魔王の対策
三人が魔王城に着いたときには、城で働く者たちが騒いでいるかと思われたが、逆に城の中は静かになっていた。それを不思議に思った魔王がベリアムスに尋ねた。
「城で働いている者たちはどうしたのじゃ?どこへ行った?」
「不測の事態でございましたので、護衛団だけ残しまして後の者は実家へ戻るよう言いつけてあります。」
ベリアムスは落ち着いた声で答えた。
魔王城には大勢の魔人が働いている。雑務をする者や執務をとりおこなう者、魔王へ謁見に来た者など様々だがそれらの者がほとんどいないという事は、あの事件が真実である事を決定的にするのに十分な状況であった。
「そうか。ならば早急に対策を練らねばならぬな。ベリアムス、ジーベルを呼んできてくれ。」
「いえその必要はございませぬ。彼はもうすでに執務の間におります。」
ジーベル。本名ジーベル・N・トプソンは魔王が何処かへ公式で出かける際に、付き沿う護衛団の団長であり、護衛団は魔人族のなかで唯一戦い方を知っている。
そして、魔王が執務の間の扉を開けるとそこには40代くらいの男が立っていた。彼は魔王の方を向いて礼をすると、彼がここにいる説明をしようとした。
「魔王様。この度私がここに参上致しましたのは・・・・」
「説明はよい。ベリアムスから聞いておる。それよりもこのあとどううするかであるな。それをお主に問いたい。・・・・・・ユウテラスは下がっておれ。」
魔王がジーベルの言葉を遮ると、さっそく今回の対策について考えはじめた。それに子供はいらないと考えたのだろう。ユウテラスに下がるように言った。
「かしこまりました。何か私にできることがございましたら何なりと・・・」
ユウテラスが恭しく礼をすると、先ほどの扉から出て行った。その後ろ姿を見たジーベルが小声で魔王に囁いた。
「王子殿も逞しくなられましたな。もう子供としては魔王様も接しづらいのでは?」
彼の場を和ませようとした発言に魔王も乗っかったようにジーベルに囁いた。
「はっはっは、そうじゃな。昔のようには接してくれなくなってしもうての。今日も敬語で話されて困ったものよ。」
「左様でございますか。それは成人としての自覚が出てきてよろしいのではないでしょうか。
それよりも先ほどの件なのですが、やはり本来の目的とは違いますが護衛団を向かわせるしかないでしょう。それ以外で考えられるとしたら、大変恐縮ではありますが魔王様に出てきて頂くか、王子殿に出て頂くほかありません。が、しかし・・・・」
ジーベルは魔王との軽い雑談を終わらせるように話を本来の魔王への返答という形で戻したが、最後の方は言いづらそうに口をこもらせてしまった。
彼の提案を少しの間魔王は、考えたあと決めたような顔をしてジーベルに命令した。
「とりあえず、護衛団の半数を反撃に出せ。そして残りの半分はまだ被害の受けていない地域にこの魔王城へ避難するように伝えろ。敵の言葉が真で、魔人族を滅ぼすことが目的なら民を放置しておくのは問題がある。そのためにここに避難させるのじゃ。ここなら、安全じゃろ。あと、ユウテラスを使うのはダメだ。あいつの力がどのように作用するかはわからんから危険すぎる。できることなら儂らで解決せねばならぬ。」
「仰せのままに。直ちに手配いたします。では、私はこれで。」
そう言うと、ジーベルは執務の間から去っていった。それを見届けたあと、魔王はベリアムスに魔王城に使えていた使用人たちを呼び戻し、民が避難してきたときの準備をさせるように言った。
そして、一人になった執務の間で魔王は、考え事をしていた。
(ユウテラスの力は異常だーーーーーーまたあの時のようになっては大変だ。妻の忘れ形見であるあいつには血なまぐさいものとは無縁に生きて欲しいものよ。まあ、それも難しいことかもしれぬ。もしかしたら勇者とかと言う人間は何か魔人族を凌駕できる力を持っているのかもしれない。そうなれば、我らが全滅することは免れないかもしれぬのぉ・・・)
そうして一人で厳しい顔をしているうちにジーベルが戻ってきて、今から反撃に向かうことを告げ、そしてすぐに終わるだろうということも告げた。
その言葉を聞いて先ほどの考えが杞憂であったなと思う魔王であった。
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次の日から、護衛団によって避難を促された魔人族たちが次々にやってきた。
一日目は数百人であったが、二日目はその倍。三日目にはさらにその倍と増え、このまま領内すべての魔人
がここに集まるのではと思った四日目のことだった。
前日や前々日のように次々に魔王城に集まって来る魔人たちを魔王は見つめながら、反撃にでていった護衛団がどうなったかを考えている時だった。
魔王城の入城門の付近がいつもよりも騒がしいことに気づいた魔王がそちらへ向かってみるとそこにはジーベルが満身創痍の状態でいた。
彼は魔王を見つけると、複雑な表情を見せ急に土下座をして叫んだ。
「申し訳ありません魔王様‼︎‼︎このジーベル魔王様のご期待に沿うことができませんでしたッ・・・・・」
満身創痍であったことと、急に土下座したことに驚いた魔王は、とりあえず群衆の前でする話ではないと思い、執務の間へと連れて行った。
そして、彼の傷に手をかざし、回復魔法を唱えて驚きに満ちた表情をした。
「な、なんじゃと⁉︎回復魔法が効かない⁉︎」
ジーベルは苦痛の表情を浮かべながら、魔王に訳を説明した。
「わ・・私に回復魔法は効きませぬ。なぜなら勇者の攻撃を受けたからでございます。勇者は聖剣という武器を持っており、どうやらそれによって傷をつけられると回復の類の魔法が効かなくなるのです。他にも、魔法の威力の低下や運動能力の低下などを受けます・・・・・それにより、私は防戦するしかなくなりこのような有様で帰って来ることとなったのです。」
「他の者たちはどうした⁉︎お主一人の能力よりも勇者の方が勝っていたとしても多数で挑めば問題はなかろう。話によれば連れが数名いるとのことであったが護衛団の人数ほどではあるまい・・・なのになぜ誰一人として戻ってこないのじゃ‼︎」
魔王は焦るようにジーベルに問い詰めた。
(まさか、あの杞憂だと思っていたことが真実であるとは!確かに民は戦う術を知らない。だが、にげることは出来る。なのに、襲われた村から一人しか逃げて来なかったのは不思議だと思ったのじゃ。最初は別の場所に逃げていたと思ったのじゃが・・・まさかこんなカラクリがあるとは、くそ!!)
だが、魔王の焦りに更に拍車をかけるようにジーベルは続けた。
「申し訳・・ありません・・魔王様・・・護衛団は・・・護衛団は・・・全滅いたしました‼︎‼︎
勇者とその連れの他にも敵がいたのです・・・・その数はおよそ200程度。反撃に向かった護衛団の倍以上の数でした・・・・。そして、敗れた私は魔法が使えない状態で歩くしかなりませんでした。なので彼らは既に魔王城の近くまで迫っております‼︎は、早くお逃げください‼︎」
(勇者が特殊な能力をもっているだけでなくそんなにも多くの敵がいるじゃと⁉︎ならばすぐにでも民を逃さねば取り返しのつかないことになるな・・・)
ーーーそう魔王が思ったとき、魔王城が何かの衝撃を受けたように揺れた。
※8/30 行間を増やしました。
ジーベルの名前に加筆いたしました