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Falcon.  作者: 宝積 佐知
1.序章
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11.エピローグ

 あの事件から二週間が過ぎた。

 ヒナの拉致されていた場所は十二年前のウイルステロでも献身的に働いていた大手某製薬会社の工場で、社長等幹部が警察の取り調べを受ける事となり、GODLESSとの癒着を認めた。

 程無くして検査入院させられた大病院のヒナの病室に一つの小包が届く。中身は十二年前のウイルステロに関する資料、そして、即効性のワクチンだった。更に、中には犯罪組織GODLESSのアジトが一つ一つ細かく記されていた。だが、警察がそれを受けて駆け付けた時には三分のニ以上が制圧された後だったと言う。

 世間に衝撃が走ったのは当然の事で、各地でこれまで溜め込まれて来た鬱屈とした気持ちは一気に吹き出す事態をにもなった。それもまた、警察が機能し始めたのだから間も無く治まるだろう。

 一方でヒナの巻き込まれた事件において目撃された謎の二人組の男についての噂は彼方此方を駆け巡る内に尾ひれが付き、今ではヒーローだとさえ囁かれている。何処かの宣伝ではないかとの憶測も飛び交ったが、事実は依然として謎のままである。

 GODLESSのボスが死んだのは、一昨日の事だ。何故かボコボコのタコ殴り状態で首都圏の某警察署前に縄でぐるぐる巻きにされ発見された。すぐに裁判が行われたが、満場一致で異を唱える者も無く死刑が執行された。処刑の寸前にGODLESSの黒幕が「ハヤブサ」と叫んだと言われているが、多くの人間から見れば気が狂ったとしか思えないだろう。

 また、目黒の事は完全に闇に葬られた。報道機関は警察の死者無しの情報を信じて報道しているが、特に問題は無いだろう。

 昨日、ヒナは僅かな希望を抱いて彩子の喫茶店に向かった。だが、その場所は何事も無かったかのように新しい駐車場が建てられていて、オーナーに聞いても以前の喫茶店については殆ど詳細は解らないのだと言う。

 そして、ヒナは今表の世界で何事も無かったかのように生きている。あの数日間が嘘のように平和になった世界はGODLESSが消えた事による僅かな平和を噛み締めているようだった。

 目を閉じれば未だに十二年前の悪夢は思い出される。家族や友達、ハヤブサこと近江邦孝の死。その上にヒナは今も生き続けている。時々、今生きている自分の奇妙な運命に悩み、落ち込んでしまう事もある。立ち止まって振り返り、座り込んでしまう事もある。だけど、そんな時には近江の声が何処かから聞こえる気がするのだ。



――過去に囚われりゃ動けなくなって今を見失う。憎しみなんぞにくれてやる程今は安くもなければ軽くもないぜ。

どんなに願おうが縋ろうが、元より過去は及ばず未来は知れず。俺達に出来るのは目の前にある今この一瞬だけだ。余所見してりゃ、その今すら届かなくなるぞ



 近江哲哉、いや、ハヤブサは今もこの世界に同じく生きている。

 ヒナは顔を上げた。青空に金色の日輪が浮び、名前も知らない鳥が狭い空を横切って行く。正面に目を向けると、渋谷のスクランブル交差点の信号が瞬いていた。慌てて小走りに対岸に向かう。

 同じく擦れ違う人も小走りで、ヒナは白と黒に決められた横断歩道を駆け抜けた。その時、声が聞こえた気がした。

 振り返ると対岸に向かって行く黒いスーツの後姿が、二つ。信号は既に赤に変わり、沢山の車が道を掻き消して行く。対岸に渡り切った二人が此方を見て少しだけ、笑った。白くて大きな右目の眼帯。

 感謝も謝罪も言い忘れてしまったけど、もう伝わってるのかな。



「歩き出してるか?」



 まぁね、歩き出してるよ。あたしなりに、一歩ずつね。




 歩道を越えた向こうで近江は喉を鳴らして笑った。隣りを歩く神藤が怪訝そうに眉を寄せている。



「何笑ってんだよ、気色悪いな」

「放っとけ!」



 神藤は首を傾げつつ、これからの予定を早口に告げる。

 近江はこれから、神藤が以前から探っていた歌舞伎町ホストクラブに潜入。ある有名な女性記者のよく現れる店らしく、慣れ親しんでいる為か警戒すらしないというのでチャンス。仕事が殺し屋である以上、当然殺す。

 近江は沢山の日の光を浴びながら大きく背伸びした。



「さて、今日も一丁やるか!」



 空を見上げる。狭い青空の中、金色に輝く日輪が照らしていた。


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