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Prince of Darkness  ー魔王国復興譚ー  作者: 御垣 勇蘭
3/11

人間の侵攻

「魔王様ーーーーーー‼︎‼︎」


のんびりとしていた二人の親子の頭上からそんな声が聞こえてきた。

何事かと思い二人が上を見上げると魔人が一人飛んでいるのが見えた。

だが、それが誰なのか分からない。そんな表情を二人は一瞬だけ顔に見せた。

それもそのはず、今日彼らは二人だけでココに来る予定であり、他の誰かが来るはずがなかったからだ。

しかし、その疑問は直ぐに晴れることとなった。

その魔族が急降下してきて、親子の前に降り立った。

ユウテラスは敵かと思い、攻撃態勢をとった。が、それはその魔人の言葉によって攻撃に移ることはなかった。


「こ、攻撃はお止め下さい、ユウテラス王子。私です、ベリアムスでございます。」


ベリアムス。本名ベリアムス・B。トルストイ。彼は魔王の秘書であった男であり、今日の二人の出かけ先を知る人物でもあった。

よく見ると、確かにベリアムスその人であった。なので、ユウテラスは攻撃態勢をとるのをやめ、

姿勢を崩した。

攻撃される心配がなくなったのか、ベリアムスが安堵した表情を見せた。しかし、彼は直ぐに緊張した面持ちを魔王に見せた。


「一大事でございます魔王様!魔王城に早急にお戻りになって下さい‼︎」


彼が唐突に戻って来いというものだから、魔王は気分を害し怒鳴りつけようと思ったが、切羽づまったよ

うな口調で喋るものだから、何があったのかを聞くぐらいはしといて方がいいのだろうと思った。


「何があったのじゃ。儂はこの通り休暇を楽しんでいる最中なのじゃぞ。それを壊してまで儂を連れ戻したいということは余程のことがあると思うのじゃが何があった?」


普段は穏やかな口調で話す魔王が厳しめの口調になったことにビビりつつも、彼は緊張した面持ちを崩さなかった。


「それを細かくお話ができる余裕がございません。ですので一言で申しますと、 

                  ーーー人間が我が国土を侵略し始めました‼︎」


親子は理解できなかった。それもそのはず、今まで永い間人間との争いなど起きたことがなかった。

だから、「侵略」という言葉が分からなかった。

が、二人とも民を統治する身であったために多少の知識はあった。それ故に時間は多少かかったものの理解することができた。だがそれでも信じられないような気持ちだった。


「何を言っているのだ、ベリアムスよ。冗談にしてはきつ過ぎないか?」


「冗談などではありません!本当のことでございます。全ては戻ればわかります。ですから、早く魔王城にお戻り下さい!」


その言葉に裏がなさそうなことを悟った魔王は半信半疑ながらもその言葉に従うことにした。


「わかった。とりあえずは戻ろうではないか。すまないな、ユウ。折角の休暇であったのに何もできそうにないな。」


ユウテラスにかけられた魔王の言葉にはとても残念そうな気持ちが表れていた。


「いえ、お構いなく。もしも彼の言っていることが本当であれば一大事でしょう。ですから、今は私のことはお気になさらないで下さい。」


「また敬語を・・・まあ今はそれを気にしている場合ではないな。ベリアムスよ。飛んでいる間に、何が起こったのか説明してくれ。     ーーーーー飛翔(ロット)‼︎」


そう魔王が叫ぶと彼の周りが薄い光に包まれ、体が浮いていった。

魔王が叫んだ言葉は鍵言と言って魔法を使うときに使う言葉であった。鍵言を唱えるとそれに対応した魔法が使える。

この世で今使われている魔法の鍵言は古くから、子供に大人が教える事によって、次世代へと魔法を伝承していった。そのため魔法の起源はいつなのか、何者によって始められたのかがわかっておらず学者の間で様々な論争が繰り広げられている。因みに今最も有力な仮説は、人間の間では「最初の人類に神なる者が魔法を与えた」という説で、魔族では「起源の魔人族が神の子供であり彼らは元から魔法を使う事ができた」という説である。そのため人間では神を讃える宗教のようなものが存在する。魔族は皆が神の子孫のようなものという考えなのでそのような宗教は存在しない代わりに先祖をよく敬っていた。

また、魔法を行使し、ある一定より魔動力が少なくなると空腹のような感覚に見舞われ、枯渇すると魔動力が回復するまで気絶状態になるのであった。だから、魔人族の者たちはこの状態を「魔動力失調」と呼んでいた。

そして魔王に続くようにユウテラスやベリアムスも同じように叫んだ。


「「飛翔(ロット)!」」


すると彼らもまた同じように薄い光に包まれその体が浮いていた。

そして、彼らは高度を上げながら速度をどんどん上げ、魔王城へと急ぐのであった。


=====================


魔王城への帰還途中にベリアムスが魔王に説明した内容をまとめるとこうだった。


ーー魔王が王城を出て行った後、一人の魔人がやってきて魔王に謁見させて欲しいと頼み込んできた。

普通なら門前払いをするところであったが、その者が異常な怪我を負っていたので話をベリアムスが聞くことにした。

その者は、魔人族領の中で最も人間領に住む魔人であった。そこに住んでいた者たちは何気なく暮らしていたのだが、彼が魔王城へ来る前日、勇者と名乗る人間とその連れらしき女性が数人が村に現れたのだという。

最初魔人族たちは、人間が誤って自分たちの領地に入り込んだのかと思い、勇者と名乗る人物と話をし人間領に帰ってもらおうとした。しかし、突然その勇者と名乗る者が魔人族を攻撃をした。それに続くように連れの女性も攻撃を始め村の者たちが次々に殺されて行った。

これは一大事だと思った長老が若い魔人に魔王へ伝えるように言いつけたという。

そして、その役目を負った魔人が今日になって魔王城に到着したというわけであった。

だが、ユウテラスはいくつか疑問に思った事がありそれを口にした。


「その勇者という者が攻撃を仕掛けてきたのに対して、こちらは反撃をしなかったのですか?

  古い文献によると我らはその勇者である人間よりも高い魔動力を持つらしいです。であれば、わざわざ魔王様の助けを求めずとも撃退する事はできたのではないのでしょうか?」


すると、ベリアムスは渋い顔をして答えた。


「ユウテラス様。彼らは一般民でございます。ですので、貴方様や魔王護衛団のように戦い方を学んでいる者は居ませぬし、長きに渡り戦いというものが起きていなかったために戦うための魔法をご存知ないのです。」


「しかし、魔物を狩る時に使う魔法や魔道具があるのではないのでしょうか。それも使わなかったというのですか?」


ユウテラスがベリアムスの言った事に反論した中に「魔物」という単語が出てきたが魔人族と魔物は同じ「魔」がつくが全く別の種族である。

 魔物とは元々普通の獣が動物の死骸などから発生する負の霊気に当てられ変異したものである。

 この負の霊気とは、死んだあと心臓がそのままの状態にあると発生するものであり、人間や魔人族はこれを回避するために死んだあと火葬を行うのだが、獣はそのような事ができないためによく魔物になる。

 魔物になると身体能力が上昇し魔法が使えるようになるが、理性を失い攻撃的になり、村を襲う事があるため時々村人が討伐に動く事がある。

その時に魔物の攻撃を防いだり、攻撃したりする魔法や魔道具があるのだがそれを勇者の撃退に使えないのかとユウテラスは言ったのだった。

しかし、ベリアムスは首を横に振って答えた。


「魔物は負の霊気に当てられていましたので使えたのですが、勇者と名乗る者はあくまでも人間であるので魔物に使うものは使えなかったのでしょう。」


そう答えられたユウテラスは信じがたい事ではあるが、全滅もありえるのではと思った。

それが表情に出ていたのか、魔王がその気持ちを払拭するように言った。


「さすがに全滅はありえんじゃろ。腐っても村人たちは魔人族なのじゃぞ。戦う術は知らずとも逃げる術くらいは知っておる。そう気に病むな。ーーそれよりもその人間が村人たちを襲った理由がなんなのじゃが・・・」


「それについてなのですが、逃げてきた者によりますと魔人族を滅ぼすとかなんとか・・・・」

ベリアムスの声は段々小さくなっていった。それは、本人も信じがたいということなのだろう。


「それが真の事であれば確かに一大事であるな。・・・・・・くそ、やっかいだな。」


魔王の呟きに二人は黙ってしまった。

もしその勇者が魔人族を滅ぼすことが目的ならば、それを阻止しなければならない。だが、ほとんどの魔人族は戦う魔法を知らない。かといって物理的な攻撃といえば殴る蹴るなどのケンカでしか使えないような攻撃しかない。それに対し人間の方は魔人族を殺せるほどの攻撃法をもっているということだ。

そうなると厄介きわまりない。そう思うと何か即興で作戦を口にするのはあまり良くない事であるからどうしても無口になってしまう。

三人が無口になってからしばらくして、魔王城に到着したのであった。








※8/30 行間を増やしました

   ベリアムスの名前に加筆いたしました

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