依頼21件目「交差する謎」
魔理沙が小悪魔を抱え、塔から飛び出し博麗神社の方向に向かうのをレミリアは見ていた。
氷の道で氷を避けながら塔に近付いていく。
「小悪魔は助けられた様ね。パチュリーは…あぁ。あんな所に。」
レミリアはパチュリーの元まで飛んで行き、その体を持ち上げる。
随分と痩せ細ってしまったかと勘違いする程に、魔力を使い果たしていた。
既に空は茜色に染まり始めていた。
「丁度いい。」
日傘を地面に放り投げ、塔を見上げる。
「一気に最上階まで行ってやるわ。」
その大きく、吸い込まれそうな闇の色をした翼に力を込めて瞬間的な速さで飛び立つ。
3階を越えようとした辺りだろうか。
5階らへんから、何かがレミリアめがけ降ってくる。そのシルエットは次第に大きくなり、近くまで迫りその正体は明らかになる。
「妖精!?」
レミリアは上手く両腕で受け止め、頭上を見る。
5階からは姿が大きく変わった大妖精が飛行をしていた。両腕で受け止めた妖精はレミリアも良く知っている副メイド長だった。
(この子、ウチの…。腹が銃弾で貫かれてる。)
大量の血が流れ込みレミリアの服を染め上げてい
く。手の中で掠れた声で小さく呻く声。
「お嬢様…ですか?…」
「…!そうよ!私よ!」
副メイド長は声にならない様な声で言葉を発する。血も一緒に流れ出す。
「今までお仕えできて…本当に幸せでした。…絶対に…ごほっ。妹様を…救ってくださ…い…。」
副メイド長が弱い力でレミリアの手から自ら、抜け出す。当然飛べるはずもなく落下していく。
「ちょっと!何故自分から…!」
直ぐに追いかけようとした時だった。
何かが弾けるような、飛び散る様な音が鳴る。
それはレミリアの目の前で。
副メイド長の頭が爆発音と共に四散した音だ。
「あぁ。そろそろ爆発時間でしたね。私に手榴弾なんて投げつけるのが悪いですよ。」
声の主である大妖精を見る。
その冷徹な目がレミリアの目と合う。
その時レミリアの中で何かが溢れ出た。
どす黒い気持ちの悪い、感情が渦巻いていた。
気付けばレミリアは大妖精の真正面に飛び出していて大妖精を一発殴りかかっていた。
大妖精は左腕で受け止めたが、大妖精の腕が軋む音が鳴る。その絶対的な力に適うはずもなく地表に押し飛ばされる。
大妖精は空中で体制を立て直し、レミリアを睨み付ける。
しかし大妖精はその姿を見た瞬間に動けなくなった。真の力を解放した大妖精も怯えてしまうくらいにその姿は恐ろしい。
「貴方は……次会った時に。殺すわ。」
そう一言、呟きパチュリーを抱き上げ、博麗神社に行った魔理沙を追って飛び立つ。
その後ろ姿を見ながら立ちつくす大妖精。
体はまだ震えていた。
その日の夜。
気持ちの安らぐ様な風が博麗神社に吹き込む。
咲夜は疲れ切って深い眠りについている。
博麗神社は後から来たパチュリーと小悪魔の手当を終えなんとか休戦状態として一息ついていた。
「はぁ…疲れた。」
霊夢は壁に寄りかかり溜息をつき、魔理沙に視線を向ける。
「そうだな。私も結構…疲れたぜ。」
そんな会話をしていると、襖の戸を開ける者がいた。特徴的な銀の髪。青い目。
「零狐か。紅魔館連中の様子はどうだぜ?」
「今は落ち着いてる。レミリア意外は寝てしまった。…それと。」
零狐が本来の用事について語り始める。
魔理沙も霊夢も疲労していたが、零狐の表情は話を聞く事を断らせない様な凄みがあった。
「明日。此処に八雲の奴らが来る。」
霊夢は落ち着いて聞いていたが、魔理沙は溜息をつきながら話を遮る。
「まず今回の異変について話してくれないか?もうなんか色々な事が一変に起きて良く分からなくなってるんだ私も。」
「それも含めて明日、幻想郷の主要人物も交えて解決策と説明をする…との事だ。」
零狐は襖を全開にして本殿の外を眺める。
満月になりかけている月を見つめる。
心地良い風が霊夢達を包む。
「無事に…異変。終わればいいな。」
霊夢は俯きながら呟く。
「本当にね。」
零狐は幼い頃の記憶を思い出していた。
忘れもしないあの悲しい過去。
その日もこんな月だった、などと心の傷が痛みを思いだす。
締め付けられる様な罪悪感。
助けられなかった排斥の念。
その過去は後に語られる話だった。
ーーー氷の塔 最上階ーーー
「………」
何も言わずにただ虚ろな目で何処かを見つめている人物がいた。
悪魔の妹、フランドールスカーレットはじっと何処かを見ていて、自我を無くしている様にもみえる。そんなフランの背後には【何か】がいた。
その【何か】はフランに囁く。
『もう少しだよ。もう少しで…見た事も無い世界に行けるよ。』
「…ほんと?」
感情の篭っていない声で聞き返すフランにその【何か】は優しく答える。
『ああそうだよ。明後日には…満月が出る。そしたら君がやるんだ。』
「私が…やる。」
『そうだよ。君が。』
【何か】フランの背後で嬉しそうにまとわりつき、大きく肥大して舌なめずりをする。
『君が博麗大結界を壊すんだ。』
その夜はいつもより冷えた風が吹いたと言う。
続く




