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1. プロローグ

下手なりに書いていきます。おそらく不定期です。

これから紐解かれる物語は、ある双子の物語。突如として降りかかった厄災の中で懸命に抗い、足掻(あが)いて命を紡ぐ物語━━━━━━━






二人は今日も荒野を歩く。行くあてはない。ただ漠然と、どこを目指すともなく歩き続けるのだ。それが自己の意思によるものなのか、何かに衝き動かされているものなのか、二人にはわからなかった。

「今日も、暑いな……。」

一方の男が空を見上げてつぶやく。澄み渡った空にはぽつぽつと雲が浮かんでいるだけだった。


━━━そこには自由に飛ぶ鳥の姿も、喧しく飛び回るヘリも飛行機もなかった━━━


「兄さん、もう昼です。朝から歩いた時間からしてそろそろ街があった"はずの"場所です。」

一方の女が"兄さん"と呼ぶ男に話しかける。男は空を見上げたままにそうだなと生返事を返した。

「それにしてももう一年がたちますね。"あれ"から。」

男は何も言わない。何も言わず空を眺め続けた。昔も、今も、そしておそらく明日も明後日も変わらないままそこにある青空だけを眺めていた。




━━




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その日のことをエルヴィはよく覚えていた。忘れもしない、否、忘れることもできない忌々しい思い出だった。

まだ中学生であり、俗に言う試験期間中であったためあまり成績の良い方ではなかったエルヴィは机で徹夜漬けを試みていた時分であった。そんな中、居眠りをしていたエルヴィを叩き起こしたのはラジオニュースであった。

<<未知のウィルスの突然変化により、人々が狂気に陥っている。クオール政府は陸路、空路、海路のすべてを閉鎖し、ウィルスの他国拡大を予防しようと画策中>>

エルヴィは寝起き早々の朦朧とした頭ですべてを聞き取ることはできなかったが、その直後のラジオから流れてきた音声が脳裏に焼きついた。

<<━━━━━━━━━━━またクオール政府は国内感染拡大の阻止のためやむを得ず感染者の処刑を━━的に━━━た━━━━━━な、なんだお━━ち━━さえろ━━キャ━━━━━━━━━━>>

突如ラジオのスピーカーから流れてきたのは物が倒れる音、壊れる音、叫び声だった。エルヴィの寝ぼけた頭を一瞬で覚醒させるにはお釣りが来るほどの衝撃だった。

「兄さん、お父様から電話です。国外退去をするためすぐ家に帰る、10分以内につくから支度をしておけ、だそうです。」

妹のミーリャが落ち着いた声でそう話す。一見したところ彼女はもう既に支度を終えているらしい。

「あ、うん……わかった。とうとうきたんだね。」

「そのようです。さ、急いでください。」

二人はそのウィルスについて父親から聞かされていた。そして、いつか逃げる必要が出てくることも。




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━━━━━━━




━━━━




━━


エルヴィは空を見上げていた目を徐々に地上へと落としていく。

「あ…」

遠くにかすかながら(やぐら)のようなものがみえる。もしかすると人がいるかもしれない。

「ミーリャ、見つけた。南の方角だ。櫓がみえる。」

ミーリャはかばんから望遠鏡を取り出し|(父親の愛用していた軍用の優れものらしい)覗く。

「櫓に見張りはいません。人気も感じられません。」

「ま、行ってみるしかないだろう。水や食料があるかもしれない。それに缶詰食ももう食い飽きたしな。」



……


………


二人は歩をすすめ、櫓の下に来た時に愕然とした。

堅牢に作られていたであろう木製の要塞(?)は大きく打ち破られ、明らかに何者かに襲撃されたのが見て取れた。

「この傷…人間のものではありませんね。」

ミーリャは木の塀についた傷を見て言う。たしかに爪の痕だ。それもかなり大きい。並大抵の猛獣というわけでもないだろう。

「ならばおそらく生存者は…絶望的だな…」

エルヴィは下唇を強く噛んだ。仲間を見つけられるかもしれないと心のどこかで思っていたあてが外れてしまった。

「…この"史跡"はまだ調べる価値がありそうです。兄さん、悔しがってる暇はありません。さ、行きましょう。もとより期待はしていませんでしたから…。私は兄さんがいれば大丈夫です。」

エルヴィはミーリャに諭され、思い直す。もはやこの世界に二人だけなのだ。そう、"二人"。

二人なら、必然的にお互いが守り守られになってしまう。一年前はこんなことを予想もしていなかっただろう。お互いを守るため、一年間の間に一方は武術を、一方は知識を蓄えた。

だがエルヴィは一年間、ずっと守られるだけであった。世界に二人しかいないために、襲われることもそうそうなかった。むしろミーリャの知識に救われることの方が多かったのだ。エルヴィは助けられることに感謝をしつつも、兄としての自尊心がずっとそのままでいることをよしとしなかった。状況がどうなるということもない、理性的に理解はしていても、感情的には許せなかったのだ。

エルヴィは自らが心のそこでその目に見えない猛獣の脅威にすこし期待していることが分かった。と同時に脅威に期待を抱いている自分に嫌悪感も抱いていた。彼の中には二人いる。"武士(もののふ)としてのエルヴィ"と"双子(きょうだい)としてのエルヴィ"が。






ミーリャとエルヴィはとりあえず手当たり次第に民家をたずねた。もちろん人の声が返ってくることはなかった。一軒一軒丁寧におじゃましますと言うミーリャに対し、エルヴィはそのあとに続いてずかずかと家に入り食料と飲める水、役に立ちそうな薬や道具がないかを探す。時には重いものを扱うこともあるので男であるエルヴィに適した仕事なのだ。エルヴィ一人で十分まわる仕事にミーリャがついてくるのはおそらくはミーリャに万が一があったときをなによりも恐れる"兄"としてのエルヴィの判断だろう。

「……なんもねぇ。風邪薬があっただけだ。」

「風邪薬は万能。特段風邪を引いていなくてものどの痛みとか風邪の症状があったときに代用することもできる。…多分。」

こうして最後の民家の調査が終わった時、遠くで爆発音とともに煙が上がった。

きゃ、とよろけるミーリャを支えながら、エルヴィは高鳴る心臓音をたしかに耳にしていたのだった。



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