大陸クリスフォルディア
大陸クリスフォルディアには、二つの種族が大半を占めていた。
一つは人間。彼らはこの大陸に住み着いて以来、魔法を中心とした文明を築き上げていった。
魔法とは、体内に存在する目に見えない魔法力発動要因物質、通称魔動力を消費することによってこの世の理を捻じ曲げる技のことである。
しかし、魔法は誰もが使えるわけではなかった。人によって体内に保有することのできる魔動力に大きな差があり、人によっては存在しない人までいた。そのため、保有量が多い者は重宝され、高い地位についていた。保有量が少ない者は身分の弱いものとして農業や鉄工業などの産業を行うほか、運動能力の高い者は王族が出かける際にエスコートする騎士や街の治安を保つ警備隊になる者もいた。
そして学者は、魔法に属性が存在し、人によって属性に対して適性があるのではないのだろうかと考えられていた。その属性はまず大きく分けて2種類。無属性と有属性。そして有属性のなかでは火、水、風、土、雷、氷の6種類に分けられていた。
無属性魔法は、怪我を治療したり物を浮かして移動させるなどの魔法であり人々からは"便利魔法"などと呼ばれている。
有属性魔法は、火であれば火に関係する魔法、水であれば水に関係する魔法など、自ら自然現象を発生させる魔法である。
また、属性に対する適性は人それぞれであり、無属性を使うことができるが、有属性は使えないという人もいれば、有属性のなかで火と土を使えるが、その他はめっぽう弱いという人もいたりなど、多種多様な人間がおり、その共通点はあまりなく血の繋がった者同士では同じような属性を持ち、魔動力も同じような量をもち、魔動力を多くもつ者同士の子供は魔動力が多くなったりすることがわかっていた。
そして人間と違う種族。それは魔人族であった。彼らは基本的には人間と同じような生活をしていたが、人間とは決定的に違う部分があった。
それは背中にある翼であった。魔人族である彼らは、そのことを象徴するように皆、背中に漆黒の翼を持っていた。
さらに、彼らの体内には魔動力器官とよばれる臓器をもっており、そこに魔動力を貯蓄するため全体を通して魔動力の保有量が人間よりも多く、魔法を使うことができない者はいない上に、各属性に対する適性が高かった。
この二つの種族は、文明が始まった初期の頃は交易や争いごとが多少なりともあったが、文明が発達し知能がそれなりに発達してくると、互いが自分たちとかけ離れた存在であることに恐れをもち、関係を絶つようになり、それから1度たりとも交易や争い事が起きることはなくなった。
彼らは互いに関わろうとしなかったためそれぞれ独自の文明を築き上げていくことになった。
人間は国の長を国王とし各領地に領主を置くことで民を統治した。また、魔法を使える者と使えない者で身分差が発生し、各身分の者がそれぞれの能力に適した仕事を行ったために農業や工業など均等に発展していった。さらに、未開拓の地に手をつけることによって勢力を拡大していった。
逆に魔人族は、国を統治する必要があるために魔人族の王を魔王とすることにし、それに応じて多少の身分差はあったものの、すべての魔人族が魔法を使えるために精神的な格差はなく、王自ら農業に精をだすなどすべての魔人族が家族であるような意識であった。また、元からある地を豊かにしようという考えが根付いていたために国土はそれほど大きくはなかった。が、戦争がなかったために大量に生産を行う必要がなかったので民の生活は安定し、快適な生活を送っていた。
誰もが戦を知らずに平穏な日々を過ごす。それが当たり前であり、魔人族の誰もが戦についてなど考えたことがなかった。
あの日まではーーーーー
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ここは、魔人族の領地のとある湖畔に二人の魔人族の親子がいた。
「お父様、今日は良いお天気ですね。このような日ならきっと魚もよく取れることでしょう。」
「はっはっは、そう畏まらんでもいい。もっと楽にしろ、ユウ。でなきゃ釣れる魚も釣れんもんよ。」
「お父様」とよばれた魔人族は魔王・ルガノロフ・A・ヴェルフィナーレその人であった。
ルガノロフは初老に差し掛かっており、顔にはいくつかのしわがあり髪も白髪のような者が混ざっていたが、その顔立ちは凛々しく、身体も筋肉に覆われたどっしりとした体格であった。
そして魔動力の保有量は魔人族の中でも最高であったが、性格は庶民的であり、で1日のほとんどを農業や狩猟などに徹していたり、農民などの一般人と変わらないものを食べていたりした。また、政策も民のことを第一に考えた策をとっていたために、民から慕われる「良き王」であった。
そして、その王に「かしこまるな」と言われた少年は、ユウテラス・A・ヴェルフィナーレ、16歳。魔王の息子であった。しかし彼の顔つきはあまり魔王とは似ておらず、身体も平均的な細さではあったが、鍛錬はかかさず行っていたために筋肉はしっかりとついていた。そして、魔動力の保有量は父と母が多かったおかげもあってか魔王と肩を並べるか、もしくは上をいくような量であった。それに目をつけた父の手によって地獄のような魔法の特訓を受けたのは、彼にとっての辛い思い出であった。
また、彼も魔王を慕う一人であり、父を尊敬していた。そのせいで、父に話をするときは敬語を使ってしまい、その度に魔王から「かしこまるな」と言われ続けていたが、敬語で話す癖がついてしまい直せなかった。
「それにしても、ここからの景色はいいものですね。ああ、のどかだ」
「畏らなくていいと言っておるのに・・・・まあ、そうだな。こう儂とお前がこうしてのんびりと遊びにいく事ができるのは心地がいい。そう思うとどんな景色でも素晴らしいものに見えるのではないのか?」
「またまたご冗談を・・・」
そんな他愛ない話をしながら、親子は湖の近くまでより、釣り糸を投げ始めた。
こうしてのどかな時間がゆっくりと過ぎていったが、それが突然やってきた魔王の家臣の言葉によって
のどかな時間が地獄のような時間へと変わっていった。
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