
「ふふふ」
赤い唇に艶麗な笑みを浮かべると、女はぱんっと両手を叩いた。女の姿が、元の快活な乙女に戻る。
「私は、寿かひ人であり、佐具女であり、雀でもある……でも、全ては同じ。みんな、一人の私へと戻っていくのだから」
乙女は唄うように語ると、阿遅鋤高彦根の前へ進み出た。長い裳裾の端を指先で握り、てちょこん、と頭を下げる。
「私は、下照姫と申します。……ようこそ、地上のお兄さま」
下照姫は、輝くような笑顔で阿遅鋤高彦根に向かって手を差し出した。
「兄……俺が、お前の兄!?」
阿遅鋤高彦根は驚愕して絶句し、そこにいる下照姫の姿をまじまじと見つめた。
高天原にいた時、『天之稚彦』に妹はいなかった。いやそれ以前に、阿遅鋤高彦根はこの下照姫という乙女を知らない。
「創世七代の神々がそうであったように、私達もまた『姫・彦』の定めに従い、一対の国津の兄妹神として地上に生まれるはずでした。……けれど、二重性を持つあなたは、『天之稚彦』として高天原へ行ってしまった。私は共にあるべきだったあなたと引き裂かれてしまったために、様々な不完全な姿を借りながら、天と地の間でさ迷うことになったのです」
阿遅鋤高彦根に向かってそう語りながら、下照姫は少し寂しそうに眼を伏せた。
「私が本来の『下照姫』に戻るためには、あなたという存在が必要でした。……ですから、私は天界の神だったあなたを、地上の国津神として『属性転化』させるために『導き』を担うことになったのです」
「『導き』……そうか、お前が俺の『導き手』だったのか!」
阿遅鋤高彦根は、『なづきの磯』で出会った不思議な少女の語った言葉を思い出した。
海を渡り、地上の国へ戻ればいい。辿り着く先に、阿遅鋤高彦根を待つ者がいる。
それが、『天之稚彦』から『阿遅鋤高彦根』へと、存在の『転化』を導く者--。
「……ああ、あの方に、お会いになりました?」
下照姫は、嬉しそうに尋ねた。
「これは、難しい使命でした。私だけでは、力が足りませんでしたの。ですから、幾人かの方々のお力をお借りいたしましたわ。--その中でも特に、共に天に恨みを抱く、二柱の女神の御方に」
「二柱の女神?」
「お一人は、夫を憎む地母の方。そしてもうお一人は、未だ輝きを失わぬ月の君……」
「イザナミ……そしてツクヨミか……」
阿遅鋤高彦根は感嘆の呻きを漏らした。
そんな大物が、動いていたなんて。ということはやはり、あの『なづきの磯』の少女は、行方知れずになっていたはずの月神だったのだ……。
「……ああ、やっぱりあの高千穂の姉妹は伊佐那美の差し金か……そうだろうと思ったよ……」
それまで黙りこくっていた邇芸速日が、不意にぼそっと呟いた。その途端、思い出したように阿遅鋤高彦根が邇芸速日を睨み付ける。
「そうだ、邇芸速日! ……てめえ、自分のやったこと忘れてないだろうな! きっちり落とし前つけさせてやるぜっ」
「ふん。お前の『転化』とやらに巻き込まれたオレ達兄弟の方が、よっぽどひどい目にあったよ。邇邇芸なんか、復若をなくしたんだぜ。詫を入れてほしいくらいだ」
「……っだとお……!」
今にも邇芸速日に殴りかかろうとした阿遅鋤高彦根の肩を、下照姫が後ろからそっと押さえた。
「おやめなさいな、お兄さま」
「けど……」
拳をあげたまま、阿遅鋤高彦根は言い淀んだ。何故かわからないが、下照姫の「お兄さま」という言葉の響きには、抗いがたい力が込められていた。
「許しておあげなさい。彼の存在もまた、お兄さまの『転化』を導く上で必要な要素だったのですよ」
「こいつが、必要……?」
「私は己の目的に向かって事を起こしましたが、それは結果として天と地のそれぞれに、あるいは利を、あるいは禍を与えました。世界は全ての関係性の中で動いていくのですよ。それを許容することも必要です。……それに、ね。彼らは既に罰を受けています。この兄弟は、もう高天原へ帰ることはできないのですから……」
「--ええ!?」
下照姫の何気ない一言に吃驚したのは、邇芸速日たち兄弟の方だった。
「な、なんでオレ達まで高天原に帰れないんだ!?」
邇芸速日は激しく狼狽しながら、必死の形相で下照姫を問いつめる。
「……あら。だって、あなたは最初から『叛神』なのだし。弟神のほうは、復若をなくしたでしょう? もう、高天原の時流とは身体が適応しませんわよ」
「……その人の言う通りだよ、兄上……」
邇邇芸は呟きながら、諦めたように項垂れた。
「もうボクたちは、天へは帰れない身なんだ……」
「……ふうん。そっかあ」
呑気な口調で呟くと、志貴彦は立ち上がって邇邇芸の前まで歩いた。そこで志貴彦はしゃがみこみ、邇邇芸の憔悴した白い顔を見上げる。
「--それで、君たちはこれからどうするの? ここにいるの?」
「……」
突然志貴彦に尋ねられた邇邇芸は、最初虚をつかれたように絶句していたが、しばらくしてその衰弱した面に弱々しい微笑みを浮かべた。
「……いても、いいのなら」
「いいんじゃない? どこでも、いたい所にいればいいんだよ。誰も止めないさ--ねえ?」
志貴彦は、睨み合って対峙する阿遅鋤高彦根と邇芸速日を見上げ、無邪気な顔で二人に同意を求めた。
「……」
阿遅鋤高彦根と邇芸速日は、共に苦々しい表情で互いの視線を反らす。
「……お兄さま」
下照姫が、優しく阿遅鋤高彦根の肩を叩いた。
「--兄上」
邇邇芸が、諭すように邇芸速日に呼びかける。
「……ま、たまには喧嘩してもいいけどさ。基本的に、仲良くやってよね。これから、みんなこの出雲で一緒に暮らしていく仲間になるんだからさ。賑やかになるね、ね、少彦名?」
志貴彦は満足したような笑顔で、己の肩の上に乗った少彦名の小さな頭をぽんと叩いた。
「うむ……、まあ」
考え深げに頷くと、少彦名は独言のように言った。
「それもまた楽し、じゃな」
※※※※
高天原の西の果てには、「天の御巣」と呼ばれる雄大な宮がある。そこに鎮座する主の神格の高さを表わす荘厳な宮居だったが、この近辺に近づく者
はあまりなかった。
それは、この宮の主が徹底して孤高を好んだからだ。その神は、高天原で起こるあらゆる事にけして関わろうとはしない。また他の神々との交わりも厭い、滅多に外に姿を現わすことはなかった。
主の名は、神魂という。造化三神の一柱であり、高御産巣日の対応神でもあるこの神は、まごうことなく高天原の最高神の一人であった。
神魂は本来、明確な個性や性差を持たない。ただ対応する高御産巣日が壮年男性の姿で具現しているのに会わせて、神魂もまた、仮初に中年女性の姿を模していた。
神魂は宮の中に、最小限の祝達しかおいていなかった。彼女は常に一人で奥殿にこもり、瞑想にふけるのを日課としていた。
そして今日も、彼女は一人で静かな時を過ごしていた。このまま平穏に一日が過ぎればそれでよいと思っていたが、神魂の思いは予期せぬ闖入者によって破られること
となった。
座禅を組んで目を閉じていた神魂の前に、音もなく一人の少年が出現した。
深く襲を被り、顔を隠した少年だ。
現れた後、少年は暫く佇立して、瞑想にふける神魂を眺めていた。
「……どうした。珍しく、機嫌が悪そうではないか」
神魂は、いつものように少年が直ぐに喋り出すだろうと思っていた。しかし彼は、神魂の意に反してずっと黙りこくっている。不審に思った神魂は、とうとう自分の方から口を開いた。
「……やられたよ」
襲の奥で、少年は苦々しい声を出した。
「今度ばかりは、奴らに踊らされた。--出し抜いてやるつもりだったのに」
少年は、悔しそうに拳を握った。
「……御諸」
神魂は、静穏な声で少年の名を呼んだ。
「オレが『斎庭の穂』を盗んだこと、奴らは最初っからわかってたんだ! 折角出雲の為に……あいつの為にやったのに、結局は天照の思うままじゃないか!」
「落ち着くのだ、御諸。……これしきの事で動揺するような器では、汝に『大物主』の名はやれぬぞ」
神魂は淡々とした口調で、逸る御諸を諭した。
……そう、この位で取り乱されては困る。
出雲王である八束志貴彦がやがて『大国主』の名を戴いた時、その分霊である御諸は共に『大物主』の名を冠する者なのだから。
「物事を一面で判断するな。彼らに利を与えたように思えても、大局からみれば、それが均衡に作用していることもあるのだ」
「あんたの言ってることはわからないよ。……畜生、下照姫なんかに稲穂を任せるんじゃなかった。最後まで、オレ自身で持ってればよかったよ……」
「だが下照姫に預けた為に、結果として出雲王の元に三人の穀霊が揃うことになったのだぞ?」
「だから、それが納得いかねえんだって。こっちにもあっちにも得だったなんて、どういうオチだよ……!」
御諸は、乱暴に頭の襲を払いのけた。現れたその顔は志貴彦と瓜二つだったが、志貴彦が決して浮かべることのない攻撃的な表情をしていた。
「……」
御諸は暫く歯噛みしたままその怒りを持て余していたが、やがて突然くるっと踵を返し、神魂に背を向けた。
「どこへいくのだ」
「……帰る。ここであんたと問答してたって、仕方ない。今回は、本当くたびれ損だった。志貴彦の中に戻って、しばらく寝てるよ」
後ろ向きにそう言い捨てると、御諸は懐から『熊の神籬』を取り出す。
今にもその小枝を振るおうとする御諸の背に向かって、神魂は厳かに忠告した。
「御諸。いくらそれがあるからといって、頻繁に先触れもなくここへ現れるのは止めておけ。……わたしとて、寛容な時ばかりではない」
「ああ、考えてみるよ。……あんたが『均衡』の名の元に、オレ達に加担してくれてると思える限りはな」
御諸は、指先で小枝を弾く。
鈍い音が奥殿の中に響き--現れた時と同じ唐突さで御諸はそこから消えた。
※※※※
於母陀流神に所用で呼び出された武御雷は、住処である岩屋を出て『水の逆巻き』の結界を抜け、天安河の川縁を下流へと下っていた。
武御雷が歩を運ぶ度、踏みしだかれた川原の石が音をたてる。どれも水の流れで角を削られた、拳ほどの大きさの石だ。
磐と石ばかりがどこまでも続くこの上流の河原には大抵人気がなく、いつも心地よい閑寂さが満ちていた。
武御雷はこの静けさを好ましく思っていたが、かつて彼に「こんな寂しい所によく住んでるな」と言った男がいた。……天之稚彦だ。
歩きながら、武御雷は河原の周囲を見回した。
改めて考えてみれば、確かに殺風景といえるかも知れない。花でも咲いていれば、もう少し違っただろうに。ここに彩りを添えるような、鮮やかな紅い花が……。
物思いに耽りながら武御雷はしばらく単調に歩いていたが、やがて、反対側から一人の青年が河原を上ってくるのに気がついた。
「……おや、珍しい。出かけられるのですか」
武御雷の姿を見かけると、その男は足を止めて話しかけてきた。
「ああ。……汝は、戻るところで?」
「ええ」
その男は、すました顔つきで答えた。
彼の名は、経津主。神剣『布都御魂剣』の具現神格であり、武御雷の眷属だった。
経津主は、剣神の名にふさわしく細い鋼のような体躯をしていたが、同時に洗練された美貌を持つ、洒脱な男だった。
彼は、戦士系神族の中では、かなり異色の部類に入る。
普段から、高天原の主だった神々と頻繁に交流を持ち、そこから得た独自の情報網を、一種の武器のようにしていた。
当然、経津主は、武御雷と違って、結界の内側にいることの方が少ない。
こうして、言葉を交わすのも久々のことだった。
「ああ、そういえば。先ほど、おもしろい話を耳にしましたよ。……あなたの身にもかかわることです」
経津主は、武御雷の表情を伺いながら、思わせぶりに囁いた。
「……わたしに関わりのあること?」
「ええ。……どうやら、天之稚彦が地上におもねった、ということです」
深刻そうな表情で重々しく告げると、経津主は、武御雷の反応を待った。
「そうか」
武御雷は、顔色も変えぬまま、恬淡とそう呟いた。
「……驚かないので?」
期待を裏切られて、逆に経津主の方が、不審そうな声をあげた。
てっきり、吃驚するものとばかり思っていたのだ。
天之稚彦の反逆は、現在の高天原の最重要機密だ。
いずれ神々の間に漏れれば、大騒ぎとなるのは、間違いない。
それなのに、当事者の一人である武御雷が平然としているとは。
「……いや? もちろん、驚いたとも」
経津主を見返すと、武御雷は、とてもそうとは感じられぬ口調で言い返した。
(そうか……稚彦は、もう帰ってはこないのか)
しかしそれは、武御雷が心のどこかで予感していたことでもあった。
天之稚彦は、はじめから自由な男だった。
もとより、天の神の枠にはおさまりきらぬ存在だったのかもしれない。
武御雷は、かつて一度だけ対面した出雲王を思い出した。
彼はまだ年若いが、とても奇矯な……通常の尺度では測れぬ、尋常でない器を持った、少年王だった。
あの出雲王と天之稚彦が地上で出会えば、きっと予想もできない事が起こったに違いない。
高天原に生きる正しき神々では、考えもつかない何かが。
武御雷の無意識の中にはどこか、それを見てみたい、という願望があった。
だから、天照にさえ奏上しなかったことを……出雲王が邇芸速日の行方を知っているという、武御雷のみが知っていた事実を、あの時稚彦に教えてしまったのだ。
「……天之稚彦は、大御神の怒りに触れて死を賜ったとも、そのまま行方知れずになったとも、いわれていますが……」
「本当のところは、誰にもわからないのだろう?」
武御雷は、苦笑した。
それでいい。あの天之稚彦が死ぬはずがない。
きっと今も、地上のどこかで楽しくやっているのだろう。
「……楽しそうですね、武御雷。よもや……天之稚彦が羨ましいのでは、ありますまい?」
「まさか、そんなばかな」
武御雷は、言下に否定した。
「とにかく、天之稚彦が役目を放棄したのですから、あなたに対する処罰は、当分の間、保留されることになるようです。……いやむしろ、今となっては、あなたは唯一天への復奏を果たした使者。その功績が再評価され……もしかすると、再びあなたに出動要請が下るかもしれません」
「そうか」
武御雷は、短く呟いた。
……それもまた、ありうることだ。
自分は、そんな風にしか、生きられない。
たとえ、違う何かへの憧れを心のどこかに抱いたとしても、けして一歩を踏み出すことはできないのだから。
自分は、天之稚彦のようにはなれない。
自分はここで、縛られたまま生きる……最後の時まで。
「その時は、私をつれてお行きなさい。前回は、あなた一人で行ったから失敗したのです。
私とあなたが揃えば、あんな地上の国を陥とすくらい、造作もないことですよ」
言いたいことだけ言ってしまうと、経津主は武御雷に軽く礼をして、そのまま再び河を上っていった。
経津主が去った後も、武御雷はしばらく無言のまま、天安河の流れを見つめていた。
……いつかまた、どこかで天之稚彦とまみえることがあるのかもしれない。
その時、もう一度、彼と話をしてみたいと思った。
こことは違う世界で生きることを決意した彼が、ここにはない『何』を、あの空見つの国でみつけたのか。
それを、聞かせてほしい。
彼が、あの地上の海で、見たものを……。
※※※※
稲佐の浜は、鮮やかな朱色に照り輝いていた。
遠い大海の彼方に、夕陽が落ちようとしている。
「何もかも、ここから始まったんだな……」
眩しそうに眼を細めて、阿遅鋤高彦根は感慨深く呟いた。
そう、それは、ほんの少し前の事だ。
この稲佐の浜に飛び降りた時から、全ての出会いが始まった。
そうして『アメノワカヒコ』はいなくなり、自分は今、『アジスキタカヒコネ』として、ここに立っている。
高天原にいた頃には、予想さえしていなかった事だ。
「起こるべくして、起こったことですわよ、すべて……」
阿遅鋤高彦根の隣で、下照姫が穏やかに答えた。
「……俺が、お前の『兄』になったことも?」
阿遅鋤高彦根は、下照姫を見下ろしながら尋ねた。
耳の下で二つに結わえた姫の亜麻色の髪が、海風を受けて、揺らいでいる。
「ええ、もちろん」
「しかし、いきなり兄妹だと言われても……実感がわかないんだがなあ」
阿遅鋤高彦根は、困惑した調子で呟いた。
確かに、下照姫の容貌は、阿遅鋤高彦根とよく似通っている。
だが、幼い時から共に過ごしたのではない、突然現れた乙女をいきなり妹だと思うのは、少し難しいことだった。
阿遅鋤高彦根は、再びその琥珀の瞳を、煌めく海面に戻した。
確かに、下照姫には何かがある。
これまで、どんなにたおやかな女神や美姫を見ても、けして抱くことはなかった覚えのない感情が、彼女を前にすると呼び起されるのだ。
しかしそれは、妹に対するものというより、むしろ……。
「あなたは私の『兄』であり……そして、あるいは『汝兄』ともなりうる方ですわ」
海の彼方を見据えたまま、下照姫は言った。
「……『汝兄』? 『兄』じゃないのか?」
下照姫が突然告げた言葉は、阿遅鋤高彦根に激しい衝撃を与え、更に動揺させた。
兄として接するのと、汝兄になるのは、まるで違うことである。
自分が兄である限り、下照姫は慈しむべき身内だ。
しかし、『汝兄』になれば……一人の男として、彼女の前に立つことになる。
「……兄妹神として定められながら、同時に『汝兄・汝妹』となることを許された対応神を……『姫彦神』と呼ぶのですよ」
下照姫は優雅な手つきで、肩の上にかかる己の髪を払いのけた。
「あなたは、私の兄にも汝兄にもなれる。私は、あなたの妹にも汝妹にもなれる……」
可憐な声で呟き、下照姫は阿遅鋤高彦根を見上げて、その透き通った瞳を覗き込んだ。
「どちらを選びます? 私にはあなたがいてくれれば、どちらでもよいのです」
下照姫は、阿遅鋤高彦根に向かってその右手を差し出した。
長い間探し続けた自らの半身を見つめるその顔は、真摯でありながら、同時にとても穏やかだった。
「……そうだな」
阿遅鋤高彦根は、差し出された下照姫の手をゆっくりと握った。
「じゃあ……一緒に考えようか。この空見つの国で」
阿遅鋤高彦根は、下照姫に向かって破顔した。
こんな風に、なんの屈託もなく誰かに笑いかけたのは、多分初めてだった。
生まれてからずっと、己を締め付けてきた枷が、今、やっと外れた気がする。
こんなに素直になれる自分がいることを、これまで知らなかった。
……ああ、ここには、天上とは違う光と風と海がある。
そして、共に生きるべき者がいる。
胸の奥から、呼吸のできる所……それが、この『空見つの国』。
大空から眺めた、広く美しい国。
……ここが、これから生きていく場所。
……邇芸速日の命、天の磐船に乗りて、虚空を巡りゆきて、
この国をおほりて、天降り給うにいたりて、故、よりて名づけて
『空見つの大和の国』と日ふ……
(「日本書紀」より、抜粋・意訳)
【完】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この「空見つの国」は、アメノワカヒコの物語ですが、
私のライフワークである古代シリーズでは、まだ他にも出番待ちの子たちが、色々といます。
今回もちらっと触れた、アマテラスとツクヨミの確執の真実と、アマテラスの正体については、
次回投稿予定作「アスカキヨミハラ」で明らかになります。
すでに何年も前に完成している作品ですが、アナログ製作のため、またゆっくりとデジタル化をすすめ、
完成したら投稿したいと思います。
その次には、現代に生きる神の末裔たちの物語「水の巫」も予定しています。
(こちらもアナログで完成済)
よろしければ、感想などお聞かせいただけたら嬉しいです。
では。