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栄光のアマデウス  作者: よだつたこ
飾り羽根の子供
5/5

5話「洞窟の先住者」

 夜の冷えた風が水のようにフィルの側を通り過ぎ、フィルの髪と服をゆらゆらと揺らした。

 カイスの外へ出た後もフィルは魔族や同族への警戒を怠らず、空と自分の前方と後方を何度も確認しながら進んでいた。


 フィルが向かっている場所は町や王都という訳ではなく、カイスの周辺で活動する旅人や商人が寝泊まりする為に建てた小屋だ。

 夜の闇に点々と灯っている松明の炎を頼りに小屋を探すが、なかなか見つからない。



 __このまま夜の闇に溶ける様にさ迷い歩き続けねばならないのだろうか。



 そんな思いを抱きながら歩き続けていたフィルは、小屋の代わりに寝床になりそうな場所を見つけた。

 カイスの町から休まず警戒を続けながら歩き続けていたフィルには、その場所が砂漠のオアシスと同等の休憩場所に見えたらしい。


 急いでそこに駆け込んだフィルはリュックから寝具を用意し、地図を取り出して座りながら自分のいる場所を確認する事にした。

 そこは小さな川の近くにある小さな洞窟で端の方には人骨が転がっており、その人骨の頭蓋骨の目があったであろう二つの穴は、まるでフィルの事を見つめている様であった。


 しかし、そんな人骨の事など気にも止めずに自分でリュックから取り出した地図を地面に置き、フィルは地面を見ながら溜め息を吐いた。



 「ああ……」と困り果てた様子で、フィルは洞窟の壁に寄りかかっていたが「カラン……カラン……」と洞窟一体に響いているこちらに近付いてくる物音に気づき、地面の方を向いていた顔を上げ、そちらを見た。



 カラン……カラン……。



 音を立てている物体が立ち止まり、男の声で「こんばんは!」と言った。

 その挨拶は明らかに声を出せる筈の無い目の前の物から聞こえていると思い込んでいたが、頭に直接的に声が届いている事にフィルは気づき、挨拶をした。



「こんばんは」



 挨拶をしてきたのは先程、端の方に転がっていた人骨であった。

 「おおお……」と感動している様子で、その人骨はフィルにさらに近付いて来る。


 __どうやらカラン……カラン……という物音の正体は、その人骨の足音だったらしい。



「貴方は私を見ても怖がらないのですね!!」



 フィルの前でしゃがみこんで「ああ、よかったよかった!こんなに嬉しい気持ちになったのは2年ぶりです!」と言って手の部分の骨でフィルの両手に触れた。



「つかぬ事をお聞きしますが、貴方は?」



 筋肉がついていないにも関わらず、自分と同じように動いている手の部分の骨を不思議そうに見ながらフィルは目の前の人骨について情報を聞き出そうとした。



「私はこの洞窟を棲みかにしている魔族の一人、ボーンズという者です!まあ、勝手に住み着いちゃってるだけなんですけどね!是非、気軽にボンズさんとお呼びください!貴方は?」



 人骨でも話す時には口を動かすらしく、ボーンズの声がフィルの頭に聞こえるのとは別々でボーンズの歯がカチカチとぶつかりあう音が聞こえてくる。



「僕はフィル・デナムっていいます。カイスの町からさっき旅立ったばかりの旅人です。よろしくお願いしますね、ボンズさん」



 __フィルの自己紹介が終わった後、ボーンズはフィルの隣に座り込み、フィルが地面に置いた地図の方を指差して「その地図、何かありました?」とフィルに訊ねた。



「これ、昔の地図みたいで……ここがどこらへんなのかすらわからないんです。ちゃんと今の時代の物を用意したと思ってたんですが違っていたようでして」


「地図まで自分で用意したんですか?お若いのにしっかりしてますねぇ。その地図、私にも見せてくれませんか?」



 フィルは「どうぞ」と言ってボーンズに地図を渡し、骨なのに紙もちゃんと手で持てるのかと思いながら地図を凝視しているボーンズを近くで眺めていた。



「この地図、少なくとも1000年は前の代物ですねぇ。おそらく、どこかの博物館にあってもおかしくないくらいには古いです。どこでこれを?」


「カイス周辺の地図を集めた本があったからその本の内の1ページを拝借してきたんです。そのページが最近の地図だって書いてあったからそこだけ取ってきたんですよ」



 __それを聞いたボーンズは驚いた様子で、こう続けた。



「この地図で最近ですか……!その本もよっぽど古いんでしょうね。」



 驚いてはいるが、ボーンズの話す様子はかなり楽しそうにも見えた。



「ボンズさんってカイス周辺の地理にお詳しいんですね」



 ボーンズは「はっはっは」と笑い、自身の事を長々と話しだした。



「これでも、肉が付いてた頃は世界中を巡っていましてねぇ……今でも同じように旅をしていた者達と出会って色んな話をするんですよ。しかし、こんな姿では昼に出歩く事もままなりませんからね。ここらの私みたいな魔族は皆、魔族同士でやり取りを行う際は500年以上前から存在していると言われる魔族の中の魔族であらせられるシャム・アラグエダ様の洋館にお邪魔させていただき、そこで交流をしているんですよ。そこに集まる魔族達は面白い奴らばかりでしてね。この周辺の地図を全てコレクションしてそれを自慢する奴も居れば、この周辺の噂話を聞きつけてはそれを話す奴もいるんです。私は奴等の話を聞くのが楽しくてですね、いつもそんな奴等の話を聞いていたらいつの間にか物知りボンズさん!なんて風に若衆から言われるようになってしまったんですよ。」



 ボーンズの長い話を黙って聞いていたフィルだったが興味をそそる話がいくつかあったらしく、とてもいきいきとした表情でボーンズから興味のある話を詳しく聞こうと上機嫌で口を開いた。



「ボンズさん、聞きたい事が三つあるのですがよろしいですか?」



 うんうん……と頷いた後、ボーンズは「敬語じゃなくていいですよ?もっと自然と話したいですから!」と言ってフィルと親しくなりたい様子を全面的に出した。



「ありがとう。さっそく聞かせてもらうね。魔族って元は死んだ人なの?」



 __フィルの質問を聞いた途端、ボーンズは熱心に魔族について話し始めた。



「いいえ、魔族という言葉は生死を問わずに膨大な魔力を持っている存在全ての事を指しているのです!犬にも種類があるでしょう?あれと同じなんですよ。魔族にも種類があるんです。死んだ人が魔族になる場合、死後に解き放たれた自身の魔力と自身の感情の同調によって大幅に分けて三つの種類の魔族が誕生します。魂のみで存在しているにも関わらず実体化出来る者をウィザードゴーストと言い、私のように骨のみで動く者をウィザードスケルトン。肉体が腐っていても動ける者をゾンビと言うのですよ!しかし、それとは別で生まれつき魔族である者もいます。魔王やその部下の者達の殆どは生まれつきの純血の魔族……といえばいいのですかね。うーん……実際に会えれば理解しやすいのですけどねぇ……」



 フィルは一応、魔族やシルフィリア以外の種族について調べてから旅立ったのだが、こんなにすぐ初めて聞く言葉が沢山出てくるのかと興味深そうにボーンズの話を聞いていた。

 それでもボーンズが魔族について上手く言い表す事が出来ない事を察すると無理に言おうとしなくてもいいと声をかけた。



「うう……申し訳ありません……私は死後に魔族になった者ですからねぇ……ですが、これだけは言えますよ!生まれつきの魔族にはろくな奴がいません!何の理由も無しに人をたいらげる奴だっているんです!ある一定の時期に人里へ降りてきては人を取って食う奴までいるんですから本当に恐ろしい奴らですよ!」



 ボーンズがあまりに必死に生まれつきの魔族の怖さを伝えようとするものだからフィルはボーンズの事を落ち着かせようと「まあ、まあ」となだめた。





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