依頼30件目「侵入」
先に塔に向かったレミリア、咲夜、妖夢は各々の武器を持ち塔に足を踏み入れる所だった。
「そういえば中には段違いの強さになった妖精がいるって聞いたんですが…フランさんの所に到達できますかね?」
妖夢は高く聳える塔を見上げ呟く。
レミリアは最初に足を踏み出し歩きながら返す。
「誰が来ても捻り潰すだけよ。咲夜、準備はいい?」
咲夜を一瞥する事もせずに問いかけるレミリアにたった一言で、咲夜は応えた。
「聞かずとも分かっているのでは?」
「フフッ…そうね。」
そう言って塔の扉を開くとそこには、氷で出来た兵を従えたEX大妖精がいた。
EX大妖精を目にした時、レミリアの目が憎悪と怒りに満たされていく。
「お前っ…!良く私の前に出てこれたな…!」
EX大妖精は何も言わずに立ち上がり、レミリアに背を向けた。
上の階に登っていくEX大妖精に対してレミリアは噛み付く様に叫ぶ。
「何処に行く!…逃げるのか!?」
緊迫した場面に咲夜と妖夢は構える。
「私と戦いたいならまずは五階まで上がってくることね。」
冷たく言い放ち姿を消すEX大妖精を追う。
「……!」
何も言わずに氷の兵達が立ちはだかる。
妖夢は溜息をついて2人に話す。
「早く始末しちゃいましょう。」
「ええ。そうね。」
それを合図に怒涛の勢いで氷の兵達を破壊していく。立ちはだかった兵は一瞬にして粉砕される。
そして五階への階段に足を踏み出した瞬間。
全員の体に身震いが起きる。
そして五階に到達した時。
「まぁ…来ますよね。」
EX大妖精は表情を何一つ変えずに椅子から立ち上がる。身震いの理由はEX大妖精による物だ。
(明らかに危険だ…。戦ったらまず重症だ。)
レミリアは見えていた。その先の未来が。
このまま自分が戦えば『確実に死ぬ』未来が。
その時だった。
咲夜は震えを制し一歩前に歩み出て、ナイフを握り締める。
「お嬢様、先に…上がって下さい。私がこいつを相手します。」
咲夜の言葉に動揺した。
いや、レミリアが動揺したのは新たな運命を見たからかもしれない。
「お嬢様…分かっているんでしょう?私が此処で相手をしなければ」
「言うな!それ以上…言うんじゃない。」
何も言わずにレミリアを悲しい目で咲夜は見つめる。目を閉じて覚悟を決めた様子で咲夜はそっとレミリアを抱きしめる。
そして耳元で何かを囁きEX大妖精に向き直る。
レミリアは拳を握り締め階段へと歩き始める。
妖夢は慌ててレミリアを止める。
「えっ…!良いんですか!?死ぬかもしれないんですよ…!?」
掴んだレミリアの肩は、震えていた。
それは怒りに震えている訳では無かった。
「止めるな。行くぞ。」
気迫に押され妖夢も黙って離れていくレミリアを追いかける。
レミリア達の背中を見送りながら頷き、咲夜はEX大妖精と対峙する。
EX大妖精はそのやり取りを見ていたが止めようとはしなかった。
「…分からなくも無いわね。」
抑揚もなくそう言ったEX大妖精に咲夜は見下す様な目で見る。
「貴方に命懸けで守りたい人の為に戦う、そんな感覚が理解できるとは思えないわね。」
「私にもいるもの…この10階上にね。大切な親友がね。」
「そう…」
咲夜はナイフを手で遊ばせるが如く宙に投げる。
宙から落下するナイフが咲夜の手に戻った時、咲夜はその刃先をEX大妖精に向けていた。
「その時点で貴方が上層階に向かう二人を止めなかったのは間違いね。」
EX大妖精は表情を何一つ変えることは無い。
「何故なら貴方は此処で私の前に屈するのだから。」
表情が変わらなかったEX大妖精に変化が出る。
嘲笑う様子を見せて立ち上がったのだ。
「寝言は寝て言った方が良いわよ。」
咲夜は軸足に力を込め、EX大妖精の方に走り出した。EX大妖精は不適に笑う。
「貴方はどんな風に死ぬのかしら?」
6階はこれまでとは違った仕組みになっていた。
これまでの様に上の階層に上がる階段は無く、あるのはただ四つの扉だけだ。
レミリアは『終』と刻まれた扉を開き、中を覗いた。中は先など見えない吸い込まれるような暗闇だった。
「暗闇か…特に何か見える訳じゃないな。」
「でも、行くしかないですよね。」
妖夢の言葉に頷き、レミリアは妖夢に向き直る。
「此処は二手に別れて行こう。効率的にも考えればそっちの方が良いだろう。」
「もし、罠とかあったら…」
心配した様子を見せた妖夢に背を向け、扉に手をかけながらレミリアは言う。
「ならば尚更だ。ふたりが罠に掛かるより1人でも進める方が良いだろう?」
レミリアは扉を開ける手を止め背を向けたまま呟いた。
「すまないな。私も止まる訳には行かないんだ。妖夢も…気をつけろ。」
レミリアは『終』と刻まれた扉を開き、中に歩を進めた。やがてその姿は見えなくなった。
「レミリアさんも、気をつけて下さい。」
妖夢は『蟲』、『氷』、『闇』と書かれた扉のうち『闇』と刻まれた扉を開く。
妖夢は息を飲み、覚悟を決め足を踏み入れた。
レミリアはしばらく歩いた後、もう一つの扉に当たった。滑らかな氷製の扉に指を滑らせる。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。
光が差し込みレミリアは、眩い光を手で防ぐ。
「なんだ…此処は。」
中には机と椅子が一つずつ、中央に置かれている。その先には氷の装飾が施された巨大な扉が拵えられている。
(寒い訳でもない…罠。ではない、のか?)
注意深く周りを見渡すがこれといった特徴はそれ以外には見当たらない。
レミリアは巨大な扉の前に立つ。
目を凝らして上部を見てみるとそこには四つの紋様が氷に彫られている。
(四つの紋様…良く分からないが開くのか。)
指でそっと扉に触れた瞬間。
「…!?熱っ…!」
扉に触れたレミリアの指は焼け爛れてしまった。
(再生すればどうと言うことは無いが…吸血鬼の肌を一瞬でここまでにする結界。何か分かるまで触れない方が良いな。)
レミリアは扉に背を向け、入ってきた扉を探す。
しかし不思議な事に入ってきた扉は既に壁と同様の氷と化していた。
「ふん…閉じ込められたか。」
レミリアはその時、何かに気づいた。
四つの紋様の内一つが風を表した様な形をしている事に。
(風…か?憶測だが大妖精を模したのかもしれない。私の考えが正しいなら。)
「大妖精以外の妖精や妖怪もあんな風になっているのかもしれない。それらを倒さなければ結界は解かれない…。」
続く




