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O田原提灯マン改めナナシ -9

作者: 世捨て人抜け作

田原提灯マン改めナナシ


AM:8:45

晴れの日も雨の日も、会社に向かうサラリーマンの群れで

ごった返すO田原駅構内。

男が一人、O田原駅の提灯のオブジェの下に立つ。


O田原提灯マン認証しました。

コンピュータ音声がメットの中に響く。

さあ、出勤だ。

男の姿は提灯のオブジェに吸い込まれる。


ジャンバーを脱いで、ロッカーから取り出したヒーロージャージに着替える。

スタンバイOKだ!

一日で一番充実している瞬間。

ローカルヒーローとしての一日の始まりだ。


AM:9:00

今日はODQ(O田原CATVの略)の取材だ。

先日、助けた同級生の北村奈美恵ことキャバ嬢の萌美ちゃんの常連客に

まさかODQのプロデューサーがいるとはな。


今日の馬鍋はGカップってとこか。

盛ってるなー。

まあ、こいつは胸の大きさを自由に変えられるからな。

とにかくあんだけTV収録に文句言ってたのに、やる気満々感を醸し出していた。

今日のいで立ちもいつもの制服姿ではなく、ぴっちりした黒のタイトスカートに伊達メガネ、

どこぞの仕事のできる社長秘書ってとこだ。


「どうしました?性的な目で私を見ていましたか?ニヒヒ」

俺の視線に気づいた馬鍋が意地悪く問いかけてきた。

「勘弁してくれ、それ以上の発言はCEROが上がるからな」

Yシャツの隙間から激しく主張する胸の谷間を見せつける馬鍋を俺は制した。

なにせ、馬鍋の休日の過ごし方がAV鑑賞で、さらにAV考察同人誌を発刊してるみたいだしな。


AM:10:20

「ありがとうございました。10分休憩後、2本目いきまーす」

1本目の収録が終わるとアシスタントディレクターが台本をぐるぐる回しながら叫んだ。

「しかし、ポンコツだな。アイツ、まったくコメント言えてないじゃん」

頭を掻きながらディレクターはアシスタントディレクターを台本で小突いた。

「聞こえますよ、ディレクター。素人なんだからしょうがないっすよ」

アシスタントディレクターは小声でディレクターに答えた。

「もう一本撮ってみて、コメントあれだったら。上からナレーション被せちまえ」

ディレクターはイラついて言った。

呆れ顔の波プロデューサーは知らぬ顔でスマホを弄り始めた。

「萌美ちゃんからメールが来てないかなー」


照明を浴びているとなんだかポカポカして眠くなってきた。

「おい、馬鍋。なんか眠くなった。後、頼むわ。ふわー」

俺は欠伸交じりで馬鍋に頼んだ。

「了解です。ニヒヒ」

メットの中に悪戯な馬鍋の声が響いた。


AM:10:30


「本番はいりまーす。3.2.1」

アシスタントディレクターのカウントダウンと共に俺は眠りに落ちた。

zzzzzzz


「今日のゲストは二代目O田原提灯マンさんです」

女子アナウンサーが声をかけた。

「よろしくお願いします」

ワンテンポ遅れて馬鍋の合成音声で応答した。

「二代目O田原提灯マンさんは先代のO田原提灯マンの後を継いで、

これからのO田原の平和を担っていかれるとの事ですが、今後の活動と抱負等について伺っていきたいと思います」

「唐突ですみませんが、実はO田原提灯マンの名を返上しようと思っています」

馬鍋は合成音声で勝手なシナリオをノリノリで展開させ始めたが、俺はうたた寝中なので知る由もなかった。

「あれれ?台本と違うぞ。収録止めますか?ディレクター」

アシスタントディレクターはディレクターの方に振り返って尋ねた。

「面白いじゃないの~、好きにやらせれば」

収録に無関心な波プロデューサーはひたすらスマホを弄りながら無責任な意見を言い放った。

ディレクターは波プロデューサーを一瞥すると、女子アナウンサーに調子を合わせるように指示をだした。

俺が夢現の中、収録は淡々と続けられた。


「・・・・という訳で、O田原の皆さんに認めてもらえた暁には、晴れて二代目O田原提灯マンを名乗ろうと思います」

うつらうつら船を漕いで周りの人には何度も頭を下げた様に見えたかもしれない。

「では、O田原の皆さんに認めてもらえるまで、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

女子アナウンサーは懸命に話に調子を合わせ、ふくらまそうとしていた。

「そうですね。ナナシで結構」

その瞬間体がビクッとなったが、周りの人にはみえをきったように見えたかもしれない。

収録の時間も押してきたのか、アシスタントディレクターがカンペに話をまとめてと出してきた。

「成る程、一日も早くO田原の皆さんに認めてもらえるといいですね」

女子アナウンサーは大きく頷き、話をまとめにかかった。

「私も、二代目O田原提灯マンとお呼びできる日を心待ちにしています」

ここに来てがっと大きく落ちて周りの人には深々と頭を下げた様に見えたかもしれない。

「ゲストはO田原提灯マン改めナナシさんでした」

スタジオ内の拍手でようやく俺は目が覚めた。

「お疲れ様でした!」

アシスタントディレクターの声を起点に慌ただしく撤収準備が始まった。


挨拶もそこそこに馬鍋とヒーロールームに帰った。

デスクに着くと何時もの日常に戻った。


PM:17:00

今日も一日平和に終わった。

帰るか。

何時ものようにヒーロージャージを脱いで、ハンガーにかけロッカーにしまう。

通勤ラッシュが始まる前に帰宅の途についた。


2017.02.28



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