プロローグ
少年は走っていた。
少年の背後には、魔法によって生み出された灼熱の業火が街を飲み込むように広がっており、
少年の走る足元には、首のない者や、五体満足とは到底言えないような状態の死体が無数と表現してもおかしくないような数倒れていた。
空の色はこの街の景色を表すのか、それとも少年の心を表すのだろうか、黒い雲に覆われていた。
それらの景色が合わさって、まるで地獄絵図のような光景に少年は幾度となく心を折られそうになった。
そして、その光景の一部であることを示すかのように少年のたいらな背中からは大量の血が流れていた。
血が流れすぎた故に、意識は薄くなりかけ嘔吐感にまとわりつかれていた。
しかし、心を折られぬように、意識をこの世に保ちつづけようと
「ーーー絶対に、絶対に、この国を取り戻してみせるーーーー」
とふるえる声ながらも、強い意志を持ってそう呟いた。
ーーーなぜこのような光景になっているのか、少年はわかっていたがわからなかった。
普段と変わらない、平和な生活。それが当たり前で「戦い」や「死」とは無縁であった。
そのはずなのに、突如として己の身に降りかかってきた理不尽な不幸。
何の罪もない人々が次々と殺され、その者たちが住んでいた村や街は占領されていった。
そして、その恐怖の権化は自分の親しい人たちの命も奪ってしまった。
日に日に自分の周りの者たちが消えていく。
そこから考えられる恐怖に、幾度と眠れない夜を過ごしただろうか。
・・・なぜ罪のない者たちが死んでいかなければならないのか?
・・・なぜ汗水流して耕してきた土地を奪われなければならないのか?
・・・なぜ?・・・なぜ?・・・なぜ?・・・
きっと答えは心の奥底ではでていたのだろうが、それを声に出してしまったとき自分まで否定してしまう気がして、もっと上手い答えはないのだろうかと自分に問いかけるわけにはいかなかった。
そんな恐怖と葛藤のなかで父は自分のそばにいてくれた。
自分が尊敬し、最も頼れる父。その父が自分のそばにいてくれる。
それだけで、どれほど安心できたことか。父の存在は自分の心にとって計り知れない大きなものであった。
しかし、それも長くは続かなかった。
ついに恐怖の権化が自分たちにも襲いかかってきたのだ。
それを知った時に少年は多少の恐怖は覚えたものの、父がいるから大丈夫だと思っていた。
たとえ、死ぬことになったとしても父と同じ場所で死ぬことができるのならいい。その覚悟はできていた。
だが、その覚悟は父の言葉によって別の覚悟へと変えることになった。
「ーーーもしーーのならーーーしてほしい。だから、逃げろ!ーー」
少年はその言葉を聴いたとき、父と一緒に最期が迎えられないことに、一種の絶望を感じた。が、世界で一番信じている父の願いを聞き入れないなどもってのほかだと考え、涙ながらも、逃げ出した。
そして今。父の言葉からすれば今頃は父もこの道ばたに倒れている者のように笑顔を二度とは見せてくれないのだろうと悟った。
そう悟ったとき、少年の頭には再び先ほどの父の言葉がよぎり少年の覚悟をさらに強固なものにした。
そして、少年の足取りはさらに早くなりながら地獄絵図のような街を駆けていくのであったーーーー
これが自分のはじめての小説となります。
※8/30 に少し編集いたしました。