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Prince of Darkness  ー魔王国復興譚ー  作者: 御垣 勇蘭
6/11

失った翼

魔王と別れた後、ユウテラスは民衆が避難していた広間へと向かっていた。


(早く民たちを安全な所へと逃さなければーーーーーー)


父との別れを悲しみに囚われてばかりでは、王族としての責務を果たすことができないと思い、

とにかく民の事だけを考えていた。

民衆が避難していた広間は本来であれば、舞踏会やパーティーなどが開かれる華やかな場所であるのだが、今は不安と恐怖が渦巻く空間となっていた。

ユウテラスが広間にたどり着くと、民衆は一斉にユウテラスの方を不安な目で見つめた。

そしてそのうちの数人が、彼らの気持ちをを口にした。


「今、お城が揺れましたが大丈夫なのですか⁉︎」


「敵が来たのではないのですか⁉︎我々はこのままでよろしいのですか⁉︎」


彼らの言葉遣いは丁寧であるものの、不安や焦り、そして何とかして欲しいという気持ちが溢れていた。

その気持ちをできるだけ刺激しないように気を付けなければと思いながらユウテラスは避難の指示を民衆にした。


「皆が思っているように、今魔王城は敵の攻撃を受けている。しかし、落ち着いてくれ!焦った所で何も起きない!だから落ち着いて私の話を聞いてくれーーーーーいいな?これから我々はこの魔王城を脱出する。私が先導して空を飛ぶので、その後に女子供を男たちが囲うようにして付いてきてくれ!」


逃げる必要があるのではと思っていた民衆も実際に王族の口から「逃げる」と言われ、死の恐怖に足がすくんで動けなかった。


「心配するな!魔王様がいる!あの方が我々が逃げている間敵を抑えてくれるはずだ!だとしたら、我々がべき事は一刻も早く逃げる事だ!さあ行くぞ‼︎焦る必要は無いが急ぐぞ!」


そうユウテラスが民衆に向けて叫んだが、ほとんどの民衆は動こうとしなかった。その事に焦ったユウテラスがどうしようかと考えていると、一人がユウテラスの方まできて、民衆の方を向いて大きな声で言った。


「我らが最も信頼する魔王様が我々の為に戦ってくれているのだ!それを無駄にはできないだろう⁉︎さあ、早く王子様について逃げよう!」


魔王が自分たちの為に戦ってくれていると気付いた民衆はその行為に報いる為にもと思いユウテラスが指示した通りに女子供を囲うように男たちが動いていた。

そして、先ほど民衆に向けて叫んでいた者がユウテラスに向かって言った。


「これでもう大丈夫です。貴方様がお焦りになると民が不安になります。堂々となさっていてください。」


そう言うと、彼は民衆の方へと戻っていた。

ユウテラスは呆然としていたが、彼の言葉を聞いて我にかえると、悔しさがこみ上げてきた。


(くそ!自分の言葉じゃ民を安心させる事ができなかった。もっと人の上に立つものとして強くならなければ・・・)


そう思っているうちに、民衆が動き終わった。そしてそれに気づくと悔しがっている場合では無いと思って、ユウテラスはもう一度叫んだ。


「さあ飛んで逃げるぞ!私について来てくれ!」


そして広間の外にあるバルコニーに出ると魔法を行使するために鍵言を叫んだ。

それに続いて民衆も次々に鍵言を口にし、空を飛び始めた。

そして敵が攻めてきてるであろう方向とは逆の方角に向かって、王都の空を突き進んでいる時であった。

突然、民衆の間から大きな音がして悲鳴があがった。


「な、何があった⁉︎」


と言って、ユウテラスが、振り返ってみると炎に包まれ、落下してゆく魔族の姿があった。


「ま、魔法をくらいました!」


落下していく魔族の近くにいた者がそう叫ぶ。


(な、何!こっちの方角に逃げてもダメなのか!ど、どうすればーーー)


そう思っているうちに民衆が混乱に陥り、ばらばらに飛んで行こうとした。


「お、おい待て!」


そうユウテラスが叫ぶが、彼らの耳には届かなかった。

そして、逃げ惑う一人が火だるまになって落下していった。


「な、な・・・に・・・・」


その光景を見たユウテラスは唖然としていたが、民衆はさらにパニックになりもはや誰が何を言っても聞こえないような状態だった。

すると、それを見計らったかのように市街地の様々な建物の陰からローブをまとった人間たちが出てきた。

そして、両手を魔人族の向け鍵言を唱えると炎球が手の先から生まれ、逃げ惑う魔人族たちへと飛んで行った。パニックに陥っているせいで、魔人族の者たちは冷静な判断ができず、炎球の餌食となった。


(ど、どうすればいいんだ・・・・)


炎球によって火だるまとなり地へ叩きつけられる者が目紛しい速度で増えていく状況に動揺することしか

できなかったユウテラスの背中を炎球が襲った。


「ぐはっ」


攻撃に意識を一瞬刈り取られそうになったが、何とか堪え、背中の翼についた火を水魔法を使い消した。

背中にあった漆黒の翼は見るも無惨にボロボロであったが、それ以外に傷を受けたところはなかった。

そして、翼を癒そうと自分に向けて回復魔法を使おうとしたが、何も起きなかった。


(な、な、な、回復できないだと!くそ、先のベリアムスと同じような状態になってしまったということか!このままでは死んでしまう!とにかく高度を上げて炎球が届かない高さまで移動しよう!)


そう考え、魔動力の消費量を上げ、高度をあげようとしたところにそれを阻止せんとして複数の炎球が飛んできた。


「くっ、堅盾アルディ!」


彼は咄嗟に魔物から身を守る時に用いる魔法の鍵言を叫んだ。すると、彼のを包み込むように蒼い半透明な壁が包むように出現した。そこに炎球が接触すると大きな音を立てて爆発した。

そして、魔法による攻撃に耐えることのできなかった魔法の壁が壊れ、爆風をもろにユウテラスは受けた。

「ぐあぁっ‼︎」

今度こそ全身に傷を負い、死にそうな声で叫ぶ。しかし、無慈悲にも次の炎球がユウテラスを襲わんとして、人間の手のひらの中で作り出されようとしていた。


(ああ、私はここで死ぬのか・・・・・)


そう諦めた瞬間、父の『生き伸びろ!』という言葉が脳裏をよぎった。


(そうだ、ここで死ぬわけにはいかないんだーーーーーーーーー‼︎)


父の願いを叶えるためにも何もせずに死ぬのは許されないと思い、彼は魔動力を振り絞り高速でその場を脱出すると、人間からは見えない街の一角に降り立った。

そして、歯を食い縛ると自分の背中に向けて(・・・・・・・・・)魔法を撃った。

すると、パスンと軽いとも思いとも言えないような音をたて、人間の攻撃によってボロボロになっていた一対の翼が足元に落ちた。それと同時に彼は呻き声をあげ、ポタンポタンと背中から血を流していた。


(これで、見た目は人間とそう変わらないだろう・・・・あとは空を飛ばずに逃げれば何とかなる・・!)


そう、彼は翼を切り落とす(・・・・・)ことで、人間と同じような外見になろうとしたのだった。

そして、切り落とした翼に向けて火を放ち、灰にすると更に魔法を使った。


剛脚レガルト


そう言って走り出すと、ぐんぐんと加速していき、そこら中に死体が転がってる地獄のような街並みが流れるように背後へと消えていく。

そして誰も攻撃してこないことにホッとしたとき、魔王城の一角からドゴォオオオオオオーーーーーーーンという音がして城壁が壊れたかと思うと、街のあちらこちらで爆発音がして火の手があがった。振り返ってもう一度魔王城を見ると魔王城も業火に包まれようとしていた。


(魔王城の方は決着がついたのか⁉︎それとも、あれはお父様と勇者が戦ったときの余波なのだろうか・・・・・・街の方はきっと私と同じような者が人間の攻撃を受けたのだろう。・・・・私も油断はできないな)


一秒でも早くこの王都から脱出しようと更に加速をすると、間もなくして王都を囲う壁の門が見えてきた。しかしそこには、人間たちがいた。


(ここから逃さないようにしようとしているのか・・・・しかしここ以外の場所に行くほどの余裕はないし、きっと他の場所でも同じことだろう。ならば一か八かここを超える(・・・)しかない‼︎)


そして大量の魔動力を脚に流すと、目にも止まらぬ速さで壁門へと突っ込んでいった。

何かが迫ってくると気づいた人間たちが、ユウテラスの方に向けて魔法を打とうとするが、それでも彼は真っ直ぐに門へと突っ走っていった。そして人間たちが炎球を放ち、ユウテラスに当たる直前、ユウテラスは叫んだ。





飛翔ロットォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」



その瞬間、彼の体は光に包まれ、天へと登っていった。そして炎球は彼のすぐ下を通り過ぎていった。

人間たちは今の一瞬で何が起きたのかわからず呆然としているのを見逃さず、ユウテラスは文字通り城壁を飛び超えた(・・・・・)。そして、魔動力をどんどん消費し加速していき、壁門にいた人間たちが気づいて王都の外を向いた時にはもう走って追いつけるような距離にユウテラスはいなかった。




※8/30 行間を増やしました

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