4話「旅の始まりは夜風と共に」
ヒュー……ヒュー……ビュオオォ……。
カイスは、風が強い。
それは、空を飛ぶ種族であるシルフィリアが住む環境として合っているから。しかし、その環境も羽根は在れども飾り羽根である彼__フィルの前では、無意味と化していた。
カイスのフィルの家から町の出入口までの道……。その道を木から木へと跳んで移動したり緑の茂みに隠れたり建物の影に隠れる等しながら、フィルは進んでいた。
道と言っても、そこまではっきりとしたものではない。
道として手入れされているかどうかで言えばあまりされておらず、ちょっとした並木道の様になっている程度しか特徴は無かった。
なぜ、フィルがそんな道を隠れながら進んでいるのかというと、上空からパトロールをおこなっている同族の者に見つからないようにする為である。
カイスでは、住民の夜の外出を禁じている。
この付近の魔族が夜になるにつれて活発に行動し始める事が町中に知れ渡ってから、町の者達の誓いにそれが加えられたのだ。
もっとも、フィルは町の住民達の誓いを知っているからこそ、誰にも気付かれないように旅に出ようとしている訳だが。
ルモールやフィグニア婆さん……その二人の事を思い浮かべ、最初は躊躇いもあったかもしれない。しかし、その二人と自分の願望を秤に掛けた時、勝ってしまったのだ。__願望が、圧倒的に。
__フィルの思い描いている”旅”とは何なのだろう?
自分探し?世界の秘密を解き明かす?人助け?魔王討伐……?
その内のどれかと問えば、フィルはどう答えるのだろうか?いいや、そもそもフィルが旅に求めている事など、無いのかもしれない。
ただ町を抜け出したいという願望を”旅”という口実で叶えたいだけなのかもしれない。フィグニア婆さんの問いへの答えだって、嘘かもしれない。ただの、戯言かもしれない。
そんな謎の多いフィルは、徐々にスタート地点へと近付いていった__。
カイスの出入口の門は、夜に訪れる旅人や商人の為に開いていた。
フィルは自分が見つかる前に手頃な物で門番の頭を背後から殴り、気絶させた後に、自分のリュックに詰め込んでいる縄で拘束し、門番の口に石を詰め込み、人を呼べないようにしてから町を出ようと作戦を立てていたが、商人の馬車の積み荷を降ろす手伝いで門番が持ち場から丁度よく離れていた為、こっそり門を通過する事が出来た。