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Prince of Darkness  ー魔王国復興譚ー  作者: 御垣 勇蘭
11/11

滞在

「・・・・と言う事があったのです。」


アルベルトは重い表情をしながら話を終えた。


「なるほど。そんな事があったのですか・・・」


ユウテラスもまた、予想外なほど残忍な出来事に重い表情を隠せずに静かにそう呟いた。

そして暫くの間、家に入り込む風の微かな音だけが聞こえていた。


「ま、まあ、もう過ぎた事は仕方ありません!男の人たちがいなくなってしまったのなら、村に残った人たちで何とかしていくしかありません!だってそうしないと生きていけませんから・・・」


沈黙を何とか破ろうとアイリスは笑顔で声をあげたが、その笑顔は顔だけであった。彼女もまた辛そうであった。そしてまた幾分かの間、沈黙が食卓を支配しているとユウテラスがふと思いついたよう顔をした。


「もし迷惑でなければ畑仕事とかお手伝いしましょうか?」


「「え?」」


アルベルトとアイリスは驚いたような顔をした。


「村の男衆がいなくなってしまっては、色々と大変だと思いまして。私一人では微力かもしれませんが、何かお手伝いできる事があればと思いまして。それで畑仕事をお手伝いしようと思ったのです。」


そうユウテラスが言うと、アルベルトは少し考えて言った。


「貴方がよいのであれば私たちは是非お願い致したい。なにせ村に残ったもので働けるのが限られますから、一人でも若い男の方がいると何かと助かりますが、本当によいのですか?」


「ええ、勿論ですとも。一食のご恩がありますし、今はまだこの先行くあてもありませんから。それに、アイリスさんのような可愛い方が死んだら悔やむ人は多いでしょう?」


「可愛い」という言葉にアイリスは少し顔を赤らめて呟いた。


「そ、そんな可愛いだなんて・・・」


「まあ、私は魔法も使えますし、きっとお役に立てると思います。なのでどうぞよろしくお願いします。」


そう言うと、ユウテラスは頭を下げた。するとアルベルトは慌てたように言った。


「そう頭を下げないで下さい。困っているのは私たちの方なのですから。私たちが頭を下げてお願いするべきなのです。貴方が頭を下げる必要はありませんよ。」


「でも、一人分の食事が増えてしまいますし、何かと迷惑をおかけするかもしれませんから、先にお詫びを申しておこうと思いまして。」


「迷惑だなんて。貴方は面白いことを仰りますね。感謝されるべきことなのに迷惑とは。でも、これからどうぞよろしくお願いします。とりあえず今日はお休み下さい。皮肉な事に空き家は何軒もありますので、そのうちのお一つをお使い下さい。」


苦笑いをしながらアルベルトは言い、立ち上がった。それについていくようにユウテラスとアイリスも立ち上がった。そしてアルベルトが家の戸を開けると、既に外は暗闇に包まれていた。


「おや、もう日が落ちていましたか。今、灯を持ってきますから少々お待ちくださいな。」


「いえ、その必要はありませんよ。灯火(イルミニィト)!」


ユウテラスは灯を持ってくるために家の中に戻ろうとしたアルベルトを引き留めると、手を掲げ鍵言を唱えた。すると、その掌の中に温かみのある光が突如として現れた。


「こ、これは・・・?」


アルベルトが驚いた顔をして半ば独り言のような呟き声でユウテラスに尋ねた。


「これは魔法の一つですよ。ご覧になったことは・・・そういえばアイリスさんは見たことがないと仰っていましたが、アルベルトさんもご覧になったことが?」


「え、ええ。私もきっとアイリスと同じで魔法は物語の中だけでしたからな。魔法を見るのは初めてなのですよ。それにしても魔法とはこんなにも小さいもの(・・・・・)なのですな。」


小さいもの(・・・・・)?そういえば、先程、アイリスさんに魔法を見せようとした時にも彼女は慌てて止めようとしていましたが・・・魔法がどのような物なのかはご存知なのですよね?」


「ええ、唯先程も言った通り魔法は物語だけにしか出てきませんでした。そこで使われていた魔法は一瞬で怪物を倒したり、一瞬で野原一面を火の海にかえるような魔法ばかりでしたから、このように小さい魔法があるとは知りませんでした。」


アルベルトはユウテラスの手の中にある光を見つめ感心したような顔つきで言った。


「なるほど。大規模な魔法しか知らなかったのですか。だとしたら先程アイリスさんが慌てていたのは魔法で家が破壊されると思っていたから・・・?」


そうユウテラスがアイリスの方を振り向くと彼女はユウテラスの意図を察したのか、恥ずかしそうに顔を隠し弁解を始めた。


「い、いやだって魔法って言えば大きな魔法しかし、知りませんでしたから。勿論ユウテラスさんがそんなことをする人じゃないってわかっていましたけど、大きな魔法を使うものだと・・・いやユウテラスさんはそんなことをする人じゃ・・・」


「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。別に私は傷ついたりしていませんから。それよりも貴女の慌てた可愛い表情がみられてむしろ良かったですよ。」


そうユウテラスが笑みを浮かべると、アイリスは更に顔を赤くした。


「ほっほっほっ。なかなか面白いものを見させてもらいましたな。ですがとりあえずは、ユウテラス殿の滞在する家の方へ行きましょうか。」


「もう、おじいちゃん!からかわないでよ!」


八つ当たりをするようにアイリスが言ったが、アルベルトはスルーして外へと出て行った。ユウテラスも黙ったままついていった。


「ちょ、ちょっと、無視しないでよ〜」


それに慌てたようにアイリスもついてきた。



そして少し歩いたところにある村の他の家とさほど大きさの変わらない家に着いた。


「他の家と大差ありませんが、ここでいかがですかな?もしお気になさるのなら他の家でも構いませんが。」


「いえ、この家で問題ないです。ただ・・・」


「ただ?」


「ただ服とか食器など身の回りのものを私は持っていないのです。ですがこの家の人のものを使うのは少し・・・」


「なるほど。たしかに食器などは良いかもしれませんが肌着などが人のというのは確かに困ったことになりますな。どうすれば・・・」


「すみません」


そう言ってユウテラスは申し訳なさそうに、アルベルトはどうするべきかを考え始め、二人とも黙りこんでしまった。

そこに、先程の失態を取り戻すためにアイリスが提案をした。


「そしたら私がユウテラスさんの服作ります!」


「え?」


ユウテラスはその提案に驚いた。アイリスは目を輝かせながらもう一度同じことを言った。


「ですから私がユウテラスさんの服をお作りします。一応裁縫はできますから!」


「なるほど。材料は麻などが余っているので質素なものではあるが作れるな。」


アルベルトは納得したような表情になった。ユウテラスもまたアルベルトやアイリスが納得しているのならそれでいいと思い、アイリスに作ってもらうようにお願いした。


「わかりました。それじゃあ、明日寸法を測りますので今日はもう床についてくださいね。きっとお疲れでしょうから。」


「そうですね。今日は色々ありましたから。ではお休みなさい。」


「ええ、お休みなさい。」「これからよろしくお願い致しますぞ。」


そう言ってアイリスとアルベルトは帰って行った。そしてユウテラスは二人がある程度離れていくのを確認すると近くにあった井戸で今まで隠していた背中の血を洗い始めた。


「痛たたた。かなりえぐったからな、痕になるかな。」


そう呟きながら体を洗い終えると、ある問題に気づいた。


「しまった。服に血が結構ついているな。これじゃあ着られないな。まあ、いいか今日一日くらい肌着一枚でも問題ないだろう。」


そう言って、肌着一枚の姿で家へと戻り、家の中に何があるのかを一通り物色した後、布団を床に敷き横になった。そして目を閉じながら今日起きた事を思い出していた。


(本当なら今頃は城の自分の部屋で寝ていたのにな。いつも通りの日常だったはずが、突然人間が城まで迫ってきて、逃げろと言われて逃げたんだったよな。父さんは・・・あの戦いでどうなったのだろうか。人間の方も相当強そうだが、父さんも相当強いから死ぬという事は多分ないだろう。もしかしたら大怪我くらいはしているかもしれないが、逃げ延びれているだろう・・・。まあ僕はそれで、森に逃げてきたところでアイリスさんと出会ってこの村にきたと言う訳だったな。おかげで助かった。きっと出会ってなければまだ森の中だった。そう思うと皮肉なものだなぁ。我々を滅ぼそうとしたのも人間、助けられたのも人間。果たして僕はこれから他の人間と接していくときにどんな心持ちでいればいいのだろうか。怨念の気持ちなのか、友好的な気持ちなのか。どちらなのかなぁ。そもそも、これからどうしようか。ここで一生畑仕事をして暮らす訳にはいかないからな。どうするべきなのか。悩む事はいっぱいあるが、とりあえずはこの村で情報を集めよう。自分は人間のことをあまりわかっていないからなぁ。今日の話はなんとかごまかせたが、いつもあのようにうまくいくとは限らないからなぁ。完全に人間になりきれてから、何か行動を起こそう。それまではこの村で過ごす。で、いつかは国をもう一度復活させるんだ!)


そう決意を改めると、いままで抑え込められていた疲れが津波のように襲ってきた。ユウテラスはそれに抗おうとせず身を任せるように深い眠りへと落ちていった。











一週間と言っていたのにもかかわらず一ヶ月も更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

言い訳ではございますが9月は別の仕事が忙しく、なかなか執筆の方に手が回りませんでした。

これからはなるべくこちらの方に力を入れていきたいと思います。

稚拙な小説ではございますがこれからもどうぞよろしくお願いいたします。

次の投稿は来週の日曜日を予定しております。

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