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狐の万事屋  作者: zeillight(零狐)
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依頼27件目「速消の狗 四閃」

黒と赤の霧を体に纏い、犬神はその目で萃香を捉えていた。

小柄な体からは、能力の効果で上昇した温度が熱気として発せられている。

「先に一発入れた方が勝ち、でいいな。」

「構いませんよ。俺はあと一発入れられたら動けそうにないですからね。」

萃香は人差し指を折り曲げ戻して挑発する。

挑発され犬神は少し口の橋が上がる。

両足を地面につけた状態で低姿勢になり、次の瞬間には跳んでいた。

(来た…!また消える…!)

すると驚くべき事に黒い霧と共に空間に吸い込まれたかの様に姿が消えたのだ。

萃香はただならぬ気配を感じ、自らの背後に向かって腕を振る。

既にそこには消えたばかりの黒い霧を纏った犬神が体を反らし、拳を躱していた。

萃香の目は直ぐに犬神の足を見ていた。

(両足がついていない今なら、高速移動はできないはず…!)

気づいた時には萃香の足は地面に強く打ち込まれていた。踏んだ方向の地面が衝撃で隆起する。

「ぐっ…!?」

犬神は片足を隆起した岩につけ、そのまま吸い込まれる様に消える。

「片足で、高速移動した…!?」

萃香は動揺したが直ぐに移動先を予測する。

(完全じゃない状態で高速移動しても遠くには移動できないはず!)

その予測通り確かに近い位置に犬神は姿を現した。しかしその姿は一瞬だった。

萃香はその時初めて速消の異名を思い知る。

(高速移動の後、連続して高速移動しているなんてね…)

萃香は遂には俯く様に視線を下に下げる。

(本気を出さざるを得ないじゃないか)

この時。既に勝敗は決まっていた。

犬神が萃香の目の前に出現する。

素早く重い左足の蹴りが目前まで迫っている。


その蹴りは、受け止められた。


(なんだ?偶然か?…何故位置が分かった。)

犬神は直ぐに足を放し、姿を消す。

まず一発。

蹴りを萃香の背後から浴びせるが姿勢を下げられ躱される。

その後は突拍子もない殴打、蹴り技が雨のように繰り出される。


犬神は圧倒的な力の差を感じ始めていた。

何度、姿を消しても。

何回、攻撃しても。

全て躱され、流され、受け止められる。

(何故だ…!)

犬神の思案を読み取ったかのように萃香は口を開く。

「私がお前の動きを予測できているのは、」


そして約数十分経過した頃だろうか。

犬神は息を切らして、萃香を見据えていた。

「終わり、か。…最後だ。一発本気で来い。」

萃香も密度を上げた状態を維持するのは後数分程度の様だ。

「はっ…はぁ…分かりました…。最後の1発。」

犬神は拳を握り締め、両足を完全に地につける。

遂にその足が離れようとした瞬間だった。


「うっ…!あっ、がぁ…!?」

犬神は頭を抱え、嗚咽を漏らし始める。

膝をつき震えている様だ。

「うぉぇ…あぁぁ…ごほぉ…!」

「どうした!一体、何が…。」

萃香は直ぐに走って犬神に駆け寄る。

萃香の目は犬神の口を捉えた。

その途端に、大量の血を吐き出しその場が段々と紅く染まっていく。

何かを吐き出す様に嗚咽を漏らすが、遂に喉奥から地面に何かが吐き出される。

「うぉぇ…がっ、ごほぉっ…!はっ…はっ…」

息は荒く、顔色も悪くなっている犬神はそのまま後ろに倒れ込む。

萃香は慌てて犬神を支えるが

小さな黒い球体が血に塗れて吐き出された血の中に落ちる。

黒い球体が血についた瞬間。

瞬く間に血が黒い球体に吸い上げられていく。

段々と黒い球体に亀裂が入り、中から赤の霧が漂い出てくる。

その赤い霧は犬神の周りに纏わり付き、次第に気を失った犬神の口や鼻に侵入した。

何が起きているか状況を把握できずにいる萃香は後退して様子を見る。

「く…くくっ。ははっ、ははははは!!!」

狂った様に笑いながら朧気に立ち上がる犬神に萃香は気味悪さや、畏怖の念を感じた。

「やっとか。やっと…!」

自らの手や体を見て狂気すら感じる笑顔をする犬神に萃香は何となく察した。


犬神が父親に何か呪いをかけられた事を。

(幼少期ならば、呪いをかけたとしても何とでも言いくるめられる。)

「おい。」

犬神だった者に声をかける。

発せられた声は萃香自身も驚く程に怒りが込められていた。

その声に気づき犬神だった者は萃香の方を向く。

「なるほど。お前が私の息子を追い詰めたか…。礼を言わせてもらおう。」

萃香はただ胸の内に廻る黒い感情を押し殺し、質問を犬神だった者にする。

(まだ…そうと決まった訳じゃない。何か事情があってやったことかもしれない。)

「大体察しはついたが…お前はそいつの父親か?」

「あぁ。そうだ。だから何だ?」

萃香は拳を握り締めて、質問を繰り返す。

(やっぱり『速消の狗』か…。)

「そいつに…犬神に何か呪いをかけたのか。」

犬神の父親は思案する様に手を口に当てる。

しかし直ぐに答えを返した。

「その通りだ。私は『追い詰められた時に呪いの張本人と体を交換する』呪いをかけた。」

その答えを聞いて萃香は自らの黒い感情が正しい事を再認識した。

「別に我が子をどう扱おうが私の勝手だ。そんな事でとやかく言われるつもりは…」

「もういい。…もう分かった。」

萃香は押し殺した様な声で、そう呟いた。

既にそこに立っているのは喧嘩が好きで、酒を飲む事がもっと好きな萃香はいなかった。

「安心したよ。私のこの感情が正しくて…。」

押し殺していた感情のせいで俯き気味だった顔が上がる。

それを見た瞬間。

犬神の父親『速消の狗 四閃』の体に稲妻に似た衝撃が走る。

「この感覚…お前。強いな。」

萃香の周りには怒りが体現した様にも見える程に空気が歪んでいた。

「たった数時間でも…数十分でも分かる。犬神はお前みたいな畜生とは違う。私達鬼が好く様な、正直で良い奴だ…!!」

四閃のその感覚は今までにも感じた事のある感覚だった。

強い者に会った時、追い詰められた時。

そんな状況で体に走る震えだ。

萃香の体は無意識にも動き出していた。

強く地を蹴り右拳を振りかぶる。


その場に風圧が生まれるくらいに重い一撃。


完全に四閃の胴体に入った筈だった。


しかし煙の様に手応えは無く、萃香の拳は虚しく宙を仰いでいた。

「当たらんよ。その速さではっ…!?」

四閃が油断した瞬間だった。

萃香は戻した右手を開き左肘を四閃に向けていた。右掌で左肘を押し出す。

威力は弱くはなった物の素早さは増している。

「がっ…げほっ。まだ効かないなぁ…!」

しかしまだ四閃の消える瞬間には届いていない。手応えは先程よりあったが、完全に入っている訳ではない。

犬神とは段違いの速さで消えているが、萃香は微塵も気にしていなかった。

「ははっ…久しいな。こんなに強いと感じたのは。お前を相手にするには少し準備しなければならん様だな。」

四閃は瞬く間に木の頂上に立ち、こちらを見下ろしている。

「お前は殺す。覚悟しておけ。」

萃香に向けて指を指して、直ぐに消え去る。

悔しそうに見つめる萃香だが、体力が限界に達しようとしていた。

密度を上げて素早く動き、神経を様々な場所に集中させたのだ。

目眩が襲い、萃香はその場に倒れ込んだ…。


続く



皆さん。

臨時報告なのですが、恐らくこの先、省かせていただく戦いがあります。

これから執筆する戦いをピックアップします。

それ以外は省かせていただく方向です。

申し訳ございません。


八雲紫vs一夜

橙·八雲藍vs首無


の2戦のみ都合上により執筆させていただきます。

大変申し訳ございません。


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