2話「曖昧な答え」
「フィル!次はこっちの棚をお願い!」
……返事がない。
「フィル?」
変だ。
不思議に思ったルモールがフィルを探していると、歴史関連の本が大量に散らかっている事に気づき、その中心にいた人物に向かい、ルモールは出せるだけの大声で怒鳴った。
「フィル!!」
相当うるさかったのか、ルモールが怒鳴った直後にその人物は驚いた様子で耳を塞ぐ。本を踏まないように注意し、ルモールはその人物に近づくと優しく叱る。
「駄目よ、ちゃんと仕事しなきゃ……ほら、片付けて……ね?」
怒ってはいるが優しく注意するルモールは一冊の本を拾い上げ、ちらっとその本の題名を見る。
題名は、”シルフィリアの伝説”。
「ごめんね、今、片付けるから」
申し訳無さそうに本を片付けるフィルに、ルモールは質問を投げる。
「また、シルフィリアの事を調べてたの?」
ルモールは拾い上げた本のページをペラペラめくり、所々文章を拾い上げながらなんとなく内容を理解しようとしていた。
相当古い本らしく、ページを新たにめくる度にほこりが舞い落ちてゆく。
「そうだよ。でも全然、収穫が無くてさ……やっぱり、本だけじゃ限界があるのかな」
フィルは、近くの本棚に本を入れて答える。
「まだ、旅をしたいと思ってるの?」
「んー……まあ、そうだね」
曖昧な答えが返ってくる。
「どうしても、したいの?」
質問の次に、また質問。ルモールの表情は段々、曇天の様に曇りゆく。
「どうしたの?ルモール。そんな顔、君には似合わないよ。君には晴天の太陽の様な笑顔がぴったりだ……ほら、笑って」
晴天の太陽__と言うよりも爽やかな風の吹きすさぶ草原を思い浮かばせる笑顔で、フィルはルモールを励ました。
「うるさい、私の事はいいから答えてよ」
よっぽど、答えが気になるのだろう。
ルモールの口調は、段々と怒りを秘めた物に変わっていた。
しかし、フィルはそんなルモールを嘲笑うかのようにすっとぼけ、自分に答える気が無い事を示す様に本を数える振りをした。
「いーち……にーい……さーん……」
フィルが本を数える声だけが、静かになった部屋の中を響き渡る。
ムッとした顔をした後、ルモールは泣き出しそうにも怒りそうにも聞こえる声で、こう叫んだ。
「……意地悪!!」
先程まで踏まない様にしていた床に散らばった本を踏み荒らしながら、ルモールは嵐の様に走り去って行ってしまった。