父の願い
ーートゴォォォォーン
そんな音とともに魔王城が揺れるのを魔王は感じていた。
勿論ジーベルも感じている。
「て、敵が来ました・・・もう、我らに残された戦う術はありませぬ。魔王様だけでもお逃げください!」
ジーベルが弱々しい声でそう魔王に告げたが逆に魔王が怒りに満ちたように顔を朱に染めて叫んだ。
「ふざけるでない‼︎民を置いて逃げるなど出来ぬ‼︎たとえ逃げられたとしても王が真っ先に逃げたとあらば生き恥をかくだけじゃ‼︎儂は戦うぞ・・・最期までな・・・」
そう魔王が決意すると、ジーベルはハッとしたような表情になった。
「そうでしたな。民の上に立つ者である以上、民の為に命を尽くさねばなりませぬな。不躾な発言をお許しください魔王様。このジーベル、最期まで魔王様と共に戦いましょうぞ!」
そうジーベルが言ったとき、執務の間の扉が勢いよく開かれユウテラスが入ってきた。
「お父様、大変です!敵がやってまいりました!いかがいた・・・・ジーベル殿!何があったのでございますか⁉︎全身お怪我をなされてるではありませんか!」
そうユウテラスが早口で話し、傷を直そうと近づいたのを魔王の言葉が遮った。
「ユウテラス。彼は回復魔法は効かぬ。勇者の攻撃によってな・・・・ジーベル、すまぬが少しユウテラスと二人だけで話がしたい。」
そう告げるとジーベルは「かしこまりました」といって去って言った。
静かになった執務の間に魔王の言葉が響く。
「ユウよ。今、我が城は敵の攻撃を受けている。このままでは民が危ない。私と護衛団で敵を食い止める間にお主は民が逃げる手伝いをしてくれ。そしてそのままお主も逃げろ。」
「嫌でございます!お父様!私も食い止めるのに参加したいのです。多少なりとも戦いの術は学んでおります。足手まといにはなりませぬ。」
食らいつくように反対したユウテラスに魔王は驚きながらも厳しい口調で言った。
「それはならぬ。お主は民を守らねばならぬ!そのためにお主も・・・「嫌です!お父様と離れ、私だけにげるのは嫌でございます!それくらいなら私は死んだ方がマシです。」
「ふざけるな!お主は自分の価値を分かっていない!いいかよく聞け・・「私の決意は変わり・・」いいから聞くのじゃ!よいな?」
ユウテラスが頷いたことを確認すると魔王わ落ち着いた声色にもどして言った。
「いいか、きっとここにいると死ぬだろう。彼らはジーベルたち護衛団を全滅させている。そんな彼らに挑んだところで結果はみえているじゃろう。だが、ここで無惨にも全員が死ぬ必要はどこにもない。例え大半が滅びこの国が乗っとられても、少数がいれば反撃の機会をうかがうことが出来る。そのときにその頭をお前にやってほしいのじゃ。お主ならば、民も納得するじゃろう。だからお主はここでは死んでほしくない。だから逃げろ!」
そう言うとユウテラスは涙をこぼした。
「嫌で・・・・ございます・・・・私だけにげるなど・・・・例え生き延びれたとしても何を生きがいにすればいいのでしょうか・・・・私には家族がお父様しか居ませぬ。もしここでお父様が戦いになられてもお父様はしんでしまうのでしょう・・・・そうしたら私は一人でございます!何も無くなってしまいます!そんな世・・で生き・・いくことな・・無理・・・ます」
最後の方は嗚咽で何を言っているのかよく聞き取れなかったが、魔王は胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
(ああ、こんなにも私はユウにとって大きい存在だったのか。あんなにもよそよそしい話し方だったのにこんな風に思っててくれたのか・・・くそ、こっちまで涙が出てきてしまうではないか)
魔王はギュッと瞼を閉じて涙をこらえると優しい声でもう一度ユウテラスに言った。
「お前が私をそう思っていてくれたことは言葉では言えないほど嬉しく思う。そして辛いのは私も同じだ。お前しか家族はいないのだからな・・・・お前の成長を見たかった。孫の顔を拝みたかった。だが、私は王としてやらねばいけぬ時がある。そしてお主も王の子としてやらねばならぬ時がある。それは今なのだ!だから堪えてくれ。頼む・・そして、最後に私の願いを聞いてほしい。もし儂がいなくなってもこの願いは忘れないでほしい。よいか?」
ユウテラスは無言で頷く。
「きっとこの国はこのまま滅ぶだろう。だが、魔人族が滅ぶことは無かろう。だから、滅んだ後にもう一度魔人族の為の国をつくってほしい。どんな形でもいい。そしてそこに私の墓をつくってくれ。とびきりのをな?わかったか?」
ユウテラスは更に涙を流し震えながら頷いた。
「ありがとう。だとしたらわかるな?今やらねばいけないことが。
ーーー生きろ!逃げて逃げて生き伸びろ!」
そう叫ぶと、ユウテラスは涙でくちゃくちゃになりながらも大きく頷いた。
そして、「おとうさん、ありがとう」と呟くと執務の間から走り去って言った。
その背中を見ていた魔王は涙をこらえることができなかったーーーーーー
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そしてユウテラスの指示によって避難していた魔人族が次々に魔王城から飛んでいくのを執務の間から見つめながら魔王は無言でこれからここに来るであろう敵を待っていた。
暫くたつと、執務の間に続く廊下から、カツーン、カツーンという駆け足の音が複数聞こえ、それが次第に大きくなってきたかと思うと、執務の間の扉がバンと言う音をたてて開かれた。
そこには、人間の男一人と女四人がいた。その彼らに向かって怒気を孕んだ声で魔王は言った。
「ついに来たか、勇者と名乗る人間よ・・・・」
人間の女は、魔王が声を発した瞬間、ビクッとしたが、男の方は堂々と立っていた。
「いかにも僕が人間に害なす魔人族を滅する勇者、オルカ・A・グランデだ。」
自分が勇者である事を名乗った人間の男に魔王は問いを発した。
「人間に害をなすと言ったか?儂らがお主らに何かしたのか?」
抑えきれない怒りに声が震えながらも聞いた魔王に、勇者・オルカはさもそれが当たり前である事かのように答えた。
「何かをした?何かされてからじゃ遅いんだよ。その前に悪しき芽は摘んでおく。ましてや今、この城から魔人族が大量に飛びたったではないか。あれは人間領に攻めるための者だろう?それを排除するのが僕の役目さ。」
勝手すぎる解釈に何も言えなかった魔王を見て、自分の言った事が当たり反論できないと思い込んだ勇者が更に言葉を続ける。
「まあ、ここにいる僕と彼女以外にも外に沢山の味方がいるからね。残念だけど君の計画はここで潰れるよ。」
その言葉が何を意味するのかを察した魔王は慌てた声で叫んだ。
「ふざけるでない!あれは戦う者たちではない!唯の戦いを知らない民じゃ!その者らも殺すと言うのかお主らは‼︎」
「そうか、じゃあ彼らへの攻撃を辞めるよ・・・・そんな事を言うとでも思ったかい?そんな訳ないじゃないか。敵の言葉を信じ、はいそうですかと言うほど僕はばかじゃないし、ここで殲滅しておかないと人類の脅威になっちゃうからね。」
そう言うと、勇者は自分の腰に差してあった鞘から剣を引き出した。それに合わせるかのように周りの女たちも一斉に構えた。
「そうか、儂らは殲滅さらねばならぬのか・・・・・だとしたら、儂は魔人族にとって害であるお前を倒す‼︎‼︎」
そう叫ぶと、魔王は魔動力を放ち、魔法を打つ構えをした。
「ふっ、その企み僕がここで潰す!人類の平和のために!!」
そう勇者も叫び、魔王と勇者一行との戦いが始まった。
(ユウ、無事に生き延びてくれよーーーーーー)
それが魔王が思った最期の願いだったーーーーーーーーーーー
勇者と魔王だけのやりとりになってしまい申し訳ないです。
投稿の間隔につきましては、とりあえず10話までは2〜3日の間隔で投稿して行きたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
※8/30 行間を増やしました
描写とジーベルのセリフに加筆いたしました
編集している途中で気づいたのですが、別にユウテラスはファザコンではありません(笑)ファザコンのように思えますがそれは親子愛です。それについての話はそのうちしたいと思います。