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狐の万事屋  作者: zeillight(零狐)
23/34

依頼20件目「始まった異変」

「覚悟は出来たかしら。」

怪物はその発達して最終的に球体になった左手を振り上げてレミリアの頭に当てようと攻撃する。

レミリアは上手く上に跳び、その状態から翼を広げてすぐそこの壁に向かって飛ぶ。

猛スピードで壁に向かった体を自らの足で止め、その反動で怪物の頭めがけて爪を出した状態で殴る。しかしそのレミリアの攻撃は怪物の右手によって受け止められる。

「はっ!?」

怪物はレミリアの拳を掴み地面に体ごと叩きつける。かなりの怪力を持つ怪物なのだろう。

レミリアの叩きつけられた床には亀裂が入っていて、レミリアの腕は折れていた。


これは普通の人間なら有り得ない事である。

まず吸血鬼であるレミリアの攻撃を片手で防いだ事。単純な力勝負で敗北を知ることが無い吸血鬼の腕力を片手で受け止めたのだ。

そしてもう一つは左腕の先に存在する、手では無い球体でレミリアに攻撃して躱されている。

その球体はレミリアに当たらず壁に直撃しただけのはずだ。

つまりこの状態で頭などの高い位置から攻撃されたら『右手が異様に長くないと』防げない。

それを計算に入れてレミリアは攻撃した。

しかし、防がれた。


レミリアは床から体を素早く起こして、左手の爪で怪物の足を引き裂く。

「アァッ…!ウェェアァァ…!」

怪物の足はもぎ取られ骨と肉が見え隠れしていた。鮮血は吹き出し床を紅に染めていく。

怪物は驚いた様子を見せて体のバランスを崩す。

立ち上がろうとした怪物の前にいたのは紅い目の吸血鬼。

怪物は右手でレミリアの頭に当てようと攻撃をするが容易く躱されてしまう。

殺れるのはその時だと思ったのだろう。

怪物の左の球体を右手を躱して隙ができたレミリアの体に打ち込む。

「甘い。」

すぐに最小限で後退して躱す。

その時だった。

怪物の左手の球体が。

いや左腕が『伸びた』のだ。

左腕が届くはずの無い距離に到達して、球体がレミリアの体に打ち込まれる。

「かはっ…」

(何故だ。普通なら届くはずが…。)

怪物はその体からは想像出来ない早さで跳び、レミリアの前に移動する。

レミリアは吸血鬼の強みである反応速度を活かして左手で胴体の横部分に攻撃をしたが、しかし怪物の攻撃の方がリーチ的に先に届いてしまう。

怪物の右手がレミリアの頭を掴む。

「やめ…ろ…!離せ!」

レミリアは自分の頭を掴んでいる怪物の腕を両手で掴み、力を込める。

しかしレミリアの頭を締め付ける力は緩まずにどんどん強くなっていく。

頭蓋骨が軋み、脳が締めあげられる様な感覚がレミリアの体中を駆け巡る。

「がっ…あぁぁっ!!痛いっ!!痛い!!」

レミリアの体が痛みで満たされ、体中に焼けた鉄の槍が何本も刺さるかのような激痛に襲われる。


頭をじわじわと潰される痛みは想像を絶するらしい。脳が体中に一斉に危険信号を放つ為、体がなんとか苦しみから抜け出そうと動かずにはいられなくなるそうだ。

狂った様に手足をじたばたとさせて体を右や左に反らせたり暴れたりする。


しかしその暴れる時間もレミリアは与えられなかった。頭を勢い良く潰されたのだ。

頭蓋骨は粉々になり、脳は潰され、血は滴り落ちていく。

怪物は潰した頭を離し、床に落とす。

背を向けて廊下を歩き始める。


いつの間にか怪物の額には服従の刻印が無かった。術者の召喚が完全では無かったのだろう。

恐らく腕が未熟なのか、もしくは緊急事態で召喚が疎かになったのかは分からない。

余談だが召喚された時についた刻印が消えると、召喚された者は本来の力が出せないという。

召喚し操る者が召喚した者の本来の力を引き出せるのだそう。

しかし召喚を行なった者に見放されたり、敵対されたなら。それは只の弱体化した低級な者になる。知能も低下してしまうらしい。


そして怪物は知らなかった。

いや忘れていたのかもしれない。


怪物は何かを感じて振り向く。

次の瞬間に両腕は吹き飛ばされた。

いや『もぎ取られた』の方が正しいだろう。


怪物はその存在を初めて見た。

妖怪の中でも、相手にしてはいけないと言われていた恐ろしい存在を。


怪物の両腕の返り血を大量に浴びて体は紅い色に染まっていた。

その人物は怪物の元まで歩み寄り、首を掴んだ。

首を掴んでいない方の手で、怪物の胸に狙いを定めて貫く。

その人物の右手によって貫かれた胸の先には右手に掴まれた心臓が脈打っていた。


その姿は妖怪達にも恐れられる姿。

妖怪の中でも相手にはしてはいけない恐ろしい存在。敵の血を体中に浴びて不敵に笑う姿から、その者の名前はこう呼び継がれている。


『紅い悪魔 スカーレットデビル』


「久しぶりに味わったわ。死の感覚ってやつをね…十分に楽しめた。さぁ魔理沙を追いましょう。」


その同時刻。

魔理沙は霧の湖の上空を飛んでいた。

その後ろには副メイド長がしっかりとついてきていた。

魔理沙の脳裏にパチュリーの顔が浮かぶ。

(パチュリーが殺られる筈無いとは思うが…心のどっかでそう思ってる私がいる。)

そんな自分を振り払うように頭を振り前を見る。

段々と、濃過ぎて前を見ようにも低空飛行なら前が見えない霧も晴れる勢いを見せ始めた。

「何だ…アレ!?あんなの私が来た時には…!」

魔理沙と副メイド長二人は前方の光景に唖然としていた。

そこにあった光景は、魔法の森にそびえ立つ謎の塔で、その高さはかなりの物だった。

巨大な森林を突き抜け、雲に到達しているのがうっすらと見える。

「とりあえず近付いてみるか。行くぜ。」

(大体20階くらいか…?)

魔理沙が副メイド長に声をかけて塔に近付く。

塔に近付くにつれ、ある感覚が強くなっていく。

それは感じた事のある「寒さ」だった。

塔の周りの木々は凍っていた。

いや、木どころか草や地面の一部、近くにいた動物までもが完全に凍結していた。

辺りは冷気が漂い

(なんだこの寒さ…これじゃ冬と同じじゃないか。)

その時、魔理沙の腰に据え付けてあったマジックポーションが落ちてしまった。

「あっやべ。一個無駄にしちまったぜ。」

ポーションは草木が、凍っている場所に落ちていった。その氷にポーションが触れた瞬間。

ポーションは割れもせずに凍ってしまった。

それも全体を氷が包むのに要した時間は、ほんのわずかな一瞬。

「…魔理沙さん。あれは只の氷じゃなさそうです。気をつけてください。」

副メイド長が忠告を促していると魔理沙の視界に何かが見えた。

城の外側の脇の方に、誰かいる。

何やら帽子の様な物が見える。

「そこに誰かいるのか?居るなら出てこい。」

魔理沙の声に反応する事は無く、ただじっと動かず、帽子を覗かせているだけだ。

「魔理沙さん。行きましょう。」

魔理沙は静かに頷き、その人物に迫る。

そして近付くにつれ、その人物の正体が顕になる。見覚えのある月のブローチ。

「パチュリーか…死んではないみたいだな。よかった…。」

パチュリーは魔力を使い果たし、深い眠りに着いているようで簡単には目を覚ましそうに無かった。その時、魔理沙が地面の足跡に気づいた。

「塔に…続いてますね。」

「そうみたいだな。行くぜ。」

塔は全て氷で出来ているようだが、周りの氷とは違い、『溶けないが触れても凍らない』氷だ。

足を踏み入れると周りの寒さは遮断され、比較的適度な温度だった。

装飾も施され比較的綺麗な塔だった。

ただ1階や4階までの氷の騎士の残骸を除けば、の話だが。

当たりには発砲済みの銃弾や、銃痕があった。

「小悪魔か。たった一人で行くのは危険…でもないか。」

「なんでですか?」

副メイド長が少し驚きながら聞く。

「小悪魔はああ見えて戦いに慣れてる。…怖いくらいにな。」

魔理沙は5階に向かう螺旋階段をあがりつつも、副メイド長に小悪魔について聞かせる。

「妖精程度ならあいつの銃の腕前と近接戦闘の技術で負ける筈がない。」

副メイド長は突然、魔理沙の服の裾を引っ張る。

魔理沙は副メイド長の顔を見て止まる。

「違うんです…あの妖精達は何かが違ったんです。いつもより強かったんです。」

(どういう事だ…?いつもと違う?)

魔理沙は用心しながら5階に上がる。

そこには驚愕の光景があった。

「…そんな馬鹿な。」

そこには小悪魔が左腕を無くした状態で横たわっていた。床には血溜まりがあった。

「小悪魔ッ!!」

魔理沙が小悪魔に駆け寄り抱き上げる。

(こいつ…左腕が。腹も撃たれてる。早く手当を…!)

その時だった。

「何か用ですか?…そいつと同じ様に、魔理沙さんもフランちゃんを殺しに来たんですか?」

その声の主は最初からその階の椅子に座っていたようで魔理沙に話しかけてきた。

魔理沙はその声の主に振り向く。

「お前は、大妖精…か?」

魔理沙の目に映っていたのは背が伸びて、髪もいつものサイドテールでは無くそのまま下ろしている大妖精の姿だった。

「そうですよ。魔理沙さんは何か用ですか?」

大妖精はいつもの無邪気な顔は無く、冷たい目でこちらを見つめている。

(今ここでこいつと戦ったら…何かまずい気がする。今は小悪魔を治療するのが先だぜ!)

魔理沙は抱き上げたまま立ち上がり冷静に大妖精につげた。

「ちょっとパチュリーとこいつを回収にな。」

「魔理沙さん危ない!!」

その瞬間。

風の刃の様な物が魔理沙の頬をかすめる。

副メイド長が魔理沙の体を押したことで首が飛ばずにかすめただけで済んでいた。

「邪魔しないで下さい。そいつは逃がしませんよ。フランちゃんやチルノちゃんに手を出そうとした…。それを連れ去ろうとするなら魔理沙さん達も逃がしません。」

副メイド長は身動きとれない魔理沙に耳打ちする。その声は若干震えていた。

「私が少しだけでも止めます。小悪魔さんを早く連れ出して下さい。」

そして副メイド長はすぐに大妖精に向き直り、手に持った銃を発砲する。

4発の銃弾は大妖精の風によって向きを変えられ、真っ先に副メイド長に飛ばされる。

「魔理沙さん!」

魔理沙は箒に跨りつつ振り向く。

その副メイド長の顔は笑っていた。

「あとは頼みました!絶対、妹様も小悪魔さんも助けて下さい!」

それは、最初で最後の副メイド長の笑顔だった。

魔理沙は1階まで、箒で飛び出す。

塔を出た後、博麗神社に向かって飛んでいた魔理沙は思い出していた。

笑顔の後、何かが弾け、潰れる様な音を。


続く

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