言い訳
2話連続で遅くなって申し訳ありません。
ユウテラスはアイリスについていく形で森のなかを無言で歩いていた。
しかし、途中で先程のアイリスがここにいる理由が気になり聞いてみた。
「さっきアイリスがここにいる理由を教えてくれるっていっていましたけど、その理由って何なんですか?」
するとアイリスは遠い目になって言った。
「それはですね・・・私もこの森に木の実を探しに来ていたのですよ。」
「木の実、ですか?」
魔人領と人間領との境のこの森に入ることは人間側でもほとんどないはずだと思っていたのがいて、しかもその理由が木の実を取るというなんとも小さな理由に驚きを隠せなかったユウテラスは聞き返してしまう。
「ええ、木の実を取りにきたのです。」
「え、なんでわざわざこの森に一人で木の実を取りに来たのですか?村に畑はないのですか?」
わざわざこの森に木の実を取りに来るということは、村に畑がなく木の実をとって生活しているのだろうかと思い、さらに質問を重ねる。
「いえ、もちろん畑はあります。けれど、私の村の畑のも無理だったのですよ。」
「え、どうして食べられなかったのですか?まさか病気でダメになっちゃったんですか?」
「え、ユウさんは知らないのですか?貴方もあの事で困ってるから食料を探しにここの森に来たのではないのですか?てっきり私は貴方も私と同じ目的で来ていたのだと思っていたのですが・・・・」
どうやらさっきまでユウテラスの正体を勘違いしていたアイリスがユウテラスの方を不安な目で見つめ始めた。
「えっと・・あのですね・・私はその・・・た、旅をしていたのですよ!」
ユウテラスは自分の正体がばれてしまわぬよう必死に誤魔化した。
「な、なるほど。旅人の方でしたか。でも、この辺を旅されてるなら村の方にも立ち寄られたのではないのですか?だとしたらわかるはずなのでは・・・」
「えっと・・・それはですね・・・野宿をしていたから村には立ち寄らなかったのですよ。」
彼は村に立ち寄らない理由として一番単純な理由を口にする。しかしそれが逆に墓穴を掘ってしまう。
「え⁉︎野宿ですか⁉︎そんな有り得ないです!だって、野宿してたら魔物や山賊に襲われてしまうんですよ?
なのに野宿って、もしかしてその事を知らなかったのですか?旅人の方でしたら普通は知ってると思うのですが・・・本当に旅人の方なのですか?」
彼はとある事情により野宿をしたことがあったので野宿はできるもんだと思っていたが、人間にとってはかなりの危険性があることで、緊急時を除いてすることはなかった。更に、一人で野宿をするということは自殺願望でもない限りする人はいなかった。それが、彼女の不安を煽り、彼女の彼を見る目が不安から警戒へと変わりつあった。
「え、えっと、それはですね・・・そう、この旅が修行の旅だったからですよ!」
そう言うと、アイリスはポカンとした表情になった。
「しゅ、修行の旅。ですか・・・・」
「ええ、実はそうなんですよ。師に言われて一人で修行の旅に出ているのです。で、そのときに言われたのが他の者を頼るな。一人でなんとかしろ。だったので野宿をしていたのですよ。」
「な、なるほど・・・」
ユウテラスの必死の説明により何とかアイリスは納得をした。しかし、彼女の不安はまだあるようでおそるおそるユウテラスに尋ねた。
「でも、何故修行の旅なんかを?」
「それはですね、えっと・・・強くなるためです。」
「強くなるため、ですか。それまたどうして強くならなくちゃいけないんですか?」
彼女の質問に自分が魔人族の王族であり、父と同じように膨大な力を扱えるようにとは口がさけても言えないので、所々隠しながら言った。
「えっと、ごめんなさい。言葉を間違えましたね。強くなるというより、魔法を上手に制御できるようになるためですね。自分の郷では魔物が多くて、それを退治する時に魔法を使うんですけど、そのためにはちゃんと魔法を制御できるようにならないといけないんですよ。」
「ふ〜ん。そうなんですね。なるほど、この森にいた理由もそれなら納得できます。てっきり村の人だと思って普通に接してましたが、村の人じゃないとわかったらちょっと怖くなっちゃって。ごめんなさい。命を助けてもらったのに。」
「いえいえ、気にしないでください。正体の知れない人物だったら僕も警戒しちゃいますから。」
と、言いつつ彼は苦笑いをした。
(ああ良かった、魔人族だということがばれなくて。ベリアムスの訓練を受けてた時は地獄みたいだったけど、そのお陰で助かるなんて。なんとも皮肉なことだなぁ。)
彼は、昔ベリアムスによって魔法の訓練をさせられていた。その一環で、一人で魔人領にある森に三日間篭り生活するということをやらされていた。
何故そんなことをするのかと言うと、ベリアムス曰く「魔法を使いこなすには実践することが大切」らしい。それで、ユウテラスは三日間森の中で過ごし、何回か魔物によって殺されかけながら魔法の制御を上達させたのであった。
「それで、話が戻っちゃいますけど、どうしてこの森に木の実を取りに来たのですか?」
ユウテラスは彼の正体の話になってうやむやになっていた自分の質問をもう一度言った。
「そうですね。私が説明するより村長に説明してもらった方がいいかも知れません。もうすぐ村に着きますし。」
「そ、そうですか。ではこの話はのちほど・・・」
そう言って二人とも何も話さなくなってから間もなく森を抜けた。そして、少しの間歩くと数十の家と土しかない畑が見えてきた。
「さあ、私の村へ着きましたよ。」
「ここが貴女の村ですか・・・これはなんとも・・・」
「ふふ、貧しい村でしょう。でもしょうがないんです、こんな辺境の方にわざわざ来る人もいませんから寂れてしまうのです。ですので、あまり良いおもてなしはできないかもしれませんがどうぞ、私の家へ。」
そう言うと、彼女は村へと入っていった。すると外にいた人が彼女に声をかけようとしたが、その後ろにいるユウテラスの存在に驚き、物陰に隠れ、ユウテラスとアイリスの行方を眺めることしかできなかった。
そして、アイリスが村の中でも一回り大きい家の方までいくと、その中から一人の老人が飛び出してきた。
アイリスがその老人を見た瞬間、叫んだ。
「おじいちゃん!ただいま〜!」
その声を聞いた老人が安堵したような表情を見せると、アイリスがその老人に飛び込みハグをした。
「ぶ、無事か?お前があの森にいくと言った時には心配で心配で・・・」
「ふふ大丈夫よ、おじいちゃん。私ちゃんと生きてるから。」
「そうかそうか、本当によかった。・・・・ん、そこにいるのは誰じゃ。」
老人がアイリスとハグして彼女の無事を喜んでいたとき、ふと後ろにユウテラスがいたのに気づき、彼の記憶の中にユウテラスという存在はなかったので、彼はユウテラスが何者なのかを尋ねた。
それに答えたのは、ユウテラスではなくアイリスだった。
彼女は、老人から離れるとユウテラスの方に駆け寄り、老人にユウテラスを紹介した。
「彼の名前はユウテラスさんよ。私は、ユウさんと呼ばせてもらってるけどね。それでね、私が森の中でベルセミアに襲われたときに彼に助けてもらったのよ。それで、彼がお腹をすかしていたから恩返しとまでは
いかないけど、お礼をしたくて連れてきたの!」
そう彼女がいうと、老人は目を見開いてユウテラスの方を見つめたあと言った。
「なんと、あのベルセミアから私の孫を助けていただいたとは・・・それは、お礼をせねばなりませんな。ささ、綺麗な所ではありませんがどうぞ家の中へ。あと、先程のご無礼を許していただきたい。なんせ、このご時世ですからのぉ」
「いえいえ、私はたまたま通りかかっただけですから、そんなに恩に感じていただくことは何もしてませんよ。お気になさらないで下さい。ところで、このご時世というのは何があったのでしょうか?」
彼がそういうと、老人はびっくりしたような顔になった。
「今、何が起きているのかご存知ないのですか⁉︎」
「彼は、今まで修行の旅に出てて人と接する機会がなかったんだって。だから知らないみたいよ。」
アイリスがユウテラスに変わって老人に説明をしてくれた。
「そうなのですか。修行とはどのような・・・・いや、とりあえずは座って飯にでもいたしましょう。ユウテラス殿は腹が減っているようですから。ささ、ここへお座りください。」
そう言われ、ユウテラスは座ると頭が痛くなるような思いになった。
(さて、どうやって自分が魔人族であることを隠しながら、自然な話にできるかなぁ。)
飯が出来上がるまでの間、老人から詳しく自分の話を聞かれるであろうと思い、その説明をするときにどう答えるの考えるユウテラスであった。
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